第10話 信頼のフロア
次のフロアにたどり着いて早々、「おら、さっさと出てこい、白いの」扉の前で俺は白オリガヌを呼びだした。
「白……さん?」
『来ますけど……、もっとちゃんとした名前で呼んでくださいよぅ』
そいつは、扉の前にセットで置いてあったセーブポイントの結晶に隠れるように現れる。
「白いので十分だろが。さっさと説明しろ」
『分かりましたよ……』
白オリガヌは気が進まない様子ながら、職務には忠実だった。その場を動かずにだったが、俺達に次の試練についてざっと説明した。
『という事です、理解されました?』
「一応な」理解はした、……が。白オリガヌが、「……てぇか、何でお前そんなとこに隠れてんだよ」今だにセープポイントの陰になっているのが理解不能だった。
白オリガヌはびくりと肩を震わせて、『だって、怒ってるんじゃないですか?』 そんな事を言う。『ほら……あれですよ。ついさっきの、怒るでしょ?』ぼかしてないでちゃんと言え。
「せつめい?」
「……あぁ」あれか。
里留の言葉で納得した。前ので説明がなかった件だ。
それについてこっちに思う所はない。なので「別にどうでもいい。用が終わったんならさっと帰れ視界がうっとおしい」野良犬でも追い払うかの様に手を振った。どうせオリガヌにそうしろって言われてんだろ。話すだけ時間の無駄遣いだ。
「えぇぇーーー……」
白オリガヌは納得いかないという顔をしたまま消える。
それを見届け扉の前に立つ俺に気を利かせたつもりか、「……使う?」里留がウィンドウを操作して杖を取り出した。慣れたもんだな。子供特有の柔軟性か。
「そういや、あったなこんなもん」
このフロアに来るまでの階段の途中で、宝箱を見つけ手に入れたものだ。あのフロアだけじゃねぇのかよ。って思ったが、宝箱の恩恵は身に染みてる。あるなら、力を借りない手はない。
で、中身は見た通りの杖だった。
杖っつっても、老人が地面についてるあれじゃねぇよ。
魔法使いとかが使うやつだ。
クラスがメイジになっている俺なんだが、道具なんぞなしにスキルが使える事は前のフロアで証明された。何の為に必要だ、と思うが。
両手が塞がるのは本来格闘タイプである身としては御免こうむりたかった。だがこの先、何があるか分からない。用途不明であれども役に立つ可能性がある物なら、持っといた方がいいだろう。
「お前が持っとけ」なので里留に、お守り代わりにやる事にした。「うん……」気休めだがな。
扉の向こう試練場所は、白オリガヌの説明通りだった。フロアの手前の方、床に赤い輪が描かれている。
この輪の中央に立って、試練は開始される。後はひたすら向かい側にある扉を目指すだけなのだが。
「離れてろ」何がどうなるか分からねぇ。「……分かった」里留に注意を飛ばして、紅蓮がその輪の中央に立ってみる。
その直後、向かいの扉が開いた。だが紅蓮がそこに向かおうと輪を出ると、扉は閉じてしまう。
ようするにこのフロアは「これを知恵使ってどうにかしろってぇか」そういう事らしかった。
それから色々試してみた。「なんも変わんねぇな」赤い輪の中央に居っぱなしにしても変化なし。里留の助言に「杖…とか置いてみるのは……?」人の代わりに物を置いてみたが、扉は開かなかった。「とりあえず、出口までいって魔法ぶっ放してみるか」輪に入らずにやってみたが、当然それぐらいじゃ傷一つつかなかった。
で、ひねりだしたマシな案が。「この杖、つっかえ棒に…するのは?」扉を開けて閉まらないように杖を障害物にする事だ。ただ、「本当にやんのかよ」問題が一つあった。
里留を赤い輪に残して、紅蓮が扉まで移動しなければいけない点だ。
里留は小さく拳をつくって「……がんば……る」そう言うが俺の方が激しく不安だ。
だが、ここで止まるわけにはいかない。進むしか選択肢はないのだ。
危険度的には、紅蓮の方が脱出に向かう分高いはずだが、絶対じゃない。
「何かあったらすぐ逃げろ」
「うん」
そう言い含める事を忘れない。
「じゃあ、行くぞ」
「がんば……って」
歩みを遅くしつつも、向かいの扉へと歩いて行く。




