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ねぇ、君に伝えたいことがあるよ  作者: 綾咲 彩希
胸の熱さ
4/4

あなたは何者になりたいですか?

「突然、なに?」

 四季は教科書と向き合う私に本を読みながら問う。

「いえ、ふと、思ってしまったのです。貴女が将来何になりたいのか」

「将来。ねぇ」

 教科書から目を反らし、部室の天井を仰ぐ。真っ白な天井だ。

「なんで、またそんなことを聞くの?」

「・・・興味、でしょうか。お嬢」

「姫命令。ここには私と四季しかいないわ」

 四季は席を立つと、部室の扉を開け誰も居ないかを確認し始める。念入りに確認すると席につき、話を続ける。

「姫季さんは、幼い頃ピアノコンクールで優勝されていましたよね」

「まぁ、そうね。そんな時期もあったわね」

 だから、この部活に入部した。特技と言えるのはこれぐらいしかない。

「趣味で料理もなさいますよね」

 四季に食べて欲しかったからね。最初は焦がすわ、炭になるわで大変だったけど、結局四季から一から教えてもらい作れるようになった。

「こないだのテスト満点でしたよね」

「ねぇ、四季一体」


「貴女は将来何者になりたいですか?」


 冷たい視線が、私の言葉を濁らせる。

「ど、どういう意味」

「そのままの意味です。僕は幼い頃からお嬢様の姫季さんの傍にいました。ですが、姫季さんは何になられたいのかが分かりません。まるで、ふわふわ浮く風船のように」

 だから、聞いてます。貴女はどこへ向かっていらっしゃいますか?

 気付いた時には、席を立っていた。まるで逃げるように。いや、逃げているんだ。何から?四季から?違う。逃げてるのは自分だ。四季は幼い頃から支えてくれている人物だ。これからも一緒に居て欲しい。

 でも、分からない。

「逃げないで」

 風船のようにふわふわどこかへ行ってしまいそうな私を繋いだのは、四季の手だった。

「逃げないで。姫季さんが何者になろうと僕は貴女について行きます。ずっと、ずっと付いて行きます」

 そんなことを言わないで。そんなことを言われれば思い出してしまいそうだ。

一緒に奏でる旋律。

美味しいと喜んでくれる顔。

 未来への可能性。

 幼い頃からの憧れ。

 いつから忘れていた。私がどれだけ愛していたのか。溢れる涙が止まらない。

「ねぇ、四季。私はね。貴方に憧れていたんだ。ピアノが弾ける姿が綺麗で、作ってくれるご飯は美味しくって、私より勉強が出来て」

 今でも勝てるものは、何一つない。だから。

「私は、お嬢様よ。美しい旋律が弾けて。コック顔負けの料理人になって。誰よりも頭が良くって。世界一人を魅了する人間になるわ。だから、諦めない。全部、すべて、私の可能性よ」

 だから。

「四季。私に付いて来なさい。私から離れないで。約束しなさい」

「約束ですね」

 四季はくすりと笑い、右手の小指を突き立てる。ふざけないで。

 私は四季の胸倉を掴み、そして唇を重ねた。指切りなんかよりも、効果的だ。

 今なら、私は何者にでもなれる気がする。


中学生や高校生などにあがちな悩みですよね。

そんなことを考えながら投稿してみました

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