第三話『満たされぬ勇者』
お待たせしました
夢を見た________
それは、自分が自分ではない、別の誰になっている夢だ。
良くある理想の姿の自分になる夢。
_____では無かった。
その光景は、一言で言うなら『悪夢』だ。
繁栄を築いていたであろうその街は、たった一人の男に破壊し尽くされていた。
その男は何人もの人を殺して、殺して、まるで殺す事だけを教えられた鬼の様に、ただ殺していた。
自分の中の、自分でない誰かがその男に向かっていった。
お伽話に出てくる『勇者』の様に、ただ真っ直ぐに、自分の死すら恐れずに、ただ剣を男に振るった。
男の眼には何も映さず、一瞬で飲み込まれてしまいそうな暗黒が、僕を見つめていた。
数秒後、男から何かを振り下ろされ、そこで意識は無くなった。
沈黙の皇帝は…………倒さなければならない………
自分でない自分が言った。
僕は……みんなを守れなかった…………
僕が何を言っているのか、僕には分からない。
だけど今度こそは………
大量に流れ込んで来る記憶が、僕に理解をさせる。
『そうか………僕は勇者なんだ。』
僕の中に、勇者はずっと眠っていた。
在りし日の絶望を、晴らすために。
________そして僕は目覚めた。
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「『創世の剣』に選ばれし者よ。」
「はっ」
記憶は曖昧だ。
僕は気づけば、栄光ある祖国、アルグレイド大王国の唯一無二の王の前に、跪いていた。
「ルイシュターゼ・アル・コンツェール。よもやコンツェール家から『選ばれし者』が現れるとは、思ってもいなかったぞ。」
「はっ、ありがとうございます。」
国王陛下は満足気に笑みを浮かべる。
「ルイシュターゼよ。その剣、我が王国の矛として、振るってくれるか?」
「はっ!僭越ながらこの剣に誓い、王国の矛となり盾となる事を誓います。」
「その誓い聞き届けた。」
今、アルグレイド大王国に、一人の『勇者』が立ち上がった。
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『創世の剣』を抜き、『勇者』として王国の矛となれる事は、非常に誇らしいことだ。
王国を代表するという事で、陛下より最高の装備を頂いた。
世界最高峰とも呼べる金属、『アダマンタイト』で作られた鎧に、使用者の魔力に比例して収納量が増えるレアアイテムの『マジックボックス』。
どちらも非常に希少なもので、それを与えてくださった国王陛下には、感謝しきれない。
しかし、どんなに最良の武器と防具を身に付けても、扱う僕が動けなければ本末転倒だ。
先ずはこの『創世の剣』の能力を試さないと。
【神話時代】より眠るこの『創世の剣』は、【予言】には山を築くとされているが、実際はどうなのか?
『創世の剣』を抜いた時、その辺り一帯が緑地に変わったが、山が出来るなんて事は無かった。
……出来ても困るけど。
この剣が、荒野を緑地に変える力がある事は分かっている。
だけど他には?
草木を生い茂らせるだけでは、戦いに何の役にも立たない。
王都から離れた比較的、魔物が多く出現する平原で三体のゴブリンと対峙する。
剣の扱いは勿論、心得ている。
『真魔天流』
数ある流派の中で、最も格式高い、攻守ともに優れた剣の流派だ。
王族や貴族に広く嗜まれ、最近では傲慢と慢心の堕落した流派……などと、剣の世界では囁かれたりもしているが、この『真魔天流』は魔術と剣を組み合わせた時に、その真髄が見えてくる。
【神話時代】最期の大戦争。【三百年戦争】において、猛威を振るった剣技が、『真魔天流』にはある。
それがこれ……
「魔天」
『創世の剣』に風が幾重にも覆う。
美しさを見せつけていた剣の刃は、風によってその姿を眩ませる。
「巻き起これ『突風』!」
剣を振れば風がゴブリン達に、猛威を奮う。
風はゴブリンの身体を悉く吹き飛ばし、空高くへと舞い上げた。
なるほど、一つ分かった事がある。
この剣は、どうやら魔術との相性は抜群らしい。
今までの『突風』ならば、ゴブリンの体勢を崩す位の威力だったが、『創世の剣』に纏わせるとその威力は今の通り、ゴブリンを吹き飛ばす程に強化されている。
『創世の剣』は伊達ではないという事だろう。
落下してきたゴブリンが、地面に落ちる前に踏み出す。
考えるよりも先に身体が動いた。
重さを感じさせない『創世の剣』を振り抜き、ゴブリンのその身体をいとも容易く斬り裂く。
次いで身体を捻り剣を振りかぶる。
ゴブリンの脳天から一気に叩き落とし、振り上げ残るゴブリンの心臓に突き刺した。
渋とく生きるゴブリンでも、流石にこれはやり過ぎたかな。
しかし……あれだけ乱暴な剣さばきであっても、刃こぼれ一つ無いとは………本当に剣か?これは。
よく見れば、ゴブリンを三体斬ったというのに、血の一滴も付いていないのは流石に異常だ。
僕はこの剣がもし、魔術で出来た偽物の剣だと言われても、納得してしまうだろう。
『創世の剣』が納まる大きさの鞘に納め、腰につける。
この戦闘で分かったことはいくつかある。
まずこの剣は、担い手の魔術を強化してくれること、それとおそらく担い手の身体能力も、何らかの効果で強化している。
僕はまだ、この剣は使いこなせてはいない。
力加減が分からず、能力もよく分かっていない今の状態では、何もかもがダメだ。
もっと………経験が必要だな。
ども、ほねつきです。
勇者編はこれで終わりです。
『創世の剣』に選ばれた勇者……如何でしょうか?
彼がこれからの世界の立役者となる事になるのでしょうか?
白象編より様々な濃いキャラ達が現れます。その厚いキャラ層の中、選ばれし勇者ルイシュターゼは爪痕を残す事が出来るのか!?
……それではまた。