第五話 『正義の正義』
あけましておめでとうとうございます。
眼前に現れた生徒。
全員が同じ、黒い髑髏の面を付け、無言でこちらを見つめている。
「同志。これは一体?」
状況的に聞くべき事ではないだろうが、相手が何の行動も起こさず膠着状態が起こるのは、数的不利な俺たちにとって悪い事が起こる予感しかない。
ならば、その不利な状況に陥る前に、最低限の必要知識は共有しておかないと後々困る事になるかもしれない。
情報共有はあって然るべきだ。
「同志。神敵です。」
………聞く相手を間違えたな。
「成る程。神敵か。」
まぁ良いや。理解しようとするだけ無駄だ。受け入れよう。
思考を切り替え如何にこの髑髏供を倒そうかと。
考えようとして、ジャスティスが口を開いた。
「______同志。これは僕の『正義』です。」
なにその『正義』とか言うパワーワード。
ジャスティスのローブから一本のバットがスルリと現れる。
鉄……いや銀か。
何の装飾も、棘の一本も付いていない。
綺麗な銀のバット。
いや、正確には棍棒と呼ぶのだろうそれは、ジャスティスの右手に握られ、まるで感情を示すかの様に僅かに発光する。
そしてその担い手も、爛々とした眼で髑髏の生徒達を見やる。獲物でも選別するかのように、嬉々として彼らを値踏みしているようだ。
「どうやらやはり、黒髑髏さんの本体は居ないようです。」
ふむ、なにやら察するに黒髑髏とやらの本体を探していたようだ。
正義・フェルメアス。殲滅官。『正義』の二つ名を持つ男。その名に相応しい実力を、感じさせる、資質がある。
人格は破綻しているが、その戦闘センスは非常に高い_________そう感じさせられる。
分かる。魔力感知の使えない、今の俺でも、千年以上の時に於いて培った経験と知識。何より直感が告げている。こいつは、本当に。
____________相手したくない。
「だがしかし、味方であるという点。彼らの末路はお察し……ってところか。」
さて、見せてもらおうじゃないか。俺がここまでハードル上げてやったんだ。『正義』と語る同志の実力をね。
聞こえない程度に呟いた言葉を、微かに聞き取ったのか、はたまたただの偶然か、ジャスティスが狂気を孕んだ笑みを浮かべる。
「残念です。これも、又。運命。しかし、既に神の元へ召された少年少女の肉体に、傷を付けてしまいますが。これもまた、神の御与え下さった試練でしょう______」
ジャスティスが銀のバットを撫でる。
まるで赤子を愛でるかのように優しく。
笑った。先程の微笑み程度ではなく、頰を捻じ曲げ、狂気さを増大させた、人に絶望でも与える悪魔のような凶悪な笑み。
「正義。そう______正義です。さぁ、友よ。行きましょう____」
ジャスティスの姿が消える。いや、直感だけを頼りにその動きを読みその姿を捉える。
小柄故の細かな足運び。何千と戦闘を行ってきた手練れの、研ぎ澄まされた速度と動作。足に蹴られた土が抉れて舞う。
正確な攻撃動作は見えなかったが、瞬きの後には既に、五人の生徒が地に伏していた。
そしてその全員は、綺麗に頭部を吹き飛ばされており、その手際の良さを目の当たりにし、改めてこいつが味方で良かったと実感する。
「あはははははははははははははははッ!!!」
地獄絵図。
成すすべ無く頭部を叩き潰される、生徒達と、それを嬉々として実行する殲滅官。
絵面がもう、どちらが悪なのか分からない。
ダンジョンの壁を踏み砕き、接敵する。30人超えの頭部を潰して、既に真っ赤に血濡れた銀のバットが、最期の一人の頭部を打ち砕いた______。
&&&
断末魔すら響かない、僅か数秒の出来事。
一仕事終えバットを仕舞ったジャスティスが、ローブに着いた塵を払い、こちらに向け微笑みを浮かべる。
まさか、次は俺か?
返り血で真っ赤に染まった純白のローブ。事情を知らぬ者から見れば殺人鬼の表情のジャスティスは、つかつかと歩み寄ってくると、右手を伸ばしてきた。
なんだ?
一瞬その意図を読もうと考えて、そしてそれが、自分に向けられていないものだと気付いたのは、フォルテの潜む袖を、しっかり掴まれた時だった。
咄嗟にジャスティスの右腕を掴み、次の行動を取らせないようにする。
「なんのつもりだ、同志。」
殺意を込めた視線をジャスティスに向け尋ねる。
「______いえ、失礼。同志。異な物の気配を感じたものですが______どうやら違ったようです。」
笑みを浮かべ、腕の力を抜いたジャスティスを確認し、こちらも手を離す。
恐るべき、直感。
反応が少し遅れていれば、確実にフォルテを袖から引きずり出されていた。
もしそうなった時、確実に俺は神敵だとか言われ、始末された所だろう。
忘れてはならない、フォルテは魔物であり、人間の敵である。
人間の敵。
神を創り出したのは人間だ。
神は偶像的なものであるが、神は人の妄想から出来たものであり、人の考え方そのものが神と呼ばれる。
人の敵は、神の敵。
人は無意識のうちに、自らの敵を、神の敵と定義付けている。
その敵と、共にいる人間を、見逃すほど、殲滅官は、ジャスティスは甘くは無いだろう。
しかし、難は乗り越えた。
確実に疑われただろうが、確信では無い。
疑われただけならば、幾らでも弁明の余地はある。
なら何も問題ない。
「気をつけてくれ、私も咄嗟に身構えてしまった。」
嫌味も混ぜつつジャスティスに向かい合う。
だが、当の本人は、クルリと踵を返し、ダンジョンの先を見据えた。
まだ何かいるのか、俺もその視線の先を追ってみるが、真っ暗で何も見えない。
だが、何か聞こえた。
_________けて_______________
______助けてくれぇぇぇぇ________________________
「同志。どうやら我々は、運命に導かれたようです。」
爛々とした笑みを浮かべ、スルリと手に取った銀のバットをその手に握り、ゆっくりと、その声がした方へ足を運ぶ。
生きている人間がいた。
それは、紛れも無く学院の生徒の制服を着ており、必死に何かから逃げるように、こちらへ真っ直ぐに走っていた。
そして、その背後を追っていたソレ。
先の生徒たちと同じ黒い髑髏を付けた黒い人。
ソレを見て、人ならざる何かを感じる。
そしてそれは、次のジャスティスの一言によって確信に変わる。
「『-退魔術-銀の棍』」
手にしていた銀のバットが、応えるように煌めいた。
あけましておめでとうとうございます。
ええ、はい。分かってます。皆さまの言いたい事は。はい。
いや、言い訳を聞いてほしいです。
流石に正月早々今日という今日まで連勤……
いや、辞めましょう。この話は。
いやはやこれ程まで投稿が遅れるとは思ってもいませんでしたよハハ。
さて、そんな話は別にどうだっていいでしょう。
目標として、3月までにはこのChapter2を終わらせたい訳でありますが、はてさて、どうなる事やら。
ではまた。