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6月20日 07:30 宮近明

いつも通りの朝。

宮近明みやちかあきらは目を覚ます。

◯6月20日 7:30 宮近 明

「本日は気温が上がり、一足早い夏が訪れるでしょう」

 朝食を食べながら見ていた朝の天気予報が今日一日の苦しさを物語っていた。まだ6月だというのに嫌になってしまう。しかも暑いのが苦手な俺にとってはかなりきついことだ。

「今日は暑くなるみたいね。タオル持って行きなさい」

 母さんの優しい声がリビングに響く。

「わかったよ、母さん。忘れないように後でまた言ってよ」

「はいはーい」

 俺のめんどくささが少し出てしまった返事に対して母さんは困ったような言い方をしたが、表情は笑っていた。今日は機嫌がいいみたいだ。俺はコップに牛乳を注ぐと一気に飲み干した。白く濁ったコップをテーブルに置いたとき、いつもなら既に起きているはずの父さんがいないことに気付いた。

「そういえば父さんは?」

「何言ってんの、昨日早くに家出るって言ってたじゃない」

 母さんは嬉しそうに言った。そこで明は思い出した。

 そうだ。今日は母さんの誕生日だ。誕生日会をするって父さんが言っていた。どうやら早く家に帰れるよう早めに出勤したようだ。我ながら相変わらず仲の良い両親だ。一瞬喧嘩して父さんが出て行ったのかと思ったが、無駄な心配だった。この両親はささいな喧嘩をするたびに離婚だ離婚だと言っているが、次の日には仲直りしている。俺の心配はそこからきていた。

 家族の話ついでに、俺には弟がいる。今は寮生活をしながら家から離れた学校に通っている。兄の俺とは違い、やり始めたことをやり遂げようとする強い覚悟がある。なかでも小学生の頃から始めたアーチェリーは同い年の中でトップレベルのようだ。正直そのトップレベルがどれだけすごいのか俺には分からないが。わざわざ寮から通うほどの学校に行っているのはアーチェリーのためである。



 食事を終え、身支度を済ませたアキラは玄関で靴を履いていた。

「はい、タオル」

 結局忘れていたタオルを母さんが持ってきてくれた。

「あ、忘れてた。ありがとう。行ってきます」

 少し前までお礼を言うのは気恥ずかしい感じだったが最近は気にしなくなった。

「行ってらっしゃい。早く帰ってきてよ!」

 自分の誕生日会をこんなにも楽しみにする母親がいるだろうか。内心俺も誕生日会を楽しみだと思っていた。うまいもんがたくさん食えるからな。

「分かったよ。行ってきます」

 もう一度、行ってきます。を言い家を出た。

 周りに比べれば少し大きめの一軒家が俺の家だ。贅沢にも1メートル半ほどの高さの塀が家の周りを囲っている。玄関の正面には、1メートルくらいの門がある。耳にイヤホンをはめてお気に入りの曲を流すと、俺は門を開け学校に向かって歩き始めた。



 家を出て20分程で学校に着いた。少し大きめの学校で総生徒数は500人ほど。警備のためか学校の周りをぐるりと網と簡単な塀で囲っている。網の高さは2メートルほどだろうか。ここは地元で2番目に難易度の高い高校だ。もともと勉強をしていなかったわけではないが、平均点を取れればよいと思っており、そこそこの勉強しかしていなかった。そんな俺が当たり前のように入れる学校だ。まぁそんなことはどうでもいい。

 俺は登校時にいつも考えてしまうことがある。毎日が同じことの繰り返し。人生は平凡な毎日をただ消化するだけの日々、と。いきなり何を言い出すんだお前は、と思うだろう。その通りだ。俺も学校に着くと何を思っているんだか、と我に返っている。

 はぁ、また鬱になりそうなことを考えてしまっていた。気持ちを切り替えよう。夜は母さんの誕生日会だ。家に弟がいない分たくさん食える。

 思っていたことを頭の中で言いながら、校舎の玄関で靴を履き替える。ここはたくさんの人が行き交う騒々しい場所だ。ここよりもましな教室に早く行きたい。たくさんの人がいる場所では気持ちを切り替えることもできない。

「おっはよー明!」

 さらに騒々しい奴が声をかけてきた。

「よぅ、慧」

 こいつは遊馬。「あそびうま」ではなく、これで「あすま」と読む。ただでさえ珍しいのに下の名前は慧と書いて「けい」だ。とんでもない名前だな。慧は俺と違って前向きで元気な奴だ。かわいい恋人もいる。成績は…そこそこだ。ここだけは俺と同じだな。なんでもかんでもうまくいってる奴なんて物語の中だけの話だと俺は信じている。

「今日は花夜と一緒じゃないのか?」

 花夜とはこいつの彼女さんだ。俺の幼馴染の親友でもある彼女とは俺もよく一緒に遊んでいる。そういや俺と慧も幼馴染だったな。

 読み方は花夜で「かや」。ありそうでなかなかいない名前だ。俺の周りは不思議な名前でいっぱいだ。だいぶ失礼なこと言っているかも知れないな。まぁいいや。

「あいつ寝坊しやがってよー。ぎりぎりだから先行っててって言われちまったよー」

 花夜は時間にルーズではないほうだったが、たまにはそういうこともあるか。

 俺は勝手に納得すると、この話題を早々に切り上げるべく違う話をしようとした。人ののろけ話なんぞ聞きたくないからな。俺がふった話だが細かいことは知らん。

「そうか。珍しいな。ところで…」

 俺たちは話をしながら教室に向かった。






 いつも通りだと思っていた日々、俺の知らないところではすでに異変が始まっていた。






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