ー第8話ー 『此処が上じゃない』
前のお話がかなり更新されていますがストーリーに変化は特にありません。
『禁じられた真剣』回の最後にストーリーが追加されています。把握お願いします。
「苦戦を強いられているようだな。タリウス殿。私も加勢しようぞ。」
敵を見据えたままタリウスを心配するギルガッシュ。
「ギルガッシュさん。ありがとう。あそこの黒髪の男は僕の友達です。出来れば助けたい!」
タリウスが剣脇差しの短い剣を支えに立ち上がる。
「そうか、ならばあの男を倒せば良いのだな?」
「はい。」
ギルガッシュがリジィを指差し真剣な顔つきになる。
「承知。やれるか、タリウス殿?」
「ええ、やりますとも。」
二人の魔力が高まりタリウスの剣は炎を纏い始める。
「私が、友達殿を拘束しようぞ」
「…頼みます。」
タリウスが地を蹴り飛翔する。
「捕縛陣・鉄鎖!」
ギルガッシュの腕から鎖が飛び出しイグザに真っ直ぐ向かう。
「……」
「なんとっ!」
しかし、鎖はイグザの前に現れた魔法陣により吸収された。
「ダァァッ!!」
タリウスの剣がリジィの首を掻くすんでのところで剣に鎖が巻き付いた。
「…っ!」
咄嗟に手を離し距離を取ると剣はいつの間にか現れた魔法陣に吸い込まれてしまった。
《イーッ!ヒャッ!ヒャッ!ざまぁないぜっ!ヒャッハーッ!!おい、さっさとその目障りな害虫共をブッ殺せ!!》
「……!!」
イグザの目が一瞬カッ!と開くと上空に魔法陣が出現した。
「ぐがぁっ!!」
直後に背後からギルガッシュの血反吐を吐く音が聞こえ振り返る。
「ギルガッシュさんッ!!」
そこには先程吸い込まれた剣で背後から心臓を貫かれたギルガッシュが目を見開き立っていた。
その背後には魔法陣が出現してそこから鎖が伸び剣を掴みギルガッシュを刺していた。完全にしてやられた。
《イーヒャッ!ヒャッ!良いぞ!最高かお前はっ!!》
リジィがパンパンと手を叩いて笑い転げる。
「……許さない。」
《あ?》
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないッッッッッ!!!!!」
タリウスは自らを責めた。もっと強ければ、こんな奴に負けるなんて事はなかった。自然と魔力が底上げされ空気を震わせる。
ふと、腰に違和感を感じ視線を落とす。
「…!これは……」
薄っすらと光を放つその物は、巨大な魔力を周囲に放ち青と赤で装飾された幅の細いロングソードで鍔は天使の羽根の様な形を模し中心に透き通る様な紅い珠が埋め込まれ柄は黄金に輝き握りやすい太さになっている。
手に取ると重さを感じない程に軽い。軽く振ってみると空気すら斬った感覚が手に伝わる。
「これが…真なる…剣……」
声に出すと剣が反応した様に更に強く輝きを放った。
そして、光が紅い珠に収束し突如紅い光が上空に上がり音も無く爆発した。
爆発した光の破片がドームを描く様にに降り注ぎ俺とリジィ、そしてイグザを囲いそれ以外を追い出す様な結界が張られた。
魔力感知を発動させるがドームの外側の反応が無くなりリジィとイグザの反応のみとなった。
《ふんっ!なんだ?そのふざけた剣は?脅かしやがって!おい!さっさと殺せ!》
「…!」
次の瞬間目の前にイグザが現れ突きが放たれ様とした時、剣に操られる様に構えるとまたも紅い珠が光を放った。
「…!!」
その光を見たイグザはたじろぎ、よろめきながらゆっくりと後退した。
「…これは、一体…」
剣を見つめ聞いてみるが剣は光を放つだけで返事はしない。
《おい!何やってる!さっさと始末しない…グェッ!》
突然吹き飛ぶリジィ。口からは血を吐きよろめきながら立ち上がった。
《だ……れ………だ…………》
「さあ?誰だろうな?」
「………!!」
声が聞こえイグザがリジィの目の前に両手を広げリジィを守る様に突然立った。
「退いて欲しいな、イグザ。…と言っても駄目か…」
姿は見えない…だけど…この声は……
聞き違う事はない命の恩人であり全てにおいて尊敬する自分の兄の様な存在の人……この声はそうだ……
「ディラ兄ッ!!」
声を上げその名を叫んだ。数週間前に剣を交えたがそれでも信じ続けたかった存在に期待の声と共にその名を呼んだ。
「…久しぶりだな。タッ君。」
リジィがまた地面に擦り付ける様に吹き飛んだ後俺の横にスッと現れた自分の視線より一つ頭大きな存在。
惑わす様な紫のローブに身を包みその顔には目元を隠す銀の仮面を身に付けた男がいた。
「さて、イグザがまさかこんな事になってるとはね。」
袖から出てきた『真なる剣』が手に握られた瞬間形を変え何処にでもある様な鋼の剣に変化した。
「それにしても、タッ君。腕を上げたな。」
「そ……そうか?」
思ってもいなかったその人の褒め言葉に照れが出て一瞬戦闘中である事を忘れる。
「まりょくじ…『真なる剣』も解放した様だし。どうだ?まさか、結界を張るとは思わなかったか?」
結界…やっぱりこの結界はこの剣の…そしてこの人が……
「……やっぱ、ディラ兄はすげぇや。」
「はは、そう褒めるなよ。」
《……ふ…ざ…けるな……》
「あ?まだ生きてたんだ。」
ボロ雑巾の様なリジィが地面を這いつくばりながら悪あがきしようと辺りを見回す。
《おい…さっさと始末しやがれ…………》
「……!」
イグザがリジィの声に反応し動いた。
ディラ兄の前まで距離を詰め突きを放った。
「…っと」
身体を半身にさせたディラ兄がその伸びた腕を掴んだ。
「……ッ」
イグザの魔力が高まりディラ兄の頭の上に氷の塊が現れる。
「…馬鹿か…」
頭上に現れた氷の魔法に目もくれずディラ兄はイグザを足掛け倒し魔法の発動を無効化する事によって氷の魔法はただの魔力となって空気中に分散した。
「タッ君、この手の精神魔法は術者を殺せば終わる。さっさとあのガイコツを殺すぞ。」
《なっ!させるか!『精神・魔力解放』!!》
「!!」
「やばいッ!」
ディラ兄が俺を掴み跳躍してイグザから距離を取った。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!」
イグザの周囲に魔力が収束しイグザに吸収されていく。
胸を押さえ俺たちを睨みつけるイグザの目が紅く輝き始め黒い長髪は白く色素が抜け落ち犬歯が伸び牙の様に生え始めた。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!!!!!!」
不意にイグザから放たれる巨大な魔力の波動に吹き飛ばされそうになるのを直立不動のディラ兄が支えてくれた。
凄い…ディラ兄ってやっぱり凄いな……俺よりももっと上の高みにいて……俺なんかじゃまるで追い越せない様な大きな壁だよ…
ここまでの境地に至るまでどれだけの修行を積んだのだろうか…こんなちっぽけな俺じゃ想像すらできねぇや…
浮かれてたんだろうなきっと…『勇者』と言う伝説の様な存在の仲間になって…何十年と掛かるSランク冒険者の道を7年足らずでSランクの冒険者になって…慢心してたんだろう…俺は強い。そうやって上を見ていなかったんだ…まだ、俺は弱い、上にはまだ上がいる。そうだよ…『魔王』を倒してないのに何が『勇者』の仲間だ!ふざけた英雄気取りじゃないか俺は……
恥ずかしいよ…アイナが笑っちゃうかな?いや…こんな威を借る奴なんか相手にしないか…
「………タッ君。お前は俺を見ろ。イグザはもうイグザじゃない…」
「え…それって…」
ディラ兄の言っていることが分からなかった。「お前は俺を見ろ」どういう事だ?
「安心しろ。何とかなる様にはする。」
その瞬間ディラ兄が消えた。
いや、移動したのだ。速すぎて見えなかった。いつの間にかイグザの前にいていつの間にかイグザを空中に蹴り上げていた。
「グ…ア"ア"ア"!!!!!」
収束する魔力がイグザの手の中で暴れ闇属性を纏った光線がディラ兄に向かって放たれた。
「魔防壁」
光線を頭上で一瞬動きを止めその瞬間にはそこにディラ兄の姿は無かった。
「……!?」
「こっちだ馬鹿。」
イグザよりも上に現れたディラ兄が踵をイグザの肩に落しイグザは地面にクレーターを出現させる程の勢いで叩きつけられた。
ボールの様に地面で跳ねたイグザが再び攻撃をしようと魔力を収束させ様とした瞬間。
「マジックチェイン・モーションバインド」
ディラ兄が聞いた事もない詠唱を行うとイグザの身体全体が鎖に繋がれ身動きが取れなくなっていた。
「次はお前だ。ガイコツ。」
《イギィ!!》
逃走を図ろうとしていたリジィの前方にディラ兄が現れそのつま先を踏んづけた。リジィは痛さと怖さで悲鳴を上げしまいには股が湿り始めている。
「イグザの痛さと怖さを思い知ると良い。」
《た……助ゲェッ!》
首を掴み上げるディラ兄その右手に魔力が集まっていくのが判る。
「さっさと死ねよ。ヒートッ!エンドォッ!!」
ドォォォォォ…………
一瞬眩い光で目を瞑った瞬間の爆発と衝撃。
目を開けた時には既に、イグザに回復魔法を掛けているディラ兄の姿があった。
そう言う事か…「お前は俺を見ろ」まだ上にはもっと上がいるディラ兄はそう言いたかったんだよね?
ありがとうディラ兄。助けてくれて、そして何より気付かせてくれて……
まだ上はいる。此処が上じゃない。
俺はもっともっと強くなる!
いつか…ディラ兄と互角に戦えるくらいにッ!!
噛ませを噛まさせる程、強者が強者に感じられると僕は思います。