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ねぇ、君に伝えたいことがあるよ  作者: 綾咲 彩希
胸の熱さ
2/4

君が好き

「いつもごめんね。雨の中大変だったでしょう」

 その日は、天気予報が外れ大雨となっていた。土砂降りの中、彼は傘を届けに来てくれた。

「いえ、そんなことはありません。それが私の役目ですから」

 彼は深々とお辞儀をする。その身体は、至る所が濡れていた。

「ここにお母さまは居ないから、別に堅苦しいのはなしでいいんじゃない?四季?」

 彼は困ったように、顔をぽりぽりと掻く。

「姫命令」

「分かりました。姫季…さん」

 まぁ、よしとしよう。

「じゃぁ、帰るわよ」

「はい」


雨が傘に弾かれ、ポツポツと早いリズムを奏でている。

「雨っていいですね」

 そんなリズムに乗るように、四季は笑って問いかけて来る。

「そう?四季の立場だと、身体は濡れるし、洗濯物は乾かないとか大変じゃない?靴だって濡れるし」

「すみません、私が車の免許を」

「姫命令」

「僕のせいで」

「四季のせいじゃないわ。仕方がないことよ。というより、いい加減慣れてよね。貴方は私の使用人・・・執事かもしれないけど、友人でもあるんだから。もうちょっと、馴れ馴れしくしてよ」

 彼はしょんぼりとした顔をする。いつまで経っても彼の心が弱いのは変わらない。

「で、どうなの?」

「え?」

「さっきの質問」

「あぁ、確かに、洗濯物や身体が濡れるのはあります」

「なら、どこがいいの?」

「姫季さんと一緒に帰れることですよ」

 彼はまっすぐな笑顔で言った。

「姫季さんと一緒に帰れるのは、僕が屋敷の仕事が終わった時しか出来ませんから。雨の日なら仕事があっても、貴女を迎えに行くのが優先になりますから」

 さっきまで聞こえてた雨のポツポツという音が、今は心臓の音のせいでよく聞こえない。顔が熱い。胸が熱い。

「ねぇ、四季」

「なんでしょう。姫季さん」

 私は、彼の顔にそっと手を添え、唇を重ねた。

 彼の唇は私がつま先立ちをしてやっと届く。あれから、十年。彼の身長は、とうの昔に私を越えている。

 十年。例え十年経とうとも、この胸の熱さが覚めることはなかった。


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