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chapter.2.5 『欲望へのカウントダウン』

____________意識が覚醒する。


白の視界に景色の色彩が映り、周囲の状態を確認する。


フォルテ良し。

ヘリオット良し。

アムリタの秘薬も、幻の粉もある。問題なく、転移は完了したようだ。


____________そして


「久しぶりだな、ベータ。」


「なっ!デカっ!」


「お待ちしておりましたバンシィ様。」


ヘリオットが振り返り、腰を抜かす。

振り返り、巨大な壁のような漆黒の体躯を見上げる。

ベータの魔力を頼りに、転移を行なったが、流石は俺、ドンピシャに転移出来たな。


「四神獣『戦鬼せんき』とは……随分大そうな名で呼ばれているな、ベータよ。」


軽い嫌味を口にしてみたが、どうやらベータにとっては俺が憤慨しているように感じたのか、唾を飲む音が聞こえ、再び頭を下げた。


「謝罪では済まない事は重々承知しております。ですが1つだけ、お話を聞いては頂けないでしょうか。______処罰はその後に______」


何も別に、復讐しようって訳では無かったが、ベータにとってあの出来事は、俺を裏切った行為に他ならない。

相当な責任を感じているのか。


俺は、俺の僕が簡単に裏切る事は無いと確信している。何か事情があってのこと。それに俺も、冷静では無かった。

だが、少々怒ったフリも悪くないか。


「……ベータ。どの様な事情があれ、お前は俺を裏切った。その事実は変わらない。」


「ッ……はい、仰る通りです。」


「裏切り者に対する処罰は当然、心得ているよな?」


「はい。勿論でございます。」


俺がかつて皇帝を名乗り、地獄の《三百年戦争》に於いて実行した、裏切り者への報復制度。

それは三百年戦争初期、当時世界に大きく国力を広げた二大国家同士の戦争を収縮させるべく、両国へ介入できる軍事力を持った国家を誕生させる為に行った見せしめだ。


争っていた二大国家______大英雄チール・ロトムスの末裔達が納める三大王国が連なる《王国連合》。

そして、当時最高峰の魔法軍事力を誇っていた帝国。《バラギル帝国》。


その二大国家に負ける事のない国家の建国______それが、《大皇国》。

つまり俺が皇帝として立った国だ。


建国当初、流石の俺も国家規模での戦略など考えた事もなく、大皇国建国早々、二大国家の策略により内部崩壊を起こしかけた国に、俺がとった政策。

いや、策と呼ぶには相応しく無いだろうが、当時の俺には、否、今の俺もこの方法しか考えつかなかった。


それは圧倒的な《力》を見せつけること。


例え大国であろうとも、個の力で粉砕する事ができるという力の見せしめ。

軍門に降った者たちが、寝返る事がないように、一度寝返った者を地の果てまで追い詰め、一族諸共血祭りにあげ惨殺した。


主に、肥えた貴族をざっと30ほどの家系を根絶やしにした筈だ。

当時の貴族は本当に物わかりが悪かった。

あまり良い領主でもない家系ばかりだったので、結果的には領民からは喜ばれた方だったが、どちらかと言うと恐れの方が大きかったかな。当然と言えば当然だな、個が軍に勝る力を持っているのだから、そんな生物に反乱しようなど、力無き民衆が行う筈がない。


が、それは民衆の話であって今の相手は俺の力の一部であるベータだ。

見せしめに殺すなんて、正直今の俺ではまずベータに勝てない。身体強化も魔法も使えない時点で、ベータに劣っている。

そもそも、ベータを殺す気なんてない。


もう俺が心許せるのはベータを含め俺のしもべの五体だけだ。………と、あと1人居るとは思うが、いつも行方を眩ませ身体を入れ替えている・・・・・・・所為で、生きてるのか死んでいるのかすら分からん男が1人。

まぁあの男がこの状況で何もせず、動いていないなんて事は無い筈だ。

最もアムリタを崇拝していた男だ、何か事情があっての事だろう、アムリタからの勅命を受けているのか、または別の考えがあっての事なのか、真意は会わねば分からない。どこにいるかも分からんが、なに、奴が俺に用があるなら近いうちに現れるだろう。


______と。思考がずれた。


「だがベータ。この俺の封印を解けば、これまでの罪を不問にしよう。」


そう言ってさっさとするよう促す。

後ろのヘリオットがなんか怯えている気もするが、無視でいいだろう。黙って大人しくしていればいい。囮でありサイフなんだから。


「________かしこまりました。しかしながらバンシィ様。その前に一つ私の話を……いえ、正確にはドラグ様・・・・からの言伝でありますので、何とぞ。」


「………ドラグからッ…だとッ?」


ドラグの最後の姿が視界を過ぎる。思わず声に力が入り、少し大声を出してしまった。


______らしく無い、死など幾らでも経験したと言うのに、どうしてこんなに感情が溢れるのだろう。


「______ドラグ様より、自身が死した時にバンシィ様へ言伝するようにと承っておりました。」


「……ほぅ、それはなんだ、最後の別れの言葉か?」


自分で言っておいて震えた。この感情はなんだろうか………恐怖?

______そうか、怖いのか俺は、友の最期の言葉を聞く事が。


いや、しっかりしろ。俺。

気を抜けば、涙が出てしまいそうになるのを、ぐっと堪える。涙は友を見送る態度じゃない。ドラグは笑って見送るくらいがちょうどいいのだ。


「……いえ、別れの言葉ではないです。」


心して、ドラグの最後の言葉を聞く姿勢をとるが、どうやら、そうではないらしい。ベータが、咳払いをして続けた。


「『本来在るべき座へと還る。起こしに来い。』______と。」


その言葉の意味を読み取る為、思考を深める。


《族王》ドラグ=バンバーンは『英雄バンバーン』だ。

それは、俺がこの世界へ来るよりもずっと前に得ていた称号。

詳しくは聞かされてはいないが、ドラグが『英雄』になったのは、熾天使(バンバーン)と呼ばれる一体の天使との契約によって成されたものだと言う。

その契約内容がどの様なものかは知らない。その時のドラグに教える気は一切なかったからだ。教えてはもらえなかった。

今になって、知りたいとも思ってはいなかったが、推察は出来ていた。


それは、ドラグの名だ。


ドラグの種族。天龍族は姓を持たない。

個体数が少ないのが主な理由ではあるが、その点に関してドラグ=バンバーンという存在は異質だ。


俺はこれでもドラグ以外の天龍族とも少しは面識があった。《三百年戦争》で、滅ぼされるまでは……

数百の天龍族が知り合いにはいたが、その誰一人として、ドラグの様なミドルネーム?ファミリーネーム?……は無かった。


それにおかしな点はもう一つある。


ティー・ターン・アムリタ

バンシィ・フクロウ・ディラデイル

______そして、ドラグ=バンバーン


これはステータスに表示されていた名前なのだが、ドラグだけ何故か《(イコール)》なのだ。


(イコール)》の意味。

等しいまたは、同じ。


これが意味するのはなんなのか。


ドラグイコール英雄(バンバーン)


『英雄』を天龍族の言語に直すとバンバーンと呼ばれる。

だが同時に、バンバーンとは《熾天使》も意味している。

ドラグは過去に、熾天使の事を『バンバーン』と発声していた。


直訳してしまえば、ドラグイコール英雄バンバーン。とも読み取れるし、ドラグイコール熾天使バンバーンと言うことにもなる。

仮に直訳したとしてだ。


だが、これがあっているにしろそうでないにしろ、だから何だと言ったら終わりだ。


そもそも、熾天使など……いやその下位互換の天使ですらこの世界には存在しないのだ。

否、世界の何処かにはいるのだろう、しかしそれは概念的な話で、実物が本当にあるわけではない。天使に敵対する悪魔とて同じだ。

悪魔は魔力を伝って人や魔物に入り込み、精神を乗っ取る。実体が無い。精神的、概念的なもの。それこそ空気と何ら変わらない。

悪魔はよく耳にするが、天使は聞かない。

そもそも天使は人や魔物の身体を乗っ取らない。乗っ取るならそれは、悪魔と同義だ。


『座へと還る。起こしに来い。』


何言ってんだドラグ(てめぇ)


「はぁ……」


どうして俺の周りの奴は、訳の分からない意味ありげな言葉を残していくのかなぁ…

どうせそれがカッコいいとか思ってんだろうけど、解

読する側の気持ちになってくれよ。もっと理解できる言葉を選べよアムリタにドラグ(ぼけなすども)め。


「しかし、熾天使(バンバーン)か。」


「バンシィ様?」


天使ねぇ……見たことないしなぁ………悪魔なら結構見たことあるんだけどなぁ…………


____________ん、いや待てよ。


悪魔と天使は敵対してるよな?


悪魔なら、天使のこと知っててもおかしくないよな?


閃き、思わず口元が緩んだ。


いるじゃないか、悪魔が。それも飛びっきり長生きしてる奴が。

______流石にあの強靭さで死んでいることは無いだろう。

ふと思い出したやる気のない悪魔の顔。


____これは、やるしかないな。


「ベータ!早く封印を解け!お前にやってもらう事ができた。」


「ハッ!仰せの通りに。」


次の瞬間、身体全体が軽くなった。


《____称号『魔物使い』『強化魔法』を再解放しました。》



***



________体が軽い。常時発動していた身体強化の魔法が再発動し、今までの身体能力に戻った感覚があった。これならば、エトやジャスティスにも負けることはないだろう。

この魔法だけでも俺は当分闘える。これは幸先が良い。魔力樹は使えないが、十分に拳だけでもやっていける。確認の為、いままで使っていた強化魔法を全て使用する。

肉体が爆発しそうな程の身体の変化。増大する筋肉量に魔力。


それを確認して、俺は誰もいない空間を片手で切った。


「ひぇぇぇっ!!」


ヘリオットがとんでもない悲鳴を上げてひっくり返る。そんなに驚く?

ちょっと空間が捻じ曲がって、裂け目ができただけじゃん。


そう、ほんの数秒ではあるが最大限魔力を込めた一撃を光速以上の速さで抉ることで、空間に裂け目が生じる。控えめに言って常人、いやどんな大魔法使いだろうとできないだろう多分。

悪魔の住む世界。こちらの世界では見る事も触れることもできない世界。


こちらが表なら、彼らの世界は裏。


何故こんな事をやるのかって?


当然。

行くからだろ、悪魔界(デモンワールド)へ______



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