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第一話『器の勇者』

お待たせしました

マグナ教立魔術学園は、僕にとって救いの場所だった。


祖国たるアルグレイド大王国より、『侯爵』の位を授かるコンツェール家の次男として産まれた僕は継承順位上、家を継ぐ事は無かった。


継承順位が低い僕は、周囲の貴族たちから避けられ、遊び相手すら出来る事は無かった。

当時の僕にとって幸いだったのが、他人よりも少し、魔術の才能があった事だ。


おかげで6歳の誕生日を迎えたと同時に、両親の計らいで今の【マグナ教立魔術学園】へ入学した。


ここでは身分の差などでの優劣など存在せず、実力で全てが決まる実力至上主義の学園だ。


他人よりも少しだけ抜けた魔術適性のお陰で、幼い僕でも沢山の友達が出来た。


そして入学から四年後、僕は学園内で最も優れたクラス、『Sクラス』の教室への移動が決定した。


Sクラスでの授業は、僕の中の世界がガラリと変わった。

授業の一つ一つが僕にとって新鮮で、ちっぽけだった僕の魔術の世界は、大きく広がった。


そして時間は烈風の如く過ぎていった。


Sクラス入室から六年。僕は16歳となり、遂に学園から卒業の年を迎えた。


魔術学園の中で最後の修学旅行。


今の世界よりも、遥か太古の【神話の時代】に栄えたとされる【神聖地】。

僕たち卒業生は、【神聖地】に眠る【創世の剣】を見学し、最後の修学旅行とされる。


学園のある教国から、【神聖地】までは、大陸を一つ越えなくてはならない、祖国であるアルグレイド大王国領を真っ直ぐ突き進み、【神聖地】まで最短距離で修学旅行は行われる。

この期間、約一ヶ月。


つまりは往復で2ヶ月。


この間の授業をどうやって消化するのかと言うと、向かう先々で泊まる宿などでその土地に住まう魔術師達の講習を受ける事になっている。


しかし、この講習は非常に不評だ。


何故なら、街に住む魔術師の講習など、既に学園で習った事ばかりだ。


同じ事の繰り返し。


反復授業を否定する訳ではないが、それでもその授業の質が低ければ、繰り返した所で意味は無い。

だからまともに、街での授業など成立しない訳なのだが、【神聖地】へ向かう最後の街。


アルグレイド大王国で、最も【神聖地】に近い、《クロズエル》という街に住む、冒険者の魔術師は、今までの魔術師達とは全く異なる人物だった。


通常、魔術師の講師というのは、街で何十年も生きて、魔術を街にもたらしてきた、長命な方が講師として招かれるものだが、その人物は違った。


とても講師とは呼べない、闇夜に潜む様な紫のローブを身に付け、やる気があるのか無いのか分からない、不機嫌な表情の男。


僕と同じ黒髪黒眼の男の風貌は、魔術師というよりかは、暗殺者のソレである。


しかし、驚く事にそのローブには、本当に小さく、マグナ教会の刻印が縫い込まれている。

つまり、この男は魔術師ながらも神官プリーストである事を示している。


「……あれで神官プリースト?嘘だろ……」


「どう見ても犯罪者よね……」


周りの仲間たちも、その男の異常さに気付き、それぞれが思いを口にする。

今までで一番強烈な講師だ。

僕たちSクラスの為に、特別に用意された教室が騒めく。


しかし、その元凶である本人はまるで気にもしない様に、無言で黒板に何らかの絵を描き始めた。


自己紹介でも始めるのかと、一瞬静まり返った教室は、その男が描き始めた絵を見て再び騒めく。


【下級魔術-ファイア】


魔術師であれば誰でも扱える、初歩の初歩の魔術。その魔術陣を男は描いたのだ。

そんな初歩の魔術を描いて何になる?そう言った類いの騒めきだ。


「……この陣がわかるか?」


……何を言い出すのかと思えば……

馬鹿にしているのか、など小声で呟く仲間も数人いたが、これは仕方ない。僕たちは【ファイア】など既に何千回も扱ってきている。こんなものを学ぶ為にここにいる訳ではない、僕たちは、まともな授業を欲している。


「それは【下級魔術-ファイア】ですよね、私達その程度の魔術など既に何千回も扱ってきています、すみませんがもっとレベルの高い授業を所望します!」


そうだと一斉に野次の声が出るが、男はまるで気にしない。

言われれば、魔術陣を黒板から消すと、新たな魔術陣を描き始める。


「じゃあ、お前。これは分かるか?」


そう、意見した令嬢ルヴィに男は指をさす。


その描かれた魔術陣を見て困惑した。


一体何の魔術だ?……と。


火属性の魔術でもない、水属性でもない、過去に習った魔術を思い出しても、その形の魔術は思い当たらない。


「えっと……」


「わからんか、なら良い。」


そう言うと直ぐに魔術陣を消し、今度は思い出したかの様に文字を書き始めた。


【フクロウ】


「言い忘れていたが、フクロウだ。残り数時間ではあるが、お前らの脳裏に魔術を刻み込んでやる。」


と、考えてきた様なセリフを吐き出し、その言葉とは裏腹にフクロウ本人は椅子に腰掛け、見下す様な姿勢で脚を組み始める。


「で、天才的脳みそをお持ちのSクラス諸君は、どんな授業がお望みかね?」


「我々の知らない魔術を教えて頂ければ。」


「定義が広すぎる、もっと具体的に一つあげたまえ。この数時間で私が教えられるのは、一つだけだ。」


わざとらしいほど大きな欠伸をひとつ。


「……先ほどの魔術陣は一体なんでしょうか?」


「ロクでもない魔術だ。聞くだけ無駄だよ。」


「……失礼ですが、講師フクロウは一体何の魔術を教えられるのです!?」


「全部。」


一瞬の沈黙。


「……はい?」


「全部だ、全部。お前らが望めば、なんでも教えてやれると言っている。」


何を馬鹿なことを。


「言いましたね!だったら『失われし魔術ロストマジック』である、【転移魔術】を教えてみてください!」


「さっき描いたのがそうだ。」


「はいっ!?」


「はっ、そもそもあの魔術陣を見て何も気づかない時点で、私が【転移魔術】を教えても、理解など出来まい。」


「……しかし、やってみなくては分かりませんわ!」


「フハッ!では、聞こう。この中で【第一階位同等点格式-第一点転換法魔術】の説明をできる者はいるか?」


……………


「……なんだ。居ないのか、ギルド長から天才様方が来ると聞いて来れば、魔術が使えるだけのクソ餓鬼共か。」


「ですが、それが本当に【転移魔術】だとは証明出来ません!」


「では、証明しよう。」


黒板に描かれた魔術陣。

馬鹿な……発動する訳がない。


本来魔術は、魔力の吸収が良い羊皮紙に、専用の魔術ペンが必要なのだ。

それを無しに黒板とチョークなんかで魔術が発動する訳がない。


だが、フクロウは自信のこもった筆使いで、魔術陣を書き上げる。


『起動せよ』


発動の詠唱に反応して、魔術陣が光り輝く。


「あら!?机が……」


ルヴィの狼狽に反応し、視線を向けると、先ほどまであった筈の机が消え去り、ルヴィが何もない空間に机を探す様に手を探る。


「ほら、証明したぞ。」


数秒後、フクロウの声に振り向けば、ルヴィが使っていた筈の机に脚を組み、随分とくつろいだ姿勢で、大きな欠伸をするフクロウの姿があった。


「嘘だろ……」


「お前達のレベルは分かった。良し、貴様らには【下級魔術-フラッシュ】を懇切丁寧に教えてやろう。」


講義の後、随伴の講師へ全員が文句を言ったのは、これが最初で最後だったのかもしれない。


……けどまぁ……すごく分かりやすい授業だった、あれだけの実力で、何故名を上げないのか、僕は不思議で不思議で仕方なかった。




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