ー閑話1ー 『イーナと少女』
あれ?おかしいな、1話でまとめる筈だったのに…
妾はファランド・イーナ・ドワフール。偉大なる魔王ファランド・グリム・ドワフールの伴侶である!
旧名はエルナーヴァ・イーナ・ラーマプリンチームじゃ。妾は四大魔将の一角、『魔将』の一人として魔王軍の中ではやっておる。
この役職は好きじゃ、飯も作らんでも良いしコロコロ寝ておっても誰も文句は言わん。最高の生活じゃ……じゃが、問題が一つある。
妾は…グリムの妻として妻らしいことを何もしておらん!!
妾とグリムは夫婦であるのに一緒に暮らしておらん!
グリムは魔王城を護り、妾はこの寝永姫城を守らねばならん。
この寝永姫城は魔王軍にとって重要な食糧を一時的に保存しておる地下の城なのである!
仕方ない事ではある、拠点には力のある魔将が守らねばならん訳で別の誰かがつく訳にもいかん。
だが、それでも、夫婦としての営みや「あーん」や「お帰りあなたご飯にする?お風呂にする?それとも…わ・ら・わ?」とか出来ないでは無いかぁぁぁぁ!!!
あーイチャイチャしたいーー!!甘えたいーー!!
ベットの中でイーナ専用グリム型抱き枕に抱き着きゴロゴロとベットの上で悶えるイーナ。
グリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリムグリム
ぁぁ、妾の愛しいお方…
優しく強く、逞しくそれでいて甘えん坊なグリム……
あーー!!グリム!グリム!グリム!グリムー!!
今頃どうしておるのじゃ…妾はこんなにそなたの事を思うてこんなに苦しんでおるのに…あーー!グリムよ!!そなたに会う日が待ち遠しいぞ!!
コンコンコン
部屋に響くノック音にぴたっと動きを止め事後の様に冷静に解析を始めたイーナ。
誰じゃ?兵は皆、定休でバカンスに行っておる筈じゃが……
毛布に包まりカレンダーを確認する。
うむ、まだ定休日じゃ。誰かが居るなど…
『イーナ様、昼食をお持ちしましたがいかがなされますか?』
ドアの向こうから聞こえる清らかな女の声。
「スペラか?良い、入れ。」
「はい。イーナ様」
顔立ちの整った童顔で腰まで伸びた黒髪で丈の長いメイド服を着て居る女が笑顔で入室した。
「スペラ。お前も定休じゃから妾の世話などせんでも良いのに…」
料理の乗ったカートを中に入れベットの近くの丸テーブルに料理を並べていくスペラ。
並べ終わるとイーナの方へ向き返り可愛らしい笑顔でこう言った。
「良いんです、私はイーナ様と一緒に居たいですから。」
「スペラぁ…」
「キャッ!イーナ様!?」
イーナが突然スペラの顔を胸に埋め頭を撫で回す。
スペラの整えられていた髪はくしゃくしゃに寝癖の立ったように変わる。
「スペラ…スペラ…妾の可愛い娘よ…嬉しい事を言ってくれるでは無いか…良し!特別に妾を『お母さん』と呼んで甘えても良いぞ」
「そんな…イーナ様……」
ムフフと笑うイーナはスペラを更に強く抱き締め頭を撫で回す。
「良いのじゃ…そなたは、一人じゃったのじゃ、妾という母に甘えるが良い。」
「………………お母さまぁ」
スペラは迷った末、無邪気な子供の様にイーナに甘え始めた。
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スペラ。それが彼女の名前である。
彼女は幼い頃、イーナに拾われた捨て子であった。
スペラとイーナの出会いは今から15年前の事。
イーナがまだ、『魔将』と呼ばれる前の時。
太陽が沈み辺りを月明かりが薄っすら照らす少し肌寒い夜。
中央に位置する巨大な城を囲む様に造られた建物。昼間は大勢の人で賑わう大通りも夜になれば静まり返る。
大通りの先にある巨大な検問の為の四つの門も昼間と違いその街で最も治安の悪い地区のみ開放されていた。
治安が悪いと言ってもそれは昼間賑わう大通りではなく俗に言う裏。大通りから外れた細い路地などの裏側である。
不良や闇取引が頻繁に行われ表側で生活を送る人は一切近付かない危険な場所だった。
そんな場所に1人、黒い外套を身に付けそんな路地に脚を踏み入れた黒髪の女が居た。
それに気付いた不良と呼ばれる野蛮な男達は女に群がり始める。
「へへっ、姉ちゃん良い女じゃねーか。」
1人の男が女に絡みにいく。
「やはりそうか、妾もそう思うぞ。」
「へ?」
状況的に普通の女の反応をしないその返事に男は呆気に取られた。
誰もが口を閉じてしまったなか、女が口を開いた。
「良かろう、この妾がお主らの相手をしてやろう。」
「ええ?へへっ、分かってるじゃねーか、姉ちゃんよじゃあまず俺から相手をして貰おうか?」
「良かろう。」
その瞬間股に手を掛けた男の首が飛んだ。血飛沫が上がり他の男達に動揺が走る。
女は外套を脱ぎ捨てると中から白と黒のメイド服が現れた。
「…メイドっ!?」
男達の誰かが叫んだ。
「そう、妾はこのロトムス王国王城専属メイド長!エルナーヴァ・イーナ・ラーマプリンチームである!………と、言うのは仮の名前、妾は魔王軍第零潜入隊魔隊特務兵!『吸血鬼』イーナである!」
腕を腰に当て踏ん反り返るイーナ。男達の一部はそれを隙と見て逃げ出した。数本進んだその瞬間男達の首から上は無くなってしまった。
「逃げる事は許さん!何故なら、この妾の!この妾のッ!!前に立ったからである!!」
「…な、なんで……」
『こんな事に』その言葉の後にはそう続いていただろう。だが、男はイーナからもたらされる『死』に警戒して機嫌を損ねない様に押し黙った。
「何故!?妾はもうメイド長と言う称号は捨てた!妾は今、魔王軍の一兵士として此処におる!」
そうして目の前の男三人の首を切り飛ばす。
その光景を見た後ろの2人が恐怖のあまり股の辺りを湿らせる。
「おや、おや、人前で失禁してしまうとわ…」
「ひぃぃっ」
イーナが失禁した男の前に歩み出ると腰を抜かして倒れてしまう。
顔をゆっくりと近づけ男と鼻の先が触れ合うギリギリでイーナは笑顔でこう言った。
「見逃して欲しいか?」
「はっ!はいぃ!!お願いします!!何でもしますから助けて下さい!!」
顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら祈願する男。
それを見たイーナはニタリと笑うと男から離れた。
「良いだろう、見逃してやろう」
「ひっ!ひぃぃっ!!」
男はイーナとは逆方向に駆け出した。そしてその瞬間、首が飛んだ。
「……妾に不敬を働いた事は見逃してやるが、命を見逃してやるとは言っておらんのだがな」
三人の生きている男達をみてイーナは笑う。
「そもそも、妾の正体を知って生かして返すと思うておるお主らが笑いものなのじゃ。」
三人の男達を横切り外套を拾い羽織るとそのまま路地を歩いて行った。
その後男達の首は飛びイーナの目撃者は消えた。
路地裏から門へと向かうイーナはその途中、うずくまる小汚い少女を見つけた。
「……表は華やかで幸せが満ちているが、裏では魔族の街よりも酷い有り様か…」
イーナはその少女に近づき腕を掴みあげた。その少女の目は此方を見ている様で見ていない暗い死んだ魚の様な目をしていた。そして、
「……抵抗する気も無いか……なに……」
その少女には耳が無かった。
本来耳のある場所は刃物の様なもので削がれ肉が無くなり白い部分が薄っすらと確認できた。
「………ごめんなさい……」
「なにを……」
「ごめんなさい…もうしませんから……許して下さい………お母様……お父様………」
「父と母…だと!?」
イーナは驚愕した。子の親である筈の者が有ろう事か自らの子供にこの様な酷い事をするなど……
其処からのイーナの行動は速かった。
自らの袖をあげ腕を少女の前に持っていきこう言った。
「おい、噛め。喰らい噛みちぎるのじゃ。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「良いから噛みちぎるのじゃ!!」
イーナは少女の口を無理に開き自らの二の腕に噛み付かせ少女の顎を閉じる様に片腕で力一杯噛みちぎらせた。
「ぐう…」
自らの二の腕が歯型状に無くなり血が溢れでる。
そんな事を気にせずイーナは少女の顎を思いっきり上げ自らの肉を飲み込ませた。
ゴクリと喉を通り少女が飲み込んだ事を確認すると少女は気を失った様に倒れた。
それを自らの胸で受け止め少女を優しく抱き止め少女の髪を撫でた。
「……人間は残酷じゃ……お前も魔族として産まれれば良かったのにな……ん?…この魔力は…妾の?」
少女の魔力に少しずつ流れ始めたイーナの魔力に気づいたイーナは暫く考えた後、クツクツと笑い始めた。
「成る程、良く良く考えればそうじゃな、妾は『吸血鬼』ではなく、『喰吸血鬼』であったの…血肉を喰らいその生を受ける存在、眷属を増やすのに自らの肉を喰らわせると言うのも、ありえるか…」
少女の髪を優しく上げると少女の耳は驚異的な再生力でその耳が綺麗に生え変わっていた。
「……フフッ…良かったのぅ、お前もこれから、魔族として、幸せな生活を送るのじゃ。」
少女に自らの外套を羽織らせると自らはメイド服で少女を抱え闇の中に消えて行った。
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少女は目を覚ますとそこは紫色のベットの上だった。
「…………」
とても暖かく良い香りのする布団に暫く抱きつきそれから布団を退かしベットから降りた。
「………ぇ」
自分の着ていた筈のボロ布の服が貴族のお嬢様が着ている様な紫色のドレスを着ていた。
「…なに…これ……」
突然少女は自分が怖くなった。もしかしたら自分が知らない間に貴族の服を盗んだのかもしれない、もしかしたら貴族の人を殺してしまい自分がなりすましているのかもしれない。
自分の置かれている状況に混乱し少女はその部屋を歩き回った。
黒と金で装飾された大きなタンスに全身が確認できる鏡、それに映った自分を見て少女は驚き警戒の色を見せた。
「誰!」
自らの姿に警戒し咄嗟に身構えると向こうの相手も身構えた。相手は紫色のドレスを着て綺麗に洗われた黒髪で身構えていた。
どちらも様子を見て動かない。
暫くして少女は左右に動いたりジャンプしたりして何かを確信した。
「…終わったかの?」
「!!!」
飛び跳ねる様に壁に背中をつけ声のする方を向く少女。
其処には黒髪の自分と同じドレスを着た美しい女が黒い飲み物を飲みながら此方をニコニコして見ていた。
「……だれ?」
「ん?妾か、妾はエルナーヴァ・イーナ・ラーマプリンチーム。お前の名は?」
少女は考えた。自分の名前を。自分は産まれてから一度も名を呼ばれたことが無かった。もしかするとあったかも知れないが、覚えてはいなかった。ただ、謝って殴られるそんな日々だったから。
暫く少女は黙っているとイーナはあまり信じたくはない事を聞いた。
「もしかすると、お前は名前がないのか?」
そのイーナの心を読んだ様な問いに少女は頷いた。
イーナはその少女の答えに少女の親に対する怒りと言う名の殺意が芽生えていた。
名前を付けんとは親失格じゃ!いや、この子の親は親をやってはおらんがの……
それにしても呼び名が無いのは困ったものじゃ……
「お前は名前はなにが良いのじゃ?」
「…………」
少女はなにも答えない。ただまっすぐにイーナの瞳を見続けた。
その目線にイーナは目を逸らし黒い飲み物を手に取り飲んだ。
『イーナ。俺だ、入って良いか?』
突然扉の向こうからノック音と共に聞こえた若い男の声、少女は驚きイーナの後ろに隠れた。
「…ん、どうした…急に隠れて…可愛いのう」
イーナは少女の頭を撫で扉の向こうの男の声に返事をした。
「鍵は開いておる、入って良いぞ。」
ガチャリと扉を開け入ってきたのは高身長で紅い髪に黒と赤の装飾が施されたコートを着た若い男だった。
右手にはチューリップの様な形をした白い花束を持っていた。
「イーナ。此度の任務、ご苦労だった。俺はお前が心配で…って、子供!!?」
男は驚き白い花束を床に落としてしまった。
しかしその花は散る事なくその綺麗な形を保ったまま地面に転がった。
「そうじゃ!!」
「どうしたイーナ!!」
突然声をあげたイーナに驚き心配した声を上げるがイーナは男に指を差しこう言った
「ちょっと、グリムは黙っておれ。」
「あ、はい…あの…一応、私、魔王なのですが、その態度って…」
「ちょっと黙っておれ!!」
「はい!すみません!!……俺、魔王なのに…」
魔王である筈なのにイーナに強く言われ何も言えなくいじけてしまった魔王グリム。
それを無視してイーナはグリムの落とした白い花束から一本抜き取り少女に渡した。
「この花は『スペラ』と言う花じゃ。花言葉は『奇跡』『希望』どんな過酷な環境でもその美しい姿を見せる事からこの花言葉が付いた。…お前はこのスペラの花ととても良く似ておる…どうじゃ?お前の名は『スペラ』。エルナーヴァ・スペラじゃ!」
「えるなぁば……すぺら?」
「そうじゃ!スペラじゃ!どうじゃ?」
「すぺら…すぺら…スペラ…うん!私はスペラ!」
「おお!そうじゃ!スペラ!可愛いのぅ」
イーナはスペラの頭を撫でくりまわしほっぺをスリスリしたりとスペラを可愛がる。
それを見ていたグリムは面白くなさそうな顔をしていた。
「イーナ、その、スペラは一体誰の子だ?」
「妾の子じゃ!」
「妾…って!一体誰との子だ!!」
グリムはイーナの言葉に憤怒し魔力を解放する。スペラはその威圧に耐えられず泣きそうな顔でイーナの背中に隠れた。
「やめんか!グリム!!スペラは誰との子でもない!妾だけの子じゃ!!スペラが恐がっているであろう!その威圧をやめんか!!」
「ぬっ、すまない…ついカッとなってしまった……だが、お前だけの子とはどう言う意味だ?」
「そのままの意味じゃ、スペラには妾の血、のみが流れておる、古来より伝わる吸血鬼の眷属を増やす秘術によりこの子は妾だけの子と言うわけじゃ。」
「な、なるほどそう言う事か」
グリムは何故か頬を赤く染め始めこう切り出した。
「その…その子にはイーナという、母だけなのだろう?……ならば、父という存在も必要ではないかと思うのだが……どうだ?この俺が…「うむ、良いぞそうしよう。」
「え、ちょまだ…」
「スペラぁ、これからは妾の事は母と思い、このグリムは父と思うのだぞ?」
そうスペラと同じ目線になる様にしゃがんで言ったイーナの頬も真っ赤に染まっていた。
ども、本当は1話で収めるつもりだったのですが、予想以上に長くなっちまう予感がしたので二つに分けます。
後半はまだちょっといえ、結構待ってください。
イーナがキャラ崩壊みたいな感じでしたけど、まぁ、地はあんな感じなので許して下さい。まぁ、もう死んでるんですけどw
まだ続きは待って下さい書いてます。では




