ー第7話ー 『賢者』
王都シューラはまるで要塞の様な所だった。巨人でも出るのか?と言いたくなるくらいの超巨大な壁が二枚建てられていた。
森の中からだとそれ位しか見えなかった。
近くに来て見ると本当にここの住人は一体どんな巨人と戦っているんだ?と思う位の高い壁だった。
門らしい所に行くと検問が有るらしく、長蛇の列だった。
俺もその最後尾に並んだが、何故かその列は少しおかしかった。
ロッド、杖を持った魔法使いばかりなのだ。
なんだ?ロッド、杖、専用の列か?
なんだか心配になってきてしまい前の黒スーツの男に声を掛けた。
「すみません。この列は検問の列ですよね?」
「ええ?ああ、そうだよ。」
男は可もなく不可もない普通にカッコ良い男だった。しかし、そのスーツに付いているバッチが見た事があった。
樹の形をしたバッチだ。……あの…リックも付けてた…成る程、此奴、組織の人間か…
「リックって知ってる?」
そう聞くと男は眼を見開き驚いた。
「まさか、あんたがディラさんかい?」
!!俺の名前を知っているのか!?
「そうだ。だったら話は早いだろう、何故これ程魔法使いがいるのだ?」
「ああ、そういう事でしたか…」
その男は周りを少し確認して少し小さな声で言った。
「今、我々、王国連合は魔族との国境の海に砦を築いていました。ですが、それに勘付いた魔族は建設途中の砦に攻め入り我々の砦は壊滅、現在別の場所に建設中の砦に兵を集めていますが状況は非常に悪いままです…怪我人も多数発生していて現在その全ての怪我人がこの王都シューラに集められている為、こうして砦の増援と、医療班が集められているのです。」
成る程、要は戦って負けて怪我人がここに集められてその怪我を治す人がここに集まってるって事ね。
……あれ?これ、もうおっさんの依頼クリアじゃね?
まんま伝えれば良くね?もう帰ろうかな?
帰ろうかと考えた時、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「まさか、天下の高位聖神官様がこんな所に居るとはな…」
……またか…
噂をすれば何とやら、振り返ると30代位のダンディーなリックがいた。
「リックじゃないか…」
「り…リック特位級兵!!」
男が驚きリックに敬礼した。
リックは少し気まずそうな顔をして敬礼に応じた。
「グー中級兵、上官に挨拶する事は良い事だが、今は潜入任務中ではなかったか?」
男はそう言われハッと我に返り申し訳ありませんと謝罪しそのまま列から離れてしまった。
「彼は?」
俺は少し心配で聞いた。
「任務失敗の為、報告に向かっているだろうな…」
「そうか、」
別に興味なかった。
リックは何故か突然俺の肩を組み語った。
「ちょうど良い、今回復師が足りなかったんだよ、どうだ?頼まれてくれないか?」
…チッ面倒いな…
「1万チールな。」
「その程度なら問題ない、早速頼むわ。」
そう言ってリックは俺を列から引き剥がし裏口の様な場所から城門の中へ通された。
凄い、中の街の建物全ては魔力が込められた石で出来ていて鉄よりも頑丈な建物が整頓された様に所狭しと並んでいた。
リックの後を追い歩いて行くと日本でも…少なくとも俺は見た事が無い程の大きさの体育館に連れてこられた。
「こっちだ。」
体育館の裏口に通され中に入る。
そこは血に染まった怪我人が所狭しに並べられほんの数十人の回復師が懸命に回復魔法を唱えていた。
回復師の中にはまだ幼い小さな女の子もいた。
「あの子を知ってるか?」
リックがその小さな女の子に指をさす。その子は暗い青髪の女の子だ。俺は首を振り知らないと答える。
「リン・ペルティル。まだ7歳と言う若さにも拘らず『賢者』の称号を得た天才だよ。一部ではあの子を『女神』と呼ぶ者も居るらしいぞ。」
賢者…賢者ねぇ……まあ、凄いんじゃ無いかな?俺も賢者持ってるからよく分からんわ…
「それは凄いな。」
「間違っても襲うなよ?」
リックが肘で押してくる。お前と一緒にするな。俺はロリコンじゃない。
「お前と一緒にするな。」
するとリックが手を離し顔を少し赤くして言った。
「おいおい、俺にはもう愛する妻が居るんだぜ。子供も居るし、お前と一緒にするなよ。」
此奴!!殺したろうか!?喧嘩売ってんのかテメェ!!良いよ!良いよ!!どうせ俺は永遠に女にモテず童貞のまま何だからよッ!!
「お、おいおい…そんなに怒らんでも良いだろ?落ち着けよ…」
俺が殺意の籠った眼でリックを睨むと宥めてきたが俺の機嫌は治らんよ。
しかし…あの『賢者』の子、見てみる価値はありそうだな…
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リン・ペルティルは無言で怪我人の救護に当たっていた。
「凄いな。無詠唱か…」
「!!」
背後から突然声を掛けられ振り返ると黒いローブに灰色の眼帯の様なマスクを付けた怪しい男が居た。
「誰?」
「安心しろ怪しい奴じゃない。」
怪しげな男の背後から表れたのはリックだった。
「…リックさん…?」
「今日だけ応援に駆けつけてくれたディラだ。腕前は保証する。」
リックがそうリンに言うとディラも自己紹介をした。
「ディラだ。こう見えても教会の人間だ。宜しく頼む。」
「……教会…」
リンは余り良い顔をしなかった。右手に魔導書を構え少し警戒し始めてしまった。それを見たリックが慌てて弁解する。
「リン、此奴は教会の中で2番目に権力がある『高位聖神官』だ。……頭の良い君なら俺の言いたい事が分かるだろう?」
リックがそう言うとリンは警戒を解きディラに頭を下げた。
「無礼をお許し下さい。リン・ペルティルと申します。」
変に畏まられディラは少し気まずそうな顔をしてしまった。
「良い、私も手伝いたい。どの怪我人治療すれば良い?」
「いえ、高位聖神官様にお手を煩わせる訳には…」
「俺を舐めてるのか?……私は治療をする為にここに来ているのだよ?」
ディラが少し切れるとリックが宥めた。
「申し訳ありません。そう言うつもりでは無かったのです…」
リンが頭を下げて謝る。ディラはディラで首を傾げた。まるで話が噛み合ってない。
「まあ、二人共、さっさと治療を始めてくれないか?」
リックの介入により二人は離れ別々の怪我人を治療し始めた。
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俺は怪我人を丁寧にゆっくり治療しているとリックの方に一人の男が駆け寄って耳打ちしていた。
リックが此方にやって来て言った。
「ついさっき海上の砦が全部やられたらしい…」
リックが深刻な顔をする。
「もしかしたら魔族の軍が砦からも近いこの王都シューラにやって来るかもしれない…」
「ほう…」
「なあ、一緒に来てくれないか?」
「四万チールな。」
「わかった。だから今から来てくれ!」
リックが走り俺も走った。
俺は武装された馬車に乗せられそのまま王都シューラを後にした。
馬車は何台も道を同じ方に走り小一時間程で止まった。
そこは城の様な建物が建ちずっと横に壁が建設されていた。
「ここは魔族領に面してる海面だからな。魔防壁が海に沿ってずっと建てられている。」
リックがそう語る。
「コッチだ。ついて来てくれ。」
リックにそう言われ俺は砦の城に案内された。
中はまるで迷路で要塞って感じだった。時々すれ違う騎士の様な武装をした人が慌しそうに行き来する。
階段を登り更に長い真っ直ぐの廊下を歩く。
また階段を登りドアを開けるとさっきみた壁の上だった。兵士が何人も海を見る様に立ちその隣には歴史の教科書に出てくる様な大砲がズラリと並んでいた。
「ディラにはここで敵が来ないか見張って貰らいたい。敵が来た場合は魔法で攻撃を仕掛けて貰いたい。」
「良いけど、お前は?」
「俺は彼処の砦の上で警戒している。暇だったら来ても良いぞ。」
そう言ってこの壁よりも少し高く作られている砦の上を指差した。
「わかった。」
「すまない。頼んだぜ。」
そう言ってリックは砦に向かった。
俺は壁の手すりに乗り海を眺めた。
とても綺麗な海だ。日本では見られない位の凄い透き通った美しい青い海だ。
あ?裏世界の方は生物の血の色が混じり過ぎて汚いんだよ!
………それにしても暇だ……
……誰も来ないんじゃないのか?
…………出でよステータス!!
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name…バンシィ=ディラデイル
status…『不死身』 『魔皇帝』 『英雄』 『創造魔法賢者』 『神聖級回復士』 『天龍魔法賢者』 『相棒』 『鬼畜』
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ほーへーはー何じゃこれ!?『鬼畜』って何だよ!『鬼畜』ってよ!!誰が鬼畜じゃ!ボケェ!!
『鬼畜』……人の心を持たない者の称号。『無慈悲』の上位の称号。この称号を持つ者は大抵、碌な奴ではない。
舐めてるだろ!!何だよ『無慈悲』の上位ってよっ!!俺が何をしたっ!?
…………アレ?もしかして魔眼使ったからかな?
……そう思えばそんな感じもしなくは無いな…
……でも、『鬼畜』って称号は無いだろ……もっとカッコ良い言い方無かったのか?
……どうなってんだよ運営…