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第二話『目覚めし勇者』

高濃度の魔力に息が詰まりそうな中、広大な緑地に足をつけた。


【神聖地】


数千年以上前、『魔法』と呼ばれる奇跡を扱う『英雄』達が世界に名を馳せた【神話時代】。

その舞台の代表とも言えるこの【神聖地】には、【神話時代】からの建造物が今も残り、中でも天を刺すほど巨大な塔は圧巻だと言う。


多くの謎を残すこの【神聖地】は、常人には耐える事が出来ない程、高濃度の魔力が空気中に漂っている。


高濃度の魔力に当てられた人間は、身体の内部に強力な魔力溜まりを生成し、肥大化した魔力溜まりが血管を詰まらせ、やがて死に至ると言う。


しかし、体内の魔力を扱える魔術師であれば、それは杞憂に終わる。

魔力を少しずつ消化する事で、魔力溜まりが生成される事は無い、それを行う事の出来る魔術師は、この【神聖地】に足を踏み入れる事が出来るのである。


「ルイ!早く行こう!」


「あ、うん。今行くよ。」


呼ばれてみんなの後を追い、身体を蝕む魔力を消化しながら、かつての英雄達が踏みしめただろう大地を、僕もしっかりと踏みしめた。



『ルイシュターゼ・アル・コンツェール』は、アルグレイド大王国にて『侯爵』の位を授かるコンツェール家の次男として産まれた男である。


幼生の頃より目覚めた魔術適性により、幼くして魔術師としての英才教育を施され、今では世界に名だたる名門、マグナ教立魔術学園のSクラス。その主席である。

その成績により、既に祖国であるアルグレイド大王国から、王国専属魔術師として、将来を約束されている。


「ここから見えるあの塔が、【神話時代】より伝えられる世界の中心です。良く見えるでしょう?あの塔は、雲の上まで続いていると、言い伝えでは残っております。……ああ、これ以上は立ち入らないで下さいね、ここより先は超高密度の魔力が支配し、踏み入れてしまえば二度と帰って来られなくなりますから。」


【神聖地】を管理する魔術師の方の説明を耳に入れながら、雲を刺すほど巨大な銀の塔に目を奪われる。


「では、移動しましょう。皆さまの一生の記憶に残る、思い出作りです。【神話時代】より眠る、山を築く『創世の剣』に触れる事ができますよ!」


「おおー!」


「待ってました!」


魔術師の方を先頭に、クラスは動き出す。


『創世の剣』……【神話時代】より伝わる伝説の剣、その一太刀で世界を創るとされる剣。


先程の緑地とは似ても似つかない、赤褐色の荒廃した大地に、一際目立つ小高い丘の頂上にその剣は突き刺さる。



大地すら緑を失う程、僕達には想像出来ない時の中を、そこに在ったであろうその剣は、まるで時間が経っていないかの様に輝きを失わない刃を持ち、美しく魅了する藍色の宝玉が、刃と柄を繋ぐ様に埋め込まれたその剣は、まるで芸術の様な美しさと、神々しさを放っていた。


更に、何千年もの時を過ごしたと言うのに、錆びの一つも見当たらず、砂や塵すら微塵も付いていない事が、その剣の異常さを物語っているように感じる。


「っ______」


「ん?どうした、ルイ?」


「……いや、何でもないよ。」


_____今のは一体?


「この後、【神話時代】より伝わる【予言】が描かれた、『予言の間』に入り説明しますが、『創世の剣』に触れるにあたって、あらかじめ【予言】についてお話ししたいと思います。」


浮かれたクラスの全員は、魔術師が話す事に集中し、急に静まり返る。


「今現在、解読出来ている予言は第3節中盤まで、ですがこの『創世の剣』に関しては、第3節冒頭より明記されていますので、まだ解読途中ではありますが、お聞きください。」


魔術師の小さく吐いた息が、静寂に広がる。


「まずは、【予言】の第1節……『天より舞い降りし神の使い厄災振り撒き地を壊し海を割り全てを無に帰す時新たなる神が新たなる天を創り海を創り山を創り命を吹き込むだろう』」


魔術師の語りは続く。


「続いて第2節……『海を割りし神なる力天に帰りし時天は割れ新たなる天を生み出すだろう』」


魔術師は続ける。


「そして、第3節……『破滅を導く者来たりし時、創世を創りし者もまた来る』」


一度間を置き、魔術師は大きく息を吸ってから、更に続けた。


「『山を築きし創世の剣に選ばれし者破滅に導かれし大地創世の剣に選ばれし者剣抜く時森は色付き新緑の大地へと生まれ変わる』」


一呼吸置いて、魔術師が説明を始めた。


「確認は出来ませんが、おそらくこの剣が、『山を築きし創世の剣』だと思われます。もしこの『創世の剣』を抜く人物が現れる時は、【予言】の通りならば、『破滅を導く者』が現れた時でしょうね。」


ふっと肩の力を抜いた魔術師が、大きく手を叩いて、場を盛り上げるように声色を変えて口を開いた。


「さあ!抜ける人がいるなら抜いてみろ!誰から行く!誰でも良いぞ!」


そのはっちゃけ具合から何となく察しがついた。


この魔術師、多分こっちが素だな。


「じゃあここは!学園主席のルイから行こうぜ!」


一人がそう言うと、何故かみんなが「そうだそうだ!」と盛り上がり始めた。


「良いのか?みんな。」


とは言いつつも自分自身、『創世の剣』に触れられる事に対して、胸の高ぶりが抑えられなくなっているのもまた事実だ。


「いけー!ルイ!抜いちまえ!」


「ありがとうみんな、じゃあ、悪いけど一番に触らせてもらうよ。」


みんなの視線が集まる中、僕は若干緊張しながらも、八芒星の白石の台座に刺さる『創世の剣』の前に立った。


触れれば僕は、それで良いんだけど。


みんなには悪いけど、僕は触れるだけで、抜こうなんて思わない。だってこの剣は、いつか来る『選ばれし者』が抜くべき剣だから。


『創世の剣』の柄に右手を伸ばす。


右手が柄に触れた瞬間、何かが僕の全身を駆け巡る様な感覚がした。




________抜け




なんだ?





________________さぁ抜け






何?






________________抜け、我が担い手よ








それはまるで、分かっていたように。



僕は、僕自身の意思とは反して、まるでこの身体が、別の誰かのもののように、身体が動いていた。


柄を持つ右手に力が入り、剣を抜く為に右腕と肩に力が漲る。

大地に根を張る両足が、剣を引き抜かんとする姿勢に動く。

全身に力が漲り、同時に自分の身体に眠る、別の誰かが目を覚ました気がした。




そして________




僕は、『創世の剣』を引き抜いた。






「創世の剣に選ばれし者、剣抜く時、森は色付き、新緑の大地へと生まれ変わる………」


魔術師の眼孔が大きく開き、自らの眼で起きた【奇跡】に膝をつく。


「………予言の………通りだ…………」


引き抜かれた『創世の剣』とその担い手を中心に、荒廃した大地が、新緑の大地へと生まれ変わった。


魔術師は、震える。


「……彼が………彼が…………『創世の剣に選ばれし者』………」



魔術師は……否、この【奇跡】を目の当たりにした全員が、この光景を一生忘れる事は無いだろう。




そして今_______勇者は目覚めた。

ども、ほねつきです。

天霧みとら様より、ディラのイラストを頂きましたので、chapter.0に挿絵として入れさせて頂きました。

誠にありがとうございます。


さて、次回更新もお待ち下さい!


ではまた。

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