ー第4話ー 『緑生物』
カタカタと揺れる馬車のなか俺は運転手に文句を言った。
「ジャック!まだ着かないのか!?」
「まだですよ!だから早く行った方が良かったんですよ!」
もうかれこれ三時間以上馬車に揺られている。辺りはもう陽が沈みかけていた。
「大体、エリア96は何処にあるんだ?」
「王都ロトムスから西南西に向かってシューラ王国領の街、リグルドから少し離れた所に有るので今はそのリグルドと言う街に向かってるんですよ。」
あかん……西南西…リグルド?シューラ王国?もうわけ分からん…
「ではそのリグルドにはあとどれ位なのだ?」
「少なくとも一時間ですかね。」
ぬぅん!!マジかよ!
じゃあ…寝てよっかな?
「寝るから、着いたら起こしてくれ。」
「はいはい。」
俺はその返事を聞いた後瞼を閉じて眠った。
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俺の名前はジャック・ハーレー。ひょんな事から報酬1万チールのクエストを受けちまった。この道10年のAランク冒険者だ。
で、依頼主は現在馬車の中で呑気に居眠り中だ…けっ!俺が運転してやってんのによ…
それにこの辺りの山道は魔物が出やすいからな…気は抜けなぁ命あっての金だからなぁ…
その時馬が突然怯え動きを止めてしまった。
「おいおい!どうした?動けや!」
手綱を引いて馬を急かすが動かない。
いや、違う!動けないのだ!
囲まれてる!?
「ギギギ…」
茂みの向こうから鳴き声の様な音が聞こえる。俺は神経を研ぎ澄まし敵の数を探る。
「ギギギ…」
「ギギ…」
「ギギギギギ…」
4…いや、5か?
その時横から石が飛んできた。
「っ!」
間一髪馬車を飛び降り躱した。
大剣を構え未だに姿を見せない敵に注意を置く。
チラリと馬車を見ると依頼主は未だに呑気にイビキ掻いて寝ていやがる…
糞…こんなプレッシャーの中でどんな神経してやがんだ………
魔物の威圧を感じる…
五つの威圧の中で一番大きな威圧が突如正面に現れた。
「ギギギ!!」
それは緑の皮膚に筋肉質の人型の魔物。
ゴブリン。
繁殖力が非常に高くクエストの中でも討伐依頼が毎日の様に存在する程かなり有名なEランクの魔物だ。
その知能は低いが攻撃力が強い事と人の真似をする様な攻撃も仕掛けてくる初心者にはかなり厄介な魔物だ…
それならば五体位俺でも一匹10秒掛からず倒せる。だが、此奴は違う…
「ギヒ…ギギギ…」
獣の皮に身を包み片手に棍棒を構えたそのゴブリンは至って一見すれば普通のゴブリンとなんら変わりないがそのプレッシャーが違う……
俺でも少し身を引いてしまう様なプレッシャー。
マジックゴブリン?プリーストゴブリン?ハイゴブリン?
俺は今まで出会ったゴブリンの強者をイメージする。だがそれは全て、このゴブリンとは全く異なっていた。
「ギギギ…ギヒッ!」
本能が危険を察知し俺の身体は後ろへ跳んだ。
次の瞬間、そのゴブリンの棍棒が地面に叩きつけられ小さなクレーターが出来上がっていた。
威力が…違い過ぎる!!
………まさかね…
俺は少し思い当たる節があった。
魔物は進化する。
突然魔物が凶暴化しやがて別の種に変化するという事を聞いたことがある。
このゴブリンはまさにそれだと思う。
だが、それにしたって限度がある…
まるでダンジョンレベルの魔物じゃないか……
準備もなしにこんな厄介な奴と殺り合うなんて…逃げるか?いや、逃げれるわけないか……
馬車の周りには此奴の他に後4匹少し弱いのがいやがる…
覚悟、決めるしかねぇな…
大剣を強く両手で握り締める。
「ギギギ!ギヒィー!」
目の前のゴブリンが合図の様に鳴くと横から別の2匹が挟み撃ちにする様に突進して来た。
俺は大剣を振り回し強力なゴブリンから一歩距離を置く
「ギヒィー!」
横から来たゴブリンの片方が無策にも正面から棍棒を振りかざしていたのでそれを躱し大剣で脚を斬り身動きを取りにくくさせる。
アイテムボックスから毒ナイフを倒れたゴブリンの首に投げ付けトドメを刺す。
俺の手持ちの武器は毒ナイフが残り二つと砥石、あとは食糧のみだ…
武器が非常に少ない。かなり不利だ……
いや、最初から不利だが…
「グギャー!」
また別の2匹が現れ背後から襲い掛かる。少し離れたゴブリンに目掛け大剣を投げ飛ばし倒す。倒れて空きが出来たスペースに身体を動かしゴブリンの攻撃をかわす。
ゴブリンの腹に刺さった大剣を引き抜き距離を置いて構える。一撃離脱だな。
だが、確実に一匹ずつ殺している…この調子なら!
「ギギ…ギギゴ!」
強力なゴブリンが謎の呪文を唱えると火炎の球が腕のギリギリを掠った。
次の瞬間背後の岩に被弾し岩は轟音と共に砕け散った。
「なんだ?どうしたんだ?ジャック?」
未だ寝呆ける依頼主が馬車の荷車から迂闊にも顔を出した。
「グビ!ギギ…ギギゴ!」
「しまっ…避けろ!」
「あ?」
しまった、完全に俺の誤算だった…まさか今起きてくるなんて……
ゴブリンの火炎の球が依頼主目掛け飛んでいった。
間に合わない…
俺は手を伸ばすが別のゴブリンに阻まれる。
ドオォォォンと言う轟音と共に依頼主は爆発し煙に包まれた。
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突然の轟音で目が覚めてしまい外に顔を出したらいきなり火の玉が飛んできた。
ジャックは緑色の生き物に囲まれながら何か叫んでいた。
だが、もう遅い。
「またコレかよ!!」
その言葉と共に俺の顔は弾け飛んだ。(様な衝撃を受けた)
…………熱い……ちょっとヒリヒリする…あの…日焼けしてお風呂に入った時みたいな痛さがある…
「……痛え…」
回復魔法を掛けながら状況を確認する。
ゴブリン見たいな緑色の生き物三匹と血を流して倒れる緑の生き物二匹、その中心には世紀末の男…なんだ?なんか召喚でもすんのか?
だとしたらしょうも無いのしか召喚されなさそうなんだが…
「逃げろディラデイル!!」
ジャックが大剣を構えながらそう促す。
無視。
状況的には多分、移動中にこのゴブリン見たいな超生物に襲われたって所だろう。
「逃げろ!!」
ジャックが叫ぶと向こうの魔力が少し高いゴブリンの様な生物がまた同じ火の玉を飛ばしてきやがった。
はっきり言ってノーコンだな。このままだと馬に当たってしまう……
それは困る!!
「魔法壁!」
咄嗟に魔法の壁で馬車全体に防御魔法を掛ける。火の玉は見えない魔法の壁にぶつかり消滅した。
面倒くせえ……
「おい!ジャック!馬車は俺が守るからさっさと殺っちまえ!!」
「へぇっ!?ちょまっ…」
呪文!防音壁!
この空間の音を聞こえなくする。
あー、なーにーもーきーこーえーなーいーー!!
馬車全体に外部からの攻撃は俺の魔力を越えない限り受け付けないし、音も聞こえない。正に無敵!!
ジャックがなんか、壁の向こうでなんか叫んでいる様だが何も聞こえないな!
頑張れよ!回復魔法なら何時でも掛けてやるから!
俺はジャックにグーサインをしてついでにウインクもかます。
まあ、仮面してるからウインクは見えないだろうけどさー
諦めたのかジャックが剣に力を込め一匹を真っ二つにぶった斬りやがった!てめぇ!心は高校生なやつにグロテスクなもん見せてんじゃねぇーよ!
まあ、見せられないよ!くらい、グロいもんだな…魚とか鳥ならまだ大丈夫だけど…流石に人型のは何か来るものがあるな……
そんな事はお構い無しにジャックが大剣を横に払いもう一匹を上半身と下半身に分断しやがった!!
やめろっ!これ以上は!臭いんだよ!!
なんか知らんけどこの緑の生き物、死んだらものすごい速さで腐敗が進んで臭すぎるんだけど!!
いくら俺でも、臭いを防ぐ魔法は持ってない……使えねえ魔法使いである…
すると俺に魔法をかましてきやがった緑生物とジャックが対峙した。
ゴクリ…
言ってみただけだ…
先に動いたのはジャックだった。
自慢の大剣を振り上げ緑生物の肩を狙って振り落とす。
緑生物はヒラリと躱し棍棒で横から殴りつける。
ジャックは振り下ろした大剣を無理やり押し戻し棍棒での攻撃を防いだ。
ガン!と多分鈍く大きな音がしたと思う。
二人同時に距離を取り緑生物が一気に詰め寄り棍棒を振り下ろす。
ジャックもそれを寸での所で大剣で防ぐ。
少しジャックが地面に沈んだ。
ジャックが大剣を押し返し緑生物を弾いた。
しかし、緑生物はよろけながら魔法を発動させ炎の球をジャックに飛ばし自身は尻餅をついた。
ジャックは油断していたらしく大剣で炎を受け止めてしまった。
その瞬間、大剣は火の玉により大きく湾曲しとても使えそうではなかった。
ジャックは咄嗟にナイフと投げ付けるが棍棒によって叩き落とされた。
ジャックの大剣は刃が溶けてしまい完全にただ無駄に縦長の鈍器になってしまっていた……
いかんね…完全にジャックが不利になったね。
人間は武器が無いと動物には敵わないからね…素手でましてや、魔物っていう動物の壁を超えてる生き物に素手で倒せる訳がない、魔法か武器が絶対必要だ…
誰だ今、「ゴッド◯フィンガーで魔物倒してただろ」って言った奴、ちょっと来い。
……まあ、何だ、ジャックは攻撃系の魔法が少なくとも無い筈だ。
つまりジャックは絶対絶命の大ピンチって事だな……
!!じゃあ、ヤバいやん!
何か武器になる物は……
あ?自分で戦えって?ヤダよ、面倒くさい。
お?
アイテムボックスから出て来たのはシンプルに真っ黒で巨大な諸刃の剣だった……
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「見よっバンシィよ!!」
「ああ?何だよ…」
おっさんは真っ黒で巨大な諸刃の剣を掲げていた。どうせまた、しょうも無いもんでも作ったのだろう…
「今度は完璧じゃ!我が手打ちしながら魔力を流した、魔力樹無しの魔剣じゃ!」
「……魔力樹使ってなかったら魔剣とは言わんだろ……」
「…………じゃあ、魔印剣?」
「何だそれ?」
「今我が考えた新たな剣じゃ!剣に魔印を押して魔力を流す事で魔剣の様な能力を持つ様になる剣じゃ!」
えっへんと年的に駄目なおっさんが踏ん反り返る。
年考えろよ…歳を……
「で?一体どんな能力なんだ?」
「良くぞ聞いてくれた!……実はの…この剣、我の能力と同じ様に不老の能力が掛けられておる!」
「ほう…つまりどういう事だ?」
「この剣は研がなくて良い、ただ剣として扱うだけで自動的に斬れ味が保たれる長期戦にも有利な大剣じゃ!」
へー、どっかのモン◯ンで回避すれば研がれる武器があったな……
それとこれは関係ないが…
「で、それはおっさん、使うのか?」
「……………」
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……結局おっさん使わねぇなら俺が貰うわとか言って結局俺も使わなかった代物だったな……
その名も『不老剣』!
おっと…回想に入っていたらいつの間にかジャックが地をゴキの様に素早く移動しながら緑生物の攻撃を躱し続けていた。
……フフフ、すまんな…
俺は『防音壁』を解除し叫んだ。
「おい!ジャック!!これを使え!!」
真っ黒な大剣を刃のついた方から思いっきりジャック目掛けてぶん投げる。
ジャックは声も出せずに地面を転がって俺の大剣攻撃を躱した。……此奴…逃げ足だけは赤い彗星だな…
「何しやがるんだ!」
「すまんな、さっさと倒せ。」
全力で抗議してくるジャックを無視してさっさと緑色の謎生物を倒す様に促す。
「………わーたよ!」
ジャックがその剣を手にした数十秒後、緑生物ば四肢を裂かれギッタンギッタンのバッラバラに解体された……
か…覚醒しやがった……
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「………一つ言い忘れておったが…『不老剣』を手にすると帝級呪が掛かって肌身から離せなくなる代わりに、身体能力が向上するからかなりましに使えるとは思わんか?………んん?バンシィ?」
剣をしまった後、バンシィは海へと遊びに行ってしまっていた……




