第五話『慈悲なき皇帝』
お待たせしました。今回二話連続です。
______風を切る。
馬を全力で走らせ野道を疾る。
「バンシィサマ!コノマママッスグデス!」
「ああ!」
学院の位置を把握するフォルテに案内させ、馬に回復魔術をかけ加速させる。
ジャスティスの言った『神託』とやらが何なのかは知らん。
だが、あの襲撃を他に通達する必要が俺にはある。
学院に行けばおそらく、ガネットもいる事だろう。先ずは彼女に報告しよう。
「チッ……厄介な事になったな。」
だが、初めから楽なものでは無いとは理解していたつもりだが。
ここからの俺の行動も、かなり慎重にならなければ、今後に支障を齎らすだろう。
最悪の場合、魔法粉も得られない可能性だってある。
それは、避けなくてはならない。
______仮に、どんな手を使ってでもだ。
学院の敷地に入った事を確認し、そのまま学院長ガネットが居るであろう、学院長室のある天冠塔へと馬を向けた時、ある異変に気が付いた。
「燃えている?」
「ドウヤラ、トショカンノホウデ、カジミタイデス。」
図書館で火事だと?
偶然にしては出来すぎたタイミングだ。
……いや、一般人はデイラ神教団の事など知るはずがない、本当に偶然か?
いや、待て。図書館だと!?
…………まさかな。
「_________偶然であってほしいが……アレにはもう一つの顔があったな……」
俺の名前。
バンシィの名を知る謎の人物が……
「空典塔へ向かう。捕まっていろフォルテ!」
「ハイ!」
馬に鞭を入れ、加速させる。
酷使し、回復魔術まで使用した馬だ。疲労は蓄積している筈。おそらくこの片道の移動が限界だろう。
回復魔術は、肉体的な疲労は消してくれるが、精神的な疲労は消す事は出来ない。身体は誤魔化せても、頭は誤魔化せないといったところか。
馬を走らせ数分、天に届きそうな程に燃え上がった炎は、既に空典塔を包み込んでいた。
しかし、何故だろうか。
これ程の火事に対して野次馬の一人も居ない。
それどころか、生物の音、否、建物の焼ける音すら聞こえない。
完全な異常。
炎の熱気は感じる。
だが、この静けさはなんだ?
「チッ……行くしかないか。フォルテ、最大限の警戒をしておけ。」
「ハイ!」
炎に包まれる空典塔へと俺は飛び込んだ。
焼けた扉を破壊して侵入し、俺は司書Rの居る図書館へと急ぐ。
襲いかかる火の粉を払いのけ、焼け落ちた天井を踏み潰し、そこへ赴いた。
扉を開くとそこに彼は居た。
炎に包まれた本に囲まれ、何事も無いかのように佇んでいた。
暗い黒の髪に何を見ているのか分からない漆黒の眼。緑のアカデミックドレス。誰もが認めるであろう美少年。
視線が交わり数秒。
一歩前に出る。
この異常な事態に平然としているその姿から、この事態の首謀者と推測した。
声を出そうとした瞬間、司書Rが口を開いた。
「待っていたよ。フクロウ。」
「はて、待たせた覚えはないが。」
「ふふ、そうだね。正しくは、僕が勝手に待っていた。」
「御託は良い。司書R。俺の質問に答えろ。お前は何者だ?」
「何者と言われても……そうだね。僕の本当の名はライト・メア。司書Rと言うのは偽名さ。」
「ああ、だろうな。」
んな事分かるわ。
「フクロウ。先ずは君に感謝しよう。君のおかげでホラ______魔法粉を手にする事が出来た。」
そう言って取り出された一掴みの小瓶。
その中には煤のような黒い砂が詰まっていた。
しかし、成る程。
「つまり貴様が、デイラ神教団の親玉と言うわけだな?」
「ああそうとも。」
躊躇いのない即答。
その答えに俺は、直ぐに作戦を考え出す。
魔法粉を手に入れる方法を。
「しかし、驚いたよ。まさか、僕の人払いの結界に躊躇なく侵入して来るのだからね君は。」
ああ、成る程。外に誰一人居ないのは、人払いの結界が張ってあった訳か。通りで、納得だ。
「寧ろあの程度の結界しか張れない貴様の落ち度だ。」
結界の存在は全く気付かなかったがな。
「そうかい。自信作だったんだけどなぁ。」
「そんな事はどうでも良い。ライト・メア。大人しく魔法粉を寄こせ。そうすれば命は見逃してやろう。」
「ハハッ!君は立場を分かっているのかい?武器も魔術も使えない君が、僕に勝てる訳が無い。」
「そうか。ならば力尽くで頂こう。」
匙は投げた。
素早く手短にあった椅子をライト・メアに向かって投げつける。
「結界魔術『ベゼクス・シール』」
案の定、防御系の魔術によって防がれた。
面倒で、厄介ではあるが、魔法粉は確実に手に入れなくてはならない。
どんな卑怯な手を使ってでもな。
手頃な椅子を持ち、次は全力で殴りかかる。
バキッという音と共に椅子はへし折れるが、構わずライト・メアが篭る結界に叩きつける。
流石に只の椅子では魔術の結界を破ることは出来ない。
だが、破れない結界などこの世に有りはしない。
「フォルテ!」
「ハイ!」
袖から飛び出したフォルテをひっ掴み、全力で叩きつける。
「死ねえええええええええええええええッ!」
「何を________ホブファッ!!」
全力で叩きつけたフォルテは、あっさり結界を突き破り、ライト・メアのみぞおち付近に直撃する。
衝撃に、ライト・メアは紙のように吹き飛び、建物を突き破り外へと放り出される。
流石はフォルテ、最高の投げ心地だ。
焼け落ちた瓦礫を踏みつけ外へ出る。
俺の僕であるフォルテは、ゴーレムだ。
その能力は土や岩を自らの体に吸収し操る。
その能力を使い、フォルテは既に地面の土を使いライト・メアを組み伏せていた。
「………まさかゴーレムを使役しているとはね……フクロウ。君は一体何者だい?」
「答える義理は無い。さっさと魔法粉を寄越せ。」
「くっ……腕が勝手に……」
ライト・メアの両腕を土でできたフォルテが包み、手にしていた魔法粉をこちらに差し出してくる。
直ぐに受け取り、袖の中の袋の中へ仕舞う。
「ご苦労フォルテ。もう、始末して良いぞ。」
「ッ……躊躇がないね、君は。」
「ああ、そうさ_________」
フォルテが土を変形させ、斧の様な物が完成する。
それは、ライト・メアの首筋に当てられ、大きく振りかぶり____________その首を落とした。
「慈悲もない。」
《____称号『支配眼』『魔力感知』『無慈悲』を再解放しました。》
***
「なぁ______聞いたか?今、来ているんだってよ、『勇者』ルイシュターゼが。」
「ええ?本当なのか?」
「ああ、間違いない。父上が挨拶に行ってきたからな。」
校舎の窓から外を眺める二人の男子生徒。
その会話は、今話題の勇者についての内容であった。
「でもすげぇよなぁ、Sクラスの主席だろ?元だけど。」
「だよな、成るべくして成ったって感じ。」
「なぁ……。おい、見ろよ。それに比べてあのデブを。」
そう言って生徒の指差す先には、丸く太った一人の生徒が居た。
「へへっ、ほんとひでぇ格差だよ。ホントに兄なのか?」
「本当、疑っちゃうね。落ちこぼれヘリオット。」
「豚以下の能力でよくもまぁここに居るよ。おーい!デブー!元気かぁー?」
「あははっ!やめろよお前っ、バカがうつるだろ!」
「…………ッ_____」
金髪の小太りの生徒。ヘリオットは何も聞いていないかのように、その場から逃げるように去って行った。