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第二話 『神父皇帝』

お待たせしました。



「………定刻となりましたので、これより罪人、フクロウの裁判を始めます。」


おかしいな。

なんで俺はこうもあっさり裁判にかけられているのだろうか。


両手は鉄の塊の様な手錠を嵌められ、証言台に立たされている。

所持品は全て没収され、唯一の救いでフォルテだけ回収される事なく今に至る。

ただ、今の状況でフォルテが出来ることは何一つないので、黙って袖の中に待機している。


「罪人の罪を述べよ。」


「はい。罪人、フクロウは聖域である祝福の回廊に足を踏み入れ、その後、回廊の番、中位聖神官二名に致命傷を与えるなど、神聖である、回廊にて暴力行為を行いました。」


裁判長らしい、俺を見下ろす白髪の神官の老父が若い神官に、俺の罪とやらを述べさせ、粛々と裁判が進められていく。


「罪人よ。己の罪について、異議はあるか?」


「……いえ」


色々あります裁判長。


なんて言った所で俺の罪が軽くなる訳でもないので、静かに俺の罰が決まるまで待っていよう。


「では、罪人のその罪を認める潔さに免じ、神はその罰を軽くするであろう。」


「……ありがとうございます。」


よく分からんが、とりあえずお礼は言っておこう。好感度アップで、刑罰は軽くしてもらおう。


「感謝は神へ行うものだ、罪人フクロウよ。」


あ、はい。すみません。

何故か怒られた。


「では、罪人フクロウへの罰の宣告である。」


その一言一言に威厳を感じさせる裁判長が、ゴンとガベルを叩き場を鎮まらせる。

………元々、静かだったが。



「判決………死刑。」


「「「異議なし。」」」



異議ありだボケがぁぁぁぁぁぁ!!!


なんで、全会一致で可決しちゃってんの?

え、なんでさ。

ふざけんなよ。なんで死刑なんだよ。罰が軽くなってないじゃねーかよ!

殺したら意味ないだろ、馬鹿か裁判長!



「異議ありですッッ!」



その声の主がいつの間にか傍聴席の前に立ち、満面の笑みを持ってコツコツと裁判長の前まで歩み寄る。


まじか。最悪だな。色々と。


この裁判の結果に異議申立てを行なってくれた事は本当に感謝したい。

……したいがコイツは流石に……


「せ……殲滅官様!!」


「ああ………彼の方は、序列四位の……」


裁判長ですら動揺し、辺りに畏怖に近い震えた声でその名が響く。



「『正義ジャステイス』……フェルメアス様……」


「ええ、初めまして。最高聖神官ロズワルド・プランクリンさん。_____これが貴方の正義ですか?」


「ひぃっ……」


ああ、もうなんだコレ。




***




「おぉ!同志フクロウッ!お待ちしていましたッ!やはり貴方は我が同志に相応しいッッ!!」


「フッ、それは良かった。」


あーあ。お先真っ暗だな。これは。


幸いなことに、裁判はこの正義ジャステイスによって完全に無かった事にされ、俺はなんの罪もない潔白な神官に戻った訳だが、状況は寧ろ悪くなっている。


正義ジャステイスに連れられ、裁判所から出た俺は、広い土地にぽつぽつと建ち並ぶ純白の建築物を見て、全て理解した。



どうやら俺は、『大聖地』に転移したらしい。



大聖地。

全世界に信仰されるマグナ教教会の総本山。

アルグレイド大王国などの国家とは違い、絶対不可侵の聖地であり、その力は『教国』という国として、形を作っている。

大聖地とは、マグナ教教会総本山である『教国』の事を指し、国家であると同時にある意味、大陸規模の教会という事になる。


この純白の建築物に、驚くほど綺麗に保たれた純白の道、そしてもう見慣れた教会の刻印の旗ががあちこちに掲げられ、どう考えてもここが、教国である事に違いはない。


だって、正義ジャスティス居るし……


「同志フクロウッ!」


ビックリした。何だいきなり。


「同志正義ジャスティスよ。どうした?」


「約束通り、準備をしておきました。……あそこです。」


笑みを浮かべるジャスティスが指指した先には、他の建築物と比べ一回り大きく、何より教会の刻印が銀色ではなく、金色で刻まれている。


明らかに面倒ごとの予感しかない。

いや、そもそもジャスティスこいつと居る時点で面倒でしかないが。



その建物の扉をジャスティスが開き、中へ入るその後に続き中に入ると、何というか、事務所だなうん。

何をやっているかは知る気もないが、数人がこちらに気付き、受付らしき人物が小走りで駆け付けてきた。


「お、お疲れ様です。『正義ジャスティス』・フェルメアス様。……ほ、本日はどの様なご用件でしょうか?」


動揺と怖れが混ざった、引きつった笑みを浮かべる純白のローブを纏ったシスター。

若干ではあるが、身体が一歩引いている。


トチ狂った教会であっても、やはりこの『正義』野郎はその中でも選りすぐりにトチ狂っているらしいな。

良かった。コイツはまだマシな方とかではなくて安心した。

コイツが一番ヤバいんだな。うん。良かった。


「シスター。カルーア枢機卿にお会いしたいのですが、如何でしょうか?」


「はい!取り急ぎ確認します!少々お待ちください!」


そう言って、慌てて走り何やら通信を始めたシスターを横目に、ふと、この『正義』野郎から出た言葉を思い返す。


カルーア枢機卿?


………枢機卿って、枢機卿だよな?


枢機卿って言えば、教国のトップである『教皇』の次に偉い立場の人間だよな?

え、なに、こいつそんなに権力あんの?

トチ狂ってんのに?終わってんな、教国。


「『正義ジャスティス』・フェルメアス様。カルーア枢機卿より、執務室へ来るように、との事です。」


「畏まりました。……では、いきましょう、同志。」


「ああ。」


当たり前だけど、俺も行くのね。


ジャスティスの後に続き、部屋を移動する。

純白の壁に、紅い絨毯の敷かれた廊下を歩み、先程の場所からかなり離れた、物静かな部屋の前にたどり着く。


ジャスティスが扉を丁寧にノックをするが、中からは何の返事もない。

しかしジャスティスはそれを気にせず、扉を開けた。


中にはなにもなく、ただ一つ、茶色のデスクがポツリと真ん中に配置されていた。


『珍しいな。ジャスティス。お前からわざわざ出向いて来るとは____そこに居るのが、お前の言っていた____』


「ええ、同志です。」


部屋に流れてきたのは、少し粗のある通信音。


『_____そうか。では、少し彼と話をさせてもらおうか。』


「構いません。」


そう言うとこちらに眼を向け頷くジャスティス。

はぁ……面倒だが、教国のナンバー2と仲良くなる事には損はないかな。


「初めまして、枢機卿。」


『ああ___噂はかねがね聞いている。クロズエル街の『製作者クリエイター』。フクロウ。君の才覚については、我々の中でも評価に値している。』


「過分な評価、ありがとうございます。」


流石は世界に広がる教会の総本山。情報収集力は類を見ないな。

おそらく俺の冒険者としての履歴も見られているだろうな。


『そう謙遜するな、貴公が殲滅官クルセイダーとして、志願することは、こちらとしては非常に嬉しい事だからな。』


「ありがとうございます。」


ん?なんか引っかかるな。


『早速ではあるが、貴公に神官としての階位を与える。____そして貴公は、殲滅官クルセイダー唯一の空席である第十六位の席を与えよう。喜べ。フクロウ。『大司教』だ。』


そっと、ジャスティスから手渡された、ジャスティスと同じ藍色のイヤリングと、銀のロザリオ。どうやらこれが、『大司教』の位を示す証らしい。

というか、ジャスティス。お前も『大司教』なのか………


大司教と言えば、階級だけで言えば枢機卿から二つ下、権力的には力は殆ど無いが、その特権はどの教会へ行ってもその教会の全権を握る事の出来る、教会内では最強と言ってもいい最高の位だ。


これ以上に位を上げればそれは、国家規模でのお話になる、これは俺、ついているのか?


「ありがとうございます。」


流石は枢機卿と言うべきか、与えて来る階位がぶっ飛んでいるな。


しかし、与えるだけ与えといて、そのままなんてことはないだろう、おそらくこの後、相応の対価を求めて来るに違いない。


『____さて、フクロウ『大司教』。君に任務を与えよう。』


「なんなりと。」


そら見ろ、なんの儀式も無しに俺はいきなり組織の仲間入りだ。

やったぜ!


最悪だ。


『マグナ教立魔術学園。その非常勤講師兼、教会神父として勤めてもらう。』


「期間のほどは?」


『無期限だ。』




***




なんというか、どうやら俺はこの教国内でも、戦えない神官だと思われているらしい。

これに対してジャスティスも異議を唱えなかっなし、恐らくジャスティスも俺が戦えないとか思っているんだろう。


それもそうか、今の俺、武器なんて一切持ってないもんな。

メインウェポンの剣は勇者の野郎に折られて持っていないし、ナイフだって一本、どう考えても戦闘職の人間が装備している武器の量じゃない。


おまけに俺は製作者クリエイター。所謂デスクワークの人間が戦えるなんて思いもしないだろう。


だが、目立たない事に越したことはない。


紫のローブから、純白のローブに着替え、『大司教』の証である藍色のイヤリングを左耳に付け、銀のロザリオを首にかけ胸元にしまう。

フォルテにはフードの中に入ってもらい、俺はリュックを背負い、貰った地図を片手にその目的地へ向かった。


ラッキーな事にジャスティスは、枢機卿から別の任務が与えられ、先程の場所で別れたわけだ。


しかし、所属早々学校内の教会へ配属となるとは、製作者クリエイターという肩書きも悪くはないか。

聞けば給料も月一、金貨五十枚が支給される上に、ボーナスは年3回あると言う、枢機卿が言ったんだから間違いない。


なんだよ、案外いい組織じゃねーかよ、正義ジャスティスみたいなのがいるからヤバい組織だと思っていたが、流石に教国である。金だけはたっぷりあるな。


これだけ頂けるなら、しばらく情報収集と資金の調達が出来る。

それに、学校内の教会など、出向く人間など限られてくる。

給料に対してそこまで働かなくても良い、非常勤講師という分類も悪くない。

世界三大魔術学院の一つであるマグナ教立魔術学院の講師というのも、表向きの評価として申し分ない。


流石に表向きに『大司教』の階級は、大きすぎる。

ある程度出来る魔術師です、という肩書きが付けばいざという時何かの役にはたつだろう。


「さて………ここか。」


広大な敷地に、二階建てが主なこの辺りの建物の中では珍しい、三階建ての校舎。色はやはり純白で、見た印象では、魔術学院という様には見受けられない。

ここに来てずっとそうだが、建物が殆ど似た様な造りをしていて、見分けがつかない。


困ったものだ、学院ならもう少し学院っぽい造りにならなかったのか。

学院の前に、噴水がある辺りいかにもお貴族様がうじゃうじゃいそうな高級感のある学院である。


しかし、教会があるらしいが、どこだ?


特に止められる事もなく、あっさりと門を潜り、教会を探す。

敷地内にあるとは思うのだが、何しろどの建物も同じ造りの所為で何がなんだか分からない。


やはり、ここは現在人に聞くしかないか。


人を探すと直ぐに見つかった。


建物の影に隠れる様に座り込む、恐らくどこかの貴族の小太りの青年。

金の髪とその制服っぽい紺色のローブを着だ感じ、恐らくここの生徒だろう。


「君、ちょっといいかな?」


「チッ……なんだぁ?俺様を『侯爵』であるコンツェール家の長男だと知っての狼藉か?」


殺すぞこのデブ。

聞いた事もないわ、『侯爵』のコンツェール家ってよ、なんだそれは?『大司教』より偉いのか?……エェ?


「これは失礼。かのコンツェール家のご長男様でありましたか、どうか先程の無礼をお許しください。……申し遅れました私、本日よりこのマグナ教立魔術学院の教会の神父兼、非常勤講師として配属されました、『大司教』のフクロウと申します。どうか、お見知り置きください。」


チッ、今直ぐにでもぶっ殺してやりたいが、俺は大人だ、知性的で理性のある男。ここは社会のルールに則り、丁寧に謝罪と挨拶を交わす。

やっていいなら、今直ぐにでも殴ってやりたいけどな。

しかし、ここで問題を起こせば色々とお釈迦になってしまう。そんな事になるくらいなら、ここは頭を下げよう。

今直ぐにでも、ぶん殴ってやりたいけどな。


「……『大司教』だと……クッ、こちらもお見苦しいところをお見せした。私、ヘリオット・リ・コンツェール。アルグレイド大王国国王陛下より『侯爵』を頂く、コンツェール家の長男であります。『大司教』様とは知らず、無礼を働いた事をお許しください。」


ほぅ……『大司教』の称号は、案外貴族にも有効か。これは、有り難い。下手に下に見られずに済むな。


「いえ、これも神のお導きでしょう。この出会いに感謝を……。」


簡易な祝福を片手できり、お辞儀をしておく。これだけで十分、模範的な聖職者らしい行為だ。嫌気が指すが仕方がない。


「ありがとうございます……」


「………いえ、汝に神の祝福があらん事を。」


そう言い残し、早々に立ち去る事にした。正直なところ、生徒……『侯爵』の長男に道案内させるのは、失礼極まりないと思うので、というかこれ以上関わりたくないので、仕方がないが自分で探す事にした。


「では、私めはこれにて失礼します。」


「あ、ああ……」


困惑した様な声。それを無視して校舎らしき建物に向かう。


殆ど聞き取れない、掠れたような小さな音が聞こえた。



________あいつ、なんか聞きたかったんじゃないのか?





糞が、聞いときゃよかった。



***



侯爵様のご長男様と別れた後、校舎らしき建物に入れば、受付に通され直ぐに案内された。

さっきのやり取りの必要性………


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