二話 【ホンヤ】
「オラ、クソ蛙起きろよ」
『うわっ!ってなんだ、詩音か...』
いつもの毒舌と共に、お湯が顔面に注がれた熱さで目が覚めた。
こいつ、妖精のかけらもない...
お湯がかかったところを手で擦りながら周りを見渡すと、船が止まっていて、キイさんが自分の荷物を整頓していた。
ちょうどアリアナ王国についた時に起こしたみたいだ。
小さく詩音にありがとうと言って、船から降りてみると、近くに本屋があったので入ってみることにした。
船から見えるところだし、詩音も心配しないだろう。
「ちょっとリーヤ!魔道書はそこじゃない!ってあぁ、いらっしゃいませ!」
ゆっくり、古い木の扉を開けると若い女の人の声が聞こえてきた。
14歳と10歳ぐらいの女の子と男性が動き回ってるところをみると家族経営かなんかだろう。
店員さんに会釈して、本棚をじっくり見てみると、魔法について詳しく書いてあるの本があり、思わずレジまで持って行ってしまった。
『あ、お金この国では違うんだ...すみません、出直しますね!』
「金だったらなんでもいいさ。あ、ついでにお客さん、紅の殺人鬼って知ってるかい?」
違う国のお金でもいいということに驚きながら、店員さんに聞かれたことを考える。
なんだ、紅の殺人鬼って完全に厨二病...
首を斜めに傾けながら考えていると、後ろから元気な声が聞こえてきた。
「紅の殺人鬼は正義の味方なんです!私が不良に絡まれた時に圧倒言う間に倒してくれたんですもん!しかもレグトなんですよ!?」
「あーはいはい、ダメだわこりゃ、こいつに紅の殺人鬼のこと喋らすな」
そう言いながら、笑顔で茶色いおさげを揺らして、本をぶんぶん振っている。
殺人鬼なのにいい人?
疑問に思いながらも、丁寧に包装された魔道書を受け取る。
紅の殺人鬼とやらの特徴は、毛先が赤色に染まっていて耳の下で括っている。
赤茶色のでかいパーカーを腰に巻いたり、着たりしているらしい。
(僕は殺されなければどうでもいいんだけどなぁ。)
そんなことを思いながら、店を出た。
「あ、ブロント君いたね!ギルドまで行くから着いてきてね!」
耳が痛くなるような大声で言われて、何故か僕の手首を縄で括りつけられたあと、カートのようなものに入れられた。
キイさんは、自分自身の腰に縄をくくりつけて、詩音の足首に縄を巻いた。
『ま、まさか...』
「そのまさかだよ...わたしの魔法でギルドまでぶっ飛ばすから...地図は頭に入ってるから安心して景色を楽しんでろ」
詩音はニッコリと笑い、羽をパタパタと動かして地面ギリギリでものすごい勢いで飛び始めた。
景色を楽しめって言われても、何も見えないし、超低空飛行で飛ばれても、速さのためちょっとした段差で空を飛ぶ。
今さっきの船のせいで、空飛ぶことに慣れてしまった自分がとてもつもなく怖い。
今さっき買った本を袋から出して、ズボンの中に入ってた安定のレンズをかける。
安定のレンズは、どんだけ高速に揺れていても、ちゃんと本は読めるという便利な品物。
自分の街で安かったら買っただけで全然使ってなかった。
【異能者の中でも、身体に影響がある魔法と攻撃用の魔法の2つを持っている、"レグト"という種族が存在する】
レグト...
店の中で少女が言っていた言葉だ。
ということは紅の殺人鬼とやらはレグトという種族なのだろう。
身体に影響がある魔法は限られていて、十三個程度しか種類はなかった。
「レグトについて興味あるの?ブロントくん」
後ろから突然聞こえてきた声にびっくりして、本を手放しそうになる。
危ない危ない。ここで落としたら一生拾えないぞ。
キイさんの質問に首を傾けながらも、曖昧な感じで答える。
「ふっふーん!聞いて驚け、おれらのギルドにはレグトが二人も居るんだよ!」
胸を張り、ドヤ顔で言ってきた。
いつも思うけど、キイさんはおれっ娘なのだろうか。
それとも、男なのだろうか。
いやいや、それはない、体型は完全に女だし、声も普通の男性より高い。
キイさんが男性という可能性は極めて低いだろう、多分。
自分によくわからないが、そう言い聞かせながら、眼鏡を外し、ズボンのポッケに入れる。
『どんな種類なんですか?』
「うーんとね、自分の体にダメージが一定以上、食らった時暴走するやつと、体の一部だけがすごい硬くなる人。あ、あっち系じゃないからね!?」
最後の一言はかなり余計だ。そう言った方が意識する人はいるだろう。
僕は意識しないけどね。
そこからレグトのことについて話して行くと、カートのスピードがドンドンゆっくりになって、赤い屋根のでかい家の前で止まった。
「ここであってるでしょ?キイさん」
そう言って、詩音はずっと足につけていた縄を外すとすごい縄の跡ができていた。
そりゃあ、あんなスピード出したらつくよね...
知らないところでも、冒険したみたいという気持ちはあるので、赤い屋根の家に入って行った瞬間。
「新人が来るって聞いてねェけどなァ?ザクさんよォ...」
その家の中は、暗くて何も見えなかったが、首に重みがかかっているので何者かに首を絞められているということはわかった。
若干、目が慣れてきてわかった
この人は異常に目が赤く光っている。それだけだ。
絞め殺されぬように、僕の首を絞めている手を思いっきり剥がそうとするが、意味がない。
「あーもう、友菜ッ!いい加減新人が来る度に襲うのやめてよ!」
キイさんがそう言ったあと、友菜と言われた少女は舌打ちしながらも渋々退いた。
パッと明るい電気がつき、その人の姿が見られるようになった。
"紅の殺人鬼は毛先が赤く染まって2つくくりにしているからね、一応気をつけときな"
突如店員さんに言われた言葉を思い出した。
「どーも、友菜です。お前らがよく言う紅の殺人鬼みたいなもんですわ、新参は潰すから。魔法はオーラを操る。以上」
友菜_____別名【紅の殺人鬼】
魔法 【オーラを操る】