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若葉のカムイ  作者: ☀シグ☀
序章:世界樹の森
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一話:若葉とエルピ




 全身を包み込むような温かい光の中。

 僕は目を覚ました。




 ここはどこだろう。


 じっと光を見ていると、それが太陽だとわかった。


 そして、ここは……森?

 昔は寝相が悪かったけれど……まさか、森の中まで転がって来ちゃった?


 ゆっくりと立ち上がる。


 久しぶりに体が軽くてびっくり!

 あれ? 周りがはっきり見える!


 足元の苔も。

 目の前に広がるお花畑も全部。

 全部はっきりと見える!

 すごいすごい!


 すっごくうれしくて、お花畑にジャンプした。

 白い花びらがぶわって舞い上がって、ひらひらと落ちてくる。

 雪ってこんな感じだったなーって、



 おー!



 僕が寝ていた場所って、すっごい大きな石の上だったんだねー! 振り返っていなかったら気付かなかったよ!


 それに、石の後ろにある樹もおっきいー!

 こんなに大きい樹は初めて見たよ!

 あ、でも上の辺りで折れちゃってるね。

 でも大きいー。


 すこしの時間、樹を眺めていた。


 こういう樹って、見ているだけで力をもらえる気がするよね。

 本当におっきいー。

 なんで折れちゃったんだろう……あ!



 “ときこ”の家に帰らないと!



 僕は鼻を鳴らす。


 はやく帰らないと、“ときこ”が心配しちゃう!


 あっちくんくん、こっちでくんくん。


 うーん、おかしい。


 人の匂いがしない。

 人の生活している匂いがしない。

 僕が住んでいた森でも、こんなに人の匂いがしないのは久しぶり。


 どうしよう! 僕、寝ぼけてこんなに森の奥深くまで来ちゃった!

 帰れるかな? ううん、帰る!


 まずはとにかく走る!




『若葉』




 !!?


 びっくりした!

 びっくりしてジャンプしちゃった!


 すぐに辺りを見渡すけれど、だれもいない。


 かくれんぼしているのかな?


『若葉』


 またした!


 それにこの声! 夢の中で聞いた声だ!

 すごい! 耳で聞こえているわけじゃなくて、頭に響いているって感じ!


 この感覚、なんて言うんだったっけ?

 うーん、まあいっか!

 僕の友達も出来たんだけれど、結構むずかしいって言っていたよー。

 あ、その前に自己紹介だね!


 僕は若葉! キミはだれ?


『エルピ』


 エルピ!

 素敵な名前だね! よろしく!

 それで、エルピは今どこにいるの?


『若葉の中』


 ええ!? 僕の中!?

 も、もしかして、僕が寝ぼけて食べちゃった!?


『違う』


 よかったー。

 じゃあ、今僕の中から出ることは出来る?


『出来ない』


 え、じゃ、じゃあ、僕の中にいてキミは大丈夫なの?


『大丈夫』


 大丈夫なんだ! よかったー。

 じゃあ、出られるようになるまで、僕の中にいていいよ!


『わかった』


 ちょっとびっくりしたけれど、悪い子じゃなくてよかった!

 それにしても、僕の中に入っちゃうなんて、エルピはすっごい小さいんだね。


 あ! 帰らないといけないんだった!


『出来ない』


 え?


『若葉は、死んだ』


 しん、じゃっ……た?


『若葉は死んだ。ここは、別の世界。生まれ変わった。だから、帰れない』


 ……そうなんだ。

 もう、“ときこ”には会えないんだ……。


『信じるの、意外。それに、もう少し、混乱するかと』


 そりゃびっくりしたよ。

 けれど、そろそろかなって思っていたし、それに楽しいこといっぱい出来たから……うん! 満足だよ!


 みんなにお別れを言えなかったのはすこし残念だけれど……大丈夫!


『そうか。それは、よかった』


 うん!

 あ、この世界? に来る前にも、エルピと話したかったなー。

 そしたら、もっと楽しかったかも!


『ボクも、話したかった。でも、出来なかった。若葉が、ボクの力を、使うから』


 ん? 力?

 うーん、覚えはないんだけれど、使っちゃっていたんだね。

 ごめんね!


『かぼちゃ、コロッケを、沢山』



 えっ、あれってキミの力だったの!?



 “ときこ”はよくかぼちゃコロッケを作って、近所のみんなに配っていたんだ。

 味見として僕にも一、二個くれるんだけれど、もっといっぱい食べたくて、頭で思い浮かべていたら、空からかぼちゃコロッケが落ちてきたの。


 それから、僕は何回もかぼちゃコロッケを思い浮かべては食べ、思い浮かべては食べをほとんど毎日繰り返していた。


 よく寝るようになってからはあんまりやっていなかったけれど、そっか。

 あれってエルピのおかげだったんだね。


 ぐるるると、おなかが鳴った。


 かぼちゃコロッケのことを考えていたから、おなかがへっちゃったみたい。

 でもこまったな。

 この森には果物の香りがない。


 近くにないだけかもしれないけれど、見つけるのは大変かも。


『まかせて』


 ん? エルピどうしたの?


 ふわりとおいしそうな香りが鼻をくすぐる。

 まさかと空を見上げると、ヒトのこぶし大のかぼちゃコロッケが宙に浮いていた。


 わぁー! エルピすごい!

 こっちでもかぼちゃコロッケを出せるんだね!


『かぼちゃ、コロッケとは、少し違う』


 浮かんでいたコロッケが落ちてくる。

 それをすかさず口でキャッチ!


 ん~! おいしい!

 ちゃんとかぼちゃコロッケだよこれ!


『“ときこ”が、作ったものに、似せて作った。言うなれば、かぼちゃ、コロッケ、もどき』


 そうなんだ!

 かぼちゃコロッケもどき……うん!

 なんだかとっても元気が出てきたよ! エルピ、ありがとう!


 生まれ変わりってよくわからないし、みんなにお別れを言えなかったのは残念だけれど、僕、この世界でまたがんばってみる!


 がんばっていたら、元の世界にもどる方法がわかるかもしれないしね!

 それまでに、友達をいっぱい作って、みんなに紹介するんだー!


 まずはこの森を探検だー!

 エルピも一緒にがんばろうね!


『お、おー』


 そうそう! その調子!


 かるく体を伸ばしてから、僕は歩き始める。

 透き通った空気でいっぱいの静かな森の中で、わくわくと僕の心臓だけが熱く脈打っていた。


 読んでいただきありがとうございます。

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