第一話『幻の夢』
お待たせしました、
大地の心臓
神獣の甲羅
天馬の角
相殺し合う魂の核
神の石
天地の秘宝
魔力樹の葉
神罰の猛毒
幻の夢
あれから拠点へと帰還した俺は、《アムリタの秘薬》を作成に必要な素材を整理していた。
アムリタの秘薬に必要な素材のうち、2つは何とかあの勇者から守り切ることができていた。
その2つは八頭白象の牙。
そして、アムリタの秘薬の最重要の器である。未完成状態の壺。
もしもあの時、万が一にでもこの壺を守る事が出来なかった時、俺は完全に詰んでいただろう。
一応、アムリタの書には壺の作成法まで書かれているが、正直言って素材が多過ぎてやる気が出ない。
正に不幸中の幸いという訳である。
まぁ、作ろうと思えば作れるが、うん。軽く百年は作成に必要な時間になるので、完全に心折りにきている。
さて、もしもの話などしても意味は無い。今俺の手には、この壺とアイラヴィタの牙がある。
あとは残る9個の、このリストアップした素材だけだ。
正直、どれが何なのか全く分からない。
アムリタに限らず、過去に何人もいたが、物の名前を、本来の正式名称と違う呼び名で呼ぶ事が多々あり、何度も勘違いをさせられた。
要は、書いてある素材名が、本当にこの世にその名で存在している物なのか怪しく、この素材名をアテにするのではなく、それらしきもののヒントとして捉えていた方がいい。
絶対どれかは、おっさんの厨二心で名前変えてある筈だ。
間違いない。
「しかし、流石だなアムリタ。研究馬鹿なだけある。」
アムリタの書をペラペラとめくり、軽く読み流しながら作成手順を確認していく。
非常に分かりやすく、原理も納得できる。
死者の蘇生。
ただし、死体が無ければ話にならない。
何も無い空間から、蘇生する事は不可能であるとの事。
まぁ、少し考えれば分かることだ。
だがしかし、ここで一つ疑問が生じる。
それは、ドラグの言葉だ。
『アムリタを復活させる事ができる。』
確かにあいつはそう言って、これを俺に渡した訳だが……
この内容を確認する限り、どう考えてもおっさんの復活は無理な話に思えてくる。
分かるだろう?
無いんだよ。死体が。
蘇生させる為の死体がそもそも無い。
俺は持っていないし、ドラグが仮におっさんの死体を持っていたなら、確実に俺に見せる筈だ。
これでは秘薬を作った所で、何の意味も無い。
ドラグの肉体も残っているかも分からない。
完全に無意味に終わるのだ。
意味が無いとなれば、やる意味は無い。
そっと本を閉じようとして、ある違和感を感じた。
「_____おいおい、随分洒落たギミックだな。」
思わず口にしてしまった。
それは何故か、本の内容をじっと見つめていると、文字が並び変わったのだ。
指定された魔力を感じ取り、発動する初歩的な起動処理の魔術。
文字は並び変わり、一文が出来上がる。
『親愛なる我が相棒へ_____
我は棺にて眠る。』
………いや、どこだよ。
場所を言え場所を。
変に格好つけて、事態を混乱させるな。あのバカ。
この一文が現れて以降、なんの変化も生じない内容に諦めをつけ、本を閉じた。
机に置いた小さな壺を眺め、アイラヴィタの牙に視線をやる。
「しかし、聞いたこともないものばかりだ。当面は手当たり次第に当たっていくしかないか……」
今までずっとそうだった気がするが、まぁいい。
大地の心臓。相殺し合う魂の核。神の石。天地の秘宝。魔力樹の葉。
これらはまだ、あてがあるが、他が全くだ。
甲羅とか角とか猛毒とかこれはまぁ……何となく魔物かなんか倒せば手に入りそうな名前だが_______
「……なんだよ、幻の夢って。」
ふざけているのか?
夢なのか、幻なのかどっちかにしろよ。どっちも取るとややこしいじゃねーか。
「はぁ……死者の蘇生が簡単なものではない事は分かっていたが、こんな調子では、何千年かかるか分かったものではないな。」
「魔法粉。別名は幻の夢です。同志。」
「!?」
背後から聞こえたその声に、驚き咄嗟に振り返る。
「正義!?何故ここに居る!?」
入り口は外部から見えない筈だ。
それに自分で言うのも何だが、絶対に人を寄せ付けることのない、人払いの結界まで仕掛けてある部屋だぞ!?
なのに何故_____
いやしかし、入られた事はまぁいい。
聞かれた。今の独り言を。いや一体いつから居た?気付かなかった。侵入された音すら、何も感じなかった。
クソが。
フォルテは魔力切れによる睡眠で、俺の袖の中から現れる事はない。
フォルテの魔力感知が機能していない事は理解していた。が、完全に油断した。
__________殺すか?
俺の計画の一端を聞いてしまったこいつは、確実に消さなくてはならない。
しかし……倒せるのか?
俺が、この狂った正義を。
武器は無い。完全に密室。俺は椅子に腰掛け、その後ろに立つこいつを、俺が倒せるのか?
状況的には俺の不利。しかし_____やるしか無いのか。
「同志。運命です。神がこれを望まれた。」
まるで会話の通じないジャスティスが、落ち着いた表情で、俺の対面に回った。
理解できない。何がしたいんだこいつ?
「同志ッ!我々は語らねばなりませんッ!」
まるで謳うように両手を広げ、爛々とした目でこちらを見るジャスティス。
わからない。こいつの意図が分からない。
「………同志。一体何を語り合うのだ?」
「決まっています。己が正義の在り方です。」
そっと机の上に置かれた、銀のバット。
それはジャスティスの武器であり、名を《銀の棍》。
銀で出来たそれは、反射させる光が無いというのに、銀に煌めいている。
「同志フクロウ。貴方の正義は何ですか?」
………理解はできない。だが、これは。
「同志よ。私と貴方が出会った時と同じように、正義など、俺には関係ない。」
「いいえ。違います同志。それは貴方の偽りの心であり。本心では有りません。聞かせてください。貴方の正義を。」
「何故そう確信を持って言えるのか、理解ができないが………」
ふむ。あまり真実でない事を言うと、彼は勘付くらしい。
野生の勘か、それとも、正義とやらの勘か。どちらにせよ、その勘の良さは異常に厄介だな。
だがしかし。どうなるか。話して俺の今後はどうなる?
ジャスティスが、俺の計画を誰かにバラす事が無いとは言い切れない。だが、状況的には話さざるを得ない。
…………チッ。腹を括るか。
「死者の蘇生。死した生物をこの世に再び蘇らせること。俺はこれを使い、大切な人を蘇らせる。」
「それは神のみが扱える最上の奇跡です。同志。」
「ああ、そうだな。だが。奇跡は起きるから奇跡なのだ。見えない奇跡に価値はない。」
「貴方は神を信じてはいないのですか?」
ジャスティスの手が目の前の銀の棍に伸びるのを手で制し、俺は言葉を続ける。
「それは間違いだ同志。俺は神を信仰している。だが、神からの奇跡は求めていない。奇跡は起こす。俺の手でな。神は見守って下さるだけで良い。」
そう言い切り、ジャスティスの返答を待った。
狂気の笑み。口元が歪み殺人鬼のような笑顔を向け、ジャスティスはダンッと、机を叩いた。
素晴らしいッ__________!
そう両手を広げで大きく謳う。
「神を尊び、神を敬い、神を崇めながらも、神の身技を自らが顕現させようとする_______ナルホド……其れこそが、貴方の正義なのですねッ!」
「そうだな。それが俺の正義だ。」
ちょっと正義の定義がよく分からんが、ここは乗っておこう。
「同志。貴方は運命に愛されている_____そうッ!これもまた、運命ッ!」
大きな声を出すな。うるさい。
「同志。一体何が?」
「ええ____同志。貴方の求める『幻の夢』_____いえ、《魔法粉》について、僕は今、ここへ来ました。」
これは紛れもなく神のお与えになった運命に他ならないと、繋げるジャスティス。
「……同志。それは、本当か?」
「嘘を吐く必要がありますか?」
「_________同志正義。君は一体俺に何を求めている?」
疑い。
出来すぎている。
この際、どうやってここに現れたかは置いておくが、ジャスティスの現れるタイミングと言い、その持ってきた内容が、俺の求めていた『幻の夢』だと?
出まかせではないのか?
いや、しかし、こいつは俺に一体何を求めていると言うのだ?俺にここまでするメリットは?
その利点はなんだ?
「同志。神託です。_____神は貴方を望んでいる。」
だがしかし、そもそも会話の成立しない相手に、それを聞いたのは間違いだったと後悔する。
「理解した。神が望まれるのなら、そうしよう。」
「それでこそ、同志です。」
そう言って、銀の棍を手に取り、何事も無かった様に部屋から出ようとするジャスティスが、最後にこう言い残した。
「明日、迎えに参ります。」
「えっ_____どうしてそうなった?」
パタンと閉じられた扉。
シン______と静まり返り、完全に置いていかれた俺。
というか引っ掻き回されるだけ、引っ掻き回され、なんか取り残されたんだが。
えっと…………うん?
「……バンシィサマ?ドウサレマシタ?」
「………………いや。」
おせーよ、フォルテ……
ども、ほねつきです。
書いている途中で寝落ちしてしまい、書いていたものが半分ほど消し飛び、発狂しかけました。
以上です。
次回投稿は、一週間以内には、投稿できるように、します。
え?いつも同じこと言って出来てないって?
ハハッいつから一週間を7日間だと錯覚していた!?
スミマセン。調子に乗りました。では、また。