ーエピローグー 『勇者の言葉』
王都はお祭り騒ぎになっていた。
俺たち4人は英雄として三つの王都で担ぎ上げられた。
どの王都もお祭り騒ぎで俺達が現れるとサインを求める者や騒ぎだす者、しまいには胴上げを始める市民だっていた。
傲慢強欲の真剣は使わないと決めた。相手が魔王であれあのやり方は駄目だ。勇者…いや、人として終わっている。
今でも俺がやったのかと思い出す度に両手が震える。
人殺しが英雄ね…もう…元には戻れないな……
そう思いつつ今回で3回目の演説を、この王都サンで始めるとする。
「《皆さん、こんにちは、ナガト・カミカドです。》」
3回目の全く同じ演説。
「《俺は二週間前にあの、『魔王』を倒しました。》」
ドッと湧き上がる民集の歓声。3回目であってもどうしてもその歓声には慣れなかった。
息を吸い込んで演説を続ける。
「《俺はこの1年間、『魔王』を倒すべく仲間と共に魔族領に潜伏しました。》」
「《魔族も悪い人ばかりじゃない。良い人もいた。いつから始まったのか分からないこの終わりなき魔族と人族の戦争。》」
民集は皆んな真剣に耳を傾け聞いてくれている。
「《俺はこの終わりなき戦争を『魔王』を倒す事で終わらせた。俺は思う…もう、魔族と人族で争わない、平和な世界にしたいと。》」
民集は俺の言葉の続きを待っているように静かにただ俺を見つめている。
「《そこで俺は人族と魔族の壁を取り払う為、ある策を考えた。それは______
勇者のその一言が世界を大きく動かした。
王城の眼下に集まる大衆の前に1人立ち演説する『勇者』の姿を窓から見下ろす。
部屋には甘い砂糖菓子の匂いが充満しお世辞にも、空気が良いとは言えない。
だから窓を開けた。
『勇者』……『勇者』ナガト・カミカド。カミカド・ナガト。まるで日本人の様な名前をした異世界からの召喚者。
とてもじゃないが、あの『勇者』が魔王グリムを倒す様には思えなかったが…本当に倒したのか?だとすると魔族側は大変だな。
まぁ、『勇者』ナガトの言う、平和な世界だっけか?
本当に実現するなら、魔族は『魔王』がいなくても何とかなるな。
だが、どうせそれをやっても数十年はその憎しみの様な習慣は無くならんだろうな。
一部の人族は魔族を奴隷として虫以下の存在として扱ってきてそれを突然、はい、辞めます。なんて出来るわけがない。
それを根に持つ魔族だっている。現に魔王グリムはその差別があったからこそ人族の滅亡を目指した訳で、まぁ結果は自身が滅亡してるけど。
どの道、そんな染み付いちまった習慣を直ぐに直せるわけが無い。気の遠くなるような時間が要る。『勇者』が生きている間にその概念が無くなるかどうか…
ふふっ…超興味ねぇ。そんな事よりクッキー食べよっと。
クッキーに手を伸ばすと肉厚の太い腕に全部持っていかれた。
白髪の丸々とした教会最高の権力者。最高聖神官のバズズ様。
何でそんなに菓子食って糖尿に何ねえんだよと何回も思っていたが、食べた後に回復魔法を自分で掛けている所を見て納得した。
「お代わりございますよ。」
イグザが微笑みながら俺の前に焼きたてのクッキーを置いてくれた。因みに俺が好きなのはシンプルにプレーンのクッキーだ。クルミとか余計な物が混ざってない。食べれば直ぐにポロっと溶けるクッキーが大好きだ。
まぁ、一番好きなのはラーメンだが…
「あ…すまん。ありがとう。」
イグザに礼を言ってクッキーを一つ取って食べた。正直言えば日本にいた時のちょっと高いクッキーとかの方が断然美味しいが、そもそも食文化レベルが違い過ぎて例え同じものを使っても小麦やら何やらも全然違う。
でもそれでもここに出るものはこの世界で一二を争う程の贅沢で豪華だそうだ。
一度、此処で最高級クロポルンのステーキを食べたが、美味しかったが正直言えば俺でも作れそうなレベルだった。
あ、クロポルンってのは魔物な。魔物って意外と美味しいんだよな。食べれるのと食べれないので食べれない魔物が大半だけど。
「ディラよ。」
さぁ、そんなどうでも良い事を考えていると突然柄にもなくバズズ様が真剣な表情で俺を呼んだ。凄い!お菓子を食べる手が止まっていやがる!!
「はい」
「そろそろ我も歳だ。」
「そんな事は無いですよ。」
いつしかイグザが部屋から出ていた。素晴らしい程しっかりした執事だな。
なんか知らんが察したんだな。
「我もそろそろ最高聖神官としての座を譲ろうと思うてな。」
今ならクッキー取っても取られないか?いやしかし…此処はあえてチョコバナナを……いや、大福にするか?イチゴ大福も良いな。
「ほぅ…誰にするかは決めておられるので?」
よし、大福にしよう。
あ、やっぱ普通にメロン食べようかな?あ、りんごも良いな。
「勿論じゃ。」
「ほぅ、一体誰ですかね」
いや、しかしチョコバナナも捨てがたいな…もうパフェかなんかに纏めてくれよ。そんなに食わんだろうけど。
「ディラよ。頼まれてくれ。」
「え?嫌ですよ。」
何言ってんだよこの人。は?何で俺だし。もっといるだろ、あの聖神官のおじいちゃんおばあちゃん達……あ、察し。
「お前と出会い最早、十数年。我ももう長くは無いだろう。」
そこは否定しません。絶対、糖尿で病死すると思います。
「お兄様である第一国王陛下は未だ健在だと思いますが?」
「いや、既に実質的権限は殆ど第一王子のゼリドが引き継いでおる。」
成る程、そうきますか…
「だったら俺にも引き継がせると?」
「…元より我は兄上の補佐をする為にこの座に就いたのじゃ。」
神官なのに?
「その兄上が生前退位をするのなら我もさっさとこの座を降りようとな。」
「私には教会を引っ張っていく事など出来ませんよ。」
「じゃが、お前には力がある。」
何言ってんだこの人……
「時代は変わらねばならん。『勇者』が魔王を倒した様に時代は新たな時代を迎えておる。」
今までの戦争ばかりの世界とは違うのだよ。
マジで何言ってんだこの人…時代は直ぐに劇的に変わる訳じゃない。いつも緩やかに気付いた時には変わってるんだよ。っておっさんが言ってた。
「我はなディラよ…我は『勇者』の言葉に賭けてみようと思っている。」
「……」
『勇者』の言葉ね…
城下を支配する民衆の歓声が良くも悪くもこの静寂を支配した。
「『魔族と人族を同一の種族とする。』考えてみよ。この様な間抜けな事を口にした者が他におったか?」
いる訳無いだろ、そんな事を口にする奴がもしいたら国家反逆罪だ。首チョンパに決まってるだろう。
「それが、時代を変えるとそう仰るのですか?」
「違うの、その言葉は時代の確変の始まりに過ぎないのじゃ。時代は新たな人の手によって創られる。気の遠くなる様な時間が必要じゃろう。そんな中でいつまでも老いぼれが世界の実権を手にしていてはいかんのじゃ。」
成る程、面白いですね。俺は正直どうでも良いですけど。
「『イリアル・ルイデ・ライデ』今は亡きお前の師ガードラ・トトフの席に入っている者の名じゃ。実はその様な者は存在しない。」
イリアル…魔導文字で確か『神官』みたいな意味だった筈…
ルイデ・ライデは知らん。
「『イリアル』は古代魔導文字で『神官』を意味する。」
知ってます。
さっき言いました。
「『ルイデ・ライデ』良く名前を呼んでみよ。」
ルイデ・ライデ…ルイデライデ……ルィデラィデ………ん?
ルイデライデ…デイラデイル………ディラデイル?
え?俺?
「10年。その椅子に居た存在しない。聖神官。イリアル・ルイデ・ライデにたった今、『最高聖神官』の名を与える。」
………ハメやがったこの人…
______《そこで俺は人族と魔族の壁を取り払う為、ある策を考えた。それは…魔族と人族を同一の種族とし新たに人間族として種の名を改める事を進言する!!》
本当に『勇者』のその言葉は良くも悪くも世界を大きく動かした。
ども、ほねつきです。
やっと終わりました。このお話もやっと完結!
……と、思うじゃん?
時代は新たな時代に突入しますよ!
次回!閑話入りまーす!