第11話 攻略失敗
(※すこし残酷成分が入ります)
一定間隔で後ろを振り返る事を忘れずに前へ歩く。
そして全体の半ばまで来たときだ、異変が起きた。
周囲、宙に黒い球体が出現する。
「やっぱりかよ」
瞬間、それらがどうなるか確かめるよりもまず背後を振り返った。
そして、「里留! 逃げろ!」言うが早いが駆けだす。
少女の所にもそれらが発生していたからだ。
黒い球体が膨れ上がり、悪魔のような図体になる。
紫色の肌に、コウモリのようなツバサ、光を放つ瞳は血の様に赤い。
里留は、「や……」距離をとった。
だが、それで解決になるわけではない。
悪魔めいたそいつらは、里留を標的にして、一斉ににじり寄る。
理留の頭上。見てしまった。数字が、減っていく。死神が死期を知らせる。俺は走る。それに懸命に逆らおうと。抗おうと。走る。走って。だけど距離は遠い。絶望的な程に。
「やめろ!」
またかよ! またなのか!
「里……」
「……ぁ」
視線があった。怯えた目が。少女の瞳がこちらを見ていた。
たすけて。
そう、言って……。
けれど、間に合わない。確定された未来。避けられぬ結末。
引き伸ばされた時間の中、何度もその未来を拒否する。強く思う。けれどそんな都合の良い事は起こらない。こんな最悪の現実に、都合の良い事なんて何一つ起こらない。
そしてついに想像に、現実が追いついた。
「やめ」
鮮血が飛び散った。
里瑠の命が。
数字が。
ゼロになった。
――――
デパートの屋上。
それは過去の出来事。
もうすでに終わってしまった時間の光景だ。
足元がすくわれる様な振動。そこかしこで爆発が連鎖する。天は曇り、得体の知れない生き物が振ってきている。
世界終末の引き金をひいてしまった少年、呆然としていた橘紅蓮は我に帰った。
これが結果だ。
己の抱いた願いの結果……。
夢だと、思いたい。だって、そうだろ。願ったくらいで、世界が終わるとか。誰もそんな事、思ったりしないだろ。第一、ありえない。
そのありえない光景が目の前にある。どういう事だ。説明してくれ。夢。夢じゃない、これ。タチの悪い夢じゃない? これより悪い夢なんて存在しないだろ。早く覚めろよ。覚めてくれ。……。覚めない。いつまでたっても、覚めない。
「……は、嘘だろ」
現実?
これが。
俺のせい?
悲鳴が起きた。悲鳴と鳴き声、絶叫。
翼の生えたよく分からない化物が近くに降りてきた。
幼子を抱えた女性の側に。二人の余命を現す数字が急速に減っていく。
止めるすべはなかった。すべては一瞬の出来事だ。
声すら出す暇もなく。
「……ぃ」
ゼロ。
数字が尽きた。
悲鳴を発する前に、逃げようとした女性の首が噛み千切られた。驚いた表情のまま頭部がコンクリートの床にごとりと落ちる。一瞬遅れて意思なき体も倒れ伏し、それに下敷きにされる形となった幼子が、けたたましく鳴き声を上げた。
化物は声の元へとにじりより、鋭い爪を振るおうと手を振り被った。
「――やめろ!」
距離が近かった。だから、とっさに飛びかかれた。何なんだよお前ら。何がどうなってるんだ。何でこんな事になってる。説明しやがれ。誰か説明しろよ。意味が分かんねぇよ。分からねぇ事ばっかだ。分かりたくもねぇ事ばっか起きやがって。
「ぁがっ!」
しょせんはただの貧弱な人間だ。ちょっとばかしケンカに強くたって、化物に敵うはずがない。
そいつの開いた口、並んでいる牙がぐっさり肩の肉を抉って、鮮血が飛び散る。一瞬遅れて痛みが思考をかき乱した。
「うがぁぁぁぁっ!」
その隙を見逃してくれる相手ではない。
一撃で肉がすっぱりいってしまうだろう化物の鋭い爪の攻撃が、振るわれようとした。
しかし、
『グルゥゥッ!』
化物は身震いをして体を止めた。その隙に俺は、そいつの元から逃げだす。
子供は? どこに? その途中で見てしまった。
『グゥゥゥゥ』
こっちが襲われている間に、いつの間にか鳴き声がしなくなった。その事に気づくべきだった。
「う……ぉ……ぁ」
そこにいたのはもう一体の化物、とその口から滴り落ちる大量の血。
そしてその足元にあるのはゼロの数字と、胴体のくっついていない小さな手だけ。
「お、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」




