ー第7話ー 『不死身』先生になる。
「貴様、一体此処へ何しに来た?」
さて、何でこいつが居るのか俺にはサッパリだ、昨日会った人間と次の日また会うとか、世間って狭いな。
「聖神官マック・アルバ様に御用が会って参った。マック・アルバ様は居られるか?」
俺は相手にするのも面倒くさかったのでスルーして要件を言う。
「何方かな?私に何か御用ですか?」
不意にウザ男の背後から現れたのはウザ男とはまた豪華な白を基調とした純白のローブを着こなし落ち着いた顔付きの白髪の老人が現れた。マック・アルバ様だね。ウザ男と違って穏やかなお方だった。
俺は右手をお腹の位置に当て左手を背後に回し25度の角度でお辞儀をする。神官、この世界の貴族とかも使う礼儀作法の1つだ。ただし、目上の人のみに使うお辞儀だ。目下には軽く会釈で良いらしいよ。
俺はお辞儀をして要件を言った。
「私はディラデイルと申します。この度は我が師、聖神官ガードラ・トトフ様より聖神官マック・アルバ様へのお手紙を預かった次第で御座います。どうぞ、此方がお手紙です。」
俺はローブの下のアイテムボックスから手紙を取り出しマック様に手渡した。
「では、拝見します。」
マック様は手紙を暫く読むとまた綺麗に折り畳み胸にしまった。
「確かに受け取りました。ではディラよこの度の聖神会についてお話し致します。どうぞ、中にお入り下さい。」
そう言ってマック様は教会の中に入って行った。ウザ男に少し睨まれたがスルーして俺は軽くお辞儀をして教会の中に入った。
聖堂を抜け更に奥に行き階段を上がり茶色の扉を開き中に入ると執務室の様な所だった。
マック様は椅子に腰掛け机の上に紙を広げた。見ると日程表の様なものだった。
「これは聖神会の日程でな、聖神会は2日掛けて行う。1日目に魔法技術、呪解技術、魔力持久力を競う、一種目につき優勝すればそれなりの報酬が貰える。そして2日目は一対一での戦闘を行って貰う。これはトーナメント制で優勝すればその師の名誉が上がり一回戦で負けてしまえば師の名誉に傷が付く。そして、仮に全ての種目、戦闘全てを優勝した者には『特級神官』の称号を贈られる。」
神官なのに戦闘する必要あるのかな?別に良いけどさ。
「日時は聞いておると思うが10月7日、場所は此処から王城を挟んで反対側の闘技場に朝の10時に集合です。分かりましたか?」
闘技場、10時ね。
「はい。分かりました。」
「それでは聖神会については終わりです。それまで自由にしていなさい。宿は決まっていますか?決まっていなければ私が紹介しましょう。」
「いえ、大丈夫です。」
「そうですか、ならもう良いですよ。」
「はい。失礼します。」
俺はさっさと教会を出て王都を散策した。教会の周りは豪邸ばかりで何も無いので俺は豪邸と民家が隣合わせで並んだ境界線を抜け外回りの方を散策した。そこには屋台やら雑貨屋やら薬屋やら何やらが立ち並びそれに合わせて馬車や人が多く動いていた。暫く散策していると公園の様な中心に噴水がある広場に出た。俺は広場のベンチに腰を掛け脱力した。
広場には小学一年位の小さな子供達が走り回って遊んでいた。その中のやんちゃな男の子が細い木の枝にぶら下がり遊び始めた。枝は今にも折れてしまいそうでっ!
折れた!
男の子は真っ逆さまに枝と共に落下し地面に叩きつけられた。
男の子は起き上がらず周りで遊んでいた子供達もその子の周りに集まり始めた。
俺は立ち上がりその子に駆け寄った。男の子は意識がなく腕が曲がり折れていた。恐らく落ちた際に手を付いたんだろう。
「タッくん大丈夫!?」
近くで遊んでいた子供が倒れた男の子に声を掛けた。
俺はタッくんと呼ばれる子に回復魔法を掛けた。
「おぉ〜」
周りの子供から驚きの声が漏れた。
タッくんの腕は力の抜けた骨からいつもの固い骨に戻った。ついでに擦り傷、虫歯も治したするとタッくんは目を覚まし突然起き上がった。
キョロキョロしながら辺りを見回すと俺と目が合い暫くジッと見られた。
「…仮面……あんた誰だ?」
目が覚めた第一声がそれかよ、ませてんのか?すると周りにいた女の子が言った。
「タッくんあのね、この人がタッくんをなおしてくれたんだよ?」
タッくんが女の子を見る。俺も名乗っとこうかな。
「私の名前はディラデイル、神官をやっている。」
「神官?」
タッくんが明らかに嫌な顔をする。アレか、どうせ金取るのか?だろ。
「安心しろ、金は取らんよ。」
「あっそう。なら良いんだけどよ。」
タッくんがふてぶてしく答え立ち上がる。俺も特にもう用は無いので立ち上がりその場を離れ様とした。
「あっ、あの!」
「ん?」
タッくんに話してた女の子が俺を呼び止める。女の子はもじもじしながら小っちゃい声で言った。
「あの…神官さんの魔法を教えてくれませんか?」
「え?」
何この子、初対面の年上に魔法を教えて下さいって……俺だったら絶対しないよ…
「あの…私…も神官さんみたいな魔法を使いたいです…教えてくれませんか?」
……え…積極的なのか、果たしてただ魔法使いたいだけなのか……いや、教える分には俺は別に良いんだよ、どうせ暇だし…
ふと、周りを見ると他の子達もジッと俺を見ていた。
困るよ…そんなにつぶらな瞳でみんなして見つめないで……
「良いですよ、教えましょう。」
「本当ですか?」
「ええ、本当ですよ」
そのつぶらな瞳はやめて欲しい…俺のメンタルが持たないよ…小っちゃい子って可愛いよな。ロリコンじゃ無いぞ?なんて言うの?愛くるしい?
女の子はパアッと顔が明るくなり嬉しそうにニコニコしてきた。
すると、急にハッとなり頭を下げた。
「私、アイナ・フェルトゥーレと言います。よろしくお願いします。………先生?神官様?」
ピコっと首を傾けて聞いてきた。
「……先生で良いですよ。」
「はい!ディラ先生!」
ディラ先生……ディラ先生……ディラ先生……
「せんせー、僕も魔法使いたい!」
「あっズルい!僕もー!」
「私も!」「俺も!」…………
俺が優越感に浸っていたら周りの子供達も何かワイワイと群がって俺の周りに集まってきた。
やめろ!これ以上駄目だ!俺のニヤけが出てしまうでは無いか!!
「良いぞ!じゃあ、みんなでそこに整列!」
「「「「はぁい!」」」」
……可愛い…
一列に並んだ子供はアイナちゃんも入れて8人だった。それぞれ男子5人女子3人だった。
ただ、男の中にタッくんは居なかった。後ろを振り返るとタッくんが睨み付けてるのかも知れないが俺との身長差で上目遣いにしか見えないが兎に角タッくんが俺の事を見ていた。
「タッくん、君は良いのか?」
「俺は冒険者になるから回復魔法何て必要無い。」
何故か強がるタッくん
「冒険者か…冒険者でも怪我をした時に回復魔法がいるんじゃ無いか?」
「それは…いるかも知れないけど……」
「よし、じゃあ、やるぞ!」
俺はタッくんを無理やり抱き上げ一番先頭に立たせた。
俺は側面に移動し子供達が横並びになる様に俺が移動した。
「よし、じゃあ魔法はどうやって使うか知っているか?」
「はい!せんせー」
俺から見て右から二番目のオレンジ色の髪の男の子が手を挙げた。
「はい、君名前は?」
「ランバ・ウェーテェフです!」
「ではランバ君、魔法はどうやって使うの?」
「まりょくを使って使います!」
「そうだね、正解だ。回復魔法も同じで魔力を使って回復させます。」
子供達はジーと静かに聴いている。
「回復魔法は魔力を相手に包み込む様にしてそこでその人を癒してあげたい、そんな気持ちで魔力を相手にかけると魔力はそれに答えてその人を癒してくれます。」
子供達はみんな首を傾げる。まあ分かんないとは思ったけど、これは俺の感覚でやってて別に回復魔法もそんな癒しの気持ちとか無くても使える。それは詠唱をすれば良いだけ、俺が今説明したのは無詠唱でのやり方なんだな、これが!
「それでは回復魔法の一番簡単な魔法、『ヒール』を教えます。こうやって言います。」
俺は子供達の間を通り近くの木の幹にナイフで傷を着ける。
「傷付き者を癒し給え…」
そう唱えると傷が付いた幹が緑の光に包まれみるみる元の姿に戻った。
「「「「おぉ〜」」」」
パチパチと子供達が手を叩いてくれた。
俺はもう一度木に傷を付け子供達を見た
「よし、じゃあアイナちゃんやってみよう。」
「は、はい!」
テケテケ歩き木の前に立ちアイナちゃんが詠唱する。
「傷付き者を癒し給え」
するとほんの少しではあるが傷の部分に少し緑の光が掛かり傷がほんの少しだけ戻った。
俺は手を叩いてアイナちゃんを褒めた
「凄いぞ!初めてでこれは凄い!上手だよ!」
「本当ですか?」
「ああ、凄いぞ!アイナちゃん!」
それを見ていた他の子もやりたいやりたいと口々に叫び始めた。
「よし!一人ずつやって行くんだ。順番だぞ!」
「「「「はぁい!」」」」
一番に並んだのは薄緑のロングヘアの女の子だった。
「君の名前は?」
「メル・キューリフです!」
「よしじゃあ、メルちゃん、やってみて。」
「傷付き者を癒し給え」
傷は治らなかったが、魔力が流れたのは見えた。
「良いぞ、もっと練習すれば絶対できる様になるぞ!」
「本当に?わぁい!」
そう言って最後尾に並んだ。
次に来たのは黄色の髪の何かウサギみたいな女の子だった。
「名前は?」
「ニーナ!!」
「うん、元気でよろしい、じゃあニーナちゃんやってみるんだ。」
「傷付き者を癒し給え!!」
「うお!」
傷の付いた幹が一瞬で回復してついでに地面に生えてた草まで元気になり青々しく綺麗になった。
……この子……出来る!!
「凄いぞ!!回復魔法の天才かも知れないぞ!!」
でも、待っている子も居るので俺は後ろに並ばせた。
もう一度傷を付け次の子を見た。
茶色の髪の少しぽっちゃりした男の子だった。
「名前は?」
「ザンバ・ロービィスト」
「よし、ザンバ君やってみるんだ。」
「傷付き者を癒し給え!」
特に何も起こらなかったが地面の土が僅かに反応した。多分、回復魔法じゃなくて土属性の魔法が使える様になる筈だ。
俺はザンバ君を俺の横に座らせ一旦全員見るまで待たせた。
次の子はタッ君だった。
「タッ君やってみるんだ。」
「タウリス・カリア……」
「ん?」
「俺はタウリスだ!!」
「そうか、じゃあタッ君やってみるんだ。」
俺は一度呼んだ名前は曲げないぞ!
タッ君はムッとしたが詠唱した。
傷の周りに光は包んだが回復までは至らなかった。
「うん、良い線いってるぞ、練習すれば出来る様になる。」
「そうか。」
そう言ってさっさと列に戻った。次に来たのは黄緑色の髪の男の子だった。
「名前は?」
「デュメス・カッターだよ!」
「ではデュメス君やってみるんだ。」
デュメス君は詠唱を唱えるが何も起こらなかった、しかし、詠唱時に少し風が強く吹いたので多分風属性の魔法が使える様になる。回復魔法は向いてない。俺はデュメス君をザンバ君の背後に並ばせた。
次に来たのはランバ君だった。
「ランバ君いいぞ、やってみるんだ。」
詠唱を唱えるがこれも何も起こらなかった、俺はザンバ君の背後に並ばせた。
次の子はネズミ色の髪の少し暗い男の子だった。謎っ子みたいな雰囲気もあるね。
「名前は?」
「ノア・イグザ……」
「ノア君、やってみるんだ。」
ノア君が詠唱をした瞬間一瞬だけ俺の身体が吸い込まれる様な感覚に陥った。そして、傷の部分は少しだけ戻っていた。
………何だったんだろ…今の感覚…
「良いぞ、もっと練習すればもっと良くなるぞ!」
次の子は少し出っ歯のピンクの髪の男の子だった。
「ギノ・キュニフです、ニシシ。」
ギノ君はニシシと変な笑い方をした。
「やってみるんだ。」
「傷付き者を癒し給え」
傷は一瞬で元どおりになり何か木そのものが元気になった様な気がする……
この子も…天才!?
「天才か!?君も天才なのかもしないぞ!」
俺がそう言うとギノ君は相変わらずニシシと笑った。