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若葉のカムイ  作者: ☀シグ☀
第一章:東へ
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六十話:焼肉は爆発

 育てていた大根が一つ溶けました。


 パチパチと火の中で薪が弾ける音。

 むんむんと香るのは、吊るされて、火に背中を焼かれているキャノンボア。


 お屋敷の大きな広場。

 その端に生えた木の下に座って、刻々と焼けていくキャノンボアを見つめる。


 おいしそう。

 でも、まだダメだよね。


 キャノンボアから目をはなそうとするけれど、鼻に入る香りが、耳に入る音が、目の前のお肉を忘れさせてくれない。


 な、なんとかして、ほかのことを考えるようにしないと!

 

 お屋敷の中に入る前はにぎやかだった街は、しんとしている。

 だから、お肉が焼けている音が耳にしっかりと……じゃなくて!


 これは、みんなユズノスケ達が化けていたからなんだって。

 あ、ユズノスケ達は、ヨミちゃんの友達。


 カンタラのヒト達に化けたユズノスケ達に会わせて、僕がどんな行動をするか見ていたんだって。

 僕がみんなを怖がらせる悪い子だったら、みんなで倒そう! って作戦だったみたい。


 すごいよねー。

 狸さんだって全然気づかなかった。


 匂いだって、ヒトみたいだったし。


 目をつむって空気を胸いっぱいに吸う。

 すると、香りが……おいしそう。


 おっとっと。

 あぶなかった!


 あ、そうそう。

 ヨミちゃんがこのお話をしてくれた時は、なんども「ごめんねー」って言っていたけれど、そんなに気にしないでいいのにね。


 怖いものは怖い。

 でも、もしかしたら怖くないかもって、挑戦してくれた。

 知ろうとしてくれた。

 それがなによりうれしいし。


 それに、おもしろかったしね!


 コッ、ココッ。


 たき火の側に座るビルが薪を足している。

 

 お肉に夢中で忘れていたけれど、ビルがキャノンボアを吊るしたり、火を起こしたりしたんだ。


 マットやテオは、ギルド本部ってところに行くみたいで、勝手に入っちゃダメって、僕がヨミちゃんに言われた細い通路に行っちゃった。

 ヨミちゃんとサトちゃんは、お屋敷の中で待っているんだって。


 なにを待っているんだろうねー。


 あ! そういえば、ギルドのことがわかったの!

 ギルドは、同じお仕事をしているヒト達のあつまりのことで、冒険者ギルドは、冒険者のあつまりなんだって!


 冒険者は、お手紙を運んだり、お肉を獲ったり、みんなを守ったりするお仕事。

 冒険者ギルドがある町や国のヒトは、みんな一回は冒険者になったことがあるみたい。


 みんながみんなを守りあうなんて、とっても素敵だよね。

 僕も仲間になったんだから、みんなを守れるように、がんばろう!


 がんばると言えば、冒険者になるために覚えておかないといけない基礎があって、冒険者になりたての僕には、それを学んでからカンタラを出てほしいんだって。


 なんだかおもしろそうだよね。

 長くならないように特別授業? ってカタチで一気につめ込むってヨミちゃんが言っていたから、がんばらないと!


「うぉお! ホントにいた!」


「あ、コラッ、でかい声出すなよ!」


「お前の声も十分デカイぞ」


 声がする方へ視線を向けると、ギルドのお屋敷からたくさんのヒト達がぞろぞろと出て来ていた。


 見覚えのある顔でいっぱいなのは、僕がカンタラに来た時にあつまっていたユズノスケ達が、化けていたヒト達だから。


 お屋敷から出てきたヒト達は、僕、ビル、お肉と視線を移しながら、門から出て行く。

 みんなの表情は違うけれど、することは一緒。

 なんだかおもしろい。


「リデット、オデット覚えておけ。あれが面倒なタイプだ」


「トデット兄? それ黒カビにも言ってなかった?」


「青錆にも言ってた」


 同じ顔のヒトが、さっきと同じようなことを言っている。

 ふふふ。


 お屋敷の入り口から門へと続くヒトの流れ。

 その流れから、男のヒト達が止めるのをふり切って、のしのしと僕へと歩いてくる女のヒト達。


 その顔は、積み重ねた経験と年月の証のシワがいっぱい。

 でも、しっかりとした足取りで、よにんのおばあさん達がやってくる。


 その手には、麺棒やフライパン……包丁?


 先頭のおばあさんが、僕が座る木の影に入らないくらいのところで立ち止まると、うしろのおばあさん達も止まった。


 なんだろう? お話してくれるのかな?


 おばあさん達の様子をじっと見る。


 先頭のおばあさんは、白い髪を綺麗にうしろで結んでいて、元気な雰囲気。

 そのうしろの赤いおさげのおばあさんは、ムッとしていて、機嫌が悪そうに見えるけれど、目はやさしそう。

 その左隣りの茶色い髪がふわふわしているおばあさんは、見定めようとしているのか、じっと僕を見ている。

 反対に右隣りのうすい黄色の髪がくりんくりんと波打っているおばあさんは、ほんわかした雰囲気で……ビルの方を見ている。


「あんたがアオバかい?」


 先頭のおばあさんがにっこりとした笑顔で……青葉?


『青葉じゃなくて、若葉だよ! よろしくね!』


「お?」


 お?


「ワカバかい?」


『うん! 青葉じゃなくて、若葉だよ!』


「そうかいそうかい。しっかり働いておくれ」


『うん!』


 がんばるよ!


 おばあさんは僕に近づくと、体を屈めて、僕の頭をなでてくれた。

 包丁を持っている手で。


 なでられるのはうれしい。

 でも、それだとなでにくくないのかな?

 ……ってあれ?


 おばあさんは僕に背を向けて、さんにんのもとへもどっていった。

 なでるの、もうおしまいなの?


「ワカバだったよ!」


「だぁからワカバて言ったぁー」


「相変わらず人の話聞かないんだからぁ」


「「「あっはっはっはー!」」」


 うしろにいたおばあさんふたりと話し始めちゃった。

 いいなー。

 たのしそう……ってあれ?

 ひとりいない?


「これ、火弱くない? 大丈夫?」


「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」


 さんにんからはなれて、いつの間にかビルに話しかけているおばあさん。

 あそこにいたんだね。


 それで、もうお話はおしまいなのかな?


 と思ったら、ほかのヒト達がこっちへと歩いてきた。


 あごがジョリジョリしていそうな男のヒトが、僕の前でしゃがむ。


「ワカバ、だったな。俺はスコット、よろしくな」


『うん! よろしくね!』


 スコットはにっこり笑って、ごつごつとした手で頭をなでてくれる。

 うれしい。


 おとなしくなでられていると、スコットのうしろから、


「俺はオデット」


「ザリア、よろしくね!」


 と続いて、


「わ、わた、私はヤメソニーですっ! あ、あのあの! ちょっと吸……撫でてもいいですか!? ハァハァ……」


 と続いた。


 ヤメソニーって女のヒトは、ヨミちゃんくらい白い服。

 白衣って言うんだよね! 知っているんだー。

 ……お注射、持っていないよね?


 ヤメソニーが、すごい目を見開いて近づいてくる。

 息もすごく荒くて、体調でも悪いのかな。


『大丈夫?』


「こいつは大体いつもこんな感じだから、大丈夫だ」


 ヤメソニーに声をかけてみたら、スコットが横から教えてくれた。


 そうなんだ! よかったー。


 スコットにお礼を言って、ヤメソニーになでてもいいよって、うなずく。


「あっ、あーっ! モップ! ふわふわのモップ!」


 僕の背中をなでたヤメソニーが興奮した様子で叫んだ。

 すこしびっくり。


 モップ。

 テオも同じこと言っていたね。

 ふふ……って、わわわわ!!


「俺も」「私も」と、ヒトがどんどんあつまってきて、僕に話しかけてくれたり、なでてくれたりし始めた。

 うれしいけれど、さすがに全部に対応しきれないや!


「ちょっとあんた達、こんなところで油売ってないで、早く行ってきなさいな! 遅れて帰って来ても知らないわよ! それと、おば様方、そろそろ開店の時間じゃないかしら?」


 ギルドのお屋敷から出てきた女のヒトが、うしろで三つ編みにした赤茶色の髪を揺らしながら、パンパンと手を叩いて歩いてくる。

 すると、


「また夜に、な」


「ばいばーい」


「げ! 俺これからフォレスモーレなんだよ! 絶対戻って来れない!」


 と、みんな立ち上がって、門を通って去って行った。


 おばあさん達も、「もうそんな時間かい」と言って、僕に手をふったあとに去って行く。


 ふわーっとあくびを一つして、伏せる。


 とってもうれしかったけれど、落ち着いたら、なんだか疲れてきちゃった。


「お疲れだねー。干し肉の一つでもあればよかったけど、生憎何も持ってないんだ。ごめんよー」


 残った女のヒトに、頭から背中までゆっくりなでられる。

 なんだか眠くなってきた。


「ビル、まだ焼けないのかい?」


 僕をなでている女のヒトが、ビルへ向かってなにか言っている。


「そろそろ仕上げだな」


 ぬっと立ち上がったビルが、右腕を上げて――


「ふんッ!」


 勢いよく右腕を曲げた瞬間、グワッと盛り上がった筋肉から炎が迸る。

 炎がこぶしへとあつまると、お肉――キャノンボアへと突き出した!



 ヒュッデュッボーーーーーン!!!!



 ものすごい音と熱気。

 吊っていた紐も、支えていた木も燃えて、黒こげになったキャノンボアがプスプスと黒い煙を上げて、爆発ですこしへこんだ地面に落ちる。


 太陽が目の前に落ちて来たみたい……ううん。

 一瞬、キャノンボアが太陽になったみたいだった。


 こげの香りもするけれど、とってもおいしそうな香りもするから、全部こげちゃったってことにはなっていないみたい。

 でも、すごいびっくりした。


 すっかり目も覚めちゃったよ。


「これで、完成だ」


「完成だ、じゃないわ!」


 バシッと女のヒトがビルの背中を叩いた。

 けれど、ビルはびくともせずに、「おっ?」と言う。


 ビルの視線の先を見てみると、お屋敷から「何事か!?」と、マットやテオ、アベルが出てくる。

 あ、メラニーとマルタも! また会えた!


「ワカバ!」


 たたたーっと走ってきたメラニーを起き上がって迎える。

 すると、お腹に手を回されて、体が浮いた。


「また会えたね!」


 笑顔がとっても近くに。

 メラニーに持ち上げられちゃった。


『うん! とってもうれしい!』


 あ、もちろん!


 メラニーを追いかけてきたマルタに向かって、


『マルタにもまた会えて、うれしいよ!』


「……そうですか」


 そうだよ!


 お肉も焼けて、みんなもいる!

 とってもうれしいね!


「ビル、肉を焼く事に問題は無く、爆発も訓練場内だから問題無い。だが、今現在緊急避難直後で、(みな)気を張っているはずだ。そんな時に、あんな爆音は、ちょっと……だな……」


「たしかにそうだな……。いやぁ、すまない」


「おーい……あ、いた。おーいビルー、キャノンボアの内臓置いて行っただろー? 鮮度もいいし、金はもらったが、ちょっと片付け大変だったぞー?」


「んなっ……すまん」


 メラニーの腕の中で見たビルが、不思議と小さく見えた。


 読んでいただきありがとうございます。

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