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第五話 『教頭 皇帝』

死んだと思いましたか?

生きてます。


「すみません、ハンバーグ定食を一つ。」


「はいよ。銅貨1枚だよ。」


「これで。」


「はい。丁度だね……はい。ハンバーグ定食。」


「ありがとうございます。」


トレイに乗ったハンバーグとパンと、コーンポタージュの、ハンバーグ定食を持って、食堂の端の方に席を取った。

取ったと言っても、既に昼過ぎの為か、食堂で飯を食う人間は一人もおらず、別に席の取り合いをしたわけではない。


冷たくもなく、出来立てで熱い訳でもない、少し温められて出てきたようなハンバーグを一口食べ、クロズエルの街では味わった事のない、ふわふわのパンを齧り、コーンポタージュで流し込んだ。

うん。美味い。


やはり、経済的に豊かな国は、食文化のレベルが高い。

クロズエルの街も、経済的にも悪い訳ではないが、やはり世界を股にかける教国の食べ物はレベルが高い。そう感じた。


特に、クロズエルの街と食のレベルを比べた時、最もその違いが分かるものが一つ、『パン』が挙げられる。


この教国のパンは、柔らかくふんわりとした仕上がりで、料理人の技術を感じられる。

対してクロズエルの街のパンは、非常に硬い。食べられない程では無いのだが、硬い。たしかに、クロズエルのような険しい気候の土地では、長持ちさせる為に多少水を少なくして硬く作りあげているのかもしれない。

それに、硬さについては、好みも分かれる為、それだけではレベルが低いとは断言できない。

しかし、パンのみの美味しさを測るとするならば、断然こちらの教国のパンが美味しい。

クロズエルの街の硬いパンのようなものは、何かを付けて食べる事が前提であり、パン単体での美味しさは絶対にこちらのパンが美味い。

よって教国の飯は美味い。証明終了。



さて、パンの良し悪しを決めるのはやめようか。

今後の予定なのだが、初めに教師の面々に挨拶に行こうと思う。

一応俺は、この学院で非常勤講師としている設定になるので、挨拶はしておくべきかと考えた訳だ。


と言うわけで、まずはこの学院の2番手と思われる、教頭のポルトンに挨拶に行こうと思う。

………どうでもいいが、教頭って俺のイメージだと、大体ハゲの男がやっているのを想像するのだが、どうだろうか?


閑話休題。


教頭のポルトンに挨拶して、色々と聞きたいこともあるので話をしてから、講師室に向かって他の教師面々に、適当に挨拶して帰るか。


コーンポタージュを飲み干し席を立つ。

トレイを持ち返却口に置いて食堂を出た。


因みにここは、院長室のある建物で、名称が《天冠塔マリン》と呼ばれる建物らしい。

ここには講師室に、専用の研究室や、魔術研究などにおいて貴重な物が保管されている施設だそうだ。


生徒がいるのは他の四つの塔、第1図書館と、かのSランク生徒の個別の研究室がある建物が《空典塔インスタリ》。

そしてS、Aランクの教室と共用実験室がある《界祭塔ゲド》。

BCDランクの教室と共用実験室に大食堂がある《海位塔ベガラフ》。

最後に大教会とDランクの宿舎がある《地子塔グリオンダ》。

この五つの塔が、この学院を構成する大部分である。

そしてこの五つの塔を繋ぐ道には、決められた時刻で各塔を周る馬車が走り、呼べば来てくれる馬車の、二つの移動手段が存在していた。


俺がここまで来たのは後者で、玄関に設置されていた通信魔術を触ったら、来てくれた。

なんと移動代は講師はタダなんだそうだ。

これは非常にありがたい。


因みに生徒が馬車に乗ると、どちらも一律で銀貨一枚取られるそうだ。

中々酷い学院だ。

お金の無い生徒は、毎日このクソ長い道を歩いて移動しなければならないらしい。


とはいえ、俺には関係のない事だ。



純白の壁の廊下に現れた赤茶色の一枚扉。少し上には教頭室と書かれており、中に人がいる気配がしたので躊躇わずに扉を叩く。


向こうから返事があり、丁寧に扉を開けた。


「失礼します。_____初めまして、本日より大教会神父兼、非常勤講師として配属になりましたフクロウと申します。」


「おぉ、これはこれは。初めまして神父フクロウ。学院長より話は聞いております。私、教頭のポルトン・カニエルです。どうぞこれから、よろしくお願いします。」


茶色のスーツを着こなした、土星型のハゲ。

その身体つきは中年期のそれであり、特に特筆するほどの目立った外見の印象はない。

ただ言える事は、ハゲって要素だけだ。


よく居るハゲだが、ここまで綺麗に仕上がった土星型のハゲは中々お目にかかれない。


さて、頭の片隅で余計なことを考えつつ、ポルトン教頭への挨拶を済ませる。


ポルトン教頭が来客用の長椅子を指差し着席を許可するので遠慮せず座る。


教頭と聞いて少々高圧的なイメージを持っていたが、ポルトン教頭からはそのような雰囲気は感じさせない、どちらかといえば学院長にこき使われている苦労人に見える。うん。


「神父フクロウ。貴方の学院での立場については、既に学院長より説明があったかと思います。大教会運営については、我々は口出しいたしません。そして、非常勤講師と言う形をとっておりますので、こちらから要請する場合のみ講師としてこちらの指示には従って頂きます。」


「要請と言うと、具体的にはどのような事が?」


「主に主任講師の補助、学院内の見回りです。有事の際には教鞭を執って頂く場合があるかも分かりませんが、主にはその二つかと思います。」


「わかりました。」


やはりなんて良い待遇だろうか。

教員としての職務は殆ど無いに等しい。

その上、大教会運営に関して口出ししないときた。つまり殆ど俺には干渉しないと、言っているに等しい。

最高だ。最高に良い待遇だ。

流石教国だ。


「ただ、非常勤としても、この学院の教員と言う事になりますので、明日9時より行う就任式に出席していただきますので、ご準備の程をお願いします。」


「わかりました。」


式の一つや二つ、今後の有益な生活においては何の苦にもならない僅かな拘束時間だ。

大したことでも無い。


「では、明日8時に講師室にてお待ちしてます。よろしくお願いします。」


「わかりました。」


「……他に何かご質問は?」


「特にありません。」


これで俺のこの学院での立場は確立した。

あとは戻って今後の計画を立てる事にしよう。



ポルトン教頭との挨拶を済ませ、早々に《天冠塔マリン》を出た俺は、専用の馬車に乗り大教会へと帰宅する。



現在の時刻は午後3時、学生は未だ勉学に勤しんでいる頃だろう。

ならばこの時間帯ならば多少、大きな物音がしても問題あるまい。


大教会へと帰宅した俺は、早速今後の計画を立てる為、まずはその計画を絶対にバレないようにする為に、室内の改造を始める事にした。


差し当たっては、あの影に隠れた部屋を今後の俺の行動の拠点とする。

まず始めに、この部屋の入り口の隠蔽だ。


幸いにも、ここの学院のレベルは知れている。

この学院内に居る天才集団Sランクの面々とは、一度ではあるがそのレベルは測る事が出来た。


彼らは所謂、『失われし魔術ロストマジック』には疎い。

答えは簡単だ、文字通り失われた魔術なのだから、つまりそれを知り得る人間はこの世には居ない。



____俺以外はな。



失われし魔術ロストマジックは、過去にそれを伝える者が消え、途絶えてしまった魔術。

しかしそれは、精々数百年前の話だ。

俺には関係ない。


まず始めに、この扉を肉眼では捉えられないように細工を施す。


扉に術式を魔力で書き込む。


これで、常人ならば見ても違和感のないただの壁に変わった。


この魔術のデメリットとして、見た目こそ、真っ平らな何もない壁だが、触れるとその形は扉のままだ。


流石に扉を物理的に真っ平らな壁にしてしまうと、返って俺が入りにくい。


そこまでは面倒なので、趣向を変え、そもそも人が近寄らないように細工をする。


俗に言う人払いの結界だ。


因みに俺のは、人や魔物も魔族も関係なしに、近寄ろうとはしなくなる完全無欠の人払いの結界だ。


これにより人はなんの違和感も覚える事もなく、素通りするような結界が完成した。


なんとこの時間、僅か2分。


驚きの速さである。


そしてこの学院のレベルでは、制作時間2分のこの結界を破る事ができる人物が居ないと言うのもまた事実。

唯一、不安なのが学院長兼俺の上司(笑)のエカルラートさんがどれ程感が良いかと言う所だが、そもそもアレは自分からこちらに出向いてくる事は無いだろうと一蹴した。


「フッ……我ながら、良い出来だ。」


「サスガ、バンシィサマ!」


「当たり前だ。」


とっとと完成した結界の中の部屋に入り、椅子に腰掛ける。


今後の計画………と言っても、始めに部下の回収だ。


ガンマ、ベータ、シャン、ダルク。


この四体の僕の回収。


その為のこいつらの居場所の詮索が、暫く主な行動となるだろう。


幸いにも、こいつらは世間一般から《四神獣》と呼ばれ崇められている。

探し出すのは容易い事だろう。

ある程度の資金と、僕どもの情報。

これを手にした時、この場所から出ても良い。

とは言っても、状況次第ではあるが。


様子を見て、と言ったところだろう。


なにせ今の俺は弱い。

確実に、安全性を確保した上で行動する事が一番だ。

この状態で勇者と遭遇……というのもお粗末過ぎる。


そうだな……勇者の動向も、把握しておいた方が良いか。


それが出来るか出来ないかはさて置きだな。


………まぁ良い。


全てはまだこれから始まる。


何も焦る必要はない。

暫くは、この地でひっそりと生きてやろうではないか。


如何なる手段を用いてでも、俺は必ずアムリタとドラグを蘇らせ、ついでに勇者をぶっ殺してやる。


この優先順位は間違えてはいけない。


さて、となると情報収集と並行して、アムリタの秘薬の分析と、俺自身の能力の解放も、何とかやってみるとするか、どの道どう足掻いても、情報が直ぐに飛び込んで来るわけではないからな。


果報は寝て待て……とはいかん。


寝るには惜しい。


だから今やれる最善の行動を取る事だ。

全ては俺、自身の為に。

ども、最近よく胃が痛くなるほねつきです。

約二ヶ月音沙汰が無くて申し訳ございません。

なんだか色々ありまして、こうして遅くなりました。え?いつもの事だって?

それは失礼いたしましたー。

さて、ただの言い訳は置いておいて、本日は2話連続でございます。m(_ _)m

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