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世界終了のお死らせです  作者: 透坂雨音


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第33話 理不尽



 オリガヌを追い詰めるために俺達が実行した作戦はこうだった。


 アレンが何とか目星をつけたオリガヌらしき人間のいる一団。それらに俺が虫を投げつける。そして割りだしたオリガヌに、アレンが一個だけウィンドウに収納してあったビットを出し、わざと近くの自分を攻撃させ、直前でこれを回避する。回避した攻撃はもちろんオリガヌに攻撃させるように計算してある。俺の剣に気を取られたオリガヌは回避する事ができず、これに被弾してしまった。というワケだ。


 虫で反応がなかったらなかったで、また別の方法を考えるしかなかったが。都合の良い事にオリガヌはこれに反応してしまった。作戦の成功はこの時点でほぼ決まっていたのかもしれない。


 意思のある人間は、意思のない人間よりはるかに無駄な動きをする。目標をずっと追いかけるような事はできないし、集中だってたまに切れる。

 アレンはその動作を観察していたらしい。フロアにいるゾンビ共全員の動きを。


 お前も十分バケモンだ。紅蓮は隣に立つアレンを見てそう思った。


『はいはい分かりましたー。約束通り何でも一つ願いを叶えてあげますよー』


 目の前には、その後アレンの剣で念入りに心臓を突きさされたオリガヌが倒れている。何でその状態で喋れんだ。『私を普通の人間と一緒にしないでよね』むくれた顔して生意気にも反論する。一緒になんかしてねぇよ。お前ほど普通の人間とかけ離れた奴は見てないからな。いや、隣にいるか。


 しかし、『さあさあ、勇敢なる攻略者よ。願いはなんですかー?』それでも一応倒したという事にはするらしい。オリガヌは俺達にそう問いかける。


 俺が言うべきことはもうすでに決まっている。もちろん「俺のいた世界を元に戻せ」それだ。


 オリガヌが地面に寝そべったまま『はいはいりょーかい、かしこまりー』ちょっとした手伝いでお引き受けるかの様な態度で返事をする。


 これで、終わったんだよな。まだアレンとの決着が残っているが。そんなのはどうでもいい。勝ってせせら笑おうが、負けてくやしがろうが、些末な問題だ。


『うふふ、君の、世界を、元に、戻せ……で良いんだよね?』


 オリガヌの浮かべた心底嬉しそうな笑みに、「待て」自然と口が開いてた。


 よくない。良い訳がない。何素直に信じてるんだ。今までの事で何も学ばなかったのか。こいつが、本当に、ちゃんと、世界を『元に』戻してくれる、なんて。そう思ってるのかよ、俺。


『なぁに?』

「俺の言った元に戻せは……、お前のせいで壊れた建物の一切合切を元に戻せ、お前が空から呼びよせたよく分かんねぇい生物をいない状態に元に戻せ、お前のせいで死んだ人達を全部元に戻せ、……そういう意味だ」

『やぁーだなぁ。この私が、そんな言葉の取り違いで遊ぶとでもぉ』


 思ってる。だから言ったんだろうが。


『でもぉ、死んだ人間を元に戻せって言うのは、出来ないかなぁ』

「あぁ? 何言ってんだ」


 ごめんね、とオリガヌはひどく当たり前の事を付け加える。





『あのね、人は死んじゃったら生き返らないの」





 相手のペースに乗せられては駄目だとか、自制しなければならないとか、そういう事が全部吹っ飛んで、その瞬間俺は叫んでいた。


「それをっ、お前が何とかしろって言ってんだろうが!」


 生き返らない。だからお前にどうにかしてくれって頼んでるんだろうが。元凶なんかのお前に。


『別にイジワル言ってるわけじゃないのにぃ。世界の常識……ううん、全ての世界の常識なのよぅ。一度失われた命は戻らない、『そう』決まってる』


 先ほどのゾンビに溢れるフロア光景を脳裏に思いだす。そうだ怪我は治せても、あいつらは元に戻ったりはしなかった。どうやったってもどってこない連中、死んだ人間をいいように弄ぶオリガヌがそれを証明していたのだ。


『肉体だけなら元に戻せるけどぉ、魂までは無理なのよ』


 まさか。「嘘だったのかよ」お前一番初めのあの時、世界を救う事を協力するって言っただろ。俺は聞き間違えたりしないぞ。そんな大事な事を。


 オリガヌは気の毒そうな顔をしてみせた。なった、ではなく、してみせただけだ。


『嘘じゃないわぁ。君が世界を救う道を作るのを間違えないってだけ。解釈なんて人それぞれでしょう?』


 オリガヌは得意げな表情をして見せた後に、つまらなさそうな表情を浮かべて見せる。


『間違えちゃったものはしょうがないじゃない。次に生かせばいいじゃん。さっさと何か決めちゃってよ。金銀財宝、永遠の命、今なら何でもかなっちゃうわよ』


 ふざけんな。


『何もないんだったら、放りだすけど? こっちもつまらない事にずっと付き合ってあげられるほど暇じゃないしぃ』


 勝手だ。勝手すぎる。


 オリガヌは心臓を潰されたまま『じゃあ……』その場に立ちあがる。


「待て、……考える」

『早くしてねー』


 腸が煮えくり返るような思い、だが怒鳴る事すらできない。逆らうことができない。


 声を荒げて駄々をこねようものなら、こいつはすぐにこの機会を放り捨てるだろう。俺達が必死で得たこの機会を。つまらなさそうな顔をして。ゴミでも捨てるように。

 ひすらに理不尽だった。お前はそうなんだな。そういう存在なんだな。俺達の事なんて、ただの退屈しのぎの玩具だとしか思っていない。


 ここで、何もしなかったら今までの事はなんなんだ。

 考えるしかない。それ以外の道はない。元からこいつの手の平で踊る事は承知していたんだ。

 与えられたもので何とかするしかないのだ。ちっぽけな自分達は。


 どうすれば良い?


 時間が過ぎる。消費され続ける。どんなに懇願したって、無情にも止まってはくれないのだ。


 タイムリミットがせまりくる。


 重い。クソ重てぇ。だれか変わってくれ。


 何で俺なんだ。ここにいるのが俺達なんだ。


 駄目だ、何にも思いつきゃしねぇ。クソがっ!


 思考が乱れてまとまらない。


「紅蓮。駄目なら投げればいい。僕が何とかしてみせる」


 そういうお前の考え方がムカつくから、お前を邪魔したんだろ。正義の見方そうな顔して悪役好きなんて手に負えねぇだろ。


「紅蓮……。里留も……考える」


 里留の顔を見る。不安そうな顔だ。でも真剣に考えている。実はアレンよりこいつの方が強いんじゃないだろうか?


『……僕の分まで生きてください』

『その体、大事にしてくださいよ。元持ち主からのお願いです』

『予定外の使い道だけど、良い事思いついたとか言って。僕をこーんな器にいれるんですから』


 手元の剣を見る。白オリガヌ

 ……そういや、あいつの本当の名前聞き忘れたな。


「……ぁ」


 そうだ。


「おいオリガヌ。テメェ。」


 こいつは思考の隅をつつくようなそういう人間だ。

 その事を思い出した。


 だから、希望はある。


「俺が死んだと思ってる人間は、本当に死んだのか?」


「……」


「答えろ」






『…………………………、は』オリガヌは息を吐いた。そして、『あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ』笑い転げる。






 愉快げになるオリガヌを見て俺は確信した。


『どこで? 何で気付いたのそれ』


 やっぱりか。アレンが驚いたような顔をして「それは?」どういう事かと尋ねた。


「白が言ってたんだよ。ナビゲーターになる予定じゃなかったってな。予定じゃないのに白の魂は保護されてた。お前、さっき言ったよな、肉体が死んでも治せる。だけど、魂が死んだら生き返らねぇって」


「ああ、あの子が。」

「あいつは、今どうしてんだ?」

「生きてるよー。一応。器は壊したけど」

「……」


 おそらくあの時俺に力を貸したせいで、オリガヌに制裁を加えられたのだろう。


「だから俺の願いは。全部ひっくるめて、元に戻せ、だ。この願壁で起きたことも含めてな。死んでねぇんだろ。言っとくが治したハナから、もう一回壊すとかはなしだかんな」


『よく思い至ったよね。すごいすごい。ほんとすごいよ君』

「おい、聞いてんのか」

『聞いてる聞いてる。うん、分かった約束するよ。ちゃんと元に戻すし、元に戻した世界に手を出したりしない。君達にもね』


 オリガヌは満面の笑みで「嘘は言わないし、契約は破らないよ私は」そう言いきった。やめろ言うな。お前が断言するほど、嘘くさく思えてくる。


「だが、それ以外は何でもすんだろ」

『そうとも言うね』


 こいつは。


「破ったらただじゃおかねぇからな」

『しつこいなもう』


 お前ほど信じきれねぇ奴は他にいねぇよ。日ごろの行いをよく考えろ。


 だが、『集中するから邪魔しないでね』と言われればもう何も言えなくなる。


 せっかく願いを叶えてもらうというのに、気が変わられては意味がない。

 ここまで来てまだ奴の御機嫌取りをしなきゃいけないのが、もうムカつきを通り越して呆れてくるが。


 目を閉じていたオリガヌが数分経ってから、扉のような物を紅蓮達の前に出現させた。


 『はい、できた。何その顔。心配しなくても、ちゃーんとお望み通りの世界に繋がってるってば」オリガヌは扉に近づいて、手の先を向こうの空間に入れたり出したりしている。『この先で君たちが決着つければ、ちゃんと自動的に願い叶うようになってるよ。オリガヌちゃんは見ないけどね。だって、どんな結果か分かり切ってるし』里留の方を見て、わざとらしくため息をついてみせる。つきたいのはこっちの方だ。本当にな。


「変な小細工とかしてねぇだろうな」

『信用ないなぁ。これでも勝者への敬意は持ってるんだよ。人間の癖に私に勝ったんだから。ここで駄々こねたらゲームの前提がくずれて、次にやるやつが面白くなくなっちゃうじゃん』


 前半で少しでもまともな奴だと思いかけた俺は馬鹿だ。やはりオリガヌはオリガヌだった。


 アレンは一歩前に出て、「これは些細な疑問なのだけど、君は神様なのかい?」そんなどうでもいい事をたずねる。気にならないといえば嘘になるが。別に知らなくともいい事だ。相手が神だろうが悪魔だろうが、俺のやる事は変わらなかっただろうし。ただ「神っつうのは無理があるよな」俺の意見はこうだった。


『え、違うよ。だいたい破壊神なんて読んだのは君の方じゃない。そっちの天才君だって』


 そういやそうだったな。アレンも紅蓮と似たような勘違いをしていたのか「そうだったね」そう答えた。意外と抜けてるとこもあんだな。


『私がなんなのかとか、私自身よくわかってないんだよねー。気が付いたらこうなってた、みたいな?』


 な? じゃねーよ。こんなはた迷惑な生物が自然に生まれてたまるか。


『しいて言えば、籠の鳥かな』そんな可愛いもんじゃねぇ、お前は。『籠から出られずにぃ、ずぅーーっと、他人の遊んでいるゲームを眺めているしかなかった鳥とか』……。『なーんてねっ』


 それについては余計なコメントはしない。ここまできてうっかり地雷なんぞ踏んで無駄死にしたくはねぇからな。


 アレンの疑問が中途半端に消化されたところで、紅蓮は扉の方へと警戒しなが近づく。オリガヌが『だから何もしないって言ってるのに』何か言ってるが、無視。


 フロアの扉よろしく、この扉も自動的に開く。向こう側は見えなかった。


『ホントは、願いなんかもうポンってすぐ叶えられちゃうんだけどそれじゃ芸がないでしょ。だから演出してみました』


「おい、約束は叶えるけど、その前に試練やら何やらいろいろ追加するのは無しだぞ」「無いってば……ちぇ」聞いてんぞ。こいつ……。本当、嘘にならない事と契約してない事以外はするんだな。


 オリガヌは「もう、面倒くさいなぁさっさと行ってってば」歩き寄って、俺の背中を強引に押しだす。


「おい、押すんじゃねぇ」

『はいはい行った行った』


 まさか「その行くは逝くって意味じゃ」ねぇんだろうな。


『もうしつこい!』


 乱暴に突き飛ばされた。我慢の限界だったらしい。


 そうして俺は、まったく先の見えない扉の向こう側へと足を踏み入れた。




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