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腐りゆく男  作者: 海土竜
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腐りゆく男

遅めにセットした目覚ましに起こされて

ゆっくりを目を覚ます。

久しぶりに熟睡した気分だ。

寝ぼけた目をこすりながら、のろのろと洗面所で歯を磨く。

覗き込んだ鏡に映るさっきこすった眼の下が少し赤くなっている。

二日酔いの頭でどこかにぶつけたのか、

考えを巡らすも痛くなるばかりでそのいら立ちをごまかすように

耳の後ろを掻いた時、

何かやわらかい物を触ったような感触がし

奇妙な感触の物体が指にこびりついている感触がしていた。

恐る恐るその指先についてるものを確認すると

そこには半分溶けたような赤黒い肉片がこびりついていた。

驚き手を振るとその肉片が鏡に付着し

粘膜のような跡を残しながら滑り落ちていく、

思わず鏡を気にしてそれをふき取り、

その顔をそむけたくなるような悪臭にすぐさま洗い流そうとしながら、

ほんとに確認すべきことに気が付いた。

そう自分の耳の後ろが今どうなっているのかをだ。

わかってはいたがあえて目を背けていた。

しかし、見てみないわけにはいかない。

緊張とも嫌悪感ともとれる高鳴る鼓動と荒くなる呼吸を抑えながら

体を傾けそっと耳を指で捲り鏡に映してみる。

茶色く変色した皮膚が破れた穴の周りに垂れ下がり

穴の底には白い骨のようなものが覗いている。

これほどの大きな傷だというのに何の痛みも感じず

それどころか、何の感触もない。

これは何だ、何が起こっているのだ

茶色くなった皮膚を触ってみると

半透明の黄色くなった汁が指先につき嫌な臭いを発する。

慌てる気持ちを抑えるかのように

勢いよく蛇口から出る水で指についた汁を強くこすって洗い流す。

これは傷なのか、ケガをしているのか、ともかく病院に行けば、

何も感じないとはどういうことなんだろう、

少し冷静になってみると指先についた臭いは洗い流されていたが、

辺りからは腐った肉のにおいが立ち込めている。

大きめのガーゼと包帯でその患部に応急処置をという名目で

とりあえず目に触れないように覆ってしまっただけだが。

そうすると幾分臭いがましになった気がしてくる

しかし、耳の後ろの代わりに後頭部や首あたりがなんだかむずかゆく

気を抜けば掻きむしりたくなるような

掻きだしたら止まらなくなるような

そんな恐怖がこみ上げてくる。

かゆみを頭から追い払いながら、

これで大丈夫だ後は病院が開く頃に会社を抜け出して

診てもらえば、原因もわかるだろう。


不安な気持ちを抑えながら向かった駅は

いつもより混雑しているような気がしたが、

いつもより静かだった。

廻りの音が聞こえなくなったのかと

自分の状態がそれほど深刻なのかと不安が募り、

そんな事を考えるだけで頭が痛くなってくる。

混み合った車内の中座席に座りたかったが開いているはずもなく

しかたなく吊革につかまり体重を預け、一息つくも

そうだ、臭いだ。

あの車内で倒れてた男の様に

耳の後ろの傷はとんでもない悪臭を放っているはずでは、

肩がぶつかるほどの距離にいる周りの反応が気になって仕方がない、

しかし、何の反応もしていないのか、何の関心もないのか

誰一人怪訝な様子を見せることなく

新聞や雑誌を読んだり、携帯電話の画面に見入ったりしている。

あまりにも隣の男の表情を見ようと覗き込んだため一度不快な視線を送られて、

前の座席に座っている女学生に押し殺した笑いをされたくらいだった。

それは、会社についてもかわらず、

皆何の関心も持たず、いつもと変わらない様子であった、

一度包帯を指さし「ケガでもしたのですか?」と尋ねられたくらいだ

曖昧な返事をしたにもかかわらずそれ以上の興味はなさそうに

誰も訪ねてくることはない、

誰もが普段通りだった。

その事が返って不安を掻き立てる。

いくつかの書類をデスクに座り空を見ている男に押し付けると

はやる心を抑えつつ、急ぎ病院に向かうことにした。









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