第一話 『マッスルビルダー桃姫』
マッスル!マッスル!!
俺が冒険者として既に一年が経とうとしていた。
街は季節が変わり、辺り一帯は白く雪に覆われた。
え?あの寒いだけの時季が続いていたから、今度は夏じゃないのかって?
日本と一緒にするな、前の時季が夏で、今が冬だよ畜生。
俺だってな……半年前まではあの寒さだからきっと冬だろうと思っていたさ………でもな………
雪が全てを否定したのさ。
雪を理由に街の冒険者共はクエストに行かず、日中飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだ。死ねば良い。
安定的に金のない俺は、雪の積もる中『アルベアー』と呼ばれる熊の魔物を、討伐しにフォルテと共に山の中を歩いていた。
「クソッ!寒い!死ぬ!死んじまう!」
「バンシィサマ、オチツイテクダサイ!」
「落ち着けだとフォルテ、雪の中防寒具一つ身に付けず外を出歩いて、落ち着けだと!?」
「バンシィサマ、サワグト、マモノガ、ニゲテシマイマス!」
フォルテがそう言うので、全身ガタガタさせながら、口を閉じる。
しかし、腹がたつな。
俺がこうして一生懸命に薬草採取と、クエストもこなしていると言うのに、今頃他の冒険者共は呑気に酒でも呑んでるんだろ?シバいてやりたいな。
「バンシィサマ、アマリサッキダツト、マモノガ………」
「あぁ、分かっている。分かっているさ、フォルテ。しかしだな、お前はお前でちゃんと『アルベアー』を探しているのか?」
「モチロンデス!デスガ、ヤツラ、バンシィサマヲ、オソレ、スグニニゲテシマイマス。」
「そうか。」
でしょうね、そりゃあ毎日毎日毎日、同じ奴が同種を潰しまくっていたら、流石に冬眠中の熊でも逃げますよね。分かってましたよハイ。
でもね、『アルベアー』よ。お前の肉で作る鍋は美味いんだよ。
「しかし、『アルベアー』が狩れなければ、今日の晩飯……いや、クエストクリアにならなくなるぞ?」
「デハ、ゴブリンデモコロシテ、サブクエストクリアヲ、シテハイカガデショウカ?」
「ダメだ、最近アイツらは、俺が投げ飛ばし過ぎた所為で、絶対数が限りなくゼロに近い。そのおかげで薬草が伸び伸び育ってくれるのは有難いが……流石に街の冒険者も不審がっている。」
「ジゴウジトクデハ?」
「言うな、フォルテ。それは俺が一番分かっている。」
チッ、仕方ないがリタイアするか、今日の収穫は無し。飯も無し。俺の財布は一文無しと。
「仕方ない。帰るぞフォルテ。」
「オオセノトオリニ。」
肩に乗るフォルテが、小さくお辞儀をすると、そのまま肩から滑るように袖口まで降りるともう……専用スペースの様なポケットに入り込んだ。
さて、下山しながら改めて俺の状況を確認しよう。
なんだかんだあって、中壁冒険者レベルのCランク冒険者に昇格し、念願の高報酬討伐クエストをこなす事が出来る様になった俺は、取り敢えず近辺の魔物を毎日の様に討伐し、溜まりに溜まった宿代の返済が完了した所だ。
しかし、滞納した宿代が返し終わっただけで、俺のお財布が寂しい事には変わりがない。
最近は冬に入り、雪が多く積もるこの地方は、雪が積もると魔物も消え、作物も育てるものが無くなってしまう為、俺の様な金欠でもない限り、クエストに出かける者は一人もいない。
お陰で俺は街の住人に、『薬草マン』と言う不名誉な称号から『変態マン』にクラスチェンジさせられた。
雪の寒い中、ローブ一枚で出かけるから、この名が付いたらしい。
こればかりは、俺も否定のしようが無いので何も言わないが、別に好きでローブ一枚で外に出かけている訳では無いので勘違いしないでほしい。
コート買う金すら今は無いんだよ。
だいたい、雪の中でも外に出てクエスト受けに行かないと、金銭的に死んでしまうから出て行ってる訳であって、金があるなら一歩も外に出ないわ。
……なんだか言い訳していたら腹が立ってきたな………よし、俺は絶対に、『変態マン』と命名しやがった奴を見つけたら、シバいてやる。
どうでもいい事を考えつつ、転ばないよう一歩一歩しっかりと踏んで山を降りる。
足の感覚はない。
長時間もの間、雪道を歩き過ぎた所為だ。昔からずっとそうだが、俺は雪が嫌いだ。
冷たいし冷たいし、冷たいからな。
と言っても別に熱いのが好きなわけでもないんだよな。
……ふと、小さな殺気に気付く。
雪が被さる木の一本、その枝辺りに一つ、殺意剥き出しで俺を狙う、何かが待ち構えていた。
「………」
このクソ寒い時期でも、平然と動く変態な魔物。
最近良く見かけるようになった、Bランクモンスター『ゲリュン』。
見た目はムカデのような気色の悪いフォルムをしているが、色は白く雪に紛れて獲物を待ち構える、変態スタイルだ。
よくうねうねしながら動く割に、動きも早く、硬い表皮を持ち、鋭い牙で岩も砕く上に、おまけに毒持ちと言う、最悪の魔物だ。
面倒だな。
大して美味しくもないし、討伐クエスト確か出ていなかったしな……倒したところで何ももらえないからな……面倒だが、迂回するか?
いやいや、それこそ面倒だ。
……仕方ないが、戦うか。
決意をし、一歩踏み出したその時。
「あぁぁぁぁぶないわよぉぉぉぉぉ!!!」
今まで聞いたことの無いような、背筋が凍ってしまいそうなほど、悍ましい……雄叫びの様な声が、上空から近付いてきた。
轟音。
雪が盛大に舞い上がり、視界が一気に雪で覆われる。
直ぐに雪を払い、俺の目の前に立ちはだかった、巨漢を見上げた。
「あらっ、いい男ね♡」
「………」
一言で言い表すならば、ピンクのミニドレスを着たゴリラ。
俺よりも、二つ頭飛び抜け見下ろす様に俺を見つめる、ゴリラ。
どうやら此奴は人間らしく、ピンクのミニドレスが筋肉によって若干膨らみ、金髪の立て髪ドリルロールをばっちし決めたこのゴリラは、オカマを飛び越え既に、何がしたいのか分からない。
取り敢えず分かることは一つ。
『変態』だ。
「貴方♡あと一歩踏み出せば、魔物の餌食だったわよん♡」
そう言いながら、あの一瞬で仕留めたらしい『ゲリュン』を片手に、何故かマッスルポーズを決めてくるゴリラ。
オカマを目指すか、ビルダーを目指すかどっちかにしろよ。
「…………」
「あらっ♡驚かせちゃったかしらん♡ごめんねっ♡私は、ゴメス。ゴメス・モン・ピンキーヌよん♡」
何故だろう。ポージングが気になり過ぎて、会話が全く頭に入ってこない。
と言うかコイツはなんだ……魔物か?
念の為、剣を抜き構える。
「あらっ♡怖がらなくて良いのよん♡私はAランク冒険者。『桃姫』のゴメスよん♡」
いや、お前は『ゴリラ』だ。
「………」
「それで、貴方のお名前は♡」
「……言う必要があるのか?」
もうどっか行けよ、このゴリラ。筋肉の自慢はわかった。ポージングを一々決めるのを辞めろ。本気で斬るぞ?
「あらっ♡釣れないわねん♡まぁ良いわっ♡ゆーくり♡仲良くなりましょう♡」
「断る。」
こんなゴリラと仲良くなんて出来るか。はよ消えろよゴリラ。
「まぁ♡クールなのね、貴方♡……でも♡可愛い坊やは、放っては置けないわ♡」
いや、俺からすれば、お前の方が坊やだ。
少なくとも二千歳は歳上だぞ?俺は。
あと、可愛い言うな気持ち悪い。脳天から叩き斬るぞゴリラ。
暫く黙っていると、痺れを切らしたのか、ゴリラがなんか語り始めた。
「ところで貴方♡クロズエルの冒険者かしら?……だったら街までの行き方を案内して欲しいのだけど♡」
「残念だが俺はクロズエルの冒険者ではない。だが、道を示してやろう。……向こうだ。」
そう言って、クロズエルの冒険者では無いと嘘を吐きつつ、ついでに街とは全く正反対を指差す。
こんなゴリラが街に来たら街に混沌が訪れてしまう。それは避けなくてはならない。
「あらっ♡優しいのね。ありがとう♡また会いましょう♡」
二度と俺の目の前に現れないでください。
ゴリラは跳躍し、一瞬にして山の天辺まで到達し、俺の指した方向へと向かっていった。
それにしても、速いな。あの速度だと、嘘を吐いた事が二、三日でバレそうだな。
………頼むから来ないで欲しい。
「バンシィサマ。アノ、バケモノハタオサナクテ、ヨカッタノデスカ?」
ひょっこり袖口から顔を出したフォルテの問いに、思わず深く考えた。
「……今後の世界の為にも、殺しておくべきだったか?」
真剣に検討するべき事案だと、考えたりもしなかった。
ども、ほねつきです。(ムキッ)
久々の連日投稿になりますが、恐らく3日坊主になるでしょう。(ムキムキッ)
さて、最早テンプレとも言える、マッチョキャラが登場しました。(ムキッ)
しかし、僕はマッチョキャラをただのマッチョでは終わらせる気など毛頭ありません。(ムキッ)
このプロテインに賭けて誓いましょう!(ムキムキムキ)
因みに僕はプロテイン等は全く飲んだことの無い、もやし人間です。
どうでも良いですね!ではまた!