第31話 アレンの心情
最後のフロア。
そこで行われた試練は、アレンの負けで終わった。終わるはずだった。
決着がついたはずなのに、アレンは死んではいない。
手間のかかる奴だ。と思う。
剣を振り上げたまま、固まっている紅蓮の顔をみてアレンは今までの事を思いだしていた。
僕、阿笠連は……生まれながらに天才だった。
やろうと思ったことは大抵何でも出来たし、練習すれば苦労することなく上達した。
嫉妬や羨望の眼差しにさらされる毎日を過ごす僕だったが。
そんな僕の性根が曲がらなかったのは、人の良い友人と家族のおかげだっただろう。
しかし、そんな僕にも慢心はあった。
いつだって僕と対等の場所に建てる人間はいなくて、見上げる限りには僕より上なんていなかったから。
ふとした瞬間に思ってしまったのだ。
僕だったら「この世界が壊れても再生させることができる」なんて。そんな馬鹿げたことを。
もちろん本気なんかじゃない。そんな世界が壊れてしまうようなんて事が起きるわけにがないし、起きたとしてもそんな簡単には治せない。それは、ふとした拍子に思いついてしまう様な、単なる馬鹿げた空想だった。
でもそれは現実になってしまった。
『だったら、世界を終了させてあげよっか』
話しかけてきたオリガヌの声に僕は、世界が壊れた際の再生案というのを得意げに聞かせたのだ。その少女がいかに危険な存在であるか知らずに。
『やってみてよ、壊してあげるから』
一瞬で様変わりしてしまった世界。僕は取り返しのつかない事をしてしまった、と気付いた。
『―――世界シュウリョウのお知らせです―――』
『―――只今をもって当世界は終了させていただきます。長年の御愛用、誠にありがとうございました。―――』
ふざけてる。そう思った。こんな事があって良いわけない。でも現実だ。どんなに疑っても。そこにある事には変わらない。彼女の声を聴きながら、僕は初めて取り返しのつかない類の、大きな失敗をしたのだと思い知った。
そして僕はオリガヌと取引きをしたのだ。
世界を救うための取引を。
願壁に送りこまれた僕はすぐに事態を把握した。
残念ながら魔法は覚えられなかったが、元々高かった身体能力は格段に高くなっていた。
どんな事をしてでも、世界を救ってみせる。
そう決意して進んだ先だった、里留と、紅蓮と出会ったのは。
そして、僕は彼等二人に歩み寄った。
自分でもどうしてだか分からない。ただ、その二人は敵じゃないと思ったのだ。
纏う雰囲気が今まで内部で出会ったどんな人間とも違うものだった……なんて言えば聞こえはいいけれど、ようするに警戒心というものがまるで感じられなかったのだ。散歩してたらたまたま人と出会ったかのような。
今思えば、僕は少し疲れていたのだろう。
一人で世界の運命を背負わされているという重圧に。
人と出会うたびに敵意と殺意にさらされる事に。
行動を共にするうちにおかしいなとは思ってたけれど、クイズのフロアにてこの世界の知識を持っていない彼等はやはり同郷の出身者なのだと分かった。そしてシェリーが仲間になって、紅蓮がここまでのいきさつを話したことにより確信を持った。僕が仲間になった際に、それを話してくれればまた違ったかもしれないのに。まったく。
そして僕達は、最後のフロアに登り、試験を受けた。競争相手達を排除して一段落してみれば、あの二人がやっぱり残っていた。
当然僕は戦う。その為にここまで来たのだから。けれど紅蓮は強かった。見下すわけではないけれど、まさかあの彼がこの僕と対等に戦えるなんて思わなかった。だから内心ではすごく驚いていた。そしてすごく嬉しくも思っていた。やっと同じ場所に人間に巡り合えたと。
でも彼は甘い。とても甘い性格だ。そんな所まで僕と対等でなくてもいいのに、と思うぐらいに。
友達だと思っても良いだろうか。君みたいな人とは付き合った事がないんだ。何て言ったら彼なら怒りそうだ。人の事を珍獣か何かみたいに言うんじゃねぇ、って。でも君がいてくれたらきっと楽しくなりそうだから。そういう事にしてしまおう。反対は受け付けないよ。
甘い僕にできた、そんな甘い友に、してやれることは多くなさそうだ。
最後の力を振り絞って、成し遂げよう。
君じゃきっとその子は殺せないから。
ごめん、里留。
僕の事は、許さなくていいから。




