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6月20日 11:30 宮近明

宮近明と遊馬慧は愛華花夜と日向唯を助けに用具倉庫に来たものの、一緒に閉じ込められてしまった。

〇6月20日 11:30 宮近 明

「唯、大丈夫か?」

 俺は奥で座っていた唯に声を掛けた。

「うん、扉のかどで切っちゃった」

 唯はとても怯えた声で力なく言った。手にはハンカチが巻いてあり、少し血が滲んでいる。

 逃げなければまずい。そのうちこの倉庫は破られるだろう。やつらは絶え間なくこの倉庫を壊そうと手を叩きつけている。それは自分の手がどうなってもいいと思われるほどの強い力だ。それに唯も心配だった。

 そのとき外から不審者以外の声が響いた。


――校内に不審者が侵入しました。生徒の皆さんは慌てず先生の指示に従っ…ブツッ


 放送は途中で止まった。不審者の壁を叩く音が少し減った。どうやら数人はこちらに興味をなくしたようだ。しかし音からしてまだ六人はいるだろう。

「学校で何が起きてるの?」

 花夜が小さな声で言う。校庭にこれだけの不審者がいるんだ。校内にもいると言うならそうとうやばいことになっているだろう。

「分からない、俺たちが学校を出る前はいつも通りだった」

 俺は花夜に答える。様子のおかしかった先生を見てからおかしなことになっているのだ。

「近藤先生まで正気を失っていた感じだった」

 俺の言葉に対して花夜が反応した。

「え?先生も?さっきまで変な人と戦ってたんだよ…。でも最後は押し倒されて見えなくなった、」

 押し倒されたってか。体中にあったケガはやつらにやられたものだろう。


「みんな、なんか聞こえないか?」

 慧の一言で気づいた。外からたくさんの悲鳴が聞こえる。

「え、なに?」

 唯はまたも怯えた声でつぶやく。

 どうやら校内にいた人たちが外に逃げ出してきたようだ。

 くそ、外の様子が見えない。音だけじゃどうしても情報が少ない。

「逃げるなら今じゃないか?」

 慧はこちらを見ている。たしかに壁を叩く音はさっきよりさらに減り、注意が散漫になっている感じだ。慧の言う通り逃げるなら今しかない。襲われてしまった人には申し訳ないがこっちも必死なんだ。

「そうだな、みんな行けるか?」

 俺は怯えている唯と花夜に聞いた。

「うん、大丈夫…行ける、」

「私も。だいぶ手もましになってきたよ」

 みんな怖いと思うが覚悟はできているみたいだ。少し不安だが行くしかない。

「よし、行こう。いいか慧」

「もちろん、行くしかねえよな」

 慧と顔を見合わせる。俺たちは扉を開けるため手を掛けた。

「行くぞ!」

 慧の合図に合わせ俺たちは扉を開け外へ走り出した。

「止まるな!学校に走れ!」

 俺は叫びながら周りを見回す。生徒が混乱しながら逃げまどっている。中にはやつらに食われ動かなくなっている者もいた。

 なんだこれ、やばすぎるだろ。

 唯は手をかばいながら走っている。やはり痛いのか。無理をさせてしまっているな。

「やめて!」

 花夜がやつらに捕まれている!それと同時に慧がそいつに強い蹴りをぶち込んだ。不審者はバランスを失い倒れた。

「大丈夫か?」

「うん、ありがと」

 よかった。慧と花夜は無事だ。俺が唯の心配をしている間、慧は花夜を守ろうとしていた。

「みんな無事か!行くぞ!」

「おう」

 大丈夫だ。いける。



 俺たちは何とか学校にたどり着いた。運よく近くにやつらもいない。どうやら外に逃げる生徒を追ってそのまま出て行ったようだ。もちろん外へと通じるドアのカギは閉めた。

「職員室に行こう。まだ先生もいるだろ」

 慧が提案をする。そういえばここまで先生は近藤先生しか見ていない。

「こんなことになっているのに先生は全然いない。もうやられているかもしれない。立て籠もる方が良くないか?」

 難しい選択だ。当然先生を見つけて助けてもらう方が利口なのかもしれない。だが生徒が混乱して外へ逃げ出している状況を見ると先生はすでに「先生」と言う役割を放棄していてもおかしくない。

「立て籠もるってどこにだ?」

 慧が聞いてくる。救助が来るまで数日かかるとしたら食い物がある場所がいいだろう。

「食堂はどうだ?」

「食堂か、」

 この学校の食堂は最上階である3階にあり、非常食などが常備されている。しかし食堂と言っても食事を用意している場所ではなくただ弁当などを食べる場所として使われている。かつては昼食の準備もしていたらしいが。

「そうだな。先生も探しながら食堂へ向かおう」

 慧が了承してくれた。唯と花夜を見ると二人も異論はないようだ。

 俺たちは階段に向け歩き出した。

 すると反対方向から争っている声が聞こえてきた。

「てめっ、こっちくんな!」

「おいっおさえてろ!」

 どうやら校内にもやつらは残っており、生き残りもいるようだ。助けるか。こっちは戦える男が二人いる。向こうの人も男が二人。少し後ろに女が一人いる。

「慧、助けよう」

俺が慧に声をかけたとき唯が腕をつかんだ。

「いかないで、」

 唯が不安そうに俺を見ている。

「でも唯、あいつらが」


「おらぁ!」

 向こうにいた人たちが自力で不審者を倒した。手に持っていたバットで頭の頭蓋骨を陥没させている。初めて不審者の動かなくなるところを見た。

「お前明か、どこにいくんだ?」

 三人のうちの一人が話しかけてきた。こいつはたしか一組のあずまだったはず。少し乱暴なイメージがあったが、さっきのやり取りをみるとなかなかすごい奴だったみたいだ。一緒にいるのは草鷹そうたかだな。野球部に所属しているだけあってバットの一撃はすごかった。そう、この草鷹が先ほどの一撃でけりをつけていた。もう一人の女子の名前は忘れてしまった。

「東、だな。食堂に逃げようと思ってる。お前たちも行かないか?」

 逃げるなら仲間が多い方がいいだろう。後ろで慧たちが不安そうな表情をしている。まあ乱暴そうな様子を見た後では無理もないか。

「食堂か、いや俺たちは探し物をしているんだ。でももし見つけたら俺たちも食堂へ向かってみるわ」

 東には断られてしまった。まあそれなら仕方ない。状況が状況だ。他の人への心配はここまででいいだろう。東は俺を見ていた。

「そうか、分かったよ」

「おい広夢ひろむ、もう行かないとまた集まってくるぞ!」

「そうだな」

 広夢とは東の下の名前のようだ。草鷹はそう東に声をかけると女もつれて去って行った。

「俺たちも行こう」

 俺はみんなに声をかけて歩を進めた。



 結局先生を見つけることがないまま食堂にたどり着いた。

 しかし、その入り口にはシャッターが閉まっている。シャッターといっても鉄格子のような隙間のあるシャッターだ。向こう側は物をたくさん置いてバリケードにしているようだ。

「あれじゃ、入れない」

 唯が言う。

 とりあえず中にいる人に開けてもらえるよう声をかけよう。

「助けてくれ!中に入れてくれ!」

 やつらにばれることは恐ろしかったが大きな声を出した。


「開けたら僕が襲われるかもしれない。あきらめな」


 とても落ち着いた声だった。





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