全ての始まり
……余命は残りわずか。頼るべきダチもいない寄る辺もない。
なんで俺だけ終了しなきゃいけないんだ!
橘紅蓮……俺は、俺抜きで回り続けるであろう幸せそうな世界を呪っていた。
俺がいるのは、デパートの屋上。
子供を連れた主婦やら、暇そうな老人なんか……多くの者達が幸福そうな顔をして周囲には溢れている。
どいつもこいつも幸せそうで、満ち足りてそうで、腹が立った。
そんな屋上は、平日の昼間に学生が来るような場所ではない。
だが、もはや俺にとっては規則だの常識だのはどうでも良い事だった。
何せ、当たり前の様にくる明日がもう来ないのだと、先日然るべき場所で宣告されたばかりなのだから。
俺は、面白くもない学生生活を送る為に律儀に学校に通う様な真面目なんかじゃない。
そんな風に腐っていた俺は、耳にする事になる。
おそらくその世界に生きる人間達に平等に聞こえたであろう、破滅を呼ぶ声を。
『―――世界終了のお知らせです―――』
そして、その後は俺の願った通りになった
その声の宣言通り、世界を壊れていったのだ。
瓦礫に沈む街、消えゆく人々の命。
泣き叫ぶ子供の声、もう返事をしない母親。少し前まで誰かに抱きかかえられていたであろうヌイグルミが地面に転がっている。
……違う! 俺はこんな事を望んだわけじゃ……!
いいや、望んでいた。
こんな風になるなんて想像していなかったんだ!
そうだ、想像できないくせに、無責任に願った。
幸福な光景が憎くて、幸福であった者達が憎らしくて。
願ったから、こうなったのだ。
その代償が、現実が突き付けられる。
俺のせいじゃない。
俺がやったんじゃない。
だが、そう思い込もうとする俺の耳にささやいたのは破滅を呼ぶ悪魔の声。
『―――元に戻せるって言ったら、何をしてくれる?―――』
結局、壊したのは俺だったのだ。
自分と共に世界を道連れにしようとしたのは。
だから、俺はその声に応えた。
――何でもだ。
そう、悪魔との取引に応じる為に。
俺はそして、これから……長くて短く、険しくて厳しい試練の道をたどる事になる。