ー第6話ー 『強敵』
「勇者様に続け!!」
「魔族に我ら騎士団の力を見せつけてやれーッ!」
「大地よ怒れ我が魔力と共に『大地崩壊』
リンの神級魔法により獣人達の地面が割れ何人もの獣人が地に落ちる。
リンが手に開いた魔導書をパタンと閉じると割れた大地が閉じ何もなかったかの様に元に戻った。
獣人達は突然の事に戸惑い立ち止まる。
然し、その動揺は戦場において『死』を意味する。
「閃光斬撃!」
眩い光と共に獣人達の意識は一瞬にして刈り取られる。何人もの獣人が相手を見ることなく首を斬られその命が朽ちる。
リーリャ・スペティア・アルマータ。彼女は光に愛されし光の魔法使いでありながら剣を振るう光の剣士でもある、俗に言う魔法剣士という珍しい職業である。
「閃光一閃!」
彼女が手に魔力を貯め横に線を引く様に腕を動かす。瞬間その一筋の線から光が放たれ前方に居る獣人達が皆下半身から下を失いそのまま崩れる。
「オノレッ!ニンゲンッ!!」
背後から虎の様な獣人がリーリャに向けサーベルを振り下ろす。
「『アイス・バインド』」
突如、獣人の背後から声が掛かり獣人が気付いた時には体全体が氷で覆われ身動きが取れなくなっていた。
「ナ、ナニ?」
「あら、誰かと思えば天下無敵の『賢者』様じゃない。」
「何でしょうか、その二つ名は?」
「そんな事はどうだって良いでしょ?それよりも城壁でコソコソやってた『賢者』様がこんな所に来て大丈夫なの?」
「はい、戦況は我々が圧倒、あとは『獣王』を倒せば完全なる勝利だと思います。」
そう言ってリンは砂塵が舞い上がるほどの闘いを魅せる『勇者』と『獣王』の方へ目を向けた。
激しくぶつかり合う剣と斧。一方は国を守る為剣を振るう『勇者』、もう一方はその国を滅ぼさんとする『獣王』二人の魔力が激しくぶつかり他を寄せ付けぬ圧倒的な覇気が放たれ軍と軍の闘いである筈が二人の周りには誰も居ない。
「真剣・極炎陣!」
「獣王の領域!!」
ナガトの周囲から炎のドームが広がりズオウの周囲には見えない何かが広がり勢い良く広がっていた炎が不自然に動きを止める。
「ダアアァァァァァァァァ!!」
「オウ"ォォォォォ!!」
互いの魔力が出力を上げ更にぶつかり周囲に稲妻が走り地を空気を震わせる。
「真剣・風斬連撃!!」
「ぬッ!フンッ!!」
ナガトから放たれた風の斬撃をズオウは斧でその全てを弾き返す。
「真剣・炎斬!」
一瞬の間にズオウの死角に移動し炎の剣で斬りつける。
「ぬガッ!」
かなりの力を込めたナガトの攻撃にも拘らずズオウの横腹にはほんの小さな傷ができた程度であった。
「何て、硬さだ…」
「馬鹿めっ!」
油断したナガトをズオウが蹴り飛ばす。
ナガトは宙を舞い地面に叩きつけられた。
「……ッ!!」
倒れたナガトは痛む身体に鞭打ち転がりその場を離れる。
次の瞬間、ナガトが居た場所に1メートル程のクレーターが出来上がる。
「フンッ、闘いにおいて油断するなど言語道断!!」
砂塵が上がる中、巨大な影がゆっくりと現れる。
「ッ!真剣・滅破」
「フンッ!!」
ナガトの右手から発射された黒い球体はズオウの斧によって真っ二つにされる。
「勇者とはその程度なのか?」
安い挑発だ。しかし、このままではやられてしまうのも時間の問題だ…
やっぱりアレを使うしか無いか…
「……?」
俺は立ち上がり真剣を消し、体内の魔力を極限まで一気に高める。
限界に達したその瞬間俺はそれを一気に解き放った!
「真剣・解放!!」
俺の周りに数メートルのクレーターが出来る程の衝撃波を放ち俺は力が上がっているか確認する為試しにズオウに向け手を振った。
「なにッ!?」
ズオウが巨体に見合わず数メートル吹き飛び尻餅をついた。
それにしても相当な威力だな…相変わらず身体も熱い。これが俺の奥の手『真剣・解放』だ。身体能力を数百倍も引き上げ全ての魔法や真剣の消費魔力を0にする異常な程のチートスキルだ。
しかし、これにはデメリットが一つだけある……
「どうした?『獣王』の力はその程度か?」
「なにをッ!!」
ズオウがその巨大な斧を叩きつける。
今の俺の目にはすべての動きがコマ送りの様に見えてしまう。
俺は斧の軌道を読み身体を捻って躱し右の手で斧の柄を叩き折った。
「なっ!!」
「オラッ!!」
動揺するズオウの腹に蹴りを入れ吹き飛ばす。
さっきまで鉄の様に硬かった表皮がまるでスライムのようにめり込み内臓まで蹴った感触があった。
「なんだったか?闘いにおいて油断は駄目じゃなかったのか?」
さっきの仕返しとは言わんが嫌みを言っておく。ズオウはまるで苦虫でも噛んだような渋い顔をする。
その時、背後の王都から何かが爆発する様な爆音が響いた。
「…なにっ!?」
振り返ると城壁の向こう側から火の手が上がるのが見える。
「クックッ…フハハハッッ!!!!」
先程まで戦意を失いかけていたズオウが高らかに笑い始めた。
「何がおかしいっ!」
「ククク…流石は『魔将』メアの直属の部下だけの事はあるな……」
「魔将…メア?」
『魔将』メア…聞いたこと無いな…
魔将と言うからにはあのバーンロードと肩を並べる程の実力者の筈だと思うが…
「そうだ、メアだ、奴は賢く強い。あの『魔王』を側で守る為程の実力者だ。奴の部下だけに相当な働きはしてくれると思ってはいたが…まさか王都の中で事を起こすとはな…」
このままではマズい、直ぐに戻らないと…
「おい、どこに行くつもりだ?」
その瞬間俺の身体は宙を舞った。
走って、走って………
走り現実を逃避する様に剣を構えた。
次の瞬間空間を吸い込む様な巨大な魔力の球体を剣で全力で受け上空へと弾き飛ばす。
……嫌な予感はしていた…
だが、こればっかりは酷すぎる…
友達と思っていた。
故郷から遠く離れたこの王都でまさかこんな形で友達と出会うなどなんと酷い事だろうか…
剣を構えた再び放たれる魔力の球体を弾く。魔力を弾くたび剣が悲鳴を上げるが仕方ない。
どうして?
どうして?
君が?
君は本当に静かで
そして強かった君が…
どうして?
どうしてなんだよ?
「なんで、君がこんな事をするんだッ!!!!」
「イグザ!!」