第32話 ラスボス戦
「あ、アレぇぇぇぇぇぇン――――っっ!!」
思い詰めたあげく里留を殺そうとしたアレンの手から俺は、「クソだろ、テメェっ」とっさに凶器を奪い取る。
いかにも奴がやりそうな事だ。だが気が付いたのは偶然だ。本当だったら、そのまま見過ごしていたはずだ。でもそうはならなかった。俺は気づいた。気づけた。
この馬鹿野郎が。
天才そうな面してるくせに、完全なところで馬鹿な選択しやがって。
馬鹿の腕を掴んだまま「おい、オリガヌ出てこい!」叫ぶ。
何で、馬鹿が面を付き合わせて、馬鹿正直にアイツの手の平で踊ってやらなきゃならない。
返答はあった。だがやはり『なあに?』声だけだ。こいつはいつもこうだ。
どこにいんだか分かんねぇ相手に話しかけるのは面倒くせぇ。「姿出せよ、相手しろや。俺とこいつでケリつけてやる。神様だってんなら、二人がかりでも余裕で勝てんだろ? 勝ってみせろよ」挑発だって、相手に顔向けなきゃできねぇじゃなぇか。
オリガヌはどこにいるかも分からないままだ。声だけで『そんな事が通ったら、他の挑戦者達に申し訳なくならない?』そうセリフ上は至極まっとうな事を言う。
他の人間はあっさり殺してきたのに、身内だけ生かそうなんて虫がよすぎる。と、
『面白い事は好きだけど、ゲームはルールにのっとってやらなきゃ』
当てがはずれた。予想外だ。こいつ面白いんなら、何でも良いんじゃないのよ。そんな俺の疑問を読んでか『ゲームがおもしろいのはルールがあるからでしょ」理不尽の権化は言う。
俺だって、進んでこんな事考えてるわけじゃねぇよ。自分の仲間を殺したくないから特別扱いしてほしいなんて、ここまできた他の人間への侮辱だろ。
だからルールは守る。「だったら後で決着つけてやらあ。まずテメェをぶっとばさせろ。順序が変わるだけだろが」その上で無茶は言わせてもらうが。
俺の言葉を受けて、『なーるほど。確かに、ルールには、違反してないよね』オリガヌが神妙な声を出し、吟味するような時間を置く。通せるか? 通さなくてはならない。最後までテメェ手に平の上で素直に踊り続けてやるなんてごめんだ。
ややあって、『うふふ。いいわ、受けて立ってあげる』そんな結論が出された。
眼前に一人の少女が出現する。
「うぉ……」
「白さん?」
いきなりの事に驚いた。相手しろとは言ったが、まさか本当に姿を見せるとは思わなかった。てっきり、人形か他の物か何かが代わりに出てくると思ったのに。いやそうかもしれない。そう簡単にあいつが出てくるわけない。これは本物か? 偽物じゃないのか?
出現したオリガヌらしき人物は、『レディーの顔をじろじろ見るなんて失礼ねぇ』喋った。見た所、普通の人間と同じ体に見える。
しかし本当に見た目は白にそっくりだった。正確にはあいつがそっくりなんだろうが。目の前のそいつは色が違う。栗色の髪にピンクのドレスを来た少女の見た目。意外と思ったより全然普通だ。もっとトチ狂った容姿をしてるかと思ったら。
ずっと黙り込んでいたアレンが「レディーに対して、失礼な事を考えてる顔だね」俺の顔を見てそんな事を言ってくる。お前だって、すこしは驚いただろ。あんな性格のやろうが、こんな見た目だぞ。奴は真面目にどこを気にしてんだ。こいつに礼儀なんて要らねぇだろ。
オリガヌはドレスの裾をゆらして『さ、じゃあ始めようか』踊るかのようにステップを踏んだ。
俺は「やってやらぁ」白オリガヌに渡された剣と、杖を握る。
最後の試練を後回しにして手に入れた、ラスボス戦の始まりだった。
あれだけいたフロアの人間達の中、生き残っている人間は三人だけ。だが、すでに物言わぬ骸とかした連中は、ボス戦に邪魔だと判断されたのか、オリガヌの『えいっ』という声とともに、どこかへと消えってしまった。もはや突っ込む気もうせる所業だ。
「あはははは」
そしてやってみたラスボス戦。
戦いの感想はこうだ。
厄介だった。悪辣だ。そして邪魔だ。
オリガヌはビット、いつかのフロアで的になった物体をいくつも操って攻撃してくる。全方向からふっかけてくる、そいつを避けるににはあのアレンでも一苦労させられている。
次いで問題がある、里留の存在だ。あいつは非戦闘員の里留を隙あらば狙ってくるのだ。俺達と違ってひ弱な里留が攻撃を受けたらきっと、たまったものではない。正直気が気じゃなかったし、そのせいで集中できない。
最後に大きな問題、これがかなり厄介だ。落下物だ。成人の身長よりでかい熊のヌイグルミが、思い出したかのように、時々降り注いでくるのだ。落ちたもんは数秒で消えてっちまうが、邪魔くさくてしょうがない。
分かっちゃいたが、普通の人間に挑ませる難易度じゃねぇだろこれ。
だが、そんなでも相手が大人しくこちらの要望に応じているうちはまだ救いがある。
勝算はゼロではないんだから、これでもマシだと考えるしかないだろう。そんな要素探したって簡単に見つかりそうにないが。
俺は「うらぁっ!」頭上の熊を殴り飛ばし、進路上のビットを破壊。
アレンは「……はっ」最小限の動きでひたすら剣で切り払っていく。
里留は「うぅ……がんば……」ひたすら縮こまりながら、時折声援を送る。
『うふふ、ほらほらがんばって』
んで、そんな修羅場の中アイツはというと熊ヌイグルミの頭上で、観客だ。ざっけんなて、テメェ。なめてんじゃねぇ。てめぇと俺達の戦いだろうが、高見の見物決め込んでんじゃねぇよ。テメェにお見舞いされてきた理不尽の分だけ、きっちり返してやるつってんのに。
殴って、叩いて、蹴り飛ばして、忙しく動いてる際中だ。背中にかばっている里留が「……紅蓮」話しかけてきた。「ああ? 何だ今忙しいから後に」「里留……おとりになる」「ああ!?」「里留も……戦うもん」おとりは、戦いじゃねーだろ。って、そういう意味じゃねーのか。どういう風の吹きまわしだ。どういう状況だよ、おい。今まで、こんな事はなかった。あっても、危機に陥った俺の手助けとか、脳みそが足りない俺の知恵代わりとか……。くそ、格悪ぃ。
とにかく、「駄目だ!」「何で」「邪魔なんだよ」「今も邪魔だもん」「大人しく後ろにいろ」「やっ」俺の意見はそんな感じだ。
互いに引かない言い合いをしているとアレンが、「良いんじゃないかい?」そんなふざけた事をぬかしやがった。「はぁ、テメェどういう意味で言ってんだよ」「そのまま、了承しても良いんじゃないかって意味だよ」そういう意味じゃねぇ。いや、そういう意味か。じゃあ、なんて聞けばいいんだよ。
「彼女だって僕たちの仲間じゃないか。いや、里留ちゃん風に言えば友達だったか。手が足りなかったら、力を貸す。友達というのはそういうものだろう」
「……」だまり来む俺にアレンが「侮ってないかい?」そんな事を言う。「それとも馬鹿にしてるのかい?」クソが、テメェ。言葉選べ。ワザとか。ぜってぇそうだろ。今は「そんなわけねぇだろうが」そうだとは思っていない。アレンの言う通り前は、ただ守られているだけの存在だと。守ってやらねぇと駄目な存在だと、出会った頃はそう思ってた。でも今はそうじゃない。そのことは助けられてきた俺が一番よく分かっている。
ようするに意地を張るのは俺の我が儘だ。危険にさらしたくないという。自己満足の為だ。約束を破りたくないからだ。里留の意思なんてそこには入っていない。お前は本当に正しくてムカつくな。間違えてれば、ただのムカつくやつで終わってたというのに。
「里留、危なくなったら下がれ。良いな」
「うん……、頑張る」
背中に隠していた里留を前に出し、一番の非戦闘員を狙ってくる脅威をひたすら叩き潰す。かなり癪だが、相手の攻撃が分かりやすくった。
灼熱陽光を発動させると周囲に対空していたビットが、たまに吸い寄せられるように入っていく事がある。これがほんとの「飛んで火にいる夏の虫ってか」それを見たアレンが「ふむ、これは」思案げな声を上げる。
「ああ?何んだよ」
「音感センサーで感知しているみたいだね。子供は大人より体温が高いからそういう理由じゃないかな」
「センサーだと?」
ただの嫌がらせじゃなかったのかよ。てっきり狙いはオリガヌが誘導しているかと思ったら。嫌がらせの様に見せかけて、実は……ってパターンか。
アレンは「さて、どうしようね」淡々とビットを掃討している。倒しても倒してもこいつらはどこからともなく湧いてくるし、熊ヌイグルミに乗っているオリガヌへは一向に近づけないでいる。
なら、と俺はある方法を思いついた。
「おい自称天才、パソコン触ったことあるか。物理的に」
「あるよ。それがどうかしたかい?」
「それだ」
「なるほど」
伝えたのはたったそれだけだったが、会話相手がアレンだとそれで十分だった。
理解したらしい。話が早く手助かる。
蚊帳の外にされた里留は「パソコン分かんない。……触った事ないもん……」むくれていた。まあ子供だしな。後で解説してやるよ。
俺は杖を掲げて「灼熱陽光」次いで「絶対氷結」、三人のいる一帯をまとめて氷漬けにした。アレンを襲撃したときと同じ様に。そうして氷のドームの中に、自分達を閉じ込める。
すると、「わ、攻撃……してる?」ビット共が同士討ちし始めた。里留に説明しようと思ったが、「そりゃ、あれだ。……機械なんざそんなもんだ」途中で面倒くさくなって投げた。
アレンが希望的観測を口にするが、「これですんなり済むと良いけどね」「そりゃ、無理だろ」応じるこっとは分かり切っている事だと、口にした。
氷のドームを壊して脱出する。オリガヌは、『まぁ、これぐらいは何とかできなきゃねー』相変わらず熊のヌイグルミに乗って、観察していた。そのままで奴は近づいてくる。「次はテメェだ」相手をする気になったかと思いきや。奴は『うん、見つけられたらね』そんな意味深な事を発言。その場から熊と共に姿を消した。
逃走かよ。
だが「おい、逃げんな」そう思ってたら違った。
フロアに死んだはずの人間が出現し始める。そいつらは、怪我もなにもない状態で、緩慢な動作でこちらに襲いかかってくる。
その一人を殴り倒して「生き返った……わけじゃねぇよな」俺は言う。そいつらからは意思らしきものを感じない。目も移ろで、俺達のことは敵としてではなく、物のようにただ見ているだけだった。ゾンビかよ。アレンは「第二ラウンドといった所かな、これは」涼し気に、剣でゾンビ共を切り裂く。そう簡単に倒れてくれることは思ってなかったが、一体何ラウンドまであるんだよ。
胸糞悪い光景を淡々とさばいていると見知った顔がでてきた。「シェリーさん……」そうだよな。その可能性もある事は分かっていた。むしろない方がおかしい。俺は「あいつは、そんなノロくねぇよ」見たくない。そいつをさっと焼き払った。
そんなんじゃねぇ。そんなんじゃねぇんだよあいつは。口を開けば、意味の分からねぇ事と、こっちを下に見るような発言して、そのくせ実力だけは確かで無駄のない動きをしやがる。こんな静かで、ウスノロじゃねぇんだよ。全然違ぇじゃねぇか、馬鹿にしてんのかよ。
アレンが言った。「気づいてるかい?」何体目かのゾンビを倒している時だ。「彼らは復活しているようだ。減っていかない」ああ「そんな気はしてたな」そうだ、こいつら後から後から湧いて来やがる。互いに殺し合った最後の試練ほどじゃないが、時間がかかり過ぎている。普通に考えれば、劣化版になった分、もっとはやくケリがつくはずなのだ。なのに、未だに連中はどこからともなく殺到してきている。
そんなやり取りをした瞬間だった。「――づっ!」針が飛んできた。右肩にぐっさりと刺さる。それを抜き捨てて「シェリー?」考える。アイツの武器だ。まさか、と思った。生きてるのか。だが、二度目に殺したシェリーも三度目に殺したシェリーも、まるで意思らしきものは感じられなかった。
たった今俺が殺した四度目のシェリーを、里留が見つめながら「シェリーさんじゃ……ないよ」そう言った。アレンはそれを聞いて「そうか。オリガヌは……彼女は逃げたんじゃなくてこの中に紛れているようだ」そう推理する。「このゾンビ共の中にかよ」確かにそれならあいつらしく、逃げたことにもならずに安全圏にいられる。その手口はまさに「オリガヌだな」奴らしいやり口だった。
しかし、だ。「どうすんだよ。こんなもん。倒したところで永遠に逃げられちまうだけなんじゃねぇのか」そうだ。この状況では、アイツが宿っているゾンビを倒したところで決定打とならない。
しかしアレンは「やり様はいくらでもあるさ」何故か里留の方を見る。何だその顔は。妙に自身満々じゃねーか。「簡単だよ。意志あるものとそうでない者の違いを考えれば、ね」それはお前にとっては、だろうが。
そして、奴はこちらにとある事を提案してきた。
アレン発案の作戦とやらに、俺が脚色を加えて。それを実行に移す。アレンが疑わしい一団を「だいたいあそこらへんかな」視線で示した。俺は魔法で焼き払って「間違ってたら承知しねぇ。灼熱陽光!」道を作る。そして「里留」合図を送った。「うん……」
里留はアイテム欄からそれを取り出した。虫だ。詳しい名前は言わねぇ。というか知らねぇ。足が沢山生えてて赤っぽい色してる奴だ。それが二、三匹出てきた。アイテム欄に虫が入るとか、どうなってんだよ。こいつら生き物じゃないのか。生き物じゃないから物質だってか? 思えば二層目を除いた他のフロアにはまともな生き物なんていなかった。生きてるっぽい奴でも、普通の容姿とかしてなかったしな。こいつら生き物じゃないんだろうな。オリガヌの性格からして、自分で作れるのに生き物を用意するなんて面倒だったのだろう。
かなり嫌だったが俺はそれを「うげ……」ひっつかんで投げた。相当我慢して、だ。里留が「ぁ……」悲しそうな声をする。そんな声だすな。可愛くねぇだろ。
投げられた先、虫がゾンビ軍団に降りかかる。後方にいた一人の女が『ええっ、嘘っ!』声を出して避けた。そして『あっ』間抜けな声。自分のした迂闊な行動に気付いたのだろう。これが聞けただけでも、やったかいがあった。もちろんこれだけにするつもりはないが。
俺は白オリガヌからもらった剣を「食らいやがれ」振り被る。オリガヌは「っっ!」これに顔色を変えた。反応したのだ。やつにとってこれはそんなにもマズイもんなのか。だがこの攻撃はきっと間に合わないだろう。『そんな攻撃食らう前に』オリガヌはその体を諦めて移動する。
「誰が、これでで留め刺すっつったんだよ」
間に合わないのはこの剣だったら、だ。
オリガヌの心臓を『え……』一条の光が貫いた。それはゾンビモドキが跋扈する前にこのフロアを飛び回っていたビットの攻撃だ。




