ー第2話ー 『みぃつけたぁ』
なんとかイグザとの会話を終えバズズ様との会話も終わり最後にはクッキーの入った袋を土産に持たせてくれた。
王城を後にし俺はタッ君達と出会った広場に向かっていた。
理由?なんとなく。
王都内の建物一軒一軒が俺が一年前に来たあの戦後の風景とはうって変わり木造だった家は煉瓦の家やコンクリートの様なものの家と、随分と中世の様な街並みに変わり人通りの多かった大通りには馬車が行き交い道を歩く人達はその脇を歩いている。
車道と歩道の様な区別がこの世界にも出来始めている様だ。
まぁ、そんな事は良い。昔の記憶を頼りに俺は広場を見つけた。
広場は相変わらず、噴水は綺麗になって設置されベンチも綺麗になっていた。
新品の様なベンチに腰掛け噴水の水の流れを楽しむ。
細かい水飛沫が顔に当たり冷たい。
雨はバズズ様と談笑しているといつの間にか晴れジメジメしているが暑いわけでもなく寒いわけでもない。丁度いい気温だ。
また、あの時の様にアイナちゃんとかに会うわけでもない。
あの子達も17歳。この世界の成人は15歳だ。もう子供じゃない。きっと彼らはそれぞれの道を行きそれぞれの人生を歩んでいるであろう。
……と、なんかそれっぽい事言った所で俺は帰れることにした。
立ち上がり背筋を伸ばし欠伸もする。
……ああ…眠む。
「あーれー?ディラせんせー?」
「おい、馬鹿ニーナ。人違いだったらどうすんだよ…」
背後から男女の声がして振り返る。
まず目に付いたのは女の方だった。黄色の髪は腰まで伸び、青いコートに丈の短い薄水色のスカート。そして何より頭に付いている耳だ。うさ耳バンド。アレだ、「おっそーい!」とか言う駆逐艦みたいだ。
そして隣にいる男。茶色の髪は短く整えられて白いシャツに茶色のコートを羽織り黒の長ズボンを履いてる。背が高く俺より少し高い。その体つきはがっしりとしている。
なんだ、この二人…リア充か?だったら俺の敵だ。
…ってのは冗談、俺の知っている奴でうさ耳バンドをつけてる奴は一人しかいない……
「おう、ニーナか。」
「ほーらー!やっぱりディラせんせーだよ?」
「ほんとだったな…お久しぶりですディラ先生。」
「おう。」
誰だ?この茶色のイケメンは…こんな奴、知り合いに居たっけな?
「ディラせんせー!何しに来たのー?」
「ん?ちょっと、用事があってな。…お前達は何してるんだ?」
バズズ様と会っていたなんて言わなくて良いしただ、俺はあのニーナに彼氏がいる事に驚きなのだが、そして何故この男は俺の事を知っている?
「んー?ザンバとデート!!」
「ほぅ……」
リア充爆発しろオオォォォォォォ!!!!!!
……え?てか、この男、ザンバなの?……え?ぽっちゃりだったあの子がこんな…スラっとしたイケメンに………?
タッ君負けてんじゃないのか?
えーなに…ザンバとニーナ、カップルなの…おいおいおい………
ちょっと待て現実が受け止められないのだが……
「ニーナ…他のみんなはどうしている?」
「んー?分かんなーい」
うん、聞く相手を間違えたわ。
視線を変えザンバを見つめる。
「えっと……タリウスが勇者ナガトの右腕って呼ばれているのは知ってます。」
「ああ、それは俺も知っている。…他だ、メルやランバ、ギノにデュメスそれとアイナちゃんはどうした?」
イグザの名は出さない。イグザはこの国では戦後の行方不明者という事になっている。何故ならイグザは操られていたとはいえ魔王軍として王都ロトムスで殺戮を行なった張本人だからな。顔も多く知られて普通に王都サンで暮らしていたら他国から疑われても仕方ないので行方不明にして存在を隠している。
という訳でイグザは行方不明だから名前は出さない。
「あー、ランバとメルは今、シューラ王国の方に行ってますよ。」
……ほぅ……ランバとメルがくっついたか…
「何故シューラ王国に?」
「よく分からないですけど仕事でシューラ王国に行ったらしいです。」
「仕事か…どんな仕事なんだ?」
ザンバは首を振って「分かりません。」と答えたので俺も「そうか」としか言えなかった。
「ニーナしってるー!あのねー!探偵っていう仕事なんだってー!」
「ほぅ……」
探偵という仕事にも驚いているが、それよりもニーナの話し方が気になりすぎるのだが…
「成る程、探偵か…面白そうだな…」
探偵ね…食っていけるもんなのかね?俺はもう社会とかそういう理から外れてるからな…
「えーと、ギノとデュメスは聖騎士団に入隊したと聞いてますよ。」
「何?」
おいおいおい………聖騎士?俺はギノもデュメスも王城で見てないぞ?聖騎士だったら門番かなんかやってろよ。
いや、俺は裏口から忍び込んだもんなんだから知らないだけかもしれないが、つーか正門から入る方法を俺は知らない。
「たしか聖騎士団の中でも結構上の方とか言っていた気がします…」
「ニーナは知らなーい」
「馬鹿ニーナは静かにしてろ」
「……」
オイいちゃつくな。オイ、ザンバ、お前、馬鹿ニーナとか言っといて何故腰に手を回した?オイ!何故俺の目の前でおデコを合わせるんだよ!!
嫌がらせか!?嫌がらせなのか!?俺が何をした!?
「コホン!では、アイナはどうしている?」
流石にこれ以上いちゃつかれると俺がこの二人をコロしてしまいそうなので明らさまにわざと大袈裟に咳払いをして話を変えた。
なんなんだ…このバカップル殺意が湧くんだが…
俺の咳払いでハッと我に帰るザンバが焦りの表情を見せ俺と目を合わせない様に答えた。
うん、そういう目を合わせないって事は察したって事だよな?君が馬鹿でなくて助かるよ。あと一歩でシメるとこだったからな。
「えーと…アイナは冒険者になって旅に出かけましたよ…」
「冒険者?」
「はい、詳しくは教えてくれませんでしたけど、多分タリウスを追いかけてるのではないですか?」
ほう…なかなか面白いことになっているな…だが、アイナちゃん…追いかけは一歩間違えばストーカーだからね?
まぁ、ストーカーって言う単語すらこの世界にはまだ無いんだが。
そして俺は最後にとても気になっていたことを聞いた。
「ところでお前達は仕事はやっているのか?」
暫くの沈黙。
おい…マジで?他の子はみんな不安定だろうが(聖騎士は安定だろうが)職に就いてるのに…このバカップルまさかまだ……
「…へへっ、まだです」
「ニーナも!」
をいっ!やっぱりか!
「馬鹿か貴様ら!もういい!今すぐ冒険者ギルドに行けッ!多少でも良いから稼げよッ!!」
「「ひゃい!!」」
俺の怒声に二人は驚き尻餅をついた。
ふっ、この程度で怯むとは情けない…平和ボケか?
だが、もう良い、
俺は踵を返しその場を後にした。
あんまり他人に首を突っ込みたく無いんだよねー例えそれが教え子だったとしても………
三人のやり取りを木陰から見ていた者が居た……
緑の髪が青々と育つ木々の葉と同化しその身体は木の幹に同化している。
生気の抜けた目の下にはクマができその目は何処を見ているのか分からない。
六神教神官期待の星。
彼は嘗て期待されだけからも憧れの目で見られた王子。
サン王国の第三王子であった彼の嘗ての英気は無くなっていた。
彼は去っていったディラの背中を見つめ口元を釣り上げる。
「みぃつけたぁ…」
そう言い残し木と同化し消えてしまった。