ー第6話ー 『寝かせてくれ』
うーん、進まないなぁ…
男はおっさんが着ていそうな黒革のコートに黒の革ズボン。身長は俺より高い。
白髪の頭から漆黒の角が二本生えている。誰だこいつ。見たことないな。
「なんでしょうか?」
「ええ、先程の書店でのあなた方の話を少し聞かせて頂いたのですが。」
は?盗み聞き?何こいつ。
「その会話の中で出てきた『アムリタ様』と言う方について少し聞きたいのですが。」
何だ此奴…おっさんについて聞きたい?まさか、大魔王を知る者がまだいたのか?
「良いですが、あなたは?」
「これは、失礼しました。私はリューマン・サラミスです。宜しければあなた方のお名前も。」
サラミスと言う男はニコリと笑う。
「私はバンシィ、こっちはガンマです。それで、『アムリタ』について聞きたいこととは?」
「はい、アムリタ様とはもしや第8代目魔王ティー・ターン・アムリタ様ではありませんか?」
何此奴!!俺の中で警戒レベルが上がった。第一警戒体制!繰り返す!第一警戒体制!!
一瞬ガンマと目を合わせた。ガンマはコクリと頷くとサラミスと名乗る男の肩に手を置いた。
え?なに?ガンマ?
「貴様、一体何者だ?返答次第ではタダでは済まんぞ。」
え?ガンマさん?何やってんすか?俺別にそんな事してなんて頼んでないっすよ?
しかし、サラミスはガンマの威圧に怯まず軽い口で返答した。
「いえ、私はリューマン・サラミス。かつて魔王ティー・ターン・アムリタ様の配下、魔王軍魔法軍魔法総指揮長でございます。」
長い。何つった此奴?
「貴様、ふざけているのか?」
「ガンマ…辞めろ。」
今にも殴りかかりそうだったガンマを止め俺はサラミスの目を見つめた。
「あなたの言っていることが本当だとしてあなたは何をしたいのですか?」
おっさんが魔王って知っている事はまぁいい、だがそれで俺たちに話しかけてくる目的はなんだ?
今のおっさんには魔王の権力なんてない。精々魔王グリムを裏で操るくらいだ。…ん?それだと権力あるのか?
するとサラミスは突然しゃがみこみ胸の前に手を置いた。
「再び、魔王アムリタ様に忠誠を誓う為に。」
「そうか」
うわ、此奴めんどくさいやつだわ……
多分同じことを思っているだろうとガンマをチラ見すると
「主様…」
キラキラと輝く様な眼で俺を見つめサラミスと似た様なポーズを取っている。うわ…此奴も面倒くせぇ!
なんだお前、今まで俺に忠誠っぽいことしてたか!?あんましてないよね!?忠誠誓ってんならあんなデカイ肉じゃなくて色々買えよ!色々ッ!!
「分かった。あなたの事は伝えておこう。もしそれが本当だったらアムリタを連れてやって来よう。場所はそこの魔王城。あなたはいつ来れる?」
もう良い、どうせおっさんだって暇だろうし偶には俺の家から出て行って貰いたい。なんならドラグも連れてくるか?
「はい、それならば次の満月の夜でお願いします。」
「満月の夜ね。じゃあ、二週間後か。分かった。じゃあ、二週間後。また会おう。……ガンマ。」
「はい!」
人化を解いたガンマの背に飛び乗りそのまま飛び去った。
ああ、面倒くさかった。人と喋んの苦手だしなー。さっさと帰って寝よう。
「ガンマ。最大速力で帰るぞ。」
「ああ!捕まってください主様!」
その瞬間。ガンマは羽ばたき気付けば海の上で飛んでいた。
此奴、マジで何処まで速くなんだよ…
俺の視界の先にはもう家が見えていた。
裏世界であるから向こうでは夜でもこちら側だと朝だ。
そう言うとこだけはこの世界が球体の星である事は間違い無いと思わせる。
もしかすると空に輝く星は全部魔法で出来た偽物かもしれないが。
朝っぱらからおっさんが海でシャンと遊んでいる。因みに俺は不死身だから眠らなくてもいい。不死身だからな!
最近、シャンもなんか巨大化してる気がする。レベルでも上がったか?この世界にそんな仕様はないと思うが。
「おい!おっさん!!」
「おお!!バンシィではないか!!」
「バンシィ様!お帰りなさい!」
ガンマから飛び降り浜辺に着地した俺をおっさんとシャンが海から出迎えた。
早速先程あったことをおっさんに話すとしよう。
「おい、おっさん。サラミスってやつ知ってるか?」
「ん?サラミス?……あー、知っておるぞ!我が魔法を一番に教えた奴じゃな。しかし、何故バンシィがサラミスを知っておるのだ?」
「あ?さっき会ったからだよ。」
そう真面目に答えた。するとおっさんは何故か吹き出した。
「アハハハハハハ!!!なーに言っておる!バンシィよ!サラミスは300年前の男じゃぞ!生きておるわけ無いだろうが!!」
イラッ
「いや、アムリタ様、本当にサラミスと名乗る者と先程まで話していたのですよ。」
「ガンマまで、なーに言っておる!不老でもない限り今生きておるなどありえんて!」
……
「痛っ!?なんじゃ!?バンシィ!?」
無言で蹴り入れたった。
「良いから聞け。そのサラミスって奴が偽もんかも知れないから二週間後の夜、オースティードの魔王城で会うと約束した。」
「我に行けと?」
「オースティードなら行けるだろ?大陸の呪縛だっけか?大丈夫だろ?」
「うむ、勿論大丈夫じゃ。じゃが、あまり行きたくはないのう。」
「何でだよ。」
「だって我の魔王城、誰も居ない所為で虫の住処になっておるし……」
「お前が悪いだけじゃないか。」
「それを言えばそうなのじゃがの…」
「安心しろ俺も行く。」
「よし、ならば行こう。」
チョロい。
「じゃあ、俺は寝るわ。」
「なに?何故じゃ?」
「時差で眠いんだよ。察せ。」
転移魔術を使い家の目の前まで転移する。
家はいつも通りの姿で俺を迎えてくれた。ただ、一つ邪魔者を除いて。
「おう、バンシィ帰ったのか。早速だが、肉をくれ」
「なんだ、お前。何様だ?」
「族王様だ。」
真後ろにいた黒いドラゴン。ドラグ。此奴も何気に俺の家の前に住み着いている。
「いや、お前は天龍族の王なんだから帰れよ!」
「それを言えばアムリタは大魔王だぞ?」
そうなんだよな!!ほんと!それな!!
「後でで良いだろう?寝かせてくれ。眠いんだよ」
そう言ってドアノブに手をかけた。
「ならバンシィ。起きた後で良い。王都サン付近の森に転移魔法陣を設置したい。付いてきてほしい。」
「はぁ?今さっき行ってきたばっかなんだけど?」
「そこをなんとか、な?」
「なんでだ?理由を言え。」
「七王会のメンバーの行き来をしやすくする為だ。」
七王会。確か魔王、獣王、呪王、賢王、武王、破王、族王っていう王の称号を持つ奴の七人の集まり会の事らしい。因みに獣王のズオウは勇者に殺されてるから実際は六王会だな。
「なんでそんなものの為に俺が行かないとダメなんだ?」
「ああ、どうせ魔王グリムが死んだら七王会を開く奴がいなくなるからって賢王と武王の奴が自分達の家で茶会を定期的に開くらしいからそれぞれ適当に行き来しやすいよう転移魔法陣を設置しろって話だ。」
「うん、それで俺が行かないとダメな理由は?」
「あ?バンシィお前、転移魔法陣使いたくないのか?場所知っといた方が色々便利だろ?」
そういうことか。ドラグって偶に良いことするよな。
「分かった。行こう。だが、後でな。」
「ああ、分かった。」
俺は家に入り部屋のベットに転がってそのまま眠りについた。
ちょっと次の投稿もしかすると普段よりも遅くなるかもしれないです。