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第三話『後方支援の皇帝』

お待たせしました

くだらない筋肉自慢の所為で、大幅に時間を無駄にした俺は、若干イラつきを覚えながらも、ゴリラの話を聞くことにした。


「動く雪山『八頭白象アイラヴィタ』。三千年に一度、何らかの目的を持ってこの大陸を移動する、『天災級』の魔物。全てを蹂躙する圧倒的巨躯と全ての死角をカバーする八つの頭。調査隊はその移動ルートを推定し、最も侵攻の可能性の高い街が、このクロズエルと設定されたわ。……そして、ギルド本部から過去最大級の『S級緊急討伐クエスト』に認定され今、アルグレイド王国各地から、腕利き冒険者達が、このクロズエルに集結しているわん♡」


本人はきっと真面目に話しているのだろうが、俺はポージングが気になり過ぎて話に集中できなかった。

何故ギルド本部は、この情報を伝える人間を選別しなかったのか抗議してやりたい。


「その情報……確かなのかい?」


「えぇ、かの『聖龍王』が語っていたのだから、間違いないわ♡」


聖龍王?一体なんだそれは?


「『聖龍王』ね……たしかに『聖龍王』と出会った事のある君なら、この情報の信憑性も高いね。」


あ、やばい。


これ俺が話に置いていかれるパターンだ。


「なぁおい。すまないが、その。『聖龍王』とは一体何のことだ?」


「「え?」」


チッ、完全に何で知らないのって顔された。

糞。こんなんなら黙って聞いていれば良かった。


「フクロウ君。君ならこれくらい知っていると思っていたんだけど……まさか君、魔術学園は卒業していないのかい?」


と、ギルド長から哀れな目で学歴の心配をされた。


「ケルぅ、そんな事言わないの♡魔術学園だって、安くは無いのよ。それ相応の潜在能力か、お金が必要なのよ。」


「ゴメス。フクロウ君はこの街で1番の魔術師だよ。」


「あら……そうなの?」


「……らしいな。」


本人に聞くなよ、そんなもの自分から言ったら調子乗ってるみたいだろ。


「だとしたらおかしいわね、魔術師なら誰でも知っている事だけど……」


「生憎、魔術は独学でな。魔術の基礎すら知らなくてな。」


本職は魔法使いですが何か?


「あら、そう♡つまり天才って事ね♡好きだわそういうの♡」


いいえ、努力の結晶です。なので嫌って下さい、近づかないで下さい。それ以上、私に無駄に逞しい筋肉を見せつけてこないでください。


「で、教えてはくれないのか?」


この筋肉ゴリラの相手は面倒だ。視線をギルド長に向け返答をまった。


「……あまり、こんな事で時間は使いたく無いんだけど、そう焦っても仕方がない。良いよ。簡潔ではあるけど教えよう。」


ギルド長は立ち疲れたのか、目の前の赤いソファに腰掛け、ため息でも吐くように語り出した。


「流石に、『神話時代』のお話は知っているよね?」


「……勿論だ。」


世界を崩壊させた【三百年戦争】よりも昔、魔法文明が栄えた『初暦』の時代。今に残る伝説はそれぞれだが、主に『勇者』カミカド・ナガトが神格化されていたりと、その殆どが真実とは程遠い紛い物のお話ではあるが、この時代の人間には神話として語り継がれている。

俺からすれば、ただの昔話だ。


「その『神話時代』を生き、今もなお生ける伝説の龍の事さ。我々が過去に目撃したのは百年前、『沈黙の皇帝』と呼ばれる天災級の皇帝を、『四神獣』と共に討ち倒したのが『聖龍王』だと伝えられている。」


成る程。分かったぞ。『聖龍王』の正体が。

『沈黙の皇帝』こと俺を、百年前に倒したのは一人しかいない。

間違いなくドラグの事だ。

そしておそらく、『四神獣』とはフォルテ以外の俺のしもべたち。ダルク、ベータ、ガンマ、シャンの事だろう。


つまり、ドラグはこうなる事を見越して、この筋肉ゴリラに『八頭白象アイラヴィタ』の情報を伝えたのだろう。


しかし……もっとマトモな人間には伝えられなかったのだろうか……


「ありがとう。『聖龍王』については理解した。」


「今の適当な説明で良いのかい?」


………なんだ。詳しく話す気があるなら初めから言えよ。まぁもう遅いがな。


「構わない。今はそれどころではないだろう?」


「確かにそうだけどね……」


何か言いたげな表情のギルド長ではあるが、気にするだけ時間の無駄なので、俺はさっさとこの筋肉ゴリラから距離を取りたい。


「所でフクロウちゃん♡貴方この街で1番の魔術師なのよね?」


距離を取りたい、帰りたい所でゴリラに捕まった。

無視して帰っても良いかもしれないが、このゴリラの事が大好きな、ギルド長が居る手前、下手な事をすればギルド長に殺されそうだから諦めよう。


「何度も言うが、俺に聞くな。」


「そんな事は良いわ♡フクロウちゃん。貴方、一体何の魔術が扱えるの?」


チッ、真面目な質問かよ。ふざけた質問であれば、即刻無視して帰ってやりたい所だったが……


「回復魔術」


「それだけ?」


「そうだ。」


……なんだ、そっちから聞いておいて哀れみを持った目で見やがって……


「フクロウ君は回復魔術以外使えないけど、その回復魔術の回復力は一級品だよ。」


と、ギルド長にフォローされた。

いや別に、本気出せば大陸破壊できますけど?

なんて言った所で信じてもらえる訳無いが、別に自分を大きく見せる必要も無いのでここは黙っておく。


「あらそう♡良いわね♡となればフクロウちゃん、貴方に良いお仕事があるのだけど♡どうかしら?」


断る。と言いたいところだが、この話の流れからして真面目な話ではありそうなので聞くだけ聞くことにする。


「聞こう。」


「『八頭白象アイラヴィタ』討伐の、後方支援をお願いできるかしら?」


何事も大抵は、俺の思い通りににはならない。

後方支援って、要するに雑用だろ?

どう考えたって楽じゃ無い。だったら面倒でも剣を振り回したほうが楽じゃないか。


「因みに報酬は一人金貨五枚よ。」


「やろう。」


流石である。街一つの危機……いや、国の危機かな?まぁ、どちらにせよこの報酬金はデカい。

雑用で金貨五枚とか、最高すぎだろ。


「決まりね♡じゃあ明朝、準備を済ませてこのギルドに来てちょうだい♡」


「ああ。」


話が済めば用はない。早々にギルドを立ち去り、一先ず宿へと戻った。



「バンシィサマ、イッタイナニヲ?」


宿に戻った俺は、女将さんからペンを借り、三枚の羊皮紙に魔術陣をしっかりと書き込んでいる。


「『第八階位聖帝福式-第七点回復魔術・天』長ったらしい名前だが、要するに一定範囲内の生物の回復を行う魔術だ。」


「ナルホド……」


回復魔術は術式が非常に複雑で、今俺が描いている最高クラスの魔術、【第八階位】レベルの魔術は、集中して描かないと魔術にならない。

簡単なものであれば、その場で仕上げられるものなのだが、この魔術は流石に手抜きだと発動した時に大爆発を起こしかねない代物だ。


チッ、やはり魔法は便利だったな。


魔術は面倒だから嫌なんだ。


だが、文句を言った所で魔法が使える訳じゃない、今は地道に封印の枷を外していくしかないな。


しかし……『八頭白象アイラヴィタ』。一体どれほどのものなのか、検討もつかないが、もし仮に冒険者達が全滅でもした時は、三度しか使えない魔法の消費も考えなくてはならないか。


魔術陣を書き終えた俺は、ペンを返す為、女将さんの元へ向かったのだった。

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