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6月20日 10:40 愛華花夜

今は二時間目と三時間目の間の準備時間。

愛華うねはな花夜かやは体育に向けて準備を進める。

〇6月20日10:40 愛華 花夜

「体育かー」

 ようやく2時間目が終わって次は体育。着替えは男子が更衣室を使って女子が教室で着替えるルールになっている。数年前までは女子が更衣室を使っていたのだが、女子の下着が盗まれたことがあり、それから男女の場所が逆になったらしい。教室にはカギをかけることができるのでもう盗まれることも無いから安心だ。さらっと言ってるけどけっこうとんでもない話だよね。盗んだ人がどうなったかまでは知らないけど。

 制服から動きやすいジャージに着替えると、すぐ隣のクラスに向かった。お目当ての背中を見つけて飛び込む。

「唯ー!会いたかったよー!」

「わっ!びっくりした」

 彼女は日向(ひゅうが)ゆい。私の親友だ。唯はとても驚き戸惑っていたがおかまいなしに話を続けた。

「一緒にグラウンド行こ」

 今日は女子が外で男子が屋内を使う日。でもとにかく暑い。ここはひとつ男子に外を使ってもらい、女子が優雅に屋内を使いたいところだが、2時間目に外を使っていたのが1年の女子らしい。そのままなら2年生も外になる。ちなみに体育は2つのクラス合同で行う。おかげで4組の私は3組である唯と一緒なのだ。

「ちょいまって、もう行ける」

 唯はジャージのファスナーを上げながら言った。

 二人は教室を出ると、玄関に向かって歩き出した。

「朝いっぱい走ったから体育しんどいよ」

 今日は寝坊をして学校遅刻寸前だった。そのおかげで朝から猛ダッシュをせざるを得なかった。

「花夜が寝坊するなんてめずらしいね」

 唯は何かあったの?と言わんばかりの顔で私を見る。

「実は昨日夜まで慧くんと電話しててさ。そしたら寝るの遅くなっちゃった」

 花夜は笑いながら恥ずかしそうに答えた。

「そりゃ幸せそうでいいですねー」

 唯は皮肉たっぷりに心のこもっていない祝福をして、前を向きなおす。それを見て私はにやけながら小声で話しかけた。

「明くんにはまだ気持ち伝えてないの?」

「はっ!?いきなりなに!?」

 唯は顔を真っ赤にして大きな声を出した。あいかわらずわかりやすい子だな。

「いまさらなにさー、てかはやく告っちゃいなよ。あんたら幼馴染はおにあいだよ!」

 私はにひっと笑いながら先に玄関に到着し靴を履き替えた。それに続き唯も靴を履き替える。

「だって、もし断わられたら私たち遊びずらくなるじゃん」

 唯は本音を言った。確かに私が慧くんと付き合い始めてからも、そこに明くんと唯を含めた4人で遊ぶことが多かった。多分慧くんと明くんが幼馴染ということも大きいと思う。そして唯と明くんも幼馴染で、むしろ私のほうがこの3人の枠に食い込んでいるようなもの。それでも、もし告白を断られたらこのグループが消えてしまうのではないか、という不安は充分理解できた。でも正直なところ、いけるしょ。というのが私の率直な意見だった。絶対OKもらえる。明くんは唯に優しいし。うん。

「そう?私は脈ありだとおもうなー」

「ほんと?そうかな」

 唯は少し嬉しそうに笑っていた。ふとポケットに手を入れると間違って携帯を持ってきてしまっていたことに気付いた。着替えるとき無意識に入れちゃったかな。ばれないように気を付けなきゃ。話をしているとチャイムが鳴り3時間目が始まった。



「いーち、にー、さん、しー」

 体育委員の人が前に出て数を数える。体育恒例の準備体操だ。しかしそれどころではない。太陽から放たれる光がとても暑い。この時間はきついんだろうな。そしてポケットの中の携帯が邪魔くさい。

 額の汗を右手の甲で拭いながら何気なく、いまいるところから右の方向の道路を見た。見知らぬ人が学校の周りを囲っている網に手を掛けこっちを見ている。誰かの親かなにか?でも今日平日だし。え、不審者?

「ねえ、唯。あそこに変な人いるんだけど」

 私は隣で準備体操をしている唯に声をかけた。

「え?あ、ほんとだ」

 唯も不審者の存在に気付いた。

「ていうか、あっちにもいない?」

 唯は続けて違う方向を指さしながら言ってきた。そこで私は不審者が1人ではないことに気付いた。数はそれぞれ離れて4人。そのうちの1人は校門の近くにいる。少し怖い。とはいっても門からここはだいぶ距離がある。多分100メートルはあるだろう。でも念のため先生に言おう。体育の近藤先生は男で不審者もきっと何とかしてくれるだろうし。

「せんせー、なんか門のとことかに変な人いる」

 先生は私たちが体操をしている間、用具の配置をしており、気付いていなかったようだ。

「なに?変な人?」

 近藤先生は門の方を見る。それと同時に門の近くにいた人が門の方へ歩き敷地に入ってきた。こっちに向かって歩いてくる。

「ほんとだ。学外から誰か来る予定でもあったかな」

 先生はその人のもとへ歩き出した。

 私が先生に言ったことで体操をしていたみんなも不審者を見ている。なんだか歩き方が不自然だ。酔っ払いかな。いや、でも何人かいたし、みんな酔っ払いってことはないしょ。

 そこで他にも数人いたことを思い出して辺りを見回す。

 いない。いつの間にかいなくなっていた。とりあえず私は先生の方へ目を戻した。

「おい!やめろ!」

 先生が大声で言ったとき、不審者は先生の左腕に噛み付いてそのまま肉を引きちぎった。

「ぐぁ、いってーな!あんた何するんだ!」

 先生の怒号が響く。そのとき近くからも悲鳴が聞こえた。

「いやああああああっ!やめてっ!」

 すぐそこにいたクラスメートが他の不審者に噛み付かれていた。

 え?!なんでここにいるの?!

 私は混乱した。校門の反対方面から不審者が何人も入ってきており、すぐそこまで来ていたのだ。それも校門の反対側が校舎。校門では先生が不審者を殴り倒しているが、すでに他の不審者も来ている。

 はさまれた。


―花夜!花夜!花夜!

「花夜!」

 突然唯が私を見ながら肩を抑えてきた。

「え?」

「え?じゃない!逃げなきゃっ!」

 どうやら唯は何度も私を呼んでいたようだ。硬直していた私を正気に戻してくれた。辺りを見回す。不審者に挟まれていてとてもやばい。そこで私は不審者がいない方向に用具倉庫があることを思い出した。普段はカギがかかっていて開いていないが、先生が用具を準備するためにカギを開けていた。そこで先生が気になった。校門に何人かきていたはず!

 先生は多勢に無勢で腕や肩を噛まれていた。

「先生!」

私の声が聞こえたかは分からないが先生はこっちを向き言った。

「用具倉庫か校内に逃げろ!」

そういうと先生は押し倒され、3人の不審者に埋まった。

「唯!用具倉庫にいこうっ!」

 私はとっさに判断して用具倉庫へ唯を引っ張って行った。しかしこっちに来たのは私と唯とクラスメートの雪乃ゆきのだけだった。他の人は校内の方へ向かった。しかし次々に不審者に捕まる。不審者の数は見るたびに増えているような感じだ。

 大丈夫、こっちにやつらはいない。追いつかれなければ大丈夫。

「急いで!」

 私は叫びながら用具倉庫にやっとの思いで着いた。

 間に合った。唯もたどり着きあと一人。雪乃もたどり着き、引き戸の扉を閉めようとした。その扉に掛けた手だった。やつらは雪乃の腕をつかみ外へ引きずり出した。

「いやっ!たすけて!」

 雪乃は引きずられる瞬間私の目を見ていた。なぜ私だけ、と言わんばかりの目で。

 私より扉の近くにいた唯が急いで扉を閉めた。

「いっつ!」

 唯は声をあげながらすぐカギを閉めた。私も同時に隣にあった用具を扉の前に置きバリケードにした。


 やつらが扉や壁を叩く。とてつもない恐怖だった。雪乃はどうなったのか。心配だったが窓のない扉だったので外の様子が見れなかった。

 そうだ、携帯があった。

 急いで警察に電話をした。

「ただいま回線が大変混み合っており…」

 電話でよく聞く女性の声だった。

 警察につながらない?!いったいなにが起きてるの?

 慧くんっ!おねがい…

 慧くんには繋がることを願って電話を掛けた。

「はいもしもしー」

 慧くんの声が聞こえた。すぐに助けを求める。

「たすけて!変な人に襲われてるのっ!」

 話が唐突すぎたかもしれない。

「なに?よく聞こえないよ?どした?」

 落ち着け私。

「外の用具倉庫にいるのっ、不審者に囲まれて出られない!助けて!」

 今度は通じたようだ。

「外の用具倉庫…?」

「分かった!すぐいく、まってろ!」


 慧くん、早く、来て。

 足の震えが止まらなかった。


 

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