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不死身の神官〜色々平均以下の俺が転生して不死身になった〜  作者: ほねつき
ーヨールパル大陸ー 魔王勇者決戦編
81/252

ー第1話ー 『本日はお日柄も良く』

お久しぶりのディラですよー!


王都サン。リムサン大陸三大王国の一つサン王国の中心地。そして聖神教の聖地であり聖神教トップの最高聖神官が君臨する国でもある。


その男が住まう巨大な城。その地下に存在する堅牢な檻が何重にも張られた地下牢の前に二人の男達が居た。


一人は脂肪の溜まった巨大な肉の塊の様な男、髪は白髪に顔には小さなシワが出始め、だらしのない目付きの男。『六神教』最高聖神官バズズ・キンダム・サンである。

その隣に並んで立つ男。その男は漆黒の黒髪に銀の眼帯、紫紺のローブを身に纏う細身の男。バンシィ・ディラデイルである。



「この牢には重要な犯罪者を投獄しておく牢じゃ。」


「成る程、それで何故私に見せたのです?」


バズズは暫くの沈黙の後ゆっくりと無言でポケットを漁りチャリチャリと音を立てる鍵を取り出した。

それをディラに手渡すとゆっくりと語った。


「この牢には魔王軍『四大魔将』ゴーラス・レディオンが投獄されていた。」


ディラは横目でバズズを見て続きを話すように待った。


「魔封じの枷、鎖をつけて身動きと魔法を封じる為に付けていた。我々サン王国は魔王軍との最大の切り札としてその存在を隠していた。しかし…」


「開けてくれ」とバズズに促されディラは鍵を探しながら檻の錠を開けていく。


「思えば身動きを取れなくした事が間違っていたのかもしれない。」


何重もの檻を開け中へと進んで行く。


「クッティー・プリルス・サン。知っているじゃろう?」


ディラは小さな声で「えぇ…」と答えた。

そして最後の檻を開錠して中に入った。小さな小部屋くらいの広さで壁に鎖が繋がれ囚人服を着た首の無い屍体が繋がれていた。腐臭が無く血が出ておらずその屍体は置き物の様にただそこに繋がれていた。

そしてディラはこの牢の異変を感じ取っていた。


「クッティーは狂ってしまった。いつから狂ったのかは定かで無いがクッティーは人族を裏切った。この王都サンを襲ったスケルトン。アレをけしかけたのはクッティーじゃ。我々、教会と聖騎士団、民間兵で何とか撃退する事は出来たが、クッティー…あやつは取り逃がしてしまった…」


「その様ですね。…転移魔法ですか?この牢に残る異質な魔力。」


「左様。やはり気づいていたか、そうじゃ、クッティーは転移魔法を使いこの牢に現れた。そしてゴーラスと数回言葉を交わした後その首を落としたのじゃ」


「成る程、それだと血が無い理由がありませんが?」


「悪魔じゃ。」


ディラは振り返りバズズを見る。


「…悪魔…ですか?」


「そう、悪魔じゃ、悪魔は悪魔大陸以外で生きるにはヒトの血が必要になる。どうしてクッティーが悪魔を使役しておるのかはさっぱり分からんが、クッティーには悪魔が付いている。」


「目的は?」


「さぁの、じゃが我がクッティーと対峙した時にはディラデイル、お主の名を必要に叫んでおった。」


「はぁ…?」


「心当たりは無いか」と言う質問にディラは「無いです。」と簡潔に答えた。


「ふむ…じゃが、クッティーがお主を狙っているのは明白、気をつけたほうがよいぞ。」


「肝に命じておきます。」


「さて、用は済んだ。我の部屋で茶菓子でも食べんか?」


「頂きます」



_____________________________________________




俺はバズズ様の部屋でバズズ様の出して下さった、お茶を啜りながら饅頭を食べる。きよめ餅の様な小さめの大きさで白の餅に粒餡がギュッと詰まっていて何かのマークの焼印が押してある。

一口、二口で食べ、口の中で餡の甘味を楽しむ。甘い…美味しい。お茶の苦味が絶妙に合う。


さて、俺が此処に来た理由はいくつかある。先ずはバズズ様との約束を果たす為。さっきはバズズ様が見せたいものがあると言って来られたのでついて行った。クッティーが俺に何を恨んでいるのか、考えれば結構思いつくが知らない事にしておこう。俺は悪く無い。


もう一つはと言うと……


「バズズ様、イグザは元気にしておりますか?」


バズズはクッキーに手をつけるのを止め思い出した様に手を叩いた。


「イグザ。イグザよ。」


ドアの向こうから落ち着いたイグザの声がした。


「どうなされましたバズズ様?」


ドアの向こうから声はするが入ってくる気配はない。


「イグザ。良い、入ってこい。」


バズズ様がそう促すがイグザは入ってくる気配がなく動揺したイグザが言った


「…いえ、しかしお顔も見せる事のできない重要なお方がおられるのでは?」


マジか、誰だよそれ、あ?俺か?

バズズ様をチラ見すると肩を竦め知らぬ顔をしながらクッキーを一つ食べてからイグザを招き入れた。


「……良いから、入れ。」


「失礼します。」


イグザの元あった長い黒髪は真っ白な白髪に色素が抜け落ち髪はバッサリと切られ清潔感のある執事姿で現れた。

イグザと目が合い俺は手を軽く振り適当に挨拶をした。


「よう。」


「これは…申し遅れました私、バズズ様の専属執事をやらせて頂いています。ノア・イグザと申します。どうぞ何なりとお申し付け下さい。」


一つ一つの動作は洗練され慣れた動作で執事の在り来たりな挨拶を述べイグザは腰を折り頭を少し下げた。


イグザには記憶がない。

消されたってのが正しいか、まぁ、糞キモい男に操られて無属性魔法を暴走させ狂ってしまった挙句に心も身体もボロボロになってしまった。俺の回復魔法でも傷は治せても心の傷は治せない。

イグザには俺と過ごした記憶、タッ君やアイナちゃん達との過ごした記憶、家族との記憶。全てが消えて何もない。

イグザの心には何も無い。何も残ってはいない。何も無いから思い出すことも無い。


…だが、完全に無くしたわけではない。そう思いたかった。俺の名を出せば思い出すのではないか、そんな事を思いながら俺は自らの名を口にした。


「ディラデイルだ。高位聖神官をやっている。」


「高位聖神官…貴方様でしたか、噂の高位聖神官。ディラデイル様ですね覚えました。」


ニコリと笑うその笑顔に俺は何も言えなくなってしまった。


数秒の沈黙の中、バズズ様のクッキーを噛む咀嚼音が音を支配した。


「バズズ様、なにかご用が有ったのではありませんか?」


「うむ?」


その咀嚼音の支配する空間を破ったのはイグザだった。

バズズ様はクッキーを三枚同時に食べる手を止め顔をイグザに向けた。

俺はその手が止まった隙に残り数枚のクッキーを皿に回収する。

…と思ったら皿が消えた。ハッとバズズ様を見ると三枚持ちした右手とは別に左手には俺が今取ったクッキーが乗った皿ごと奪われていた。


うっわ……転移魔法……まさか…取り皿に仕込んであるとは思わなかったわ……というか、そこまでしてクッキー食べたいですか?私にも一口くらい、頂けませんかね?あの、私、先程から大福しか食べておりませんけど?

あの……バズズ様?


「うむ、なにやらそこのディラデイルがお前と話がしたいと申したのでな。お前を呼んだわけじゃ。」


うっわ、この人、押し付けやがった。別に元気か聞いただけなのに、呼べなんて言っていないのに……クッキー…食べてないのに………


ちなみに俺は未だに転移魔法と浮遊魔法が使えない。

転移は最近、転移魔術をおっさんに教えてもらったから家には一瞬で帰れるけど、その辺に移動することはできないし、俺以外の物質は転移出来ないし。

浮遊魔法に至っては既に俺の身体能力と魔防壁で空中を走れる様になってしまったし…俺は飛びたい・・・・んだ!跳びたい・・・・わけじゃない!


話を戻そう。


イグザは此方を向いてニコリと笑う。

別に元気かどうか気になっただけだったのだが、まぁ、話す機会が出来たんだ、折角だから世間話でもしていきますか……


イグザの目は此方をキラキラと見つめまるで子供の様に好奇心で満ちた目をしていた。

思わず目を逸らしてしまう。仮面を付けているので視線は見えていないがどうしても俺はイグザを見られなかった。

それが、罪悪感から来るものなのか、それとも後悔から来るものなのかは分からない。


「まぁ…立っているのも何だ…座れ。」


「…はい、失礼します。」


俺は顔はイグザに向けながらも目は閉じて少し心を落ち着かせる。

イグザは空いていた椅子に腰掛け丁寧な物腰で此方を見つめた。

俺はちょっとした心の葛藤を苦い茶を飲み干し誤魔化した。

ふぅと息を吐きそして吸った。


「本日はお日柄も良く…」


なんだ、思いつかん!言葉が思いつかん!!


「……はい?いえ…その…今日は雨でございますが……」


「え?あ、そうだな。あははは」


チラ見で窓の外を見れば太陽など一切出ておらず暗くどんよりした雨が降っていた………




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