ー第6話ー 『餞別と鬼畜』
「ディラ兄、7年振りだな!」
「……そうだな。」
俺はテントの中にタッ君を招き入れ話をした。
「何でまたこんな所に?」
「金が無くてな、旅をしながら商人をやっている。」
「へー、スゲえな、ディラ兄!」
「タッ君こそ、『雷剣』と呼ばれているそうじゃないか、凄いな…」
素直に褒める。いや、この歳で二つ名付いて知名度があるとか凄いと思うよ?
「いやー…ディラ兄に教えて貰った、『魔天流』をやってきたから此処まで来れたんだよ!」
「ほう…それは凄い…」
ふと俺はタッ君の持っている剣が気になった。シンプルな鋼で出来た剣だ。しかし、少し刃こぼれが有るようにも見える。
「タッ君、その剣を見せてみろ。」
「…?これか?」
俺はタッ君から剣を受け取り刃を良く見つめるほんの少しではあるが刃が欠けている…これだとその内ベッキリ折れるな…それに、刃が立っていない……まさか…ね。
「タッ君、」
「何だ?」
「お前は、この剣を研いだ事はあるか?」
剣、もとい、刃物を使う人なら絶対やらないといけない最重要事項だ。だが、タッ君の返事は俺の思った通りだった。
「研いだ?何それ?」
そのポカンとした顔はとても『雷剣』と呼ばれる男には相応しくなかった。
「…あのな…剣は刃物だ。刃物は研がないと直ぐに壊れてしまうし、切れ味も悪くなるのだぞ?」
常識だ。と付け加えておく。
「ええ!?だから直ぐに壊れたりしたんだ!!」
何だ、前科があるじゃないか…
聞くともう一年で10本は交換してるらしい…武器屋からしたら良いカモだな…
それに、ただの剣に魔法を纏わせて何てやってるから更に剣の寿命は短くなってるしな…ちゃんと教えてやれよ!それくらい……
「はぁ…」
俺は溜息を吐き、仕方ないのでタッ君に砥石の使い方を教えてやる。まだまだ、子供だね〜…
「成る程…わかったぜ!ディラ兄!」
ったく…さて、肝心な事をやらないとな…
「タッ君、お前はこれからエリアボスの討伐に行くのだろ?」
「ああ!」
「では、どうだ?一つ50チールで回復薬が売ってるのだが買わないか?」
「え?いや、ディラ兄、俺、回復魔法使えるから要らないんだけど……」
!!忘れてた!誰だっ!こんな奴に回復魔法なんて教えた奴は!!……俺か…
だが、俺はもう一つの売り物を忘れていた!
「ならば、ポーションはどうだ?回復魔法、属性魔法を扱うお前ならポーションは必須だろう?」
「くっ…でも、高いんだろ?」
「それが何と!50チール!然も俺の手作りだから安全性は保障するぞ!!どうだ!?買わないか!?」
「50チール!?そんなに安く!?………3つ下さい…」
「毎度!!」
しゃぁっ!!儲けたぜ!
俺はポーションの入った瓶を3つしっかりタッ君に手渡し150チール貰った。
「ああ、そう言えば忘れていたがタッ君、アイナちゃんから君に伝言がある。」
「?アイナから?」
タッ君がポカンとした顔になってる…あ、これは…絶対アイナちゃんの気持ちに気づいてないな…どうする?
「ああ、『強くなってね』だってさ、愛されてるな?タッ君。」
「そんなんじゃ……ないよ…アイナが俺の事が好きなわけ無いじゃないか…」
は?……待って、何処をどうすればそんな感想になるの?え?頭打った?誰でも分かるだろ……馬鹿か、こいつ……
………まあいい…この二人の恋路は色々面白そうだな……主にタッ君の所為で。見てみたいものだが、未来は分からないからな…そうだな……
「それと、タッ君。お前に此奴をやろう」
俺は袖の中から魔力樹を取り出す。これに創造魔法で細工をし魔力を込めれば剣に変わるように細工する。
「それって…木の棒じゃ……」
馬鹿め!!
「フッ…これを木の棒と思うとはまだまだお前は未熟だな。此奴は魔剣だ。名を『真なる剣』と言う。…お前の剣や魔法に対する理解が得られた時にこの剣は力を解放するだろう……」
それっぽく言っとく…正直、体内に常に流れる魔力を剣に流せば良いだけ何だけど、結構これって難しいんだよ……
「お互い常に旅をしている、また会うかも定かではない…餞別だ。持っていけ。」
「真なる…剣…」
タッ君が息を飲み魔力樹(真なる剣)を受け取った。
「さぁ…タッ君、さっさと行くと良い。お前にはまだ、長い長い道があるだろう?」
俺はテントの出口を指差しさっさと出て行くよう促した。
「ああ!ディラ兄!色々とありがとう!俺……頑張るよ!!」
そう言ってタッ君はテントを勢い良く飛び出した。
「皆さん!お待たせしました!早速、『鋼竜』を討伐に行きましょう!」
「「「「おお!!」」」」
多勢の足音が聞こえなくなった後、俺はテントから顔を出した。
其処には怠そうに座るジャックが居たので頭を叩く。
「帰るぞ…」
「ああ、もう良いんですかい?」
「ああ、もうたんまり稼いだ。」
口元をニヤつかせる。
するとジャックもニタニタしながら笑っていた。
「さあ、さっさと帰るぞ、馬を出してくれ。」
「分かりましたー!!」
ジャックは物凄い速さでテントをたたみしまうと早歩きでダンジョンの出口まで歩いて行った。
俺はその後をゆっくりと金の入った袋を手で握りしめその固さを感じながら歩いて行った。
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「いやぁ!凄かったですよ、あの討伐隊のメンバーは豪華でしたよ!」
俺たちは馬車に揺られながら日が沈んだ真っ暗な森の中をランタンだけでゆっくりと走る。
「どんなのが居たんだ?」
「…先ずはですねぇ、Sランクパーティーの『グラムパース』のメンバー全員と…SSランク冒険者の『魔賢者』ドームスに……」
うん、誰?
ちょっと、分かんないわ…ごめんな?
「あとは、Sランクタッグ冒険者のロキにエル……あの『雷剣』以外は全員Sランク以上の冒険者しか居なかったですよ!」
「そうか…」
俺は真っ暗な森の奥を意味も無く見つめる。
ジャックは止まらず話を続ける。
「そう言えばあの『雷剣』と随分仲が良さそうでしたが、知り合いだったのです?」
「ああ…昔な……」
ちょっと俺が声のトーンを変えて言ってみたらジャックが何か勘違いして察し申し訳無さそうな顔をした。
………それよりも、おっさんの依頼もクリアしないとな……さて、どうするか、手掛かりはないぞ……
いっか、別に…少し王都ロトムスをウロチョロしてから次はもう1つの王都、シューラ王国の王都シューラに行ってみるか……
はぁ…めんど…
寝よ……
「…ジャック、着いたら起こせ。」
「了解しました。」
俺は馬車の荷台に乗り横になって目を閉じた。
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「ディラデイル様、着きましたよ。」
「ん?ああ…」
声をかけられ目覚めると辺りは朝日が昇っていた。
かなり眠ってしかも、かなりゆっくり帰っていた様だ。
「行くか、ギルドへ…」
「はい!!」
やけに嬉しそうだな……まあ、そうか、一万チールだもんな…
中銀貨が一気に20枚も無くなるのか……はぁ…
偶然か必然か、俺は遂に冒険者ギルドに到着してしまった……中に入りクエストカウンターでクエストクリアのサインをして泣け無しの……一万チール……を受付嬢に渡した。
俺はジャックに軽く礼を言って冒険者ギルドを去った。
王都中心の城をグルッと回りどんなものかと見て回ったが、別に賑やかな場所や住宅地や多分貴族の家が立ち並んだりしていた。
そして今俺は、人もまばらに居る大通りでフラフラしていた。
薬屋や武器屋、本屋とかあとなんか色々建ち並ぶ大通り……………
俺は立ち止まり背後を振り返った。
「!!」
タッ君とそれ程歳が変わらないと思う少し背が高い女の子が近くの物陰に隠れた。
……
俺は前を向きゆっくり歩く
………付いてきてるな……
尾行下手か…
俺が走ると女の子も走って追いかけて来た。差は開かない…俺は本気を出してないからな…俺が本気で走ったら後方100メートルが荒野になっちまうからな!
路地に入り女の子を巻こうとするがまるで訓練されているかの様に追いかけて来る。
角を曲がった所で土魔法を発動させ少し薄いが壁を作る。
これなら諦めるだろう…
その言葉は完全にフラグで終わった。
何と女の子は眩い光の閃光で壁を突き破りやがった!!やっべぇ!!光属性の魔法だよ!?レア中のレアな属性魔法がこんな所で!
「諦めて投降しなさい!!貴方では私からは逃げられません!!」
投降しろと言われ投降する奴は居ないぞ!それに俺はまだ何もやってないしな!
女の子の警告を無視し俺は逃げる。
「あ!まだ逃げるか!!待ちなさい!!」
……チッ、まだ赤と金のドリルロールの方が品があるぞ……いや…どっちもどっちか…
すると女の子は閃光を放ちビームを撃ってきた!
野郎、こっちが何もしないと思って調子に乗ってんな!?
振り返り剣を抜き、光の玉を撃ってくるが魔力樹で相殺する。
「!?」
女はまさか相殺されるとは思って居なかったらしく戸惑う。俺はその隙を見逃さない。一歩の踏み込みで女の前まで詰め寄り剣を振った。
わざと左腕を掠める様に剣を下ろし女の白く細い腕に軽い切り傷を付けた。
「いやぁぁぁ!!」
素早く『防音壁』を張り悲鳴が外に漏れない様にする。
マジックチェーン。
女の魔力を拘束し身動きを取れなくする。
「いやぁぁぁ!!私はアルマータ家の一人娘だぞ!!こんな事して良いと思っているのか!!」
しらねぇよ、アルマータ家って何処だよ…『記憶眼』を発動。
「何する気!?私には『光の加護』で守られてるのよ!どんな事しても無駄よ!!」
何時までもギャーギャー騒ぐ女に眼を合わせ『記憶眼』で記憶を消す。
効いたかどうかは分からない。女が言う『光の加護』とやらで守られてるかも知れないし……
「ひっ!あ…貴方…魔族ね!?この国をどうする気!?」
仮面を外し頑張って俺に会った記憶消す。
……ギャーギャー煩いな…
『幻術眼』を使い気絶させる。
「ひぃ!助け…」
幻術眼は紫色の炎の眼、なかなかカッコ良い……
幻術眼は、相手を幻術に掛けて暫く身動きを取れなくするえげつない魔眼だ。解く方法は自分で抜けるか、俺が設定した時間まで耐えるか。因みに設定時間は1分。
俺は大通りに戻りシューラ王国のある方の西門に向かった。
何故か門番は慌てた様子で右往左往していたので難なく門を抜けた。
踏み固められた道を歩き王都ロトムスから見えなくなった位の距離で森に入りジャンヌを呼び出した。
(お呼びですね!)
「こっから真っ直ぐ道のりだ…多分……」
(了解!)
ジャンヌの背中に飛び乗りジャンヌは走り出した。
乗り心地抜群、視界良好。
文句無しだね。
100キロ近い速度で森の中を疾走するジャンヌ。どんどんと森の中を突き抜け走る。
………お腹すいたな…
「ジャンヌ!何処かの村で止まって飯にしよう!」
(ですが、僕は人化の魔法は使えませんよ!)
「………じゃあ、無しだ!真っ直ぐ進み続けろ!!」
(イエッサー!)
俺は空腹を堪えながら森の中を疾走した。