表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/252

第四話『断罪』

当てが外れた俺は、果てさて枢機卿閣下にどう報告しようかと、思考を巡らせつつ歩いていた。

それ故にあまり周りの事を気にしていなかった事が、後に良い方へと転がるのだろうと、俺は思いたい。


なんでそんな事考えているかだって?


フッ……決まっているだろう?


「…………」


「…………」


「…………」


視界に入る二人の男。

序列一位エトに、ジャスティス。

この二人に挟まれて、俺は今馬車に揺られて何処かへ向かっている。


どうしてこうなった。


………いや、事の発端はあっさりとしている。

例の如く俺が帰ろうとしていたらジャスティスに捕まった。それだけだ。


うん。意味が分からん。


「………ジャスティス。フクロウ。お前達、なぜ俺の馬車に乗っている。」


沈黙を破ったのは意外にもエトだった。

いや、これは正常な反応か。


「神がそれを望まれたからです。」


「チッ……もういい。」


ああ、早い。理解することを辞めた。

なるほど、状況が理解出来ていないのは、エトも同じらしい。と言うか俺とジャスティスが勝手に馬車に乗り込んだだけなので、俺たちが降りれば全て解決するんだがな。


そんな事考えつつ口には出さない。出すとロクなことにしかならんだろうからな。


「言っておくがジャスティス。これは俺の試練だ。手を出すなよ。」


「勿論ですエト。貴方の試練に手出しはしません。」


「その言葉……忘れるなよ。」


「ええ、神に誓いましょう。」


二人が誓いを交わしている間に、俺は外の様子を伺った。


正確な場所や位置は全く分からんが、森の中にいる事はわかった。

日はまだ明るく、車輪の音がガタガタとうるさい。

だが、それ以外の音が殆ど聞こえない。

風はなく、草木の揺れる音は無い。

天候によって森の音は違う。

静かな時だって勿論ある。


しかし……なんか嫌な静けさだ。


まるで、何かに見られているような……


その時。男の悲鳴が上がった。


続けて馬が興奮して暴れ、馬車が停止する。

その異常事態にエトが真っ先に外へ飛び出す。

続けてジャスティスが降り、それに続いて俺も馬車から降りた。


状況を把握する。


頭部を失い斃れる男の身体、御者を失い興奮していた馬は、枷が外れ逃げてしまったかと思ったが、頭が良いのか何かに怯えているのか、馬車の近くから全く動こうとしない。


「一体なんだ。」


「同志。神敵です。」


「……この気配。30は居るな。」


それぞれが、敵さんの気配を感じ取っているらしい。

魔力感知の使えない俺には全く分からんが。


「_____まさかお前達から仕掛けて来るとは思っもいなかったぞ。」


エトが誰もいない草木に向かって語りかける。

そしてその返答は直ぐに返ってきた。


「刻は来たのだ。エト。決着をつけようか。」


現れたのは真っ白の何も描かれていない仮面を付けた一人の男。

体躯はエトと変わらない。しかし、その男からは常人とは違う。何か別なモノを感じた。


「白仮面エニー・ギスタ。裏切りのクルセイダー・・・・・・。貴様をあの時、殺しておくべきだった。」


「クク……今更あの時の事を後悔しても遅い。結果今、俺とお前はこうして対峙している。」


「ああ……だからここで、宣言しよう。」


エトの手元に現れた、銀のメイス。

ジャスティスの持つメイスとは違い、鉛のように濁った光を帯び、その大きさはジャスティスのそれの倍の太さはある。


使い慣れている。軽く空中で振るわれたそれ。


風を切る音は雷鳴のよう。


ああ、魔力感知の無い今の俺でも分かる。

この感覚。このエトは……間違いなく。


「『断罪』を開始する。」


強い。


「フハハハハッ!それでこそだッ!エト・エンデルスゥゥッ!」


エトの姿が消える。いや、今の俺では正確に追う事は出来ないが、その砂塵の舞い方から、彼の足取りを予測した。


音と衝撃に火花が散った。


エトはメイスを振るい、対するエニー・ギスタと言う男は、素手で対抗する。

一目で分かる、完全に人間では無い。


「同志。我々は残りを相手しましょう。」


今まで黙っていたジャスティスに言われ、エトとエニー・ギスタから視線を逸らす。


目前に現れたのは黒い髑髏の集団。


「これは、黒髑髏か?」


「そうです。そして、あの中心にいるものこそ、黒髑髏さん。その本体です。」


ごめん。全員同じ真っ黒衣装に黒髑髏の面だから分からん。

中心何処だよ。完全に囲まれているんだが。

ジャスティスが相棒のメイスを振り上げる。

どうしようか、取り敢えず武器がないので逃げるしかないな。うん。

因みにフォルテをここで使う事は絶対に出来ない。

魔物使役してますなんて、コイツらの前で言ったら絶対、異端審問かけられるからな。うん。


「ところで同志。」


「なんだ。同志。」


「馬には乗れますか?」


まるで意図の分からない質問。状況考えろよ。


「乗れるが、なぜ今?」


「あちらの馬を使い、学園へ戻って下さい。」


えぇ、きて早々戻るの?

いや、別に良いけどさ。


「何故。」


「同志。神託です。」


なるほど神託か。うん。理解しようとする方が馬鹿だ。


「分かった。同志。では、道を開けてくれるか?」


「それは勿論です。同志。」


その言葉を聞き、直ぐ様硬直する馬に飛び乗り、言うこと聞かせる。

馬の扱いは慣れてるぞ俺は。

怯えて震えている馬を落ち着かせ、しっかりと手綱を握る。


「友よ________行きましょう!」


ジャスティスがメイスを振るい、数十の黒髑髏を圧倒して回る。

隙を見て俺は馬を走らせ、言われた通り学園を目指して森を突き抜けて行った。




***




「はああああああああああああああああッ!」


「はははははははははははははははははッ!」


幸いな事に、邪魔をする者は須らくジャスティスが相手をしている。もしもアレだけの邪魔者を相手するとなると、少々厄介だった。

今回ばかりはジャスティスに感謝………いや、絶対しない。


飛び降りると同時に、重力に任せメイスを叩きつける。

エニーは既に体勢を整え、狂気を孕んだ笑みで、これを片腕のみで防ぎ切る。


地面は土。踏み固められた固い土ではあったが、この衝撃を受け大きく砕け凹む。

それにより足場が崩れ、体勢を崩した。

反撃の間を与えずにエニーに連続攻撃する。それを慣れた動作で受け流す。

一撃一撃を的確に処理する動作。受け流されたメイスの衝撃波で、辺りの木々や地面は崩壊を始める。


相手の表情に張り付いているのは愉悦の感情だった。

チッ_____攻め切れていない。それは間違いない。しかし、反撃の余地は与えてはいない。だが、この感覚は______


打撃の合間に退魔術エクソシズム『縛の矢』を放つ。メイスとは逆方向から放ったそれはエニーの首を貫き____________


「ぐぁ______ッ!」


「チッ____________やはり貴様。悪魔にっ!」


矢が突き刺さった傷口を禍々しい煙が包みこむ。

まさかとは思ったが、罵倒するように咆哮する。


「人を辞め、悪魔に魂を売ったかッッ!」


「そう、全てお前を倒す為に。」


「そんな事でッ______!」


メイスの一撃一撃に全力を込める。数多の悪魔を消し飛ばす重さの筈だが、エニーは全てを受け流している。

力で拮抗しているのでは無く、技術で対応している。


悪魔に成り下がりながらも、人の技術を使ってみせる。悪魔に魂を売らずとも、十二分にその力を発揮出来ただろう。


「残念だよ______ッ!」


「ッ______」


今までの攻撃よりも数段速くメイスを奮った。テンポが僅かに狂ったエニーの体勢が崩れた。

絶好の隙を逃さず、全力の一撃を側面から叩き込む。


「ぐぉ____」


衝撃に、骨の一ニ本潰した手応え。大きく弾け、回転しながら吹き飛ぶと、数メートル遠くの地面に背中から落下した。


エニー・ギスタ。元序列二位のクルセイダー。彼の主武器であったメイスは、前回の闘争により破壊した。

武器を失った彼が次に武器とした、その結果が……悪魔。

呼吸を整える。メイスを構え、獣の眼差しを向けるエニーを見下ろす。


「愚かだな。エニー。まだ人ならば勝機はあったが、悪魔殺しを専門とする俺に、悪魔になって挑むとは。既に勝負はあった。」


「くくく………あはははははは______

断罪エト。お前はまだ、世界を知らない。例え俺の身が朽ちようとも、教主様・・・がおられる限り、我々の野望は消えない。」


エニーが諸手を上げ、まるで跳ね上がるように飛び掛かってくる。爪、歯、拳、足。

悪魔に部分的損傷は、数秒もかからない内に治癒されるが、体力面までは癒されない。だが、五体満足のその肉体は、消耗する人間にとって脅威となる。

といっても、対悪魔戦をこなしてきた俺にとって、それは誤差の範囲である。結局悪魔は、その悪魔の格によって強さが決まるのだ。そこに技術は無く、悪魔の格の限界が、必ず存在していた。

悪魔を殺す事に躊躇は無いし、その手段は何百と持っている。


しかし、問題はそこでは無い。

エニーから吐かれた『教主』という単語。デイラ神教団の教主はエニー・ギスタでは無い?

となればコイツは囮……


「貴様が教主では無かったのか!?」


「愚かな、俺が教主だと______ハハッ!此奴は傑作だッ!ならばエト。この闘争。我々の勝ちだ。俺を教主と見誤っていたのなら、既に魔法粉ダヌ・ヴァンダリは我らが教主様の手中にあるッ!」


話にならない。舌打ちする。



距離を置いて後退する。飛び掛かってくるエニーを、退魔術『聖者の鎖』で拘束し時間を稼ぐ。

この状況下、誰か枢機卿に報告しなければならない。そして新たなクルセイダーの要請。もしもエニーの言っている事が正しければ、既に手遅れかもしれないが、何もしないより____マシだ。


息を大きく吸い、咆哮する。


「ジャスティスッ!フクロウを枢機卿の元へ走らせろッッ!」


返事は無い。

しかし空に打ち上がった閃光玉が光を放ち、了承の合図と判断した。

ならば次は目前の問題を解決しよう。


鎖によって縛られたエニーの顔に疲労は無く。ダメージも無い。

だが確実に疲労は蓄積している。

人間もそうだが、悪魔も疲弊する。

いや、正確には悪魔は魔力が減っていくと力を失っていく。

悪魔の格によって、その魔力の量は決まっている。たしかに個体差は若干あるだろうが、それでもその器の大きさには限界が存在する。


今もこうして、立っているだけでも、少しずつ魔力は削られている。

本来悪魔はこの世には存在ができない。

存在できない筈の存在が、そこに存在していれば、当然それはこの世の異物と認定される。

それこそ無尽蔵の魔力さえあれば、永遠とこの世に存在できるだろう。

それこそ魔王と呼ぶに相応しい存在だ。

だが、エニーはその器では無い。


その証拠に、彼の魔力は既に底をつきかけている。


「手間は取られた、だがそれだけだ。」


「俺はお前を越える______」


「不可能だ。悪魔に堕ちたお前では。」


鎖で縛ったエニーの前に、メイスを振り上げる。

天に突き出したメイスは、天の加護を受け、光を吸収する。

鉛のように濁った俺のメイスは、薄っすらと淡い光を放ち宣告を待っていた__________________



「退魔術『断罪ブレイカー』」



__________________宣言し、メイスをエニーの頭蓋へと振り下ろした。

ども、ほねつきです。

ええ、分かってます。

これからはもう少し頑張って早く投稿します。したいです。

え?前も同じ事言ったって?

では、また!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ