表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若葉のカムイ  作者: ☀シグ☀
序章:世界樹の森
5/74

四話:追いかけっこ



 飛んでくる狼さん。

 避けると狼さんがケガしちゃうかも。

 でも、受け止められるかわからないし……って、考えている場合じゃなかった!


 ぶつかるー!


 ぼふんと音がして、予想していた衝撃は、いつまで経ってもこない。

 思わず閉じていた目を開くと


『狼さん!』


 赤黒い毛の大きな狼さんが、僕の代わりに、飛んできていた狼さんを受け止めてくれていた。


「もう暫くしてからお前の住処を訪ねようと思っていたのだがな……まあいい。昨日(さくじつ)ぶりだな、若葉」


『うん! おはよう狼さん!』


「うむ、だが此処は危ないぞ。話があるなら、あの木の下で聞こう」


 大きな狼さんはそう言って歩いて行こうとするけれど、


『狼さん! あのね、僕も混ぜてほしいの!』


 僕は追いかけっこがしたい!

 この世界にきてまだ一度も走っていないんだもん!

 このままだと体がなまっちゃうよ!

 それに、もっとみんなと仲良くなりたいしね!


「混ぜる? 訓練にか?」


 そう言って、大きな狼さんが足を止めて振り返る。


 訓練?


 なんの訓練?


 あ、もしかして



 追いかけっこの訓練?



 追いかけっこに訓練があるなんて不思議!


 でも、きっとそうだよね!


『そう、なの……?』


 うん! たぶんそうだよエルピ!

 あ、大きな狼さんに返事をしないと!


『うん! 僕もやりたい!』


「……そうか。ならば、先ずは一対一からだ。相手の頭を地に付けるか動けなくするか、“降参”と言わせたら勝ち。手段は即死しないものであれば何でもよい。少しでも息をしていれば、我が全快させる」


 大きな狼さんはそう言うと、また歩き始めた。

 その赤黒い背中の上に、灰色が一つ見えた。

 さっき大きな狼さんに受け止められた狼さん、ケガもないようでよかった。


 よし! と気合いを入れて前を向く。

 あれ? もうひとりの狼さんは? いたよね?


『いたよ』


 だよね?


 キョロキョロと探していると、狼さんがひとり、僕のいる広場の中央へ歩いてきた。

 でも、さっき追いかけっこをしていた狼さん達とは違うみたい。

 灰色の毛はふわふわというよりもしんなりしていて、さっきの狼さん達は“ぎゅいーん!”って感じだったけれど、この狼さんは“ふわ~”って感じがする。


 たぶん、さっきまで寝ていたのかな?


『ぎゅいーん、と、ふわ~、ってなに?』


 ぎゅいーん! とふわ~は、ぎゅいーん! とふわ~だよ!


『理解、出来ないよ』


 あ、相手の狼さん、目は見えているようだけれど、左の目のところに傷痕があるね。


「準備はいいか? では……始め!」


 大きな狼さんの合図で走り出す。

 相手の狼さんも、ゆっくりだけれど僕に向かって歩き出した。


『何か、作戦は?』


 ふふー、もちろん!


 相手の狼さんまであと数歩のところで方向転換。

 狼さんを中心にして、反時計回りにぐるぐると回る。


 わーい!

 ひさしぶり? それともはじめてって言った方がいいのかな?

 まあいっか! とにかく、走れてうれしい!

 たのしい!


『若葉、相手から、目を、離さないで』


 大丈夫だよエルピ!

 もう、狼さんは僕の作戦でぐるぐるだもん!


『ぐるぐる……?』


 ふっふーん。


 相手の周りを走って、相手の目を回す。


 これが僕の必勝法“ぐるぐる作戦”だよ!


『お、……おおー?』


 このまま走っているだけで相手は目を……まわ…………まわー?



 全然大丈夫みたい!



 あれー? どうしてー?

 あ、そっか!


 狼さんは、僕をじっと見ていないで、度々目をぎゅっと閉じている。

 だから、目が回らないんだ!


 すごいね! こんな対策があるなんて!


『ただ、眠いだけ、かな』


 そっか!

 なら、もうすこし近くで回ってみよう!


『え、何で?』


 どうかな……あ、これ、僕が先に目が回るー!

 あれ? これって、こんなにすぐに目が回るものだったっけ?

 いつもよりスピード? は出ていない気がするのに、なんでー?


『色々、言いたい、けれど、先ずは、走ったら?』


 ? 走っているよ?


『まだ、早歩き、程度、でしょ。もっと、後ろ脚に、力を』


 そうなの?

 たしかに、もっと速く走れる気がするような、しないような……


 エルピに言われた通りに、うしろ脚を意識して――蹴る。


 わわっ!


 びっくりして、思わず足を止める。

 目の前には、さっきいたところから、数十歩は先にあったはずの木がある。

 今の一瞬で、こんなに近くになっちゃうなんて……

 すごい! まるで風になった時みたい!

 すごいねエルピ!


『加減を、覚えないと、だね』


 うん!

 がんばるよ!


 あ! まだ訓練中だった!


 僕が振り返ると、相手の狼さんがゆっくりと歩いて来ていた。

 その目はおもしろいものを見つけたように輝いていて、しきりに『すごいすごい!』と言っていた。


『えへへ。ありがとう!』


 褒められてとってもうれしかったから、僕はその場でくるりと回って、狼さんへと近づく。

 僕の頭を撫でてくれようとしているのか、ぽんっと狼さんの右前足が僕の頭にのせられて……あれ? おも、おもい、重ーい。


 狼さんに頭を上から押さえられて、伏せの姿勢になる。

 あうー。


「そこまでだ!」


 大きな狼さんが訓練の終わりを告げる。

 そういえば、地面に頭をつけちゃだめなんだった……。


 読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=714406171&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ