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第05話 里留の世界



 里留は、絶望していた。

 生きる気力が湧いてこなかった。


 あんな事があって、お母さんも死んじゃったのに、それなのにまだ世界が続いているのがひどく変だった。


 里留は幼いながらも理解していた。

 自分が生きてる世界は小さいと。

 大人のように経験も積んでないし、人との出会いもまだ少ない。


 それでも里留にとってはその小さな世界は大切な場所だった。

 大切で大切で代えのない世界。

 でもそれももうなくなってしまった。


 これからどうやって生きてけばいいのだろう。分からなかった。





 それからたぶん、しばらくの時間がたった。

 里留が目を覚ましたら、知らない人に運ばれていた。

 周囲は白い床や壁で、おかしな所。

 少し前にいた場所とは、明らかに違う場所だった。


 里瑠はその人にここまで連れて来られたのだろうか。


 お母さんはいつも言ってた。

 知らない人についていっちゃダメよ……って。


 理留を運んでいる人は知らない人だ、そして何か乱暴な感じがした。イライラもしていた。


 何で里留のこと運んでたんだろう。そう疑問に思った。分からない。想像できない。けれど、きっとよくない事だ。

 里留をユーカイするつもりなのだろう。顔つきは穏やかそうなのに。心は違う。何か隠してる。気づかれないように隠し事してる。それが里留の不安を煽った。だから悪い人だ。そうに違いない。間違いない。段々、強くそんな風に思えてきた。


 だって、何にも里留に話してくれないから。

 どうして迷路みたいなとこにいるのとか、お母さんはあの後どうなったのとか。……それは、知ってる。死んじゃったけど……。色々な事、何も話してくれない。


 だから、里留はあの人の元から逃げだしたのだ。


「お母さん……」


 どこに行けばいいんだろう。まるで分からない。まったくわからない。

 ここにお母さんがいてくれればいいのに。でも無理だ。お母さんは今、里留の隣にはいない。だって死んじゃったから。里留の為に。里留のせいで。


 あの時、お母さんと手を繋いで、デパートにお買い物しに行ったとき。

 屋上で聞いた声を思い出す。


『――――世界終了のお知らせです――――』


 変な声だった

 女の人の声。だけど、柔らかくもないし、優しくもない。ホントに変。

 よく似たような声なら昔、聞いた事がある。





 里留が町で迷子になったとき、女の人が声をかけてくれたのだ。その時の声によく似てる。


「どうしたの? 迷子になってるの? お母さんはどこ? お父さんは? 誰か一緒に来てたの? お名前は? 自分の名前とか言える?」


 その人は優しく笑いながらイライラしてた。

 隣に同じくらいの歳の男の人がして、女の人はチラチラとその人の事を気にしていた。

 里留がごめんなさいと謝ると、


「ああ、泣かないで泣かないで。おいしいキャンディあげるからね。大丈夫よ。大丈夫。きっとお母さんとお父さんが探してくれてるから」


 優しい声で、ますます怒ってしまって……。

 そんな似た感じの声だ。





 とにかく、不思議な声が聞こえた後は大変だった。子供な里留でも、はっきりとこれは大変だと分かるくらい、ほんとに大変だったのだ。


 空は真っ暗でどんよりしてるし、地面はグラグラしてる。それに怖い動物達がたくさん現れて、皆を襲ってた。


 里留はお母さんとデパートの中でじっと息をひそめて隠れていた。

 いま外に出てはいけない。力のない里留達にとって外は地獄だ。それくらいすぐに分かったから。


 けれど、そんな楽しくないかくれんぼも長くは続かなかった。


 建物がグラグラ揺れたあと、床がバキっと音を立てたのだ。

 落ちる。それだけ思った。

 床は割れていて、二人とも下に落ちていく。


 だけど落ちなかった

 手を繋いでいたお母さんが必死に落ちないようしがみついていたからだ。

 里留は混乱した。どうしよう。どうしよう。そればっかりだった。何も考えられなかった。

 助けて。死んじゃう。死ぬのは怖い。こんな所から落ちたら、と考えると……。考えられなかった。里留では。そんなの考えられない。とにかく嫌だった。


「大丈夫かっ!!」


 誰かの声がかかった。


「この子をお願いします」


 お母さんの声。


「お母さん?」


 そして里留の声。


 結果、里留は助けられて、お母さんは割れた床の下に落ちてしまった。

 男の人か誰かと会話していたようだけど、里留にそんなのは関係なかった。

 だって、お母さんが死んでしまったのだ。里留のお母さんが。里留の大事なお母さんが。里留の小さな世界が壊れてしまった。


 そして、次に気が付いた時には、怖い人と一緒にこの迷路の中にいたのだ。


「お母さん……、お母さん……」


 その人の元から、逃げてきて。だけどどこに向かえばいいのか分からず、迷路を右に左に進んでいく。

 ずっと探していればお母さんに会えるだろうか。そんなわけないって、分かってるけど。

 里留、もうだいじょうぶよって笑ってくれないかな……。


「うぅ……ぐすっ、ひっく……」

「ああ? 何でこんなとこにガキがいんだよ?」


 声に気付くと、大きな男の人が立っていた。

 一瞬さっきの人かと思ったけど違った。


 眼の前にいる人は乱暴な感じだった。見かけ上でも穏やかな顔をしていたあの人とは違う。里留に敵意を持っている事がすぐに分かった。


「ま、ガキだろうが何だって、関係ねぇや。どうせこんなとこにいんだ。ライバルってわけなんだろ。悪く思うなよ。じゃあな……」

「え……」


 その人は、剣を振り上げた。大きな剣だ。男の人の身長より大きいいかもしれない。

 剣。なんでだろう。なんでそんな物が? 

 里留が考えられたのはそこまでだ。

 その剣が勢いよく、振り下ろされる。





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