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第七話 『そして歯車は__』

自分。頑張りました。

深緑の大地に足を踏み入れ、早足で目的の場所へと急ぐ。

この胸の奥底から湧き出るなんとも言えない感覚。

胸踊らされるようなこの感覚に、どうしようもなく身体が急いでしまう。


急がば回れなんて言葉もあるが。今の俺にはそんな事はどうだって良い。


________『死者の蘇生』


誰もが夢見るであろうその奇跡を、俺は起こそうとしている。


アムリタを________


おっさんを蘇らせる事が出来るのなら、今までの俺の苦労など俗事に過ぎない。


この高揚が抑えられない。


今すぐにでも叫びたい。


この喜びを________!!


「ドラグぅぅ!!帰って来たぞー!」


呑気に眠っていたドラグが目を覚ます。


「ン_____あァ?」


ゆっくりと起き上がるその姿に待ち切れず、俺が置いてきた筈の『アムリタの秘薬』を探す。


「バンシィサマ、コチラデス。」


「おお、ご苦労フォルテ。」


「イエ、オキニナサラズ。」


いつの間にか袖から抜け出していたフォルテが、『アムリタの秘薬』の入った小さな壺を両手で掲げているのを、フォルテごと摘まみ上げ手のひらに乗せる。


「ム______そいつは、フォルテか?」


「えっ?ああ、そうだが?」


何を今更、寝起きのドラグが驚いた顔で俺の掌のフォルテをまじまじと見つめる。


「ア……アノ………ドラグサマ、アマリミラレルト、ハズカシイデス。」


何故か見られてモジモジするフォルテを無視して、俺はドラグに『アイラヴィタの牙』を見せた。


「むッおぉ____流石はバンシィ。間違いなくそれは、アイラヴィタの牙だな。」


「当然だ。早速だが、『アムリタの秘薬』を完成させてしまいたい。」


「ああ、しかしバンシィ。この場では『アムリタの秘薬』は作らない方が良い。」


「何?何故だ。」


「そこに置きっ放しだった、本を読め。」


チッ、ドラグめ、俺が忘れていったことを遠回しに馬鹿にしやがって。

置き忘れについては、何も反論せず、地面に置かれた何も書かれていない真っ白な本を拾い上げる。


「『開け、我は汝の友、也オープン』」


ドラグが本へ合言葉を述べると、俺の手の上で本が黒い光を放ち、パラパラとページが捲られていく。


本の中間までページは捲られると、何も書かれていなかった空白から、文字が浮かび上がる。


そこに描かれている内容を、流して見ていくと、作成場所についての記載が有った。


「………出来る限り魔力濃度の薄く、出来るだけ陽と陰の魔力を受けやすい場所で、作成しなければならない。……だと?」


「ああ、出来る限り魔力濃度の薄い場所、つまりは空気の薄い上の方。そして、陽と陰の魔力を受けやすい場所……つまりは太陽と月の魔力を受けやすい場所________となれば場所は限られる。」


「なるほど、つまりマギアのシンボルタワーの天辺で、作れば良いのだな。」


俺は二千年以上も前から未だに存在する、シンボルタワーを指差す。

当初は雲を突くほどに高かった塔だが、今は《三百年戦争》の影響と風化も重なり、真ん中辺りからぽっきりと折れ、当時の圧倒的姿も今は面影すらない。

だが、この辺りで一番高い場所と言えばここであると、自信を持って言ったが、ドラグはそれを聞いてクククと笑う。


「残念だがバンシィ、あの地は魔力濃度が高過ぎる、如何に魔力が薄くなる場所であっても、あそこでは通常の何百倍もの魔力が溜まっているぞ。」


「そうか。では、どこが良い?」


チッ、魔力感知が使えない事が痛いな、やはり魔力感知は最優先で封印を解きたいところだ。


「ああ、一番最適な場所が少し離れた地にあるぞ。………覚えているか?『創世の剣』を突き刺した場所だ。」



***



動物の気配すら感じられない静か過ぎる山を登り、眼下に広がるかつての面影を一切感じさせない広大な平地を眺め歩みを止めた。


王都サン。


今や《神話時代》と称される遥か昔に栄えた王都。

この地はある意味俺の神官としての始まりの地である。

特に目的もなかった当時の俺が、この地を拠点として活動していたと言っても嘘にはならない。

思い出など無い。と言えば嘘になるが、その思い出がどんなものだったのかなど、この永遠の時の流れの中で摩耗しきってしまっている。

思い出せる事は、バズズ様にタリウス。アイナやイグザ達との出会い。そして、別れだ。


間の物語など摩耗しきっているが、彼らと出会い、そして別れた時の事は、今でもちょっぴり思い出せる。

きっとこの記憶は、また何千年と経てば忘れてしまうのだろうが、今はこの記憶を大事にしようと思う。

死と生の区別なんて曖昧だから。

誰かの記憶に残る限り、それはその人の死ではない。________そんな気がする。


フッ________我ながら酷いエゴの塊だな。


頭を振り、気持ちをリセットさせる。

気持ちが鬱気味になってしまうのは、『不死身』の能力が弱くなっているせいだろう。

フフッ……不死身の力が無ければ、俺はなんて脆いメンタルをしているのだろうか。

笑えてくる、所詮不死身なんてこんなものだろう、死がないと事は、生きているかどうかすら曖昧になってくる。


「バンシィサマ。ドウサレマシタ?」


「____ん?いやなに。自分で自分を嗤っていただけさ。」


だがまぁ、偶にはこんな感情に浸るのも悪くないか……。

いや、無理だな。こんな事続くなら俺のメンタルが持たない気がする。

如何に身体が無敵でも、心までが無敵になる訳がない。


「バンシィサマ。キヲシッカリ、モッテクダサイ。」


「ふっ_____そうだな。フォルテの言う通りだ。」


視線そらし、その思い出の様な何かに背を向けた。

今は良い、だがこれから先の事は、こんな場所で余韻に浸っている暇など無い。


全ては心の中だ。今はそれでいい。


何かでそんな言葉を聞いた覚えがある。その言葉の意図はどうであれ確かに、『今はそれでいい』。


いいや、今も、これからもずっと________



***



ドラグの話では、確かこの辺りだった筈だが。

何しろ目印である創世の剣は、どこぞの勇者様が持っていってしまっている。つまりはこの広い山から、小さな石の台座を探さなければならない。


正直、ドラグの方が場所を知っているのだから、あいつが来れば直ぐに見つかる筈なのに、あいつまだ魔力が最低限しか回復していないとか言って、直ぐに睡眠しやがった。

俺が封印されていた百年間で、殆ど回復していないと言うのは、怪しいものだが、まぁこの俺と全力でやり合ったら致命傷であるのも納得だ。________と言うことにしておこう。


「バンシィサマ。アレデハ?」


「ああ、そうだな。」


幸いにも俺には優秀な部下がいる。


フォルテの指差した先には、何とも神秘的な新緑が広がりその中心にはどう見ても人工物の石の台座が設置されていた。


「バンシィサマ。ココハ、マリョクガ、ホトンドアリマセン。」


「そうか。わかった。」


なぜ魔力濃度が基本的に高い筈のこの地が、この場所だけ魔力濃度が低いのか、理由は分からないが、フォルテがこう言うのだから、そこに虚偽など無いだろう。


改めて台座を眺めると、地面と台座の間に隙間がある事を発見した。


「ふむ……何だったかな。」


「ドウサレマシタ?」


台座をみて悩む俺を見て、フォルテが声を掛ける。

しかし、こればかりはフォルテに聞いたところで何も出ないだろう。

無視して台座を手で退かそうと試みる。


「駄目だな。動く気配がない。」


「バンシィサマ。コノシタニ、ナニカ?」


「いやなに、何かあった気はするが、何だったかは覚えていない。」


「ソウデシタカ。」


残念そうに台座を見つめるフォルテを尻目に、俺は記憶を掘り起こそうと頑張る。

確か、仕掛けがあったが、それが何だったかは思い出せない。


台座の中心には、剣が刺さっていただろう窪みがあったので、取り敢えず手持ちの剣を突き刺してみた。


うん。綺麗にハマったな。


うん。そして何も思い出せない。

ため息混じりに、立てた剣に手を乗せた。


「ん?」


「?」


剣が動く様な感触があった。

試しに剣をガチャガチャ動かしてみると、まるでドアの鍵を開ける様な感覚で、剣がまわった。


すると台座がひとりでに動き出し、その下から先の見えない階段が現れた。


なんだこの古代遺跡の様なカッコいい仕様はッ!

かっこいいな!オイ!


心の中で少し感動に浸ってから、足元に気をつけて階段を降りる。

真っ暗で、何も見えないが、ダンジョン育ちのフォルテが道を示してくれた。

流石フォルテは優秀だ。


「バンシィサマ。アシモト二、ナニカ、カカレテイマス。」


「そうか。」


とは言っても明かりがない。

______いや、無いなら灯せばいいじゃない。


「『ライト』」


どうせ、おっさんは復活するんだし、魔法の封印なんて、楽に解除できるだろう。

と言うわけで、三回ある魔法の使用権を、一つ消費する。


少量の魔力が体内から流れると、その魔法は姿を現わす。

空間に光の玉がポンと現れ辺りを照らす。


見れば壁には一面、魔導文字でなんか描かれ、目の前の人が五人ほど乗れそうな大きな台座には、繊細にかつ強靭に施された魔法陣が設置されている。

この形と陣を見る限りは……


「転移の魔法陣だな。」


「ツカエルノデスカ?」


「さて、どうだろうな。」


試しに起動させてみよう。


魔法陣の起動部だと思われる陣に手を添え、詠唱と魔力を込めてみる。


「『願うヴィ楚は我がイールー魔の力を以てアディケル道は汝が示そうコーフェリヲ。』」


魔力が体内から流れ出て、魔法陣へ注がれる。

魔法陣の内部を流れ始めた魔力は、やがて淡い光を放つ。


「『起動せよスターティオ』」


一瞬、光が視界を覆い、直ぐにそれは収まった。

魔法陣を流れ始めた魔力は、循環を始め、俺が起動部から魔力を注がなくとも、魔法陣は自らの力のみで、その動きの維持を始める。


「オォ!スゴイ。」


「なに、ただ起きただけだ。まだ何もやっていないぞ。」


魔法陣の周りをぐるっと回り、動作不良が無いかを目視で点検する。

特に異常はない。

しかし、陣の回路を良く良く見ていくと、この魔法陣には座標軸指定がされていない事に気が付いた。


「ふむ、どうやら転移地点はランダムの様だな。」


座標軸指定がされていない転移魔法陣は、残念なことにどんな場所にでも転移できる訳ではない。

同じタイプの魔法陣と同調しなければ転移が出来ない上、非常に転移魔法陣の中では簡素な構造のものではあるのだが、欠点として、転移する為に他の魔法陣と同調するのに非常に時間がかかる。

同調さえしてしまえば、そこから先は簡単だ。この魔法陣の上に乗ってしまえば勝手に転移する。


簡素な作り故、すんなり転移させてくれる。ただし、その時放出される魔力がとてつもない威力を秘めているので、周りに人がいる時は使わない方がその人の為だ。

尤も、ソレを発動させるには更に面倒な詠唱と作業が必要な訳だが。

その詠唱はおそらく、いやほぼ確実に、俺とドラグ、それとおっさんくらいしか出来ないだろう。


何せ、今の時代の言語では到底発音出来ない詠唱だからな。


「フォルテ、こいつを使いたい時はな、先ずはこの術式に詠唱を組み込み、魔力を注げ。注ぐ量は勝手に魔法陣が決めてくれる。詠唱は____」


「『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』だ」


「ハ、ハイ。」


今世界の何処を探しても、この詠唱を詠唱だと呼ぶものは居ないだろう。

正直俺も、この詠唱を初めて耳にした時は、何を言っているのかさっぱりだった。まぁ、今は解るが、これを訳せと言われると非常に困る。


うん、何というか、言葉と言うよりも、感覚なんだよ。

魔力ではない別のものを感じ取る様な、うん。言葉に困る。


例えるなら、魔力感知が第六感だとしよう。この詠唱は第七感……みたいな?

うん。言葉に困る。


「______そして、次はここの余剰魔力をこの術式に移動させ、魔力の流れを変える。必要な詠唱は……」


「『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』この作業を十三回繰り返す。」


「ヒェ。」


「おいおい、これでも短い方だからな。次は______」


かれこれ10分程時間を潰し、フォルテに使い方を教えてみた。

まぁ、使うことなんて無いだろうが、俺でも発動までに三分は必要だろう。


「ア、アリガトウゴザイマシタ。」


「構わんよ。気紛れだからな。______さて。」


気も紛らわせた事だし、やっていきますか。

気持ちを引き締め、外へと足を向ける。

フォルテがいつのまにか肩に登り、ちょこんと座る。


階段を上がれば、太陽の光が辺りを照らしライトの魔法は効力を失い消失する。


「ふぅぅ……」


深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。

気持ちの隆起は失敗に繋がる、落ち着いて、丁寧に、俺ならば出来る。



いや、少し違うか__________



出来なくてはならんのだ。



『アムリタの秘薬』は、絶対に完成させる。

さて、次回は序章。最終話。



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