ー第3話ー 『大魔王ティー・ターン・アムリタ』
…………はぁ……
「……大魔王様。人族の領地に攻撃を仕掛けたいと思います。御許可を頂きたい。」
………はぁ……
「大魔王様!!聞いておられるのですか!?」
赤と黒のコートの様なものを羽織った赤髪で頭からは小さな角が生えている若い男が豪華な椅子に怠そうに座る黒いコートの様なものを着たおっさんに怒鳴る
「聞いておるわ…グリム……」
黒いコートのおっさんは死んだ魚の様な目で答えた
「では、御許可を頂きたい。」
おっさん大魔王は疲れた様な顔でグリムと呼ばれる男に聞いた。
「……グリムよ。もう人間に攻撃するのを辞めにしないか?」
これを聞いたグリムはムスッとしていった。
「何故です!!人間は我ら魔族の敵!滅ぼしてやりましょう!!」
それを聞いたおっさん大魔王は呆れた顔でいった。
「……これだから餓鬼は……あのな?グリムよ人であれ我ら魔族であれいずれは死ぬのだ……戦って寿命を短くして何になる?………」
やる気の無いおっさん大魔王に対しグリムは遂に怒ってしまった。
「『不老』の大魔王が何を言うか!!貴様が一番死など関係無いでは無いか!!」
「『不老』であるから分かるものもあるのだ!!!!!」
おっさん大魔王が怒鳴り返し真っ赤に輝くルビーの様な目をカッと開く。
「……グッ…」
グリムがそれにたじろぎ平伏する
「申し訳ございません。怒りに任せご無礼を……お許し下さい……」
それを見たおっさん大魔王は軽く舌打ちをし足を組んだ。
「……もういい、兎に角人族に攻め入るのは無しだ、ただし、攻められた時には迎撃しても構わん。退がれ。」
「はっ!!」
グリムは立ち上がり赤絨毯の上を歩き大きな扉を開け出て行った。
「……はぁ……やはり、餓鬼を魔王にするべきでは無かったな……血の気が多いし面倒くさい……大体我は寿命が無いだけで首切られたら死ぬわ……馬鹿か…………」
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我は第8代目大魔王『不老』のティー・ターン・アムリタかれこれ300年は生きておる……
我ら魔族は人族と対立しておる…我が大魔王に即位してからは戦争なぞ、しない様にしてきたのだがな……我は大魔王だからな、政治とか統制とか外交とか何もせんで良い。我の下で頑張ってやってる魔王が居るからな……
因みにさっき我にキレやがったカスは第9代目大魔王候補の現魔王のファランド・グリム・ドワフールと言う奴だ。大魔王候補ってのはアレだ……我が死んだら奴が大魔王になるから候補だ…もとい我は『不老』の称号を持つものだからな何もされなければこのまま永遠に我のままだがな…
正直我…もう死にたいと思っている。理由は我がこの『不老』を手に入れた時に掛った神級呪だ。
神級呪と言うのは絶対に解くことの出来ない呪だ。神級の下の位、帝級、王級、上級、中級、下級、初級は解く事は出来るのだが神級だけは絶対解けん……
その神級呪が我には三つも掛かっておる………
一つは『称号の呪縛』…これはこの『不老』の称号を取り消す事などが出来なくなる呪いだ…これはまだ良い……
二つは『大陸の呪縛』これは本当に舐めておる!この呪は我が今いるこの大陸ブゥルムンドから一歩も外に出られなくなる呪だ……海に足をつけようとしたら足が勝手に戻ってしまうのだ……
三つ……これが我の最大の理由だ!『永久の死』…名前を聞くだけだと我が死に続ける呪の様に聞こえるが実はこれ『永久的に死を見続ける呪』だったのだ!!
どうゆう事かというとな、我がのほほんと生きておるとするだろう?そこに突然の死の報告!親しかった友が亡くなってしまった。それはそうであろう生き物全ていつかは死ぬのだから、だが我は『不老』故死なぬ、つまり、我は親しくなる者の数が多くなれば多くなるほど別れを惜しまなければならんのだ!!
つまり我は友も作れんのだ!死んでしまうからな!!
と言う訳で我はやる事も無くなる……友は居ない。故に我は自ら命を絶とうと思う。
恐らく我が居なくなればグリムが真っ先に人族を滅ぼしに掛かるだろうが……それも、時の流れと言うもの……下手をすれば、『勇者』なる称号を持つ者が現れるやも知れんが我は知らん……勝手に魔族でも人族でも滅んでしまえ…………
我は立ち上がる。そしてこの大陸で最も美しかった場所で死のうと思う……
…………転移!!
大魔王が目をカッと開きその瞬間姿が消えた。
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ふむ、相変わらず美しい景色だ……
視線の先には透き通る様な海が広がっていた。
………せめてこの美しい海の中で死にたい……
そう思い大魔王は一歩、また一歩と海岸に近づいていった。
そして海の水が足の先に当たるギリギリの所で止まった。
…………行くぞ。
大魔王は決心し足を前に進める為足を上げる。そして、前に下ろそうとした瞬間その足は引っ張られる様に浜に戻された。
「…………くそおぉぉぉぉう!!!!!!!」
大魔王は血の涙を流し(注:流して無いです)発狂する。
「分かっては、おった!!!分かっては、おったが!!!最後位浸からせてくれエェェェぇ!!!!!」
その時300年前に聞き覚えのある声が聞こえた。
《神級呪の特別能力が発動します。呪『永久の死』を入手した者が確認されました。これにより『大地の呪縛』の効果が縮小されました。『永久の死』を持つ者の拠点となる大陸での行動が可能になりました。》ーーーーーー
何だと!!神級呪にはそんな能力があったのか!!行動範囲が広がるだと!!しかも我と同じ『永久の死』を持つ者が現れたのか!!
命を絶つのは辞めだ!!会いに行こう!!仲良くならねばならん!!
我の転移は万能だ大陸中何処へでも行ける。そして行動範囲が広がった大陸へも行ける気がする!!行くぞ!!
転移!!
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ここは知らん場所だな。
大魔王は辺りを見回す。
ん?此奴か?見るからに人間だな……クックロイの丸焼きまで持ちよって……貰えないかの……
……いいや、違う。そうじゃ無い先ずは此奴が呪を持った者か聞かねばならん。……なるべくフレンドリーに話しかけねば……
グリム以外の奴と話すのは30年振りだな……
大魔王は軽く深呼吸をする。
「お前が、『永久の死』を手に入れた者か?」
やってしもうたァァァァァァーーー!!!!!
フレンドリーじゃ無いぞ!我!!こんな事言われたら我だったら真っ先にぶん殴っておるわ!!我の馬鹿!!
振り返った人間はそこそこの顔の男だった。(かっこいいとは言ってい無い)
誰だよこのおっさん……どっから出てきたんだよ……しかもさっきからこのおっさん俺の持ってる鹿の丸焼きにばっか目がいってるしよ……
「確かに俺が『永久の死』を手に入れた……ましたけど?」
って言ったら、おっさんが俺の手を取って泣き始めた。………キモい。
「おぉぉぉ!!お前だったか!!嬉しいぞ!!同じ『永久の死』を持つ者同士仲良くしようではないか!!」
「……は、はぁ?」
「お前は何の称号を手に入れたのだ?もしかして『不老』か?」
「……いや、『不死身』ですけど?」
不死身って言ったらこのおっさん目を大きくして驚いた。
「『不死身』だと!!凄いではないか!!……すまんが、一発殴らせては貰えぬか?」
は!?ちょっ!おっさん何言ってんだよ!!初対面で殴るって何よ!!
「…………おぉ、すまんな、『不死身』と言うのがどれ程の力が有るのか試してみようと思うてな。初対面の者にいきなり殴られるのは癪だな。……今更だが、我の名はティー・ターン・アムリタ。第8代目『大魔王』である。」
「……はっ!?大魔王!?」
待て!大魔王って!一番ヤバイやつじゃん!!死ぬよ!!死ぬって!!
「……?お前、まさか、『不死身』の能力を知らんのか?」
あれ?このおっさん今俺の心読まなかった?
「……読んでおるぞ、ただ、お前の『不死身』によってほんの少ししか聞き取れんがの。」
読んでるよ!!モロ読んでるよ!!
「……仕方ないのぉ…『不死身』と言うのはな、自ら受けるダメージをほぼゼロにすると言うクソ能力じゃよ………今更じゃが、お前、魔族の言葉が分かるのじゃな、変わった人間よの。」
ん?ほんとだ、よく聞いたらこのおっさんが喋ってる言葉って日本語じゃないじゃん!何語?これ?え、あのドラゴンぱねぇ!先生って呼ばせて貰おうかな!
「……ドラゴンに教えて貰ったんだよ。」
「……ほう、そうなのか、ドラゴンか……となると、天龍族だな……ん?」
大魔王は上を向いて考え始める。
「もしかして、じゃが、お前そのドラゴンと言うのは『族王』ではなかったか?」
んー……そんな事も言ってた気がするな……
「成る程の……となると此処は裏世界じゃな。えげつないところに来てしまったものじゃ……」
あ!また心読んだな!クソ!!
「仕方ないであろう、『大魔王』の特権なのだから、それにしても、お前一人か?」
「……一人だよ!」
心を読まれる前に喋ってしまえ!!
「…ドラゴンには此処であったのか?」
「そうだよ!」
「……そうか、ならば此処は裏世界最大の大陸で間違いないな……」
おっさんがそう呟くとジワジワと嬉しそうな顔をし始めた。
「我は自由だぁァァァァァ!!!!!!!」
突然手を上げて喜びだす。
びっくりした!ドキュンかよ!!
「お前!!名は何と申す!?」
「……バンシィ=ディラデイルだ。」
「バンシィか!バンシィよ!我の事はティーでもターンでも、アムリタでもおっさんとでも好きに呼ぶと言い!!これから仲良くしようではないか!!」
おっさんだな…
「我はこれから毎日此処へ遊びに来るでの!よろしく頼むぞ!バンシィよ!」
「お、おう。」
「聞きたい事があれば何でも好きに聞くといいぞ!!何でも答えてやる!!分かる範囲でな!」
「お、おう。」
「では、我は今日の所は帰らせて貰おう。そろそろ魔王の奴が槍を構えて待っていそうだからの。ではまたの!!」
その瞬間おっさんは消えた。
…………俺、大魔王と仲良くなったの?
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「どういう事だ!?」
「『神託』が取り消されただと!?」
とある王室の一角で貴族風の男達と魔法使いのような者達が慌てていた。
「では、『勇者』を召喚しなくても良いと言う事か!?」
「そのようです。」
「どうやら、何かの間違いでしょう。神にも誤ちはございます。」
神官の格好をした老人が貴族を宥める。
「むむむ……国王陛下は勇者召喚の為にかなり服装に悩まれておった……今更無しと言うのはな……気がひけるぞ……」
一人の貴族が頭を抱える。
「もう良い……国王陛下には私が伝えよう……皆の者は各国に通達せよ。勇者召喚は無くなったとな……」
一人服が豪華な貴族が他の貴族に言う貴族達は頷くと王室の様な豪華な部屋から出て行った。
「………各兵、騎士達にも伝えよ、持ち場に戻れとな………」
「御意。」
魔法使い達は揃って消える。
豪華な服の貴族は頭を掻き溜め息をつきながら部屋を後にした。
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転移すると案の定待ち構えておったわ……
「大魔王様何方へお行きになっておられたのですか?」
「……少し海を見に行っておった。」
グリムは紅い槍を構え顔が引きつりおった。
「左様でございましたか……では、私に大魔王の席を譲っては貰えませぬか?」
どうしてそうなるのかは知らんが此奴は一月に一度こうして我の所に挑みに来ては大魔王の座を譲れと言ってくるのじゃ。答えは決まっておる。この様な青二才に大魔王の座を譲るものか……
「答えは決まっておる……手に入れたくば、我を倒してみよ。」
「その言葉を待っていた!!」
グリムはその言葉と同時に槍を構え我にかなり速い速さで突きを放って来る。
我は槍を横流ししグリムの顎を一発殴る。
するとグリムはそのまま気絶してしまった……
ふむ、やり過ぎたの……
邪魔なのでとっとと外に捨てるとしよう。
我は浮遊魔法の応用をグリムにかける
グリムは浮かび上がる。
我は手を横に払うとグリムは勢い良く横に吹っ飛んで行った。
壁が壊れる外の窓が割れる。グリムは我の浮遊の力を失い下に落下する。
因みに此処は100階じゃ……
なぁに安心せい。この様なので死んでは魔王は務まらんよ。
こんな事を毎回続けておった所為でいつしか我には『無敗神話』なる称号を手に入れてしもうたのだよ…余談だがな。
さて、我はもう寝るとするかの……明日の為に……
(注:現在昼の一時です。)
我は転移をしベッドに転がり眠った。