灰色の街で見る夢2
私は気持ちを落ち着かせようと
額の汗をぬぐいながら車内を見渡す。
よく見慣れた車内だ、
テカテカした吊り広告に蛍光灯の光が反射して目が痛む。
眠っていたのか、どこまでが、どこからが夢だったのか、
不意に夢の中でつかまれた膝にかゆみを覚え
強めに掻いてしまった事に後悔する。
掻けば掻くほど体のあちこちがむずかゆく、
夢の出来事がそこに残っているような気がした。
奇妙な夢の感覚を頭から追い払うように
さっと立ち上がると、別の電車に乗り換える。
随分眠っていたのか、
何本か乗り換えないといけないらしい、
乗り換えの連結はタイミングが良く
ホームに降りてはすぐに次の電車に乗り換えられる。
何本目の乗り換えだろう。
この車両は座席がボックス席になっているタイプか。
乗り込んですぐの補助席に座っている男が気分が悪そうに唸っている。
どこかに開いている席はない物かと車内を見渡し
通路を歩きだそうとした時、
背もたれの上から頭を出している子供の視線に寒気が走った。
背もたれから目だけを出すように頭が見えている、
子供が座席の上に乗っていればちょうどそれくらいだろうが、
その目は、まるで瞼の無い魚のような丸い目でこちらを凝視していた。
何とも言えない嫌悪感がこみ上げてくる。
吐き気が催してくる胸を押さえると、
不意に背後でドサッと何か大きなものが倒れた音がした。
たいした興味もなく振り向くけば
さっきの気分が悪そうな男が床に俯せに倒れていた。
私自身も特になんの感傷を持たなかったが
すぐそばに立っているほかの乗客も倒れた男の事には
全く関心が無い様子で、誰一人見向きもしなかった。
冷たいものだな。
所詮は誰もが他人事か。
そう思うと何かしなければという義務感が湧いてくる
しかし、面倒事に巻き込まれるようなことは避けたいものだ。
倒れている男に声をかけようかと思案しているところに
ウっっと顔を背けたくなるような、
浜辺に打ち上げられた魚が腐り始めたようなにおいが立ち込める。
そう、その倒れた男から。
どんどん臭いは強くなり、
倒れそうになるほど強烈に臭ってくる。
ふらつきながら逃げるように
隣の車両まで足早に移動してため息をついた。
いったい、どうしたらあんな臭いが出るんだ。
隣りの車両からガラス越しに見ると
あれほど強烈なにおいにもかかわらず
誰一人その場から動こうとする気配も
不審がる様子も見てとれなかった。
あの臭いも気のせいだったのか?
それを確かめに戻る気にもならず、
次の電車に乗り換えただ先に向かうだけだった。