第29話 vsアレン
シェリー。
あいつは最後までよく分からない奴だった。
俺に対する最後の質問が、あれかよ。もっと他にあんだろうがよ。
分からねぇ。死んじまったら、何も分からねぇままだろうが。
里留の姿を探す。少し離れたところにいた。無事だった。が、近くでローランが倒れていた。ピクリとも動かない。お前もか。
他にも倒れている奴は沢山いる。
やはり里留の身は危険にさらされていたらしい。
だが、無事だ。
近くにいくと里留は泣いていた。
「シェリー……さんと、ローランさん……が守ってくれて……」
お前ら二人は、ほんとよく分かんねぇやつだったな。
フロアを見渡す。ベティーとの戦いに横やりが入らなかった時点で薄々感づいていたが、やはりそういう事らしい。
ここに立っているのはもはや三人だけになっていた。紅蓮、里留、そしてアレンの。
「……」
アレンは何も言わない。無言でこちらを見つめるだけだ。
こっちの決着がつくのを待っていたのか。
先程の事を思い出す。分かった事があった。アレンは「お前、ここの世界の人間じゃないよな」紅蓮と同じ世界の人間だ。向こうからの答えはない「……」喋る気はないようだった。
間抜けな事だが、シェリーのあの言葉を聞くまでは、アレンの事をずっとこの世界の人間だと思っていた。奴の戦いなれた動作を見て、俺はそう決めつけていたのだ。だが、あの時アレンはシェリーの知らない生物のことを知っている様だった。この世界にはいないもんを知っている。つまりそういう事だろう。
「クイズん時も変だとは思ったけどな」俺達三人だけが、この世界の文字を読めてなかった。アレンは仕様だとかふざけたこと言っていたが。ベティーやローランたちからは、そんなの話題に上らなかった。
「里留はどうすんだよ」まさか殺すのか。そういう意味で問いかけたのに。これにも「……」無言だ。良い性格してやがる。ちっとは何か言えよ。
「どうあっても戦うしかないってのかよ!」
その一言が戦端を開いた。
アレンが動いた、跳ぶように床を駆ける。
こちらの心の準備が出来るまで待っていたってぇ事かよ。甘い。甘ぇな、ほんと。
お前にも何か事情があんだろうが。負ける事はできない。
「灼熱陽光!」
炎の壁を量産して、アレンの行く手を何重にも阻む。だがきっとやつはそれを突破してくるだろう。考えなければならない。あの超人の上を行く方法を。
「アレンさん……」
背後からの呟き。小さな声だ。でも聞こえた。悪いな里留。
「里留! 俺を視線で追うなよ」
紅蓮は、懸命に考えて手繰り寄せた勝利の方法を実行する。
アレンは剣圧で目の前に立ち塞がる炎を、払いのけながら進んでいた。
いくつものフロアを攻略に導き、何人もの身を焼いてきた炎はしかしアレンにとってはまったく有効打とはならなかった。
最後の炎の壁を前にして剣を一振り、剣圧が燃え盛っていた炎を吹き散らして道を作る。
だが、その先に紅蓮の姿はない。
内心で首を傾げつつも、警戒を怠らず前へ。つい先ほどまで炎が立ち上っていた床に踏み込んだ。瞬間、トラップが発動した。
肌を冷やす空気、声は聞こえなかったがこれは絶対氷結だ。炎ごと凍らせようというつもりだろう。大した発想だった。だが、「……はぁっ!」炎が散らせるなら、冷気だって払いのけられる。そこにあることには変わりないのだから。神を殺そうとするよりは、なんと容易な事か。
炎も冷気も払いのけて、アレンはその場から先へと進んだ。
だが、いない。
紅蓮はどこに? 左右を見回して、そしてまさかと背後を振り返ろうとする。
いつかの事。彼はこちらのする事を人間技じゃないと言っていたが、こちらだってそうだ。その発想は人間を越えている。
「らあぁぁぁ!」
作られた氷の彫像は炎にそって造形されている。当然だ。その炎ごと凍らせたのだから。中で燃焼するための空気がなくなった炎はやがて鎮火し、空洞の氷だけが残る。結論からすれば、……彼はそこに潜んでいたのだ。
炎の中に飛び込んで自分ごと凍らせようなんて、誰が思いつくだろうか。
とびかかってきた紅蓮にふいをつかれる形で殴り倒された。その後は、すぐに転がって彼に踏みつけられるのを回避する。殴り合いに持っていくつもりだろう。そうはさせない。距離を取ろうとする。地面を踏みつける事になった彼の足を掴む。
そして、「うぉっ」転倒させた。剣を手に、飛び跳ねるように起きる。そして一歩、二歩、距離を取った。「くそっ」紅蓮の目論見は失敗したようだ。仕切り直しだ。




