ー第1話ー 『恐怖する王』
青々しい葉から露が落ち静寂な雰囲気を感じさせる。
そよ風が雨上がりの寒さを感じさせる。
「深淵の混沌よ現世に顕現し世界に混沌を与え給え。」
漆黒のスーツ姿に寝癖が目立つボサボサの黒髪。
その男はライト・メア。魔王軍最大戦力『四大魔将』の一角であった。
そう、で、あったのだ。今は昔、『四大魔将』の一角、バーンロード・ハリケーンが、先の戦争により戦死した事により『四大魔将』は『四大魔将』ではなくなったのだ。
「顕れよ…『デモンズルーラー』今、深淵の淵より蘇り給え。そして我らに破壊と言う救いを授け給え。」
突如魔法陣が地面に浮かび上がり木々が騒めく。
その瞬間、
魔法陣が眩い光で輝き闇夜の森を暗黒の光で照らした。
『願いを言ってみろ。強くあり弱い者よ。何を望む?混沌か?破滅か?絶望か?』
闇に光るそのものは人の形をしていた。見た目や服装は分からない。全てが闇に包まれている。
ライト・メアは跪き頭を垂れいった。
「全てにございます。」
『ほぅ…面白い。お前の望みを言ってみろ。』
闇の光を放つ人の形をしたもの『デモンズルーラー』と呼ばれるものの目が変わった気がした。
「手始めに王都サンと言う国を滅ぼしてほしい。」
『ほぅ…代償は?』
「その国の者の魂全てだ。」
『ふむ…良いだろう、面白い。…では直ぐに行こう。』
「待て」
直ぐに魔法陣から消えてしまいそうだった『デモンズルーラー』を呼び止める。
「その王都サンにクッティー・プリルス・サンと言う男がいる。彼は世界に対し酷い怨みを持っている。彼を惑わし宿にすると良いだろう。実体を持たないお前には最高の宿だと思うが?ヴェルドよ。」
その時、デモンズルーラーの雰囲気が変わった。
ライト・メアは内心ニタリと笑っていた。
『…一体、貴様は何者……いや、良かろう。良くも私の真名を見破ったなご主人様よ。』
「大したことではない。行け。」
『御意に』
その瞬間魔法陣と共にヴェルドは消えた。
奴の真名を言い当てるのは簡単だ。それよりも何故、こんな事をしているか説明しよう。
奴は『デモンズルーラー』という悪魔の一種だ。悪魔はお馴染み人の魂やらを代償にその願いを叶える。
この世界でも同じだ。
ただ、この世界の悪魔は真名と呼ばれる種族名ではない固有名詞を持っている。魔族や人族などが持っている自身の名前のようなものだ。
悪魔はその真名を言い当てる事でその者に絶対の服従を強いられる。何とも都合の良い世界である。
E-AIを持つ僕にとっては相手の情報を読み取る事が可能だ。この世界ではそんな能力をスキル『鑑定』と言うらしいが僕の場合、そんなレベルを超えている。
そもそも『鑑定』はスキルであり僕のE-AIは『人工知能』だ。
細かい事を言えば長くなるので省略しよう。
兎に角僕は悪魔の真名を言い当て服従させた。
狙わせるのは王都サン。だが、我々魔王軍が進軍するのは王都ロトムスだ。陽動とでも言うのだろう王都シューラを奪還されてしまったが、現在は本土の魔王軍を呼ぶ為に今は転移魔法陣を張っている。
僕は今どこに居るかと言うとルナクス大洞窟。王都ロトムスから約6キロの大きな洞窟だ。ここは大気中の魔力が多く大量の魔力を消費する転移魔法には打って付けの場所だ。
銀の粉で魔法陣を描きE-AIの演算能力で転移魔法の微調整を行う。不備が少しでもあると首だけ転移するなどという事が起こるのでミスは出来ない。
それに転移魔法陣は向こうの魔法陣と全く同じ形にしなければならない。だが、僕はE-AIの『記録』で寸分の狂いもなく僕は魔法陣を描いている。
「よし」
《再現率100%》
E-AIからのオーケーも出た。では、早速始めよう。
「深淵より来たりし我が同胞達。今、時と空間の次元を破り我の元へと集い給え。」
銀色の魔法陣が紫に輝く。
《成功です。》
無事、成功したようだ。後は向こうから来てくれるのを待つだけだな。
『我が主人よ。』
背後にヴェルドの気配を感じた。
振り返るとやはり紫色の人の形をしたものヴェルドだった。
「どうした?」
『クッティー・プリルス・サンを支配した。』
「本当か?」
非常に早い、1日は掛かると思っていたがほんの数時間で準備をするとは…
『勿論だ。悪魔は相手の負の感情を増幅させる。クッティーの負の感情を増幅させれば後は俺がそこへ入っちまえば良いだけなのさ。』
ヴェルドは不敵に笑う。
「それで、何しに来た。それを言う為だけにここへ来たわけではあるまい」
ヴェルドは悪魔だ。魔族とは違う。魔族と違い悪魔は契約だ。契約内容に違反する事はない。僕は王都サンを滅せと命じた、その命を破り僕の元に戻ってくる事はありえない。つまり、何か企みでもあるのだろう。
『そうです。ご主人に提案がありまして、王都サンを外から攻撃してくれませんかね?』
悪魔がモノを頼む事はありえない。僕はその願いに衝撃を受けた。
「何故だ?」
『外部から攻撃を受けている王都に突然内部から魔物が出現。大混乱になること間違いないでしょう』
成る程、流石は悪魔だ。
「面白い。やろうではないか」
『クフフ…人間の慌てる姿が目に浮かびますよ。』
だが、その同時攻撃を行うならば軍が揃ってからの方が良いだろう。
「ヴェルド、軍が揃ってから攻撃を行う、まだ待っていろ。」
『ハイ。平和が続けば続く程、絶望は大きくなりますからね』
ヴェルドはそう言い残し魔法陣と共に消えた。
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黒く光る大理石が美しく輝く魔王の執務室でグリムとズオウが黄金の玉座に腰掛け赤ワインの堪能していた。
「ズオウ、すまない。」
沈黙していたグリムが口を開く。
「どうした?突然謝罪から始まって…」
「済まないが人族領に俺が行けなくなった。」
「それはまた…『魔王』であるお前が何故?」
グリムがワインで喉を潤し言った。
「反乱が起きた…」
「どこで?」
「シストラ大陸のワイプ族の奴らだ。彼奴ら、神の御告げだとかほざいて軍の砦を制圧しやがった。…本来なら、『魔将』の誰かが制圧に向かうのだがゴーラスとライトは人族領に、イーナに至っては寝室から出て来ない…俺が行くしかないのだ。」
グリムはため息を吐き肩を落とす。
「…そうか、ならば俺たち獣人族が総力を上げお前の代わりに王都ロトムスを滅ぼそうぞ。」
グイッとワインを一飲みしライオンの大男は立ち上がる。
グリムはそれを見ると遅れて立ち上がり既に扉へ向かっているズオウの後ろ姿を見守った。
グリムは何を思ったかメイドを呼びつけ耳打ちする。
「………」
無表情のメイドは一礼すると何かを唱え一瞬にして姿を消した。
「のう、バンシィよ」
「あ?」
「この手紙をある者に渡して欲しいのだが…」
一通のシンプルな封筒に入れられた手紙を手渡される。
散々蹴ってやったのにブレない此奴は何だかムカつくな
「一体誰に?」
「『魔王』ファランド・グリム・ドワフールという男だ。」
「ほう、一体其処は何処だ?」
「魔族領のヨールパル大陸と言うところの魔王城だ。安心しろバンシィなら全て倒せるぞ。」
そういう問題じゃない。
現代において生きるために必要なもの、それは何処の世界でも金だ。
俺は魔族の金が無いのだ。
「金だ、お前は俺を一文無しで毎回、向こうに飛ばしてるんだよ。魔族の金を出せ、せめて1日、遊んで暮らせる分を!」
「金?おぉ、我の事を気を使って土産を持ってきてくれるのか?」
一言もそんなこと言ってない。断じて。神にも誓えるわ。
「な訳無いだろ、俺が飯を食べる為だ。早く出せ。」
「チッ、仕方ないのぉ…ほれ、300ルムンドじゃ。」
よく分からんが、手のひら程の大きさの小判、大判?まあ、時代劇に出て来る形の金の塊に人の絵が形取られている。
「魔族領の物価は人族領に比べ安い。300ルムンドは人族領だと一万チールという所かの?」
オーケー、ただの大金という事で理解しとこう。これ以上考えると頭の回路がショートしちゃうよ。
「うむ、確かに受け取った。」
「では頼んだぞ。」
そう言っておっさんは手紙を俺の懐に入れ金貨を握りらせ片手を俺の肩に置いた。ニコリと笑い魔力を増幅させ言った。
「『強制転移』」
俺の意識が飛んだ。
気がつくと赤黒い巨大な扉が目の前にあった。その扉の奥には俺ほど、おっさんほどでは無いが少なくとも『勇者』以上の魔力を持った誰かが一人、その近くに人よりちょい上くらいの魔力を持った誰かが二人いる。向こうもこちらの存在に気付いているようだ。
あ、仮面忘れた…
チッ、気に入ってたのに…
決して、イケメンと顔を並べない様に顔を隠しているわけでは無い。断じて。神には誓わないが。
一応ノックして扉を開けた。
玉座に腰掛ける赤髪でイケメソな男、頭から二本の角が生えている。カッケェ…
そしてその手前に猫耳のメイドと男よりは短い二本の角が生えたメイド、合わせて二人。
計3人と同時に目が合った。
『透称眼』を発動する。透称眼は見たもののステータスを見る事ができる。但し、格下だけ。
三人のステータスが頭に浮かんできた。
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name…ファrannド・グriム・ドwaフール
status…『魔王』 『-----』 『-----』
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name…ペーネ・ローペ・アンプライン
status…『破滅魔法使い』
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name…ニルン・グリンロール
status…『獣拳闘家・1段』
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うーん、赤髪の男がファラなんとかで称号が『魔王』となにか二つ…『魔王』?もしかして、ファランド・グリム・ドワフールか!?マジかよ、いきなり本命!?
えっと、こんな時どうすれば……
取り敢えず手紙を渡すには遠いので距離を詰める為近く。
「…!」
スッ…
猫メイドが拳を握り構え角メイドは何処からともなくメイスを俺に向け構えた。
魔王の前に立ち塞がるメイドの二歩手前で魔王を見つめる。
「お初目に掛かる。『魔王』ファランド・グリム・ドワフール様。」
「突如現れ無礼だぞ!」
猫メイドが指を指し怒鳴る。
まぁ、無視。
「大変失礼した。私の名はバンシィ。バンシィ・ディラデイルと言います。宜しく。」
「貴様!分をわきまえよ!」
猫メイドが飛びかかってくる。
半身で躱し『幻術眼』を発動させ猫メイドを楽しい楽しい夢の世界へ誘う。
夢の世界がどんな風になっているか、見る事が出来るけど見てもおもんないから見ないね。
「バンシィ殿、一体なに用だ?」
魔王は威厳を持って冷静に俺に問い掛けた。この質問だよ。
「我が主人より、グリム様に手紙を預かっております。」
懐から手紙を取り出しチラつかせる。
「ほぅ…バンシィ殿の主人が…一体誰方だろうか?」
「それは、貴方様が一番良くご存知そうですが?」
『魔王』だし、どうせ一応『大魔王』の下っ端だろ?きっと覚えてる人少ないだろうがおっさんはアレでも『大魔王』だからね?
「そう、言われんと教えて下されぬか?」
チッ、察せよ面倒いな
「ティー・ターン・アムリタ。もうお判りですよね?」
ニコリと笑顔を魔王に向ける。一方魔王はこの世の終わりの様な絶望的な顔をしていた。面白いから『記憶眼』で保存しとこ。
魔王が恐る恐る封を開け手紙を取り出し手が震えながら手紙を読み始める。
長いな…座っとこ。
「すまんが、バンシィ殿、伝言を頼まれてはくれんか?」
手紙を読み終わった魔王が手紙をメイドに預ける。
「手短に頼む。」
「そのつもりだ。……『申し訳ありません、民の為に死力を尽くします』とお伝えくだされ。」
「受け賜わりました。その様にお伝えしましょう。では。」
巨大な扉をゆっくり開け出て行く。どうでも良いけどこの扉、見た目の割に軽いな。
さて、どうやって帰ろうか…
転移魔法は使えないし……
いや、待てよ…意外とイケるかも!
魔力を放出しシャンを呼び出すイメージで魔法陣を出現させる。今回は誰も読んでいないので魔法陣が現れるだけで何も出てこない。
何で俺がこんな事をしたかと言うとだな…
天才バンシィ様が説明しよう!
シャンやガンマとかの俺の部下は俺が呼び出す時、裏世界から魔法陣を経由し現れる。つまりだ、そっから逆走すれば行けんるんじゃないかと俺の考えだ!(ドヤァ)
ああ、多分勘違いするお馬鹿さんたちがいると思うから説明しておくけど、おっさんの使う転移魔法と俺がシャンを呼ぶ為に使う魔法は転移魔法じゃなくて、召喚魔法だから種類が全然違うからね?
ただ、俺が思ったのはその召喚魔法の際に移動が行われるから逆走すれば行けんるんじゃね?って話ね。
うん、やっぱり俺って天才かも!
直ぐに俺は迷わず普段はシャンを呼び出す為の魔法陣の中に飛び込んだ。
その時の俺は気付いていなかった。シャンが海で泳ぐイルカだった事に……
その数日後、海水浴を楽しむおっさんとシャンがパラソルを広げ遊んでいた所にまるでゾンビの様な全身に若布を付けた化け物が海から現れたという……
どうも、ほねつきです。
一週間ぶり?多分それくらいの投稿ですね。新編が開幕しやっと人族と魔族の戦いになっていくと思います。我らが主人公は現状、活躍の場面が一つ二つ…それ程少ないです、予めご了承を。
それと小説のあらすじを変えてみました。話の内容は特に変わっては居ませんがちゃっかりプロローグを二つほど追加してあります。俺の謎の衝動に駆られ行ったことですのでスルーで構いません。
それでは最後にお願いです。ブクマ、評価をお願いします僕が喜ぶのでやる気が増します2割ほど…ですが、基本は不定期更新なので生暖かい目で見守って下さい。
それでは!