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腐りゆく男  作者: 海土竜
9/18

死者の街1

大勢の人の足音や話し声が聞こえる。

ガタガタと様々な振動が背中から伝わってくる。

ここは何処だ・・・

突然の強い光に目頭を押さえ、まだくらくらする頭を働かせようとする。

眠っていたのか。

辺りはすっかり明るくなり、電車を待つ人々がホームを忙しそうに歩き回っていた。

いつもと変わらぬ日常風景がそこにはあった。

昨日は確か、そうだあの怪物があらわれて・・・

いや、よそう、悪い夢でも見たのだろう。

あの生々しい恐ろしい体験を頭から追いやると、

気持ちを切り替えるため膝に両手を乗せてぐッっと力を入れる。

足の裏に伝わる違和感に昨夜の体験が重なり背筋が凍りつくほどの衝撃を受けるも

落ち着いてみてみると、靴が片方無くなっていた。

回りを見回しても周囲にはそれらしき物はなかったので

この辺りで脱げたわけではなさそうであったが、

一様駅員に遺失物が届けられてないか聞いてみるか、

改札の窓口に行けば誰かはいるだろう、

歩きにくいな、どこかで靴を調達しないといけないな。

ホームに向かう人の流れをさかのぼりながら不自然な歩き方をするため、

すれ違う人々に不審な目を向けられながら歩いて行った。


窓口にいる駅員に声をかけるも応えがない、

随分不愛想だな、何度か声をかけるとようやくのろのろとこちらに振り返ったのだが、

その駅員の顔はほとんどの皮膚が腐り落ち、気味悪い色の肉があらわになっていた。

今にも転げ落ちそうな眼玉を動かし、剥き出しの歯がカチカチ鳴らしながら、

あまりにも意表を突かれ呆然とする私に遺失物届と書かれた書類を差し出していた。

事態が呑み込めないまま、知らぬ間に後ずさっていることに気が付くと、

そのまま踵を返しホームに向かって歩き出す。

あれはいったいなんだ、何が起こっているんだ。

頭を掻きむしりたくなる気持ちを押さえ、何とか冷静に考えようと試みる。

間違いなくあれは腐り始めた死体だ、なぜ動いている?

いや、問題はそこではない、なにが・・・いったい・・・。

昨日の出来事と重なって、うまく考えがまとめられない。

頭が痛い・・・。

何の答えも出せぬまま、ふらつきながら歩いていると前を歩いていた男にぶつかった。

軽くすいませんと謝りながら、チラリと目をやると、

ぶつかった衝撃でその男の腕がもげ、床に転がっていた。

驚きのあまり声も出せずに突っ立っている私に、

にこやかに「いえいえ」と言いながら、

床に落ちた手を拾い上げ、慣れた手つきで袖の中に押し込むと

ゼリーを押しつぶす様な嫌な音をさせた。

その男は手から何かの汁をたらしてはいるが、

何事もなかったように電車を待つ列に並んでいる。

おかしい、こんなことはありえない。

吐き気が込み上げる胸を押さえながら周りを見回しても、

誰一人その事を気にする様子もない。

それどころか・・・

整然と列を作って電車を待つ人々は、皆程度の差こそあれどこか腐っていた、

どす黒く変色した手を持つ者や首筋からカビが生えている者、

顔が崩れ落ち強引にねじ込んだような眼玉がついている者まで、

ベンチに座っている男はまるで魚が服を着てるようにさえ見える。

私は逃げるように速足でホームを移動するも

すれ違う人々は皆・・・

こいつも、こいつも・・・、こいつもみんな腐っている。

死体の群れを避けながら人の少ないホームの端辺りまで来てしまったが、

ここでもやはり、みんなどこか腐り始めている。


私はおかしな世界に紛れ込んでしまったのか?

ここはいったいどこなんだ。

いったい何が起こったのだ。

何処を向いても死体、死体、動いている死体、生きながら腐っていく死体。

こんな狂った世界は、ああ・・頭がおかしくなりそうだ。

わたしが・・・おかしくなったのか・・・?

私だけがすべてが腐っているように見えているのか?

何故だ・・・

電車の到着を告げるアナウンスがホームに響き、

並ぶ人々の列が一斉に動き、整然と列を整える。

そうだ、電車に乗れば私のいるべき場所に帰れる。

憔悴しきった頭では、今はそれだけが唯一の希望に思えた。


私はふらふらと電車を待つ列の最後尾に足を向けた。


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