第17話 解決不能の難題
扉の前までやってきた。一つの試練の区切りの場所だ。だがまたしても、だ。
あいかわらず、このフロアではライバル達にひっきりなしに襲撃される。
「灼熱陽光……! っ……!」
いくら跡形もなく燃えるといっても、元は人だ。俺は人を燃やしてるんだ。できるだけ考えない様にしてきたが、俺達がやってるのは殺しだ。それを意識すると、何とも言えない気持ち悪さがこみあげてくる。もちろん悟らせないようにはしてきたが。我慢しようと思ってできるもんでもないし、慣れようと思って慣れるもんでもない。
「今は気にしないほうがいい。それで君の目的が叶わなかったら、後悔してもしきれない。だろう?」
しかし、そんな俺の内心は、一部の人間にはお見通しのようだった。
アレンが分かったような口を聞いてきた。里留は、どうか。怯えた様な視線を周囲に向けている。敵が来ないか、気が気じゃないのだろう。紅蓮の様子には気づいてないようだ、ならいい。
だが、敵……。敵か。ここにいる奴がどういうわけか、敵なんだよな。
そもそも、どういう立場の人間なんだ。こいつらは。
今まであまり気にしては来なかった。ここの人間の事は。自分達以外の人間がいる事は、一層で里留が襲われかけた時から分かってはいたが。
それなのに、未だにコミュニケーションの一つもとれていないのはどういうわけなのか。少しひっかかる。
気にはなるが、確かめようがない。ともかく今は進むしかないな。余計な事に気をとられて足元がおろそかになるのはまずい。後回しだ。少なくとも、今ここで進めなくなるのは駄目だ。
「それで、さっきの人達が落としたものだけど」
アレンは、襲撃者の所持品だった、四角いカードをこちらへと見せた。
「これは何だろうね?」
「里留、同じようなの……お母さんから、見せてもらったこと……ある」
「何だ?」
「みぶんしょう……」さすがにそれは。「違ぇだろ」似てんのは形だけだ。
そのカードは、時々襲撃者達をぶちのめして燃やした後に、残されるものだ。どんなに衝撃を与えても壊れないし、火にかけても当然萌えない。そんな不可思議な物体だが、持ってる奴もいれば、持ってない奴もいる。カードには一文字だけ、読めない文字(絵?)が描かれていた。身分証では、明らかにないだろう。こんな一文字(絵?)ぽっちで身分が証明できてたまるか。
「この壁、何か……関係ある?」
里留が近くの壁を見る。カードがはまりそうな四角い窪みがいくつかあった。
正面の扉は開かない。何らかの条件が満たされないと先にはいけない仕組みになっているのか。窪みと無関係ではないだろう。
「普通に考えれば、ここにカードをはめろという意味だろうけれど。規則があるんだろうね。特に、この窪みの上に書いてある文字列……説明文なんだろうね」
文字列、とアレンは言うが、紅蓮からみたらそれはミミズがのたくった後のようにしか見えなかった。
読めねぇ。ミミズ文字かよ。どうすりゃいいんだよ。
「ねぇ、あなた達。そこどいてくれない」
間抜けな面並べて頭三つが悩んでいると、女の声がかかった。
「そこの壁に、用があるから」
「あぁ?」
とくに警戒するでもなくスタスタと歩いてきて、壁の窪みを凝視。
髪の長い女だった。目つきが鋭い。視線で人が殺せそうだ。見ただけで子供に怯えられる紅蓮のものと、いい勝負かもしれない。
「ブルドノルドと、レッドリニアの戦争についての問題ね……。あなた達、こんな問題も分からなかったの?」
「あぁ? 読めなかったんだよ」
女は呆れた様に紅蓮とアレンを見つめる。
「これが?」
「悪ぃかよ」
「悪くはないけど……」
ものすごく訝し気な表情。え、本当に? という感じで、まじまじ見られている。
女は「教養がないようには見えないけど……」アレンだけに聞いた。
「この試練の仕様なんじゃないだろうか? 読める人と読めない人がいる、とか」
視線を紅蓮に注ぐ。「それは、ありえなくはないような……でも……」何だよ。
アレンが文字列について「なんて書いてあるんだい?」尋ねる。
馬鹿にされておいて俺から聞くのも癪だったのでちょうど良い。
「この世界にある二つの国の歴史の問題よ。その二国が戦争になった原因の、事件の名前を十文字で述べよ。……って書いてあるわ」
歴史のテストかよ。
外じゃ、戦争してるってのか。
今まで考えてこなかったが、この願壁の外が存在するのか。そういやあいつ最初に会った時、異世界だとかファンタジーだとか言ってたな。
最悪現在地は、どこだか分からねぇ不思議空間にでも呑まれてるかと思ったら。本当だったのか。
つか仮に読めたとしても、こんなん俺達には解きようがねーじゃねえか。俺はこの世界の人間じゃねぇんだから。
「外、戦争してるの? ここどこ……?」
里留が、女に尋ねる。それも当たり前か。気が付いたら、まったく見知らぬ、おかしな所にいた。そんで今もおかしなところを歩き回っている。普通、把握したくなる。
「どこって……え? 何なの、この子、子供? それにあなた達も」
そして、そんな女の反応が返ってくるのも当たり前だった。




