ー第5話ー 『雷剣』
「い…一体何なんだ?…」
ジャックが不老剣を見て唖然とする。
すまん…俺も分からん…
あのジジイ…変なもん仕掛けていやがったな…
ヤバそうだからさっさと返して貰おうかな…
「ジャック、返せ。」
「あ、はい。」
ジャックは剣の柄の方を渡して来た。片手で受け取りジャックが手を離した。すると剣が勝手に俺の手からすり抜けジャックの手元に戻ってしまった。
……あのクソジジイ…帰ったらぶっ飛ばしてやる…
兎に角、何回か試した所、恐らくこの剣は何かの呪いで持ち手から離れなくなるらしい……
ん?何で俺には効果なかったのかって?知らねえよ、どうせ『不死身』の能力だろ?
まあ、呪いなら俺が解除出来るんだけどさ、解除して何になるのって話じゃん?だって、俺、こんな剣、使わないし……
と、言うわけでおっさんの駄作はジャックにあげるとする。
「良いんですか?…こんな物…貰ってしまって…」
「問題ない。だから早くしてくれ…」
馬車に乗り込みさっさとする様に急かした。
「ありがとうございます!」
ジャックは馬に鞭を入れかなり上機嫌にダンジョンへと向かってくれた。
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「着きましたよ」
「ああ、」
30分程で到着した。そこには何故か簡単に造られた本当に小さなプレハブ小屋の様な砦?が建てられていてその隣に馬車は停められた。
何故こんな所で?と聞くと
「エリア96は7年前の地震で出て来たダンジョンの入り口なんです、どうやら本当の入り口では無かったらしく強力な魔物ばかり発生しているんです。」
だからこのエリア96は王国連合が常に警備を置き、冒険者はAランク以上の者しか入れない様になってます。
成る程…つまりそれの確認の為の検問みたいなもんって事だな?
「では俺は大丈夫なのか?」
「商人の場合は税さえ払えば何でも良いんですよ。」
最も、私は貴方の事は神官にしか見えませんがね、と付け加えた。
ありがとう…この姿で神官って思ってくれた人は君が初めてだよ……
俺は気分が良くなりジャックにある物をあげた。
「これは?」
「魔防の御守りだ。」
「魔防?」
「ああ、身に付けていれば一定以下の魔法が掛かった攻撃を無効にする事が出来る」
俺が創造魔法を使って魔力を不死身の能力の魔力で作った、マジックアイテム、とでも言うところかな?
俺は俺自身が魔法無効みたいなもんだから試した事は無いけど…
「そ…そんなものを…」
「だが、余りそれに頼り過ぎると強力な攻撃が来た時に死んでしまうからな、基本は回避して駄目な時に当たる位が良いはずだ。」
「あ、ありがとうございます!」
「さて、では早速この検問エリアを突破したいな…」
「はい!分かりました!直ぐに手続きしてまいります!」
ジャックは一人砦の中に入り3分で戻って来た。
許可は取ったらしく早速エリア96の入り口へと向かった。
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入り口は一段高くなった岩の山の隙間の様な所だった。入り口のサイズはアバナ村のダンジョンよりも小さな穴で1.5人分程の小さな穴だった。
「一階は攻略済みの様で今は安全地帯の様です。」
「そうなのか。」
早速中に入る、薄暗いが真っ暗と言う程暗くは無い、辛うじて辺りが見渡せる位だ。
しかし、そんな空間の中にテントが何十個もバラバラに設置されていた。
中には誰もいない様だ。
「どっちに行けば良い?」
「奥に進めば地下への道があると思いますよ。」
そう言われ奥へと進んで行くとテントが多くなってきて話し声や灯りがガンガンに灯っていた。
剣や弓、槍やロッド、色々な武器を持った色んな人が沢山いた。ただ、ジャックの様な世紀末スタイルの人間は居なかった……いても困るが…
俺がスタスタと歩いていると四人組のパーティー?や、二人組みの冒険者なんかに少し見つめられたりする。
テントや人の集まりを避けながら奥へと進んで行くとダンジョンの奥から大声で叫ぶ基地外が現れた。
「『雷剣』がエリアボスを発見したぞぉぉぉーーー!!!!」
「な、何…『雷剣』だって?」「…んだよ…また彼奴かよ…」「エリアボスはどうするんだ?」「知らねえよ、討伐隊でも結成されるんだろ?」「どんな魔物なんだ?」「何でもドラゴンだってさ。」「ドラゴン?マジか!俺も討伐隊に入れて欲しいわ!」「お前じゃ無理だな。」
先程まで余り騒がしく無かった場が急にざわつき始める。
「『雷剣』だって?」
「知っているのか?」
甘いな…男塾ネタはやらんよ…
「ええ、最近Aランクに上がった冒険者で、噂ではもう直ぐSランクに上がるとか…顔とかは見た事無いですが、何でも成人したばかりだとか…」
「ほう…」
それはかなり凄いんじゃないか?もしかして、チートなみの人だったりしてなw
「あとは、冒険者ギルド本部の直属の冒険者になったとか…あとは、回復魔法が使える剣士だとは聞いた事が有りますね…」
「へーそうなんだー」
そんな事より俺はアイテムが枯渇してそうな人を探す。
エリアボスなんて勝手に倒してくれ、そんな事より誰か回復薬買えや。
いや…まてよ…
エリアボスを倒す為に討伐隊が組織される→その為に武器やアイテムを購入する人が現れる→回復薬が売れる→儲かる。
コレだ!!
じゃあ、早速広く空いた場所に陣取る。
「ジャック。テント持ってないか?」
「?持ってますよ…」
「貸せ。」
ジャックが少しため息を吐いたが直ぐにアイテムボックスからテントを取り出し張ってくれた。
テントは思ったよりも大きく4畳はありそうな三角形のテントだった。
俺はテントの垂れ幕を上げて中に入り有るだけビーカーの様な形をした瓶を取り出した。まあ、瓶は無限に有るけどね。作れば良いし。
アイテムボックスから作り置きの回復薬(完全体)を取り出し瓶の中に1センチ程入れる。
その中に水魔法で満タンギリギリまで水を入れて薄める。コルクみたいな蓋をして完成。
ジャック(実験体)を呼び出す。
「何ですか?…えっ?ちょっ!ぎゃぁ!」
ナイフを取り出し腕に軽く傷をつける。ちゃんと許可は取った。それに助けを求めても無駄だ。『防音壁』済みだしな。
其処に先程薄めた、回復薬をぶっ掛ける。するとみるみる内に傷が塞がれた。
「か、回復薬の実験なら言ってくださいよ…何かの魔物に精神汚染を掛けられたかと思いましたよ…」
何か言っているが無視しよう。
早速、大量生産に取り掛かるからジャックを追い出した。作り方は教会特製だからな。余り見られて良いものではない。
俺は仮面を外し記憶眼を発動させる。オリジナルの回復薬を取り出し記憶する。それを元に創造魔法でマルコピ生産させる。10個程、オリジナルを作り出し全部瓶に移し先程と同じ様に薄めていく…
なに?手で一から作ると思った?馬鹿なの?掃除機が有るのに未だに箒使って掃除する学校並みに馬鹿だね?
暫く同じ作業を続け出来た回復薬は100個弱出来た。
俺は再び仮面を付け決意する。
……さて、売ろうか…
とは誓ったもののどう売れば良いか全く分からん……なに考えてんだよ俺…
仕方ない……
「おい。」
「はい?」
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「回復薬は要りませんかー?ポーションもあるよー」
俺はテントの中で回復薬とポーションを並べ客を待つ。外ではジャックによる客引きが行われている。俺は恥ずいからやらんよ…大体、ジャックには一万払うんだからな。それ位やってもらわんと困るわ。
「はーい、品質抜群の回復薬は要りませんかー」
む、ジャックの客引きが適当になって気がするな…
「回復薬要らんー?」
彼奴、シバいたろうか?
「あ、買われますか?どうぞ此方へ。」
あ、来たわ…
テントの垂れ幕を上げて入って来たのは二人組みの戦士風の男達だった。
「いらっしゃい。」
戦士二人は俺を見ると「え?」みたいな意外な顔をした。
「回復薬がご希望か?」
俺は取り敢えず回復薬かポーションか聞く、どうせ回復薬だろうけど。因みに、ポーションって魔力を回復する水だからね。ドラ◯エで言うところの魔法のせい水みたいな?
「ええ、回復薬は一つ幾らだ?」
あ、しまった…値段考えるの忘れてた……えっと…ギルドでは150チールだったから…
「50チールだ。」
「50チール!?たったそれだけで良いのか!?」
50チールでも結構高いと思うよ?だって玉ねぎ25個分だし…
「おい…そんなに安いと何かあるんじゃないか?」
もう片方の冒険者が俺の商品に疑いを掛ける。
「安心しろ。この回復薬は俺が作った。安全性も保証するし効果も保証しよう。」
実際にさっき試したしな。
だが、冒険者は余り宜しくない顔をした。仕方ないので絶対に安全と分からせないかんな…
「こう見えても私は教会の中でかなり上の方にいる人間だ。もしその回復薬が毒であったりしたならば教会に文句を言えば良い、絶対にそんな事はあり得んがな。」
そう言うと冒険者が相談し始めた。
「どうするんだ?」
「教会に文句を言って良いなら…」
「なら決まりだな。…済まんが10個くれ。」
「ああ、500チールになる。」
「これで良いか?」
冒険者は中くらいの銀貨、中銀貨を渡してきた。
「ああ、丁度だな。……ではこれが商品になる。毎度あり。」
俺は10個回復薬を渡した。冒険者は自分のアイテムボックスの中に二人で5個ずつ入れて礼を言って出て行った。
フフフ…これは良い調子じゃないか?
中銀貨を見て再び微笑む。
「回復薬は幾らで売ってるんだ?」
「ああ、いらっしゃい。」
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その後何十組みもやって来て最初の冒険者と似た様な反応をしてみんな大体10個ずつ買って言ってくれた。
グヘヘへ……もう5万チール稼いじまったぜ!俺、天才!!当分遊んで暮らせるじゃないか!!
ゲヘヘヘヘ!!
俺は少し同じ体勢に疲れたので外に一回出た。
すると外には殆ど誰も居なくなっていた。
座って寛いでたジャックの頭を叩きどう言う事か説明させる。
「ええ、ディラデイル様が回復薬をジャンジャン安く売りまくった所為でこの辺りの冒険者はみんなダンジョンの奥へと潜ってしまいましたよ。」
「そうか…」
だが、5万稼いだから中々良い様な気もするがな…
「そんな事よりディラデイル様、お腹空きませんか?」
「……そう言えば空いているな…」
「お弁当持って来たんですが食べます?」
ジャックがアイテムボックスからお弁当箱の様なものを取り出した。
「ほう…何が入ってるんだ?」
「ちょっと見た目は悪いんですけど、栄養満点のスライムゼリーと言う…「絶対に食わん!」
俺は全力でジャックを睨みつけた。アレだろ!?あの黄色いドロドロした奴だろ!?誰が2度と食うか!!
「そう言えばさっき討伐隊が結成されたらしく、もう直ぐやってくるそうですよ?」
ジャックは黄色い物を食べながら俺に話しかけて来る。俺は手作り(魔法)のおにぎりを食べながら話を聞く。
「ほう…一体どんなのが来るのだ?」
「さあ、分かりませんが、取り敢えずエリアボス発見者の『雷剣』は確実でしょうね。……後はSランクパーティーが一つ位付いてくると思いますよ。」
「ほう…」
思ったけど討伐隊ってどの位の規模なんだ?大きければ一人くらい回復薬買ってくれれば良いんだけどな。
「あれ?ディラデイル様、多分アレだと思いますよ?」
ジャックに入り口の方を指差され見てみると二十人程のかなり丈夫そうな防具や強力そうな武器を持った集団がゾロゾロと歩いてやってきた。
魔法使いも居るのか常に浮遊してる奴もいた。
そんな集団の先頭を歩くのが真っ赤に染まる赤髪に赤を基調とした青白い線が入った獣の鱗の様な防具を身に付けた顔立ちの整ったまだ少し幼くも見える青年が歩いていた。
「ディラデイル様、商売します?」
「……ああ、勿論だ。」
だんだんと近づくその集団の先頭と目が合った。
するとその青年は突然立ち止まりジッと俺を見て来た。集団も先頭が止まった為に立ち止まる。
ほぼ全ての視線が俺に集まった。
え?何?俺なんかした?
「…ディラ…兄?」
少し高い声が俺の名を呼んだ…こんな呼び方をするのは一人しか居ないな…
それにしても最近は展開が早いんじゃないか?
「……ああ、タッ君か…」
「ディラ兄!!」
少し背が伸びイケメンになったタッ君に抱き着かれる…何時からお前はホモになったんだ…アイナちゃんが悲しむだろ……
「え、その人…『雷剣』じゃ……」
ジャックがなんか訳の分からんこと言ってるが無視しよう。子供に抱き着かれるのは悪くない…………