ー第4話ー 『牛乳飲みたいなんて言えない』
魔王城城下町っていうのかな?
よく分からんが兎に角俺とガンマはそこに居る。
周りは黒い民家?が複雑に入り組んでめっちゃ歩きづらい。この町の作り考えた奴は馬鹿なのかな?
道が入り組み過ぎて歩きづらいわ。
町に入ったばかりだからか人と会わない。そこそこ広い道なのだが誰もいない。売店らしきものもない。ただ黒い建物が複雑に建って道が出来ている。そんな感じだ。
一様、仮面を外しておく。グリムの野郎には仮面じゃない俺を見せてるからな。間違えられても困る。あともしもタッ君達に出会ってしまっても別人に出来る…多分。
「それにしてもここは素晴らしい作りですよね。」
「ゑ?」
ガンマが突然この複雑過ぎる町の事を褒めはじめた。此奴頭大丈夫か?こんなグニャグニャな道初めてだぞ。
「この敵を簡単には進ませない。魔王城までの距離を意図的に遠くさせ敵を分散させる作り。人族と違い壁で隔離せず歩かせている内に戦闘の準備をする。素晴らしいとは思いませんか?」
「え、あ、うん。」
あー、えと?なに?要は敵の戦力を減らして自分達は万全の状態で挑むみたいな?分からんけど。きっと、ガンマが言うのだから凄いのだろう。
わーすごーい。
ん?
て事は魔王城に当分着かなくね?は、何それ怠いわ。
「おいガンマ。飛べ。飛んでいくぞ。」
「ええ?またですか?」
実に嫌そうな顔だな。だが、飛んでもらうぞ。
魔法や魔術の類を強制的に解除する為に開発した(おっさんが)この『魔破』の魔力を帯びた蹴りをガンマのケツにキメる。
「痛い!」
その瞬間、ガンマに掛かった人化の魔法は魔破によって解除されガンマは元の黄色いプテラノドンに戻ってしまった。
その背中に俺は乗り優しく背中を叩く。
「痛い!痛い!主様!痛いです!!」
一向に飛ぶ気配の無いガンマに俺は無言で背中を叩き続ける。
「痛い!痛い!…分かりました!飛びます!!飛べば良いんでしょっ!?」
うむ、素直でよろしい。
ゆっくりと羽ばたくガンマの背中に身体を預け目の前の魔王城を見た。
やはりでかいな。
感想はそれくらいだった。
それにしても人が居ない。
魔王城入り口に立つ門の前だけ建物は無く石の地面で綺麗に整えられている。
門は流石にしまっていた。まぁ、開いていたらそれこそ警備どうなってんだって話だが。
それでも門番は居ない。留守かな?魔王城誰も居ないのかな?
その時、『魔破』の様な魔力の波動がガンマを襲った。
「あれ!?身体が…動かな…」
ガンマはそのまま真っ逆さまに石の地面に向かい落下する。
流石にこれは痛いだろうなと俺はガンマから飛び降り風魔法でガンマの落下地点にエアクッションを作り出し俺自身は風魔法で床を作りそこに着地する。この状態、他から見ればまるで空中で立っている様に見えるらしい。
ガンマはエアクッションに見事着地したが、男の飛ばした『魔破』的な何かの所為で気絶してしまったらしい。
別に命に別状はなさそうだったので俺は『魔破』的な何かを飛ばして来やがった奴の方に目を向けた。魔王城の門の前にたった一人で仁王立ちするその男。
黒いアーマーを装備し腕には何も装備してなくかなり身軽な姿。黒髪黒眼のイケメン。日本人とどっかの国のハーフみたいな顔つきの男だった。
魔王グリム…随分と手荒な歓迎をしてくれるな。
ゆっくりと地面に着地しその男と対峙する。
戦いたく無いが、明らかに敵意剥き出しの相手にどうやれば戦わずに済むのだろうか。
……考えても分からん。
…まぁ良い、取り敢えず話してみるか。
「悪いが、此方に戦闘の意思は無い。魔王グリムに合わせてくれ。私は魔王に用がある。」
黒髪の男は暫く黙っているとやっと答えた。
「馬鹿か貴様、得体の知れぬ者に魔王グリム様に合わす訳がなかろう!名を名乗れ!!」
随分と生意気な声をしている。が、確かに俺は名乗って居なかったな。めんど…
「失礼した。私の名はバンシィ。ご覧の通り魔族だ。敵では無い、魔王グリムに合わせてはくれないか?大事な用があるんだが。」
「ではバンシィ殿、貴殿が敵では無いと言う証拠はどこにある?」
知るかそんなもん!!
「魔王グリムに合わせてくれれば分かる。」
「用ならば私が伝えておこう!要件を言えッ!」
なに、こいつの早く帰らせたいオーラ。凄いんですけど…
……いや、待てよ、別に魔王じゃなくても良く無いか、いやいや、待てよ大魔王の命でやって来たーの方が理由としてはしっくりくるな。じゃあ、この門番には言わない方が良いじゃん!!
……なら一体どうすれば………
俺がちょっと悩んでいると門番はクツクツと笑い出した。
「……ふははははは!!!おい!まさか、理由も無しに魔王様に謁見をするつもりだったのか!?阿保か貴様!!………茶番はここまでだ!貴様は勇者の仲間だな!?」
違います。
そう言おうとしたのに門番は俺の返答無しに続けた。
「甘いな勇者の仲間よ!残念だが今、全魔族には警戒体制として自宅避難令を出している!よってこの魔王城には誰もやって来ない筈なのだよ!!勇者が来た時に内側から門を開けるつもりだったか?次に来るときはもっとしっかりとした理由を考えて来る事だ!………もっとも、貴様に次などないがなっ!!」
弾丸の様な見たことない魔法を男が放ち俺は半身で避ける。
「ほう…流石に不意打ちは効かないか。ならば!!」
一瞬にして俺の数歩前に現れ光る剣を抜きその勢いで斬りつけてきた。
「魔防壁」
物理も防げる便利な防御の壁を展開しその剣から身を守る。守らなくても傷すら付かないだろうが。そう言うのってちょっとセコイなと思ってなるべく防御をする事にしている。
「破滅魔法!『ヘル・フレイム』」
距離を置いた男が黒い炎を放ってくる。この魔法も見た事ないな。まぁ、防げない訳ではないが。
ちょっと対抗してやるか。
口に魔力を集め息を吸い込む。
『古龍の吐息』
名称はあえて口にしない。だって、天龍族に伝わる割と大事な魔法だからな。
黒い炎と紅い炎はぶつかり合いやがてお互いを打ち消す様に消滅した。
それにしても此奴、強いな。
様々な魔法攻撃を全て相殺しながら思う。
隙を狙って斬りつけてきた剣を手で掴みへし折る。
動揺を見せたその瞬間、腹部のアーマーに一発蹴りを入れる。
アーマーが粉々に吹き飛び男は魔王城の門に叩きつけられた。
門は凹みはしたが、壊れない思ったより頑丈な作りで出来ていた。
そして俺はそこで口を開く。
「おい、お前、名前はなんだ?」
気絶するガンマに回復を施してやりながら男に聞いた。
男は膝をついて立ち上がりよろめきながらそれでも堂々と言った。
「私は偉大なる魔王様の近衛!『四大魔将』の一人!ライト・メアだ!!この魔王城にはこの身がどうなろうと人族は一歩たりとも入れさせんぞ!!」
「そうか、素晴らしいな。」
「うおぉぉぉぉ!!!破滅魔法!!『ワールドバーン』!!!」
『大魔王の小便』を作り出したあの魔法を少し小さいが放ってきた。
その時、魔王城の上の方から強い魔力と視線を感じチラ見すると、魔王グリムがいた。
俺と目が合うとその顔は顔面蒼白で開いた口が塞がらないようだった。
このライト・メアに恥をかかせぬよう俺はここで一発貰っとくか。
身体を焼く様な衝撃と同時に爆発し俺の身体は普通なら消滅するレベルだった。
…まぁ、今では痛くもかゆくもないが。辺りは煙に包まれ俺の様子は確認できない。
俺は『不死身』の能力で他者からの状態攻撃を全て抵抗する。それは相手が俺の魔力を感知する事も該当する。つまり、俺を見つけるには肉眼で確認しなければならない。
おそらくライト・メアは俺を倒したと思っているだろう。多分魔王グリムも。
煙が晴れ門にもたれていたライト・メアが俺と眼が合い驚きの表情で目を見開いた。ついでに言うと魔王グリムも。
「な……な…なんで………」
「さぁな、もう一発当てれば倒せるかもしれんぞ?」
冗談半分に言ったらガチでやるつもりなのか一気に魔力を練り上げやがった。そして再び魔法を発動し黒い球体が頭上に現れた。今度はさっきよりも大きかった。
そして今それが放たれんとした時。
「ヤメロォォォォォーーーー!!!!メェェェアァァァァァ!!!!!」
大地を震わすような声が上空から近づいてきた。
見上げれば魔王グリムが必死な顔で叫びながら落下してきた。
ズドンという衝撃と同時にライト・メアは魔法を解除しグリムに対して至って冷静な顔で平伏した。
膝に手をつき肩で息をする魔王グリムは直ぐに俺に目を向けた。
「魔王グリム様。お久しぶりでございます。手厚い歓迎、誠にありがとうございます。」
一回、こう言う皮肉って言ってみたかったんだよねー
少し口元を吊り上げると魔王グリムは顔が僅かに白くなるがそれでも魔王。まともに話すことはできた。
「これは…バンシィ殿、お久しぶりです、どうぞ、中へ。」
魔王グリムが率先して門を開け中へ誘導してくる、その顔は必死だ。そんな魔王の姿をライト・メアは呆然と見ながら固まっている。
俺はガンマを起こしてやり再び人化させ俺の後ろに付かせた。
俺は魔王グリムの開けた門に躊躇なく入った。
「ああ、これはどうも。」
中はむさ苦しい程、武装した魔族が待機していた。
魔族達が開けた道には赤絨毯が敷かれ一本の直線が出来上がる。
魔王グリムが先導しその後に俺とガンマが続く。武装する魔族達の視線が辛い。ジロジロ見やがって、見せもんじゃ無いぞ。
そう頭の中では思いつつも顔には出さない。ポーカーフェーイースってやつだァ……
何やらいつのまにか階段を上らされ応接室の様なところまで案内された。
魔王グリムは気づいたらいたライト・メア以外の護衛を人払いし俺とガンマはフカフカの紅い2人掛けのソファーに座らせられた。
琥珀色の四角いテーブルが前に置かれその中心に一輪の白い花が生き生きと咲いている。
魔王グリムは俺とガンマの反対の1人掛けの椅子に腰かけライト・メアに紅茶を淹れさせた。
……おいおい…紅茶、飲めないのだが……
………まさか……俺に対する宣戦布告か…?
……魔王グリム…こんな陰湿な嫌がらせをして来るとは…流石はおっさんが魔王に選んだだけはある……
そして目の前に置かれた紅茶を目にして俺は心で舌打ちした。
………今さら、牛乳飲みたいなんて言えないよな………




