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第四話『大魔王の溜息』


はぁ………


「大魔王様、此方が今回の定期報告書になります。」


「ご苦労。下がって良い。」


「はっ。失礼いたします。」


部下から受け取った報告書を眺め、肩の力を抜いた。

お世辞にも座り心地が良いとは言えない、黒曜石でできた玉座に身を任せ、息を吐く。


大魔王軍に属する配下の魔王十四柱。

それらを監視する私の直属の部下『暴君の使徒(フレストス)』が定期的に送る報告書を目にし僅かに苛つきを覚える。


誰かしら、こんなモノを提出する様に取り決めたのは……

各魔王の動向がわかるとはいえ、面倒で仕方がないわ。


最近は侵略戦争を続けたからか対抗勢力も減り、領土の安定化に努めさせてはいるが、交戦的な魔王どもが配下だ、やれ戦争だ、次の侵略地はと、あと先考えずに意見だけ述べる内容の報告書ばかり……嫌になっちゃうわ。


確かに、大魔王軍の最終目的は『世界征服』。


だけど、どんなに強力な武器を持っていたとしても、貧弱な足場ではそれを最大限に活かすことはできない。

少し考えれば分かる事を、この魔王どもは理解すらしない。


兵站を強固なものにしなければ、その戦場はすぐに崩れる。何度言えば分かる様になるのかしら……


これだから悪魔は…………


ふと、第十四席の魔王を受け持つイーチェの報告書が目についた。


内容はまた(・・)、かの怠惰の魔王が、与えた兵力を全て全滅させたとの報告。


悪魔の中でも珍しい『怠惰』を司る悪魔の王。

『怠惰』の魔王 フクロウ


私がこの世界に生まれるよりも、遥か太古から生きる長命の魔王。

遥か昔から生き今もなお滅ぼされる事なく生き続けるその悪魔は、文字通り怠惰であり、何もしない。


何が目的で、何が楽しくて生きているのか理解出来ない。……そんな存在だ。


こいつに兵を与えると、毎度全滅させてくる。

なんでこんな奴、大魔王軍に入れたのかしら、先代の大魔王の考えが本当に分からないわ……。


とは言え、彼に仕える二人(・・)の悪魔だけでも、軍に匹敵する強さを誇り、それこそ彼らは未だ『魔王』には至っていないものの、実力は野良の魔王を遥かに凌ぐその強さは十分に認めている。

______やっぱり、彼らは何も与えず放置で良いかしら……


でもそうすると、困った事に対抗勢力が彼らの領地を素通りして攻めて来ちゃうのよね……世知辛いわ……


「大魔王様ッ!緊急でお伝えしたい事が!」


「……なに?」


バタン!と扉を開けて慌てて入ってくる無作法な部下。

寛大な私はそれを見ても、軽い溜息で止め肘をつき顎を乗せてそいつの言葉を待った。


「______はっ。第十三席『髑髏』の魔王が、フクロウを名乗る人間に、撃破されたとの事!」


「なに……人間だと?_____間違いでは無いのか?」


この悪魔の世界に、人間が訪れる事はさほど珍しい事では無いが、魔王が人間に倒されると言う話は前代未聞だ。

悪魔と人間には、言葉では表現出来ないほどの能力差が存在する。

それを覆して魔王を倒すとなると、かなりの対策をする必要が出てくる。


「はい。髑髏の魔王ウィ本人が間違いないと……」


「ちっ……そう、そのフクロウなる人間の目的は?」


「目的は不明です。ですが、その進行方向から予測すると、目的地は第十四席『怠惰』の魔王領、『寝殿』かと思われます。」


なんという偶然か、丁度進退を考慮していた魔王の領地か。

______兵は……必要ないかしらね。


「ならば良い、そのまま『怠惰』の魔王に迎撃させろ、そこを突破されたら対策は追って考える。放置で良い。」


「はっ。では、イーチェにはそのように連絡致します。」


足早に退場する部下が扉を閉めると、静寂に包まれる。


_____何故かしら、やけに胸騒ぎがするわ……この感覚………一体なんなの………


大魔王は、いずれ訪れる嵐を感覚的に予感していた。




***




イーチェは、憤りを覚えながらも、その怒りのやり場も無く、怒りとストレスが溜まりに溜まっていた。

元より悪魔は自分勝手な存在ではあるが、それにしても限度があると。

同じ悪魔であるが、とても同種とは思いたくないと。


それも当然、彼と彼女では魂の在り方が違う。


怠惰に憤怒。


どう足掻いても、永遠に分かりあうことはできないその関係。

一方は当たり散らし、一方は無関心。

その正反対の在り方は、互いが手を取り合う事を完全に拒否している。


憤怒を司る彼女____

イーチェは、監視対象である『怠惰』の魔王を、いかに消滅させるかを試行錯誤していた。


初めは拳で分からせようと試みるが、その圧倒的防御力を前に心を折られ。

次に刃物を用いその首を狩ろうと試みるが、当然その刃は皮膚を傷付けることもなくへし折れる。

時には燃やし、時には爆破。

ある時には敵魔王を誘い込み、戦闘に持ち込みを試みるが、まさか魔王以下のクラスの部下一人が出張り迎撃されるとは思いもよらなかった。


全てが無意味に終わり、なんの成果も得られない。


そんな時、敬愛する大魔王シロンからの命令が届いた。


「第十三席の魔王を撃破した人間の迎撃……」


内容は、怠惰の魔王領内でそれを撃破せよとの命令。

手段は問わず。


………これは……いけるか?


幸いにもその人間の進路は、真っ直ぐ此方に向かって来ている。

ならば、誘い込む価値はある。

そして、怠惰の魔王の実力を見せてもらおうじゃないの。


いつまでも、ベットに寝転がり眠り続ける怠惰の魔王を見下ろしながらも、イーチェは良い作戦が閃き、細く笑みを溢した。




(バンシィ)は直ぐそこまで迫っていた。

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